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よく晴れた昼下がりの屋上。
瀬戸口隆之はあくびをしながら週刊トレンディーを読みふけっていた。
どこからか持ち込んだデッキチェアに、優雅に寝そべっている。
その顔に影が落ちた。
サングラスから目を上げると、速水厚志が立っていた。

「…こんにちは。やっぱりここにいましたね」
「へえ、お前さんも授業をサボるようになったわけだ。いっぱしの不良だな。」
「今日だけです」
瀬戸口はにやっと笑うと上体を起こした。
「どうしたんだい、坊や。そんな深刻な顔をして俺のところに来るなんて」
「あの…いえ、何でもないです。別に」
厚志はすぐ脇の、ボロボロになった椅子に腰を下ろした。
「『別に』ってことはないだろ。顔に『師匠に聞きたいことがある』って書いてあるぜ」

(…あなたが好きなの)
原素子に告げられてから、厚志は考え込む時間が増えた。
これまで素子と過ごした時間を振り返ることが多くなった。
そのたびに、彼女の笑顔を思い出していた。

「瀬戸口くん」
しばらくして、ようやく厚志は口を開いた。
「『人を好きになる』ってどういうことなんだろ」
「何だそりゃ? ずいぶん哲学的なことを聞くもんだな」
サングラスを外しながら瀬戸口は吹き出した。
「ははあ…さては、アレだな。どこぞの女子に告白でもされたか」
「な、なんで分かるんですか!」
厚志はみるみるうちに頬を赤らめた。
「俺に分からないことはないよ。それで、お相手は誰だい?」
「それは、あの、ちょっと…」
「言いたくなければ言わなくていいさ。ま、だいたい察しはつくけどな」

瀬戸口はタバコを取り出すとライターで火をつけた。
ゆっくりと煙をくゆらすと厚志に尋ねた。
「で、お前さんはどうしたいんだ?」
「それが分からないんです」厚志はうつむいた。
「初めてのことなんで。とつぜん言われて混乱してます」
「その子のことは?」
瀬戸口は楽しそうに訊いた。タバコの灰を律儀に携帯用灰皿に捨てている。
厚志は、視線をさまよわせた。
「…よく分かりません。でも、近くにいるとドキドキするし…好きなの、かも」
「じゃあ答えはひとつだ」
両手を合わせ、指をひとつにして厚志を指差した。
「付き合っちまえよ。めったにないチャンスだ」
「そんな簡単に…決めてしまっていいんですか?」

「のらりくらりと適当にはぐらかして生殺しにするっていう高等テクもあるが」
瀬戸口はぽりぽりと頭をかいた。
「お前さんの性格じゃ無理ってもんだろう。やめておいた方がいい」
厚志はため息をついた。瀬戸口は続ける。
「女の側から告白っていうのは、とてつもない勇気がいるもんだ。それにきちんと答えるのが、
男の誠意だと思うぜ?」

かすかに風が吹いてきて、ヨーコ小杉が干した沢山のシーツを揺らしている。
「なあ坊や、上を見てみろよ」
「上?」
「空だよ、空」
見上げると、1本の飛行機雲がゆっくりと西に向かって伸びていた。
「あれ…飛行機ですか?」
「スカッド・ミサイルだ。週に1回、阿蘇に向かって射ちこんでる。全面にびっしりと貼り付けてな。公募した、
幻獣に対する恨み言を」
「知りませんでした」
「政府はミサイルの在庫が切れるまで続けるつもりらしい。
要するに、そんな狂った時代に俺たちは生きている。そういう世の中でいちばん大切なのは、ラブだ」
瀬戸口は真顔になって言った。
「俺はそう思うがね」

ありがとう、と礼を述べて厚志は屋上を去った。
代返を頼んだ瀬戸口はデッキチェアに座りなおした。
「…さて、あの坊やに告ったのは芝村の姫君か、原の姐さんか」
週刊トレンディーを開くと、厚志が去った方を見やった。
「どちらにせよ、恋せよ少年」



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