「ねえ、メイドさん、冗談を言ってよ」
 それはご主人様の突然の言葉から始まりました。
 私はメイドさん、名前は今回はどうでも良いです。
 とにかく私の勤めているお屋敷には、小さなご主人様がいます。
 名前は今回はどうでも良いので言いません。
 とにかく、私はご主人様に仕えるメイドさんなのです。
 質問はありませんね?はい、良いです。

 で、話を元に戻します。
 ご主人様が朝、私と今日の確認をしていると、冒頭の台詞を言ったわけです。
 もちろん私は聞き返しました。
「冗談とはどういうことですか?」
 無言で辞書を渡してくるご主人様。
 無言で冗談の項を探す私。

――冗談
(1)ふざけて言う言葉。たわむれに言う話。
「―を言う」「―を真(ま)に受ける」
(2)ふざけてすること。たわむれ。いたずら。
「―にも程がある」「―な女どもだ。みんな着物をかぶつてくるは/滑稽本・膝栗毛 6」

この場合は(1)の方でしょうか。
「ふざけた事を言えばよろしいのですか?それともふざけた事をすればよろしいのですか?
 …ふざけた事はこのお屋敷を破壊すればよろしいのでしょうか?
 流石に自分の仕事場を壊すのはどうかと思いますし、結構このお屋敷、気に入ってるのですが」
 ご主人様は溜息をついて。
「そうじゃなくて、僕んち壊しちゃ駄目だよ。
 いや、メイドさんが冗談を言ってるの聞いた事ないからさ」
「つまりご主人様は私が変な事を言うのを聞きたいのですね、わかりました、では明日そのようにします」
 そして私は失礼しますというと、ご主人様の部屋から出る。
「あっ…別に今言ってくれても…」
 いけないことですが、今回は聞かなかったことにさせてもらいます。

「冗談?」
 ご主人様の部屋を出た後、私は先輩メイドさんを尋ねます。
「はい、ご主人様が冗談を言ってくれと命令されましたので」
 端的に状況を説明して先輩に良い冗談はないか?と聞きます。
 先輩は少し苦笑した後教えてくれました。
「ふふっ…メイドさんが冗談、流石ご主人様…」
 …教えてくれました。
「でもご主人様も人が悪いですねぇ、メイドさんに冗談なんて…」
 …教えてくれました。
「そういえばあの時もご主人様は…」
「早く教えてください」
 話が脱線したと感じた私は、間髪いれずに言います。
「あ、ごめんなさい、…それはメイドさんの任務ですから、メイドさんが自分で考えなくちゃいけませんのです」
 先輩は格好良さげにそんな事を言います。
 ボソッと「思い浮かびませんでした」とか言わなければ目からうろこを流していたのですが。
 まぁ、私の任務って事はよく認識できました。
 私は先輩に敬礼をすると自分の部屋に戻る事にします。

 自分の部屋についた私。
「やることは一つです」
 そういうと私は棚から新しいノートを出し、それに「ネタノート」と書きます。
 今日は徹夜です、ご主人様を笑わせるとっておきの冗談を考えましょう。

 結局私は白紙のノートを提出ことになります、どこにでしょう。
 二十時間は考えたのですが、一つも考え浮かびませんでした。
 いや、そんな事はどうでもいいのです、夢心地で私は考えます。
 おかしいですね、夢心地?

 ガバッ、私は時計を確認します。
 昼、私としたことが、寝過ごしました。
 今日はご主人様は早めに帰るとスケジュール表にも書いてあります。
 このままだと10分は遅れてしまうでしょう。
 私は高速で準備を済ませ、車に乗り込むと、いつもはやらないフルアクセル発車をします。
 待っててくださいご主人様、メイドさんは早い事を教えてあげます。

 そんなわけで、学校の校門の前で待っているご主人様の前に車を急ブレーキで止めます。
 危ないです、もう少しでご主人様轢く所でした。
「お待たせしました」
 優雅に私は一礼をしてご主人様を車にご案内します。
「珍しいね、メイドさんが遅れるなんて」
 早いことは証明できませんでした。
「すみません、UFOに轢かれました」
 それを私は余りのスピードを出したせいで考えた言い訳を言います。
 ご主人様を轢きかけたんですけどね。
 それはただのブラックジョークです、と自分に突っ込みます。
「……」
 ご主人様はポカーンとしてます。
 ハッ!私としたことが、言い訳などしてしまうなんて、メイドさんとしてあるまじき行為です。
 この償いは腹を切ってします。
 しませんよ。
 とにかく、謝罪の言葉を口にしようとしましたら。

「ふふっ、それ冗談?面白いよ、ははっ」
「は?」
 ご主人様が笑っています。
 …此処で私は昨日の約束を思い出しました。
 そういえば冗談を考えてて寝過ごしたんですっけ。
 車の運転に集中してて(それ自体はいいことですが)忘れてました。
 まぁ、ついでに任務も完了です。
 …いや、私は真面目なメイドさん、良い方向にいったからといって事実を曲げるわけにも行きません。
 それはきっとご主人様に嘘をつくということになってしまいます。
 だから私は訂正をしなければなりません、冗談では無くただの言い訳だと。
 冗談の事は完璧に忘れていたと。
「いえ、ご主人さ…」
 ま…と言いかけて、私はご主人様の笑顔を見てしまいます。
「ははっ…なぁに?メイドさん?」
 …まぁ、今回はいいです。
 なんだか笑顔見たら言う気がなくなりました。
 それに簡単に目に浮かんでしまいます。
 「ごめんね、僕が早とちりしたせいで…」とか言うご主人様が。
 そんな事は言わせません。
「私が冗談を言うのがそんなに面白いですか?」
 だから私は隣のご主人様をチラリと目線を送りながら聞きます。
 それは本来言おうとしたこととは違うこと。
 でも、ご主人様は
「だって、初めて聞いたもの、メイドさんの冗談」
 そうご主人様はにやけながら言います。
 …なんだか不本意なものを感じますが、まぁ、喜んでいただけてますし良いでしょう。
「運転中です、あまり変なことを言うと事故にあってしまいます」
 私は真顔でそういいながら。
「大丈夫、メイドさんは運転もバッチリだから」
 しかしご主人様は笑顔で言いながら。
 私は今日も勤労に勤しむのでした。

 おしまい。