手紙 1枚目
4月7日
突然君にこのような手紙を出す事許して欲しい。
君は俺の事をどう思ってるか判らない。だけど、俺にとって君は無二の親友であり、かけがえのない存在だと思っている。
急にこんな話をしだすのはおかしいと思うだろう。それはそうだよな、俺たちはここ二年一切連絡を取り合わなくなった。というか、俺が今までの友人を嫌煙してたと言った方がいいだろう。こんな関係だったら、俺が君の立場でも訝しげに感じてしまうよ。
10年前、俺が高校を三年の秋に中退してからも、君は俺に何かと気を使ってくれた。卒業式の後の打ち上げに呼んでくれたり、成人の年の同窓会に誘ってくれたりと、君には幾ら感謝の言葉で表しても、表しきれない位感謝している。
何で急にこんな事を手紙を書いてるのか不思議に思うだろう。ああ、一ヶ月前の俺も不思議に思うだろう。ただ、今は静かに落ち着いているんだ。全てを悟ったから。
実は先月吐血をして入院した。入院した当初、担当医や家族は俺に「重度の胃潰瘍」と説明していた。そしてその説明に俺も納得した。確かに一年前から胃が痛む事もあったし、その都度痛み止めで鎮痛を行っていた。思い当たる節があったから納得した。納得して外科病棟に入院したんだ。思えばここで気が付くべきだった・・・ああ、君の予想通り俺は癌だ。それも末期も末期、全身あちらこちらに転移して、手の施しようのないほどのね。
なんで判ったのかだって?そりゃ簡単な事さ。重度の胃潰瘍で外科に入院した場合、殆どが外科的治療、すなわち手術で潰瘍部分の除去をするだろ。それなのに担当医は、「手術はしません。内科的治療で様子を見ましょう」の一点張り。手術大好きな外科医が、内科的治療を行う・・・この答えは判るだろ。これが3週間前の出来事さ。
2週間前からは、抗がん剤の副作用である脱毛と嘔吐が襲ってきた。もう我慢出来なくなってさ、担当医に詰め寄ったんだよ。問い詰めても、問い詰めても「胃潰瘍です」の一点張りだからさ、俺も頭キて果物ナイフ喉元に突きつけて脅したら白状したよ、「癌です」ってな。ああ、「もう手の付けられない末期の」っていう接頭語が付いてたわ。
もうさ、目の前真っ暗になったよ。判ってた事とはいえ、流石にキツいよ。悩んで寝れなくなるもんだと思ってたんだけど、これが寝れるんだわ。まあ、痛み止めのモルヒネを使われてるからなんだけどな。
まあ、そんな病状なんで余命幾ばくも無い状況で何か遣り残した事が無いかと考えたんだわ。考えて、考えて、考え抜いて出した結論が、俺が生きて来た存在意義って何だろうって事だよ。
俺が生きて来た証、俺が辿って来た28年間を誰かに知って欲しいって思ったんだ。
18年間は誰に知られてもそれ程問題のある人生じゃない。まあ、何回かは警察のお世話になったけどな。それは君も知ってるだろう。
問題は後半の10年さ。親や家族には絶対話せない10年間。この10年の業で、今の俺の現状があるのかも知れない。ただ、誰かに知っていて欲しい。俺がどんな人生(みち)を歩んだのかを・・・
ただこの10年は、俺の価値観から言うと、カルト集団の実行犯以上の大罪を犯している。一時期流行ったオヤジ狩り以下だとは思う。
こんな偏った価値観を持つ人間の生きて来た人生(みち)を知って欲しい。もし知りたくないなら、この手紙の先は読まずに、焼却するなり、捨てるなりして欲しい。
君が読んでくれる事を祈りつつ、今日はここでペンを置きたい。何しろ体力が日に日に落ちてくもんでね
追伸 手紙という物を書いた経験が少ないので日記の様になってる事を許して欲しい
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