【残り三週間】
そして次の週が来た。月曜日になると思い出す。教室に戻る俺はこの世界の住人では無い。脱出条件を満たして、さっさと元の世界へ還るだけだ。今、この周りで人が死のうが消えようが、それはこの世界ならではの話の筈だ。成って当たり前だ。
原点に戻るが、この世界は「本」なのだ。俺が入ろうが入れまいが、物語は変わらないのだ。いや、“変われない”のだ。“変わりようが無い”のだ。
(…………あれ?)
あいつは居ないとオカシイ存在。俺は居るとオカシイ存在。当然、あいつと俺が会話をしたら、それは両者がオカシイ事になり、定められた物語もオカシイ事になる。
連鎖して、今回の名簿内氏名消滅も、起きてはオカシイのだ。それに、何も反応を示さなかったあいつらも、職員達も、生徒達ですらも一般常識とは異なるが、正常なのだ。
だったら、俺は何をすればいい? 今までのように、放課後軽く見回って終わりか? ……それでは意味が無い。
朝。今日も何事も変わらず、机の木目を睨み付けていると、ホームルームの前に、頼みもしないのにお喋りな奴(男子)が寄って来やがった。
「ねぇ、知ってる?」
「何をだ。」
「ほら最近、校舎に変な人が出たんだって。」
「シムラさんか?」
「来たら来たで面白いけどね(笑)……。って、そうじゃなくて。何でも、黒っぽい人が校内をうろついているらしいよ。」
「黒っぽい人?」
「そうなんだ。朝や昼間は居ないみたいだけど、夕方や夜には出没するんだってさ。」
闇夜に人が襲われるパターンで、かなり怪しい話だ。
「……それって何人位で歩いてた話?」
「知らないよ。」
「……話ってそれだけかよ?」
「うん、そうだよ。」
そう言うと、只の喋り野郎は席へ戻って行った。
双六のマスの如く授業がトントン進んだ。
食事タ〜イムと言わんばかりに鞄からドリンクと弁当箱を取り出した。と、その時。廊下から、ガララッバタン! ドドドドドドドド……と、音がした。
構わずに弁当箱を開けようとする。
(……さぁて、今日の中身は何だろな〜♪)
ムグッ!! まさに箱に触れる直前、何者かに後襟を掴まれ、勢いよく引き摺られた。
「アレッ?……お、お、俺の弁当箱〜っ!」
そのまま引っ張られ、屋上にまで連れられて、入口で軽く放り投げやがった。
ドサッ!
「(尻が)痛てててて……。」
「あんた、不審人物の話を聞いた?」
「何だよ、それ。」
顔を上げる。……、顔が凄んでる。なぜ、俺はこんな扱いをされなきゃならないんだ?
「聞・い・た・?」
「……いいや。」
「あっそう。」
(……? そのため“だけ”にわざわざ連れ出したのか?)
「……放課後、また見回るわよね?」
「一応な。」
(……だから何だってんだ。)
「……あたしも一緒に探すわ。」
「……へ?! 今、何て?」
「だーかーらー! このあたしが直々に探してやるって言ってるでしょ! それが分からないの?」
「いや、そーゆー訳じゃなくて……。気を付けないとお偉方でも迷子になるぞ?」
「はぁ?! 何フザけてんの? ここは学校でしょ! どうやったら迷子になるのよ!」
そんな事言われてもなぁ……。
「う〜ん、校内が捻れ空間になってたりして……。」
「んな訳無いでしょうが!」
「……んなら、いいけどな。」
「と・に・か・く! 放課後、あたしが来る迄待つのよ! いいわね!」
そう言うと、扉をガタンと閉めて出て行った。
(はぁー。これからどうしよう……。)
五月と言ってもその日は風が強く、俺自体が飛ばされそうな位だ。さっきの場面でピランと見えなかったのは残念だが。
さて、問題だが、手元には荷物・外靴・腕時計が有る。昼休みの前に特別な用事を頼まれた訳ではないが、不審者を見つけたい。しかし、あいつと一緒は(状況的に)御免だ。
どうすれば自然に回避できるか。教室? 直に来るだろう。昇降口? 待ち伏せの可能性も捨て難い。体育館?運動部に見つかるだろう。あいつらの本部? 本当に消されかねない。ならば、あそこしかない。
日もすっかり落ちた暗闇の中、最終下校時刻は、とっくに過ぎていた。先生も生徒も居ない。居たら居たで驚くが。
どうにも暗いので、移動用のライトを灯した。
周りは消火用の赤ランプばかりが点灯していた。……今更話だが、脱出用の緑なんか何処にも灯っていなかった。
しばらく進むと、足音が聞こえた。
(……誰だ!?)
とっさに消灯し、手頃な通路に隠れる。
警備員さんなら普通、白か黄色の懐中電灯を使う筈だ。
……だが、そんな考えは役に立たず、足音は通り過ぎて行った。灯りを消していたので姿は見えず、声すらも聞こえず。
それでも、背後から何者かが小声で言った。
「手前に俺を倒せる訳無いだろ。」
聞いた瞬間、ヒヤッとした。そんな話、誰にであろうと一度も言って無いのだ。知る術が無い。なのに、何故?
それ以前に、俺はこの声を聞いた事が有る。それを聞いた直後、俺は暗闇の中、意識を失ってしまった……。