空からランプが落ちてきた!
「ご主人様、明日のご予定ですが…」
夏の終わりも近いある日の夜、いつもどおり私はご主人様と明日の打ち合わせをしていました。
先輩もそばで本を読んでいます。
「うん、そろそろ夏休みも終わりだしねぇ…」
ご主人様は開いてた本を閉じながら感慨深げに呟きます。
この夏休みは色々ありました…ご学友襲撃事件とか。
まぁ、それは今は関係ないです。
「ええ、ですから、しゃっきりしてもらいますよ。
普段からのんびりしているご主人様が今更しゃっきりするとも思えませんが…」
「酷いなぁ、僕だってたまにはしゃっきりだよ…あれ?ところでメイドさん、モッサリは?」
モッサリとは我が屋敷が誇るメイドロボです。
私が世話役を担当しているので、いつもは私のそばにいるのですが、今は…
「庭掃除して来るって飛び出していきました」
本当に前触れも無くです。
「こんな夜遅くに?…体内時間狂っちゃったかな…後で巻きなおさないとね」
モッサリ、ゼンマイ式だったのですか。
「まぁ、それはともかく、明日のご予定です」
ご主人様の謎も解けたことですし、本題に戻ります。
「あぁ、ごめんね、よし、いいよ」
何故か気合を入れるご主人様、いいことです。
「では、明日は…」
ドッゴーンッ!!
と、ここで異変が起きました…と、言うか凄い音がしました。
「わぁ!?」
先輩が音に驚いて椅子から落ちました。
「…なんだろ?なんだか凄い音したね」
「ええ、凄い音でした」
流石ご主人様、微塵も取り乱してませんね
「もう、二人とも、せっかくですからもう少し驚きましょうよ…」
何がどう、せっかくなんでしょうか。
「私はメイドさんですからね」
先輩もメイドさんですがこの際構わないでしょう。
「僕はほら、皇帝の理だよ、うん…先輩、ちょっと見て来てくれない?」
ご主人様は迅速に判断を下します。
「はい、わかりました」
この屋敷、こんなに広いのに私とご主人様と先輩とモッサリしか住んでなかったりします。
料理長のいなせなコックさんは住み込みではないのです。
…誰も覚えてませんか。
十分後、先輩が帰ってきました。
「えーと、大変なことが判明しました」
「モッサリ帰還しました、ガーピー」
車椅子に乗った先輩と、その先輩の膝の上に載った首だけのモッサリ。
「…何でモッサリ首だけ?」
ご主人様が疑問を口にします。
「隕石振ってきた!わたい逃げた!間に合わなかった!首だけ飛ばした!畜生!ガーピー」
またモッサリは逆切れです。
「隕石ですか…じゃあ、特に被害はなかったんですか?」
被害と言えばモッサリ首だけになりましたけどね。
よく考えたら直すのにお金かかりそうですね…
「あと、こんなの落ちてましたわ」
そう言って先輩が取り出したのは…
「ランプ…?」
先輩の取り出したそれは確かに良くおとぎ話に出てくるランプでした。
「多分、これが隕石の正体だと思いますわ」
先輩はご主人様にそのランプを渡して報告を終えます。
「うん、ありがとう先輩…このランプ…やっぱりアレかな、こすると魔人が出てくるの」
そういいながらランプをこするご主人様…
モクモクモクモク…
待ってました!とばかりに煙が出てきます。
…お約束だったのですね。
モクモクモクモクモク…
「煙が目に!ガーピー」
首だけのモッサリはガードも何もできませんね。
モクモクモクモク…
周り煙だらけです…換気換気…
モクモクモク…
あ、中から人が出てきました。
「ごほっごほっ…煙出すぎだよ!」
年は二十代、髪は金、背丈は高い方で…まぁ、そんな男の人ですね、分析完了。
そんな人が出てきたんですが…自分で煙出したわけでもないんですね。
「それはこっちの台詞だわい!ガーピー」
先輩に目を拭いてもらいながらモッサリが言います。
まぁ、確かにそうですね。
「それで、どちら様?」
ご主人様がカメラを引き出しから探しながら聞きます。
アルバムにくわえるつもりでしょうか。
「あぁ、俺はランプの精のウェルズリ・ポイニングスだ」
「滅茶苦茶よびにくいってーかんじー?がーぴー」
確かに呼びにくいですね…モッサリの口調が定まってないのはいつもの事です。
「そこの生首うるせぇよ!…こほん、ウェルとでも呼んでくれ」
「はい、それでウェルさん、何しに来たんです?」
ご主人様の明日の予定は何時になったら話せるのでしょう。
「っと、そうだった、俺を呼んだ奴の願いを三つだけ叶えに来たんだ…ランプこすったのは誰だ?」
皆で一斉にご主人様を見ます。
「…そういや僕だったね」
ご主人様です。
「あんたか…さぁ、願いを言って…」
「うーん、願いかぁ…特にないなぁ」
ウェルさんの言葉を遮る形になってご主人様は呟きます。
「ねぇのかよ!?あるだろ、一つぐらい?」
「うん、他の人に叶えてもらうような願いは一つもないよ」
どどーん、と効果音が聞こえた気がします、素晴らしいです。
「あ、ご主人様今良い事言いましたねぇ」
先輩も頷きながらご主人様を称えます。
「むがもが!…ガーピー!」
モッサリは何か言う前に口を押さえておきます、せっかくの感動シーンですから。
「んなこと言われてもなぁ、一応…」
ウェルさんが何か言いかけようとしたところで、ご主人様が何かを思い直したように言い直します。
「あ、じゃあ、一つ目の願い、改名して僕に名前付けさせて」
「…はぁ?」
流石ご主人様、願いも無欲です。
「さっきの感動シーンはなんだったんでしょうねぇ…」
それは言わないお約束です。
「むがー!ガーガー」
モッサリのこと忘れてました…口を解放します。
お姉さま酷いガーピーとか言ってますが気にしないことにしました。
「…ま、まぁ、そんな事…でもないが、それでいいならいいだろう、良い名前付けてくれよ」
ウェルさん、残念ですが、ご主人様はモッサリの名付け親です…
「んー…ランプから出てきたのでランランさん」
「よろしくお願いします、ランランさん」
「おめでとうございますね、ランランさん」
「ひざまずけランラン!…がーぴー」
全員一斉にランランさん誕生の祝福をします。
モッサリは何か違う気がしますが。
「お前らグルか!?」
慣れです。
「さて、ランランさんに素晴らしい名前も付いたことですし、明日のご予定を…」
私は気を取り直して先ほどの続きをします。
「いやいやまてまてまて、名前はもう契約だから諦めるが、願いはあと二つあるだろ」
そういえばそうでしたね。
「ご主人様、そういうわけでさっさと願いを言ってあげてください」
明日の予定は何時になったら話せるのでしょう。
「そうだね……あ、そうだ、モッサリ直して欲しいな」
流石主人様今度の願いは、とてもお財布に優しいです。
「そのポンコツのか…お安い御用だ」
ランランさんが壊したんですけどね。
「ポンコツとはなんだ!ピーガー」
ピーガー言ってるのも悪いとは思います。
そしてランランさんは虚空に手を伸ばし、宙に何かを描きます。
「あ…あれはー…」
先輩が驚いたように…見えませんが…ランランさんを見ます。
「知ってるんですか?」
むしろ、そういう(説明)役だったんですね、先輩。
「ええ、かくかくしかじか」
「わかりません」
そういうのはわかってる人に言ってください。
「いや、ただの西洋の方の魔術だなぁって、ランランさん魔術師みたいですね」
…突然超常現象です…ランプが振ってきた時点でそうでしたね。
ランランさんはぶつぶつと危なく呟き、宙で手を動かし…変なダンスを踊ってるようにしか見えません。
呪文を完成させます、多分、そうでしょう。
ぼうん!と、なんだか気の抜ける音がしたと思ったら終わったようです。
「出来たぜ…」
で、ランランさんの手にあるのは鉢植え。
「流石魔術…凄いねぇ」
しきりに感心しているご主人様です。
「でもなんで鉢植えなんでしょうねぇ…」
先輩はそういいつつも、とりあえずモッサリの首を土を盛った鉢植えの上に乗せます。
「…どこの生首ゲームだ!ガーピー」
そこはかとなく変ですね。
「まあ、こういうのもオツなもんだね」
ご主人様納得の一品です。
「いや、冗談なんだが…まあ、いいか」
「よくねー!!ガーガー」
鉢植えで文句を叫ぶ生首。
「まぁ、しばらく我慢してよ、明日には予備が来るから」
さすがご主人様、仕事がとても速いです。
「オイオイ、二つ目の願い自分で何とかしないでくれよ」
ランランさんのこと忘れてましたね。
「んー、じゃあ、身の上話でも語ってよ」
「なんか投げやりだな!?」
確かに投げやりっぽいです。
「まぁ、いいや…長くなるぞ」
私が略します。
…と、言うわけでランランさんは語りタイムに入りました…
はい、では、要約いたします。
マッドな師匠が、ランランさんをランプに入れてイギリス辺りから飛ばしました。
三つの願いは『ノリ』だそうです。
…ノリで改名してしまったのですね。
そんなところでしょうか…
「ふう…聞いてたか?」
「はい、バッチリ飛ばしました」
しかも先輩は寝てます。夜行性のはずなのに。
要約したらかなりの部分削れましたが、それは些細なことです。
「飛ばしたの!?」
その問いに私は頷きました。
「あ、もしかしてランランさんノルリングベルさんの所の人?」
ちゃんとすべてを聞いていたご主人様は、ランランさんの師匠に心当たりがある様子です。
「あぁ…知ってるのか?」
流石に知り合いとは思わなかったのか首を傾げています。
「うん、ついでに三つ目の願いも決まったよ」
ご主人様は解決編の探偵のごとく立ち上がりました。
「ランランさん!執事になってください!」
「あぁ、いいぞ。…は?」
相変わらずノリのいいランランさんは即答しました。
「わたいの後輩か!いびるぜ!がーぴー」
突然張り切りだすモッサリです。
「どうぞ、契約書です」
まぁ、ご主人様が雇うというならいいでしょう。
「いやね、ノルリングベルさんにさ、面白い人頂戴って言ってさ。なら今度送るぞ、って」
「そんな理由で俺飛ばされたのか!?」
……まぁ、雇うというなら。
とりあえず、ランランさんには速やかに契約書を書いてもらいました。
「…ファミリー・ネームはどうするよ、俺」
「ランプでいいんじゃないですか?」
…はい、ランラン・ランプーさん仲間入り。
「ハッハー、跪けランラン!ピーピー」
まだ言ってます。
「はい、よろしくね、ランランさん」
そんなわけで我が屋敷に新たなお友達が加わりましたとさ…
「まぁ、それよりご主人様、明日のご予定ですが…」
「…もう朝だよ、メイドさん…」
…結局言えませんでした…
おしまい?