めーなのよ



「おはよ。今日も元気みたいで呆れ…感心したわ」
原素子に話しかけられたのは速水厚志。
「は、はあ。いつもぽややんとしてるって言われますけど」
「一緒に教室に行きましょ?」
「ちょっと、腕を組むのは…あの!?」
「あら、いけない?」
赤くなってうろたえる厚志に素子はいたずらっぽく笑った。

その様子を電柱の陰から鋭くにらみつける険悪な視線があった。
言うまでもなく、芝村舞である。
素子が厚志と腕を組んだときには電柱を折らんばかりに手に力が入った。
校門への坂を登っていくふたりの姿が見えなくなると、舞は悲しげにため息をついた。
「ねえねえ」
「!?」
びっくりして見下ろすと、東原ののみが袖をひっぱっている。
「まいちゃん、どうしたのなのよ」
「…いや、何でもない。ともに教室に行くか」
さびしげに微笑むと、舞はののみの手をとった。
肩を落として歩き出した舞を、ののみは心配そうに見上げるばかりだった。

昼休みを告げるチャイムが鳴った。
サンドイッチを取り出した厚志の前にののみが現れた。
リボンがかわいらしく揺れている。
「えへへ、あっちゃん。ののみと一緒におべんと食べよ!」
「ああ、いいよ」
厚志はにっこり笑うと彼女の頭をなでた。
「じゃあ、どこで食べようか」
「お天気がいいからねぇ、ののみ屋上がいいな。だめ?」
「いいね」
歌をくちずさみながら歩くののみの後を、厚志は微笑ましくついていった。

屋上には先客がいた。
「あ、厚志…!?」
「舞?」
「私は、ののみに誘われてここに来たのだが…」
ののみは手を後ろに組むと、ふたりを見上げて言った。
「まいちゃんも一緒なのよ。おべんとはねぇ、ふたりよりさんにんのほうが美味しいの!」

素子は1組の教室をのぞいて見回した。厚志の姿がない。
出て行こうとする滝川をつかまえて彼の所在をたずねた。
「速水っすか? あいつなら、ののみちゃんに昼メシ誘われてましたよ」
「あら、そうなの?」
(気合を入れてお弁当作ってきたんだけどな…。相手がののみちゃんなら仕方ないわね)

快晴の屋上、3人はののみを中心に車座に座った。
舞は弁当代わりに焼きそばパンをかじっている。心なしか緊張しているようだ。
「あのさ、舞」
厚志が声をかけたとき、舞はびくっとして振り向いた。
「焼きそばパンとハンバーガーじゃ栄養がかたよっちゃうよ。
よかったら、ぼくのサンドイッチと交換しない? レタスたっぷりハムサンドだよ」
「結構だ!」
即座に断った舞だったが、差し出されたサンドイッチを横目で見ると、もじもじと言った。
「あ、いや、あ…そ、そなたがどうしてもと言うなら、交換してやらないでもない」
「えへへ、ののみのうさちゃんもあげるね」
ふたりの間にちょこんと座ったののみは満足そうにニコニコした。

ランチのあと、舞は「士魂号の調整に行く」と足早に立ち去った。
最後まで厚志とまっすぐ目を合わせようとはしなかった。
後に残された厚志は不思議そうに彼女を見送った。
「ねえ、あっちゃん」
「なんだい?」
ののみの顔からは笑いが消えていた。真剣なまなざしで厚志を見つめている。
「ど、どうしたの。おなか痛くなった?」
「まいちゃんはね、かなしいの」
「え?」
「まいちゃんはこころでないているのよ。しくしくなの。でも、かなしいのは、めーなの。
それでね、それでね、まいちゃんのかなしいのには、あっちゃんがみえるのよ」
「…ぼくが?」
戸惑う厚志の手をとって、ののみは言った。
「だから、ののみからのおねがい。まいちゃんをにっこりさんにしてあげてね」
「う、うん…」
厚志は舞が降りていった階段のほうを眺めて、ののみの言葉を理解しようと考え込んだ。
ぽややんは、どこまでもぽややんなのであった。





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