結局その日収穫出来たのは、『単独で黒い人に遭うと帰れない』、『変な人は黒っぽい』『変な人=黒い人』、『暗くならないと出て来ない人』だ。これをどう使うか、まだ分からない。
『黒い男』とは何者なのか、実際に会ってみたいと思う。
ひょっとしたら、その男が俺に何か得になるような話が有るかもしれないと思ったからだ。だが巷の噂では、たった一人で遭ってしまうと帰れなくなるらしい。ので、あのお気楽な子と一緒に行ってみる。
とは言っても、
(今すぐに連れて行け!)
な〜んて事も言えず、日付を挟んだ方が無難だろう。
と、言う訳で、今回も聞き込みに回る。……もう調べる事も、もう殆ど無いだろうけど。
昨日と同様に、休み時間と昼休みをフルに使う。序でに途中で連絡(報告)をするのも忘れずに。聞き込み作業から暫くして、あの陽気そうな子を見つけた。
「おっ、居た居た。お〜〜〜い。」
(……自分で言ってて恥ずいな。只っ広いところで声を掛ける訳じゃないが……。)
「あ、何時ぞやのデカメロン・アット・スクール君だ! ほら、立ち話も何だから、中で話そ♪」
(……やっぱり、変わらないなぁ。って、何でメロン?)
教室前に突っ立っていた俺は、この人に招かれた。まだ「入る」も「指名確定」も、していないのに。早いものだ。
そこから椅子を一席借り、自分の向かい側に置くこの人。
「お茶とかは出ないけど、ゆっくりしていってね。」
「あ、あぁ……。」
椅子に座りながら、周りをキョロキョロ見回す……が、他と何ら変わらない、教室だった。
「……そうだぁ! あれから何か珍しい事でも有った?」
「いんや、何も。」
「そうかぁ〜。でも捜し続けてると、いつかは見つかるかもね!」
「あ、有難(ありがと)な。」
苦笑いをしつつ、本題に入る。
「ところでさ、この前の楽しい話っつー話題出たじゃん?」
「うんうん、出たね〜。」
「俺もその話を直に聞きたくなってな。」
「おー! それは嬉しいね〜! (今日の)放課後から一緒に行く〜?」
「いや、いきなりはちょっと……。明日、お試しって事で……駄目か?」
「全然いいよ! どんどん聞いちゃえ! 鳥ガラスープのダシが枯れるまで!」
……お気楽な子ってやり易いね、ホントに。
「そりゃ良かった。で、その時間はどの位?」
「うん、午後五時半から十五分位かな。」
「け、結構遅いのね……。(落)」
「あの人は暗くないと出て来ないからね。それは仕方ないよ。」
(……はぁ……。)
と、ここで予鈴が鳴った。
「じゃ、時間だから。またな。」
「じゃ〜ね〜後で。チキンナゲットでも食べといて〜。」
「何でじゃいwww」
今日は、校内で噂の黒い男に会いに行く。一体何処の誰で、年齢は幾つなのか聞く為だ。……今回は連れが居るから、恐らく安心だと思う。
遅くなるとアレだから、今日はなるべく早く済まそうっと。
そして夜も更け始めた午後五時頃。 最終下校時刻を越えたせいもあって、校内の照明が次々と消され、もはや夕焼けの明るさでは無くなっていた。
俺の傍には、あの陽気な子が居る。こんな時にファッション雑誌を読んでいられるのがちょっと意外だ。
「なぁ、本当に『黒い人』が来るのか? 薄気味悪い……。」
すると、その子は顔をにやけてこっちを向いた。
「あれぇ〜、ひょっとして怖いの〜?」
「こ、怖いとかじゃなくて。俺がちゃんと生きていられるか、それが不安なんだ。」
「ふ〜ん、じゃあ、臆病なんだ。」
「……( ・_・)」
暫くの間沈黙が続き、約束の午後五時半になった。……のだが、黒い男が来る気配は全く無い。
かなり不安になり、周りをアッチコッチ見る。
と、唐突に背後から肩を叩かれる。
「……コンニッチワ〜。」
(…っ!)
思わず後ろを向く。これでもか、これでもか、と警戒していた筈なのに、容易く後ろを盗られてしまうとは……。
……で、その背後の男は黒っぽい、と言うよりも常に影が掛かったように暗い。それにしても噂通り、俺に似ている。……つーか、本人だろ?!
「さて、と。……じゃあ、今日はどんな話にしようか?」
俺そっくりな男がそう言うと、メニューのような、目次のような冊子を鞄から取り出すと、俺と陽気な子に手渡した。
そのメニューは一度使った古紙(印刷済の書類)をホチキスで軽く綴じ、黒ボールペンで書かれていた。頁(ページ)毎に項目が分類され、『面白』『悲惨』『過酷』『利益』……と言う風にまとめられている。
とりあえず、何が有るのか確認する為にペラペラと目を通す。すると、『ベクトールのカタミ』という文を見つけた。丁度、ベクトールとは何者なのか、気になったからだ。試しにそれを注文してみた。
「やっぱ君はそれを選ぶか。……まぁ、当然か。」
(……やっぱり?)
男が語り出した。話全体を覚える……のは流石に無理だったので、ある程度ココに記しておく。
『
科学が進歩し、企業は売り物をどんどん高性能、且つ高次元に改良していった。シャーペンなどは当たり前、ホログラム対応ペンや遅刻知らずの電車、車より早いパイプ・ウェイなどが開発されていった。
そんな時期、無名企業が新製品の製造に成功……したらしいのだが、その品を何処かに失くしてしまった。必死に捜すが、見つからない。
噂によると、青年ちょっと手前の無能な奴が拾い、勝手に用いているのだ。果たして、何事も無く、大問題を起こさずに、盗り返せるのだろうか?
』
「……という話だ。」
(……この話、どっかで聞いたような……。)
陽気な子は男をニコッと見つめながら、続きを促した。
「ねぇ、その話の続きは? 続きは?」
「今日はもう遅いから、またの日にな。」
「え〜っ。」
俺はふと、思っていた事を口にする。
「ところで、その新製品って何だっけ?」
可笑しな事を言って無いのに、男は噴き出した。
「ぶっ。ぶはっはっはっはっはっはっはっ、はー。何、言ってんだよ。一度、手に取った癖に。」
(……?)
「似たような形を触ると、何か思い出すかもよ? ……ま、手前には無駄だろうけどな。」
その瞬間、あるフレーズが頭の中から浮かび上がっていた。
『手前に…………………。』
何か肝心な事が無いような……。今は、いいか。
気付くともう夜になっていたので、今日は大人しく家に帰った。