ベイクド・ポテト



中村光弘は悩んでいた。
小隊の食糧事情が悪化する中、炊き出しを担当する彼に困ったことが起きたのだ。

昨日の昼食時のことである。
食堂兼調理場で、東原ののみはため息をついてフォークを置いた。
隣で食べていた瀬戸口が声をかける。
「お嬢さん、どうしたんだい?」
「ののみ、もういらない」
彼女の皿には茹でたジャガイモがのっていた。ほとんど口をつけていない。
「食べなきゃダメだぞ。ま、ここのところジャガイモしかメニューにのってこないが…」
「おイモさんはもういいの。ののみ、もう食べない!」
ののみは席を立つと部屋を出て行ってしまった。
瀬戸口は調理当番の中村に向かって肩をすくめてみせた。

中村は正直傷ついたが、やむをえない。
ジャガイモに飽きているのは誰もが一緒なのだから。
(ほんのこつ、うまかもんを食べさせてやりたいのう)
中村は腰を上げると、新市街へと足を向けた。

その日の午後、いつものように調理場の片隅でジャガイモの皮をむいていた中村は、ふと視線を感じて顔をあげた。
入り口のところで、遠慮がちに顔をのぞかせていたのは東原ののみ。
今にも泣き出しそうな表情で中村を見つめていた。
「どうした。そがんところに立ち尽くして」

「…えっとね。ごめんなさいなのよ」
ののみは中村のところに歩み寄ると、ぺこりと頭を下げた。
「ののみ、わがままさんだったよね。みっちゃんも大変なんだもんね」
「ああ、気にすることはなか」
中村はほがらかに笑ってみせた。そしてののみに言った。
「30分したら、またここに来てくれ。ちょっと見せたいもんがあるばい」
「うん!」ののみは元気よくうなずいた。

きっかり30分後に、ののみは食堂兼調理場に戻ってきた。
すると、ぷーんといい匂いがする。
エプロンをつけた中村が手招きした。
「ほら、こっちに来なんせ」
そして、アルミホイルでくるまれた2つの塊をオーブンから取り出した。
「…これ、なあに?」
「ベイクドポテトたい」

ホイルをめくると、あたりに香ばしい匂いが広がった。
「刻んだベーコンとチーズを芋にのせてオーブンで焼いたとね。食べてみな」
「わあ、おいしいね!」
ののみは満面の笑顔でこたえてみせた。
中村にほっとした表情が広がる。
「すまんかったのう。わしも工夫が足りなかったとよ」
「ううん、めーなのはののみの方なのよ」
「めー、かい?」
2人は顔を見合わせて笑った。

中村は無邪気な笑顔を見せるののみに、胸の奥にどきっとするものを感じていた。
(まさかな…。相手は8歳の女の子ぞ!)
得体の知れない感情に、戸惑いを隠しきれない中村であった。



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