Wings memory〜序章〜


〜プロローグ〜

 ロシュフォリア歴237年
 季節は春。
 すべての命たちは、太陽の光を受けて輝いている。冬の間、ひっそりと眠っていた森は
息吹を取りもどし、ザワザワとささやきあっている。
 ボクは、そこで1人の翼をもつ女の子に出会った。
その女の子は泣いていた・・・
ボクがそばに近づいたのにも気づいていない・・・
 ボクは思い切って声を掛けてみた・・・
「ねえ、どうして泣いているの?」
 女の子は、驚いたようにボクのことを見た。
「・・・・・」
女の子は何も喋らない。ボクのことを、じっと見ている。
「・・・・・あの・・」
長い沈黙のあと、やっと女の子は口を開いた。
「・・あなたは、逃げないの?」
「逃げるって、なんで?」
ボクは、女の子の質問の意味が分からなかった。
「だって、わたし、はねがあるんだよ」
「それが、どうしたの?」
ボクの答えに、女の子は驚いたようだった。
「ほんとに、恐くない?逃げない?」
「うん!恐くなんてないし逃げもしないよ」
「ほんと?」
「うん、本当」
「ほんとにほんと?」
「うん、ほんとにほんと」
すると女の子は、笑顔を満面に浮かべてボクに話しかけた。
「じゃあ、わたしのお友達になってくれる?」
「うん、ボクも君と友達になりたいな」
「じゃあ、いまから、わたし達はお友達ね」
女の子は、とても嬉しそうに笑った。
それから、しばらくボクはその女の子と遊んで、ボクが帰るとき、女の子はボクに聞いた
「そういえば、あなたの名前、なんていうの?」
「あ、そうだったね。ボクの名前はルシール」
「それじゃ、ルシールまた遊ぼうね」
「うん。ところで、君の名前は?」
「わたし?わたしは、・・・・・だよ」
女の子は笑顔で答えてくれた。
「うん。それじゃ・・・・・またね」
「うん。ばいばい、ルシール」
 ボクは嬉しかった。
その女の子の笑顔を見ることが出来たことが・・・

 次の日も、その女の子は同じ場所でボクのことを待っててくれた。
ボクに気付くと、その女の子はとても嬉しそうに
「ほんとに、また来てくれたんだね」
って、言って今までに見せたことのない笑顔を見せた。
ボクは、その女の子の笑顔が大好きだった。
ボクは、その笑顔を見ると嬉しかった。
ボクは、その女の子が大好きだった。

・・・・・・
 それから1週間後、お別れの日はやって来た。
もともと、ボクはここに住んでいたわけじゃない。
父さんの仕事の関係で・・・ちょっとの間だけの滞在。
 ボクは、悲しかった。その女の子と、離れてしまうことが。
ずっと、側にいたい、離れたくない・・・好きだったから。

 最後の日、ボクはその女の子に一つの約束をした。
『また、君に会いに来るよ』って約束。
君はそのとき、ずっと待ってるから、って言ってくれたっけ。
「ずっと、待ってるからね。ルシール」
「約束破っちゃダメだからね!」
って、念まで押してたよね。
 別れ際に、君は
「私のこと、忘れちゃだめだよ」
なんて、君が言ったのもボクは覚えている。
 ボクは、本当に君に会いに行くつもりだった。
約束がなくても、その女の子に会いに行くつもりだった。
だって、ボクは君が好きだったから・・・・
君の羽も、恐いどころか素敵に思ってさえいた。
ボクは、君が好きだった。

 だけど、それ以来、ボクは君に会うことはなかった。
会いに行きたくても、子供のボクには遠すぎたから。

 その女の子と、会った森は何処にあるんだろう。
時がたちすぎて段々と記憶もあやふやになって・・・
ボクは、徐々に女の子のことを忘れていった。
もう、名前すら思い出せない。

 ごめんね・・・約束守れなくなっちゃった・・・・・・
会いたいのに、会えないんだ・・・


                                   【続く・・・】
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