それはある日の午後の事でした
「メイドさん、ちょっといい?」
私が48の部屋の38番目をお掃除をしているとご主人様が話しかけてきました。
「はい、よろしいですよ」
もちろん、お掃除より、ご主人様の方が大切です。
「思わず買っちゃった、これ」
そういってご主人様は指をパチンッと鳴らします。
すると、ゴゴゴゴゴ…そう言って床がせり上がってきました。
「ご主人様、駄目ですよ、無駄遣いしては」
私はそう言いながらも、床から出て来た物体を見ます。
ご主人様の事です、また変なものを買って来たに決まってます。
「ガガー、ピー」
…?なんだか、ガーガー言ってますけど…
それは人型でした。
それに、何故かメイド服を着ています。
ご主人様はウキウキした様子でそれの正体を教えてくれます。
「驚いた?メイドロボ!」
「クーリング・オフは?」
「もちろん効かないよ」
…さて、どうしましょう。
メイドロボがやってきた!
「では、お掃除を手伝ってもらいましょう」
気を取り直した私は、とりあえずお仕事を手伝ってもらう事にします。
「対応早いね…」
「メイドさんですから」
そんなわけで、ご主人様はメイドロボを起動し、何か私には良くわからない事をします。
まぁ、メイドの道にメイドロボの動かし方はないですししょうがありません。
「うん、これでよし、喋れるかい?」
「ガガー、喋れる喋れた喋れるよ!」
何故か逆切れするメイドロボ、大丈夫でしょうか?
「たはは…まぁ、いいや、このメイドさんと一緒にお掃除して?」
私一人で掃除した方が明らかに早いですが、まぁ、それは良いでしょう。
「オーケー、わかりました、ボブ。よろしくお姉さま!ピー!」
メイドロボは何故かご主人様をないがしろです、ボブってなんですかボブって、それはいけません。
「駄目ですよ、メイドロボ。ご主人様は大切な存在です。それをないがしろにする事は自分の首も絞めることになるのです」
私の説教が効いたのかメイドロボは突然目からウロコを、本物のウロコを噴射しました。
タカタカタカッと、壁に刺さるウロコ、危ないです。
「わたいは感動しました!お姉さまはメイドの鏡です!ガピー」
ウロコの噴射をやめ、メイドロボは私にひざまずく、極端です。
「ご主人様!わたいのご無礼、なにとぞお許しを!ガガー」
今度はご主人様の足にしがみつく。
「あはは、気にしなくていいよ、メイドロボ…って呼びにくいよね、名前付けてあげなくちゃ」
ご主人様、私もいまのところ名前出てないです。
「じゃあ、モッサリ、いいよね、メイドさん!」
「変な名前です、しかしいいでしょう」
感想をしっかりといいつつ、しっかりと肯定します。
「じゃあ、君はモッサリだ」
「それはあんまりです!ガピー」
やっぱり気に入らないみたいです。
「メイドロボ、いや、モッサリ、ご主人様は絶対なのです」
もちろん、私がそんな名前付けられたら嫌ですが。
モッサリはウロコをご主人様に噴射します、って危ない!
「はっ!」
キキキキン、フライパンでウロコを全て防御します。
「わたいは目が覚めました!わたいはモッサリ!よろしくお願いします!ピガー」
…どうやら別にわざとじゃないみたいです、それにしても変な機能です。
「ふう、一件落着だね」
頷きながらご主人様は「後は頼むね、メイドさん」と言って部屋を出て行かれました。
「さて、お掃除をしましょう、できますか?」
当初の予定通り、モッサリにお掃除を手伝ってもらう事にします。
しかし、何時聞いても可哀想な名前です、モッサリ。
「ピーガー、ピーガー…検索中、検索中…ピー、出来ません」
このロボの製作者はメイドさんを舐めている事がわかりました。
お掃除できないメイドさんなんてケチャップで絵を描いていないオムレツのようなものです。
「じゃあ、これで周りをはたいてください」
そういって私ははたきを渡します。
まぁ、それぐらいならできるでしょう。
「わかりました、お姉さま、ガーガー」
ところで何故お姉さまなんでしょう、まぁ、いいです。
モッサリがはたきをやってるうちに私は全てを終わらせます。
…無言で作業を続ける私達。
モッサリが飛ばしたウロコを壁から引き抜く作業です。
ロボ災で仕事増えるのも珍しい出来事です。
と、ウロコを取り終え、普通のお掃除に戻っていると。
ごとっ…
モッサリが何か落とした音でしょうか、慌てず騒がずそちらを見ます。
…一千万の壺は流石に駄目です、私は壺に飛びつきます、キャッチ、成功。
一回転、着地成功。
「モッサリ、物を落としてはいけません」
壺を元の位置におきながら私は言います。
「わかりました、お姉さま、がぴー」
わかってくれました、良かったです。
と、そんなわけで、彼女は突然普通に掃除を手伝ってくれました。
これもやっぱりメイドさんパワーでしょう、きっと。
お掃除を終え、二人で掃除用具をしまいに歩いていると
「あ、メイドさん、ちょっといいかしら…あら、新しい子?」
車椅子に乗った先輩メイドさんが私を呼びとめます。
「はい、よろしいですよ。…彼女はメイドロボのモッサリです」
「モッサリっす、ピー」
「私は崎 夜加羅、先輩って呼んでくださいね」
先輩とはただの通称で実は同期です。
「なんで先輩なんです?ガピー」
モッサリがガーガー疑問を口にします。
「つまり、崎夜加羅→さき やから→先 輩→先輩、と、言うわけなのです」
私はわかりやすく図に描いて教えます。
「そうそう、呼びやすくていいでしょう?」
初対面の時は特に気にしていませんでしたが…合っててよかったです。
「わかったっす、よろしくお願いしますっす!ガー」
何故モッサリは体育会系話し言葉なのでしょう。
「よろしくお願いしますね、では私は行きます」
そういってペコリと頭を下げると先輩は去っていきました。
「先輩、私に用事があったのではないのですか?」
その背中を呼び止めます。
「あ、そうでしたね」
車椅子を器用にUターンさせると先輩は戻ってきました。
ちなみに先輩は別に足が悪いわけでもないですが、家宝なんだそうです、車椅子。
「えーと、ご主人様が『いなせなコックさんがダイナミックに吐血したから今日はメイドさんがご飯作って』ですって」
一息で先輩は言います、モッサリがダイナミーックとか叫んでます。
「またですか…わかりました」
いなせなコックさんは腕は超一流ですが病弱なのが玉にきずなのです。
「お姉さま、私も手伝います!ガピー。失礼しますっす先輩!ピガー」
「そうですか?では行きましょう。では先輩、伝令ご苦労様でした」
先輩にねぎらいの言葉をかけると私達は厨房に向かいます。
「頑張ってくださいねー」
先輩は私たちの背中に手を振って応援してくれていました。
厨房に着た私達は早速、料理を開始します。
仕込み時間もあまりありませんので、今日はオムレツにしましょう。
「ところでモッサリ、料理は出来るんですか?」
お掃除できなくても、料理は出来るかもしれないと思い私は聞きます。
「もちろん、出来ます、ガーガー」
あまり期待してなかったんですが、どうやらできるようです。
「では、ニンジンの皮をむいてください」
「出来ません、ガピー」
「では、卵を割ってください」
「無理です、ピーピー」
「では、鍋かき混ぜててください」
「この電話番号は現在使われていません、ピー」
ここで少しおかしい事に気がつきました。
オムレツはもう完璧に仕上がってお皿にも移してしまいましたが。
「モッサリ?本当に料理できるんですか?」
料理ってほどでもない作業ですが、一応聞きます。
「はい、お姉さま、私はオムレツは得意ですよ、ただ、一つの事しか出来ません。ピー」
そういうとモッサリは、オムレツにケチャップで絵を書き始めます。
「…上手いですね」
見事です、ご主人様の顔がくっきりです。
これで私はモッサリをメイドと認めなければなりません。
そういう慣習なのです。
「えっへん!ピガー」
…とりあえず言う事があるとすれば、それは料理じゃないって事ですが…些細な事です。
その日のオムレツは皆様にご好評いただけましたよ、ええ。
これがモッサリがこのお屋敷に来たときのお話です。
この後みっちり特訓をして、とりあえずメイドさんチックに仕上げられるのですが。
それはまた別のお話です。