手紙 4枚目
4月10日
途中で書き止めてすまなかった。親が突然見舞いに来たもんでな。君も気になってると思うから、さっさと続きを書こう。俺に残されてる時間も少ない事だしな・・・
ゴト師。パチンコで玉を不正に出す職業。普通に生きて来た18歳なら多分この言葉を知らないだろう。君もそうだったけど、当時パチンコを打っていた俺らには知っていた言葉。
「ゴト師って儲かるんすか?セル板とか、ピアノ線突っ込んでちょこちょこやるやつっすよね?」
「セル板やピアノ線って何時の話だよ。今はもっと高度でかなり儲かるんだから」
「そうなんすか」
ヤバイ。そう思った俺は興味無い振りでそう言って会話を打ち切ったんだ。佐伯さんもそれ以上、ゴト師については何も言わなかったよ。
その日から二日後、二学期の始業式。今までの出来事はひと夏の幻で終るんだろう。と思ってたんだ。始業式が行われて数日は、君と何事も無い高校生活を楽しんでいたよ。持っていたポケベルがその静寂を打ち破ったんだ。
確かアレは始業式の次の週の火曜日だった。昼休み、何時ものように君と仲間と屋上でタバコをふかしてると、俺のポケットベルが鳴り出したんだ。ディスプレイに映し出された番号は、今までに見た事無い電話番号。不思議に思いながらも、事務室の前の公衆電話まで行き、その番号に電話を掛けてみたんだ。
「はい」
2コール目で電話は取られ、低い男性の声が返って来た。
「スイマセン、俺のポケベルが鳴ってそちらの番号が表示されたんですけど」
「どちらさん?」
「あっ、元木って言いますけど」
「少々お待ちを」
そう言うと相手は受話器を手で押えて、電話の向こう側で叫びだしたんだ
「元木さんって方がポケベル鳴った電話掛かって来てるんですけど・・・」
「おう、俺だ」
電話の向こうその声に応える声がする。
「葉山の兄貴でしたか。どうぞ」
そう、中華料理屋でポケベルの番号教えてしまった葉山さんからの電話だったんだ。
「葉山だけど悪いな」
「うっす、その節はお世話になりました。ご無沙汰してます」
「おう、元木君さ明日暇か?」
「暇かって、学校なんですけど」
「何?学校出席日数ヤバイの?」
「いえ、まだ足りてますよ」
「んじゃさ、明日バイトしないか?」
「いや、バイトって」
「ああ、楽なもんよ。ただの人数合わせで、朝9時半から夜の7時くらいまで座ってるだけで1万円」
「いや、ヤバいバイトなんじゃないっすか?」
「いやいや、今電話してもらってるウチの事務所当番頼みたいんだわ。明日一人居るんだけどな、もう一人欲しいんだよ」
「はあ・・・」
「危ない事とか絶対無いから、事務所の場所判んないだろ?明日9時に関内の駅前で待ってるから、よろしく」
それだけ言われると一方的に電話を切られたんだ。こう言われたら行かなかった時の事が恐いじゃん。しょうがないから次の日、学校サボッて9時に関内の駅前まで行ったよ。思えばこれが転落という坂を転げ落ちる瞬間だったんだ。
9時10分前に関内の駅前に着いたよ。で、葉山さんが現れたのが、9時10分。予想通りというか・・・
車で15分程の所に、葉山さんの事務所があったんだ。勿論、広域指定暴力団のね。
葉山さんの案内で事務所の中に通されると、俺と同じくらいの年の丸坊主のヤツが居たんだ。名前は紹介されたんだけど忘れた。葉山さんが俺を紹介すると、あの時と同じ様に、「おあっす」と挨拶されたのを覚えてるよ。この時下の人間の目上の人への挨拶は、「おあっす」なんだなぁなんてつまんない事を考えてたんだ。
事務所の広さは8畳程度の部屋とその奥に6畳程度の2部屋。奥が組長室になってるらしい。
その日一日、8畳の部屋にあるソファーに腰を下ろして、マンガを読んだりテレビを見たり、葉山さんや杉田さんと話したりで終ったよ。電話対応やら、郵便の受け取りは坊主頭が全部やってくれた。本当に何にもしなくて1万円貰えたんだ。
その日の帰り、葉山さんに車で最寄り駅まで送ってもらってる時に、
「悪いんだけど、明日明後日も頼まれてくれないか?」
なんて言われて2つ返事でオッケーしちゃったよ。だってさ、3日間学校サボッても単位に影響ないし、3万手に入るんだぜ。3万あれば、週末君と遊んで、飯食ってナンパして飲み行ってホテル行ってもお釣りが来る金額だぜ。
金の魅力・・・・・・いや魔力だな。それに負けた時点で俺の人生は別のモノに変わってしまったんだ。
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