手紙 2枚目
4月8日
君がこの手紙を読み続けてくれ、有難う、感謝している。
この手紙の内容は君が全て読み終わった後に、君の判断で好きな様にしてくれ。ただ、俺が書いたと判る様に親兄弟に公開する事だけはやめて欲しい。これだけが、遺言代わりの俺の最後の君への頼みだ。頼み続きで、最後まで図々しいヤツですまない。
俺の人生を振り返る・・・何処から話せばいいんだろう。思い出話と、その時交わした覚えてるだけの会話を書き連ねていこうと思っている。書いてる分にはラクだが、読み手には読み辛いかもしれないが許して欲しい
あれは、高校最後の夏。君と俺は毎日の様にナンパに勤しんでいた事を思い出すよ。街で、海で、二人で遊んでる時は何時もナンパしてたよな。あの時は楽しかった・・・思えばあの夏は、最高で最低の始まりだったんだ。
あの夏のお盆も過ぎたある日、二人とも夏の課題を片付ける為に遊ばなくなったある日、地元の先輩に誘われて居酒屋に飲みに行ったんだ。先輩数人と同級生数人と後輩数人。10人ちょっとの人数で居酒屋の座敷を占領してると、ある男が先輩達に声を掛けて来たんだ。その人を見るなり先輩達は、立ち上がって
「こんばんわっす」
と深々とお辞儀をしたんだ。先輩がそうするんだから、後輩の俺達も挨拶しないわけにはいかないだろ。みんなで立ち上がって、挨拶したんだよ。するとさ、その男は俺達の顔をゆっくりと見回すと、先輩の一人に声を掛けたんだ。
「何?こいつ等みんな後輩?」
「うっす、中学の後輩っす」
「ふ〜ん」
男はそう言うと興味も無さそうにその場を後にしたんだよ。ただね、違ったんだ。この時、俺はこの人の事を『カッコいい』と思っちゃったんだよ。だってさ、ふ〜んって言った後に、こっちの席の伝票持って何も言わずに立ち去るんだぜ。俺と5つくらいしか年の変わらない男が、何も言わずにすっと伝票持ってっちゃうんだよ。当時の俺らにしたらこれ以上カッコいい事無いだろ。
先輩がその人のその姿を見て、慌てて追っかけてったよ。俺ら後輩連中も慌てて先輩追っかけて、レジに向かったよ。
「佐伯さん、俺らの後輩なんですから俺らで出しますって」
「お前等の後輩じゃ、俺の後輩でもあるだろ。ここであったのも何かの縁だから、俺がついでに出すって」
「いや、佐伯さん。それじゃこいつ等誘った俺らの立場が」
「ああ!?つべこべ言わずに俺が出すっつってんだから、黙って出させろや!」
一喝だよ。一喝で、普段あんなに恐い先輩達が黙っちゃうんだから。『マジでこの人カッコいい』って思っちゃったよ。
「まあ、あんまカッコ悪い真似させるなよ。こういうのは黙ってやる方がカッコいいんだから」
「ウッス、ご馳走様です」
先輩のその一声の後に続いて、俺らも「ご馳走様です」と店内に響き渡るくらいの合唱。それを聞いた、佐伯さんは右手を軽く上げて
「おう」
その一言だけで、店を出て行ったんだよ。それを見送った後、席に戻ったら先輩の一人が神妙な顔つきで話し出したんだ。
「オゴって貰ってこんな事言うのどうかと思うけどさ、お前等佐伯さんとだけはツルむなよ」
「何でっすか?」
「何でって見たら判るだろ。ヤバいんだよ。詳しい話は出来ないけど、極力佐伯さんには近づくな。いいな」
「判りました」
この時の先輩のこの言葉はよく理解出来なかった。でも、何時も恐い先輩達が『ヤバい』って言うんだから、余程危ない人なんだろうと警戒だけはしたんだ。
それから一週間位後かな。夏の課題が終った俺はヒマだったんだけど、君はなかなか夏の課題を終わらせないから遊べないし、地元の友達は誰も捕まらない。ヒマで一人で地元をウロウロしてたんだ。誰かに会えるだろうと思ってね。歩道を歩いていると、隣の車道から俺の行く手を遮る様に、黒の最高級国産車が俺の前に止まったんだ。暫くケンカなんかしてなかったし、ヤクザの乗るような車に追いかけられるような真似もしてない。なんだ?不思議に思ったし、凄い恐かったよ。ゆっくりと俺の前の助手席のウィンドウが下がっていく。そのウィンドウから顔を出したのは、ヤンキー上がりを漂わせる綺麗なお姉ちゃん。見た事の無い顔の人だった。誰だろう?思い出そうとしてると、隣の運転席から、男が顔を出したんだ。その顔はあの居酒屋で、オゴってくれた佐伯さん。あの時は、とお礼を言おうと思った瞬間
「お前ってこの間居酒屋でカズなんかと飲んでたよな」
カズ。カズさんって言う先輩。あの時は佐伯さんはヤバいと警告してくれた人。ヤバいと言われた人が、言った人の名前を出した。今思い出すと笑えるよ。
「うっす。この間はご馳走様でした」
「おう、あんくらい別にどうって事ないから。それよりお前、何て言うの?」
「カズさんの二個下で、元木って言います」
「知ってると思うけど俺、カズの3つ上で佐伯、ヨロシク」
「うっす。佐伯さん、よろしくお願いします」
「元木、何してるのよ」
「いや、その・・・ヒマでぶらついてたんすよ」
「ヒマなんだ」
「ええ、まあ、ヒマっすね」
「そっか・・・これから飯食いに行くけど来るか?」
「いや、デートの邪魔しちゃ悪いっすから」
「別にデートじゃねえよ。飯食い行く先には俺らの友達もいるから」
「いや、でも俺みたいな初顔が行ってもお邪魔なだけですし」
「ああ、大丈夫。来るよな、元木」
先輩にこう言われて、断れる後輩がいたら見てみたいよ。気付いたら、俺は佐伯さんの車の後部座席に乗ってたよ。
思い起こせばこれが全ての始まりだったんだよ。あの暑い夏のこの出会いが、普通に歩んでた俺の人生を、得難い経験を積める人生に変えたんだよ。
ああ悪い、体力が落ちてきてこれ以上今日は書けそうも無い。続きはまた明日書いていこうと思う
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