昔…はるか昔…
人々は神の手から離れ、自ら道を歩み始めた。
人は魔術を操り、全ての問題はそれによって解決され知識的な進化は皆無と言っても良かった。
王国はウィッチ・キングと呼ばれる強大な魔力を持つ者によって収められた。
魔力の無いもの、低い者は奴隷として扱われ、悪い場合は王国から追放された。

時はウィッチ・キング「レブラン」の時代。
その卓越した剣技により魔力が少ないにも関わらず将軍にまで出世した人物がいた。
彼の名は「クルド=メサメト」。
彼の剣は呪文の詠唱より早く相手を切り裂き、どんな魔物でも一瞬のうちに打ち倒したという。

そんな彼を好ましく思っていない人物が一人いた。
宰相の「ロット」である。
彼は上級ソーサラーとして知られ、国王の次に魔力のある者として皆から恐れられていた。

「奴を追放しろ。」
ロットの言葉から事件は始まる。

「よし、今日の訓練は終わりだ。」
クルドの気合の入った声でいつも訓練は幕を下ろす。
思い思いに兵たちは会話を交わし帰途につく。
「お疲れ様です! 将軍。」
と、クルドに近づいて来たのは最近入隊した「トゥール」と言う少年である。
「トゥール。お前はよくやってるよ。」
トゥールは子どものような微笑を見せた。
「で、何か用か?」
「将軍のこと悪く言う人も沢山いますけど、僕は将軍のこと尊敬してますよ!」
「何だ? 急に。」
そう言われると嬉しくないわけが無い。
「その…将軍て魔法あまり使えないじゃないですか?」
トゥールは少し言いにくそうにもじもじとしながら言った。
「ああ。そんなに恐縮することはない。私はそのことについて引け目を全く感じていないのだから。」
(全くと言えば嘘か…)
「あの…どうして、魔法が使えないんですか?」
「さぁ、私にも分らない。生まれたときからそうだった。」
「はぁ…」
トゥールはいかにも納得いかないといった表情だ。
「ふ、納得いかないといった感じだな?」
「いえ、そんなことは…」
トゥールは滅相も無いといった感じで首をぶんぶん横に振った。
「お前が言いたいのはこうだろ? 『魔力が使えないくせに何故、王宮にいるんだ』。」
「そんな…」
「私もここに居れるのが不思議だよ。生まれたとき異端児と魔術師に宣言され、7歳で奴隷市に売り出された。」
「奴隷市…?!」
「そうだ、そして私は剣闘士として闘技場で何百という人間を殺してきた。その中には魔術師もいたよ。」
「魔術師に剣だけで?」
「はは、私だって魔術付与(エンチャントウェポン)位は使えるさ。」
「……。」
「そしてある日、丁度今から10年前だ。現国王レブラン様の目に留まって、王国魔法騎士団に入隊を許可された。それからが大変だったよ。魔力が低いというだけで苛められたし、白い目で見られた。ここには私の居場所なんて無いと思ったね。むしろ奴隷として戦っているほうが楽だとすら思ったよ。」
「でも将軍はここに居る。」
「ああ、何故か私はここにいる…不思議な物だな?」
トゥールは静かに頷いた。
そして二人は帰途に着いた。

「ただいま。」
「おかえりなさい。」
そう言ってクルドを迎えたのは黒髪の美しい女だった。
「コーデリア。」
クルドはそう言うとコーデリアと呼んだ女を優しく抱きしめた。
女の名はコーデリア、この城下街で三本の指に入る魔術師の娘である。
もちろん彼女もその資質を受け継ぎ、特にその治癒魔法は街で一番と定評がある。
「今日もお父様が来たわ。」
二人は4年前に結婚したが、誰かに祝福されたわけでは無い。
コーデリアの父は魔力のほとんど無いクルドとの結婚に猛反対しクルドを殺すために暗殺を盗賊ギルドに依頼したくらいである。
もちろん、王に見初められるほどの剣術を持つ男が暗殺者に殺されるわけも無く、反対を押し切り、二人は駆け落ち同然で契りを結んだ。
それ以来、度々クルドが留守の時間を選んでコーデリアの父が連れ戻しに来るが、意志の強いコーデリアはその説得に屈することなく今に至っている。
「辛かったら帰ってもいいんだぞ? コーデリア。」
「あなたと一緒に居て辛いことなどありません。
 父の元に戻るくらいなら私は死んでも構いません。」
「死を軽々しく口にしてはならない。いいな? もうお前だけの命では無いのだ。」
クルドは少し大きくなったコーデリアのお腹を見て言った。
コーデリアは愛しそうにそれを撫でうっとりとした表情を浮かべ椅子に腰を下ろす。
「この子が生まれる頃には、戦乱など無くなっていればいいですわね。」
「ああ…そうだな。」
夜は更け、街が眠り、二人も眠りに付いた。

次の日の朝…
街はいつもより静かで、黒い雲が空を覆い尽くしていた。
「雨が降るかもしれませんわね。」
出先に聞いたコーデリアのその言葉が現実の物となった。
王宮まではやく300mの距離にあるがその距離を移動するまでに土砂降りの雨となった。
クルドはローブを持って出ていなかったのですぐにびしょ濡れとなる。
「くそ、参ったな。」
呟きながら彼は早足に城へと急いだ。
門をくぐり、部下達の待つ訓練所の前まで来たときだった。
むせ返るような血の匂いがあたり一面に漂っている。
(血…?! ここは王宮だぞ。)
ゆっくりと、訓練所の扉を開ける…。
すると、目の前に血にまみれた腕が投げ出されている。
「大丈夫か?!」
そう言い掴みあげた腕には肘から先が無かった。
「ぐっ…!」
思わず腕を地面に落とす。
顔を上げて辺りを見渡すと、水溜りに赤ワインのように染まり、その中に変わり果てた自分の部下が山のように積まれて倒れている。
クルドはただそこに呆然と立ち尽くした。
何故?
何故?
何故?
何故?
彼の頭にはその言葉しか浮かんでこない。
部下だったはずの肉の塊を目にし彼の思考は完全に止まろうとしていた。
「しょ…ぐ……ん。」
雨の中、かすかに声が聞こえた。
「しょう…ぐん!」
今度は鮮明に。
(この声は?!)
「トゥールか?!」
言うが早いか、クルドは死体の山を掻き分け、その中から少年の姿を探し当てた。
「トゥール!! 死ぬな! 今、コーデリアの所に連れて行ってやる!」
そうは言ったものの、もう手遅れであることは誰の目から見ても明らかであった。
少年の頭は陥没し、両腕とも肩から下が無い。生きているだけでも不思議であるのだ。
抱き上げようとしたクルドを制してトゥールは口を開く。
「やめて…下さい。」
「…しかし…!」
屈強な戦士の頬に一筋の光が伝った。
「犯人は…ロット…宰相様で…す…。」
「この傷は?!」
クルドがこの質問をしたのには意味がある。
傷は魔法的なものではなく、剣による傷なのだ。
「…かはっ…」
トゥールは大量の血を吐き出した。
「ス…ケル……リァー……。」
そう言うと目を大きく見開き、トゥールもただの肉の塊となった。
「ロット…が…?」
その時、後ろで声がした。
「クルド様?! これは…?」
ロットの私兵である。
「私が来たら、既に…。」
「では、何故、そんなに血まみれなのですか?」
兵は恐怖におののいた表情で後ずさりした。
トゥールを抱き上げたときに彼の服には大量の血液が付着していたのだ。
「ち、違う! 私では無い!」
「ひぃ! 来るな!」
兵はクルドが一歩近づいただけで一目散に逃げていった。
「なんて、ことだ…。」
数分もしないうちに次はロットが現れた。
「クルド…やはり謀反を起こしよったな?」
「ロット! 貴様!! よくも私の部下を!」
「何を言っている。明らかにあの傷は剣による傷だ。あれだけの人数を剣の達人のお前以外誰が殺せる?」
「くっ…!」
「さぁ、こやつを捕まえて処刑台に送るのだ。」
ロットの指示で付き添いの二人の魔術師が同時に詠唱に入る。
その瞬間、彼らの魔法が発動するのより早くクルドは鞘で一人を気絶させ振り向き際に剣の柄でもう一人の後頭部を強打した。
「さすが、将軍。」
ロットは楽しげに手を叩きながら笑みを浮かべる。
「貴様が部下を殺したのであろう?! ロット!」
ロットは周りに人が居ないことを確認するとゆっくりと話し始めた。
「ああ、そうとも。骸骨剣士召還(スケルトンウォーリアー)を10体ほど召還してね。いやぁ気持ちいいぞ、あれはあっという間に30人ほどの人間が肉の塊に変わって行くんだ。芸術的なものすら感じたよ。」
さも、楽しそうに彼は言う。その目は狂気にギラギラと輝いている。
「何がおかしい!! なぜ、そんなことを?! わが国の兵士なんだぞ?」
「なぜ?」
ロットは何故そんなことを聞くんだ、と言わんばかりにわざとらしいため息をつく。
「ふん。人間無勢が…笑わせるよ。取りあえず、君は邪魔なんだよ将軍。君の息のかかった兵もね。
 君は王が戦争を始めようとするとすぐに止める。面白くないじゃないか。私の楽しみは戦争。
 長生きするとね。刺激がないと退屈なんだよ。」
そういうと、みるみるロットの肌は黒くなり、耳がとがる。
「貴様?! ダークエルフだったのか?」
「ああ、魔力の低い君では見抜けるはずも無いなぁ。いや、王すら見抜けてないけどね。」
「そうか…肉体変化(シェイプチェンジ)…」
「魔力は低くても知識はあるんだねぇ…感心感心。」
ロットはクスクス笑いながら宙に浮いた。
「君にはいなくなって貰うよ!」
そう言うとすぐに詠唱に入る。
クルドはそうはさせまいと切り付けるが、ロットは一つの呪文の詠唱中にもう一つの呪文を発動させた。
「防御壁(プロテクション)!」
光の膜にクルドの繰り出した剣は弾かれ、真っ二つに折れた。
「馬鹿な?! 同時に二つの呪文を?!」
「甘く見ないで欲しいなぁ…呪詛(カース)。」
ロットがそう叫ぶと床から闇が出現しクルドを包んでいく。
「呪われてしまえ。」
クルドは黒い闇に蝕まれ全ての魔力と両腕の筋力を完全に奪われた。

その後、クルドは処刑はされず、国内から追放された。
両腕の自由を失ったクルドにとって、それは「死」を意味していた。
むしろ、すぐに死ぬよりも苦しい人生を歩まなければならない。
しかしそんなクルドにも救いはあった。
コーデリアである。
「大丈夫。私がついています。」
この言葉だけがクルドの救いであった。
間もなくクルドは国外追放された者達を集め、小規模な軍隊を組織する。
そして、テドロンの丘を掘り抜いて、地下砦を作成。軍隊の本拠地とした。
そこでコーデリアは男児を出産し、砦には幸せが満ちていった。
男児はすくすくと育ち、ケリーと名づけられた。
ケリーは父の剣の才能と母の魔力を兼ね備えており、まさに万能の「戦士」であった。
この幸せもいつまでも続くと誰もが信じて疑わなかったが、クルドがある魔術を研究し始めたことによって全てが狂いだす。
彼はロットに対抗すべく魔法生物を作成する術を、魔術師達に研究させた。
試作段階としてリビングアーマーや、アンデッド、スケルトンを生成し、王国軍と対岐した時にはそれらを実践投入していった。
最終段階に彼は自分をライカンスロープ化させる事によって長い寿命と力を手に入れる研究を始める。
すぐにその魔術は完成し、彼は妻とともにワー・ウルフとなが、魔力を失った彼はその力の抑制に失敗、理性を失った彼は部下や魔術師達を次々に殺して行った。
コーデリアは他の人々に被害が及ばぬよう入り口を破壊してこの砦を埋めてしまう。


それから数百年。
皮肉にも発展した魔力によって王国は崩壊し、剣の時代が来た。
人々は物を開発することに精を出し、もっと快適に、もっと豊かにと競い合っていた。
そんな中、古代の遺跡を調査し、そこにある財宝を売り払い生計を立てる者達が現れ始め、各地の古代遺跡は掘り返された。
結果、人々は古代の人々の生活を知り、同じ過ちは繰り返すまいと、魔術師達と接するのを忌み嫌うようになる。
まさに時代は逆転したといえよう。

ある考古学者がテドロンの丘で、最近発見された遺跡を調査することになった。
王国から許された期間は7日。
彼はその期間中になんとか遺跡内全ての調査を終えたかった。
彼にとってこれが27回目の遺跡調査となるわけだが、未盗掘の遺跡は初めてだったのだ。
こんなチャンスは一生に一度あるかどうかである。
胸を躍らせ仲間とともに彼は遺跡の調査を始めた。そこに死の気配があるとも知らずに…。

所は変わって、商業都市のメンフィス。
日も暮れかけ、人々が店じまいや帰途についたりしてざわめいている商業区を一人の男がのんびり歩いていく。男は一見、剣士と言った風貌で腰に鋼のロングソードを下げている。
が、剣以外はみすぼらしく、あまりまともな生活が出来ていないのだろうと容易に想像が付いた。
男の名はうぃる。田舎町のリヴァプールから借金取りに追われて出てきた青年である。
「ふぁ〜あ…何かいい仕事ねぇかな…。」
彼のモットーは「楽して大金」。それがたたって、賭け事にはまり、借金を5000ガメルも作ってしまったのだ。
不意に肩を掴まれる。
「ちょいとあんた!」
振り向くと、いかにもと言った感じの男がこちらを睨んでいる。
「なんだよ? 俺は今忙しいの。」
そう言ってうぃるが立ち去ろうとすると、
「お前、うぃるだな?」
「あ? 違うって〜の。じゃあなオッサン。」
「ふざけてんじゃねえぞ! 借金さっさと返さんかいわれ!」
「あ〜、あんたレスロックんとこの使いか。まだお金用意できてないんで、ちょっと待ってね☆ て、伝えといてくれ。」
うぃるは軽く投げキスをその男にして、また立ち去ろうとする。
「どうやら、痛い目を見ないとわからないようだな?」
言うと、男は直ぐに殴りかかってきた。
しかし、男の動きは直ぐに止まる。男の首元に鋼のロングソードが向けられているからだ。
「ちっ! 覚えてろよ!」
男はそう言うと、雑踏に消えて行った。
「ふん。」
かっこは付けて見たものの、やっぱやばかったかな〜とかうぃるは思って、頭を抱えた。
そんな事をしていると目の前を松葉杖の男が酒場ギルドへと入っていく。
「お仕事の匂いがしますね…っと。」

ギルドでは二人の異質な人物が酒場を騒がせていた。
一人は酒場中の女を口説いて回っているし、もう一人はエルフでかなりの長身。魔術師といった感じだ。
「ねぇねぇ! 今夜、泊まってる宿に来ない? きっと楽しいよ!」
「え〜どうしよかなぁ〜♪」
と女の方もまんざらでもない。
「アレフ、止めておけ。女を連れ込まれると私が眠れなくなる。」
エルフが言う。
「いいじゃないか〜。じゃあ、ザクロは違う宿取れよ〜。」
「…あのなあ。」
ザクロと呼ばれたエルフは頭を掻きながら困った様子だ。
ザクロはいつもこのアレフの女好きに困らされている。どこの街に行っても、片っ端から女をナンパし部屋に連れ込む。デートをする。
金は泡水のように使うわ夜は睡眠妨害されるわで、何故アレフと組んでいるのかを疑問に思うことすらあるのだ。
しかし、アレフの剣の腕はなかなかの物があり、ザクロはそれを見込んで一緒に旅をしている。
二人がおふざけの言い合いをしていると、酒場には似つかわしくない人物が入ってきた。
男は白いローブを身にまとい、眼鏡をかけ、いかにも学者といった風貌なのである。加えて、松葉杖をついてると来た。
ザクロはその男が気になりアレフを放っておいて、マスターとその男の会話に耳を傾けた。
どうやら、遺跡調査の依頼で、報酬は結構出るらしい。
「もう少し詳しいお話を聞かせていただいていいですか?」
ザクロは依頼を受けることを伝え、男から事情を聞いた。
男は王立大学所属の考古学者で新しく見付かった遺跡の調査をしている。
それが一日前、遺跡内で何かに襲われて、仲間が全員殺され、自分も足に重症を負って、命かながら逃げてきたらしい。
「そうですか。報酬はいくらですか?」
「貴重な遺物一つにつき500ガメル出そう。」
「普通、遺跡にあるのが…だから……ガメルか。」
ザクロは長い指を折り金の計算を始める。
「あの? どうかしましたか?」
「OK! お受けしましょう!」
「それはありがたい。募集人数は3人ですのであと2人連れてきてください。」
「それなら1人は奥の席でナンパしてる男だ。もう、1人は……。」
「俺が引き受けよう。」
2人が振り向くとそこにはみすぼらしい男が立っていた。
「うわ、ばっちぃ!」
ザクロが思わず口走る。
「ばっちぃ言うな! で、学者さん。俺の名はうぃる。一応、剣士だ。」
学者はうぃるをしげしげと見つめる。
「剣士ねぇ…。それにしても汚いなぁ。」
「あんたまで…。」
そんなこんなで、アレフ、ザクロ、うぃるはパーティーを組むことになった。

暗い洞穴の中、コーデリアは既に300歳を超えていた。
昨日、学者風の人間が4人ここにやってきて、クルドが殺した。
それがコーデリアにはショックであった。
夫はもう人間ではない…この銀のカットラスを突き立てれば彼は死ぬだろう…
でも…
彼女の中で彼への愛と、彼を未だに生かしていることへの罪悪感が重く圧し掛かる。
次の日、またこの砦に人間がやってきた。
彼女は威嚇して追い返そうと考えた。
(お願い…帰って。)
心の中でそう叫ぶと、彼女は狼へと姿を変え、その人間に襲い掛かかる。
もちろん彼女の牙の一撃、爪の一撃には手加減がされていて冒険者を殺すことは無い。
が、冒険者は彼女の思っていたより強大な力の持ち主であった。
「ザクロ! 治癒(キュア・ウーンズ)だ。」
「あいよ。」
「お姉さんお茶しな〜い?」
彼女はすぐに瀕死の重傷に追いやられた。
元の姿に戻り、彼らにカットラスを託すとその場に倒れる。
冒険者達はそれを尻目に奥へと進んでいく…。
「あなた…。」
コーデリアの力無い声は誰にも届くことは無い。
数時間して、彼女は夫の命が失われたことが分った。
あの禍々しい、ワー・ウルフの気配がしなくなったのだ。
彼女は傷ついた身体を引きずり夫の待つ地下室へと足を進める…。
彼の私室には銀色の灰がつもっていた。
「あなた、やっと会えたわね。」
コーデリアには見えていた…霊体になったクルドの姿が。
彼女は触ることのできないクルドを抱きしめ涙を流した。
「私もそちらに参りますので…」
そう言うと、コーデリアは銀のナイフを首に突き立てる。
すると一瞬で彼女は灰となりその場に崩れ去った。
「コーデリア…すまなかった。」
クルドはもう存在しない身体でコーデリアを強く抱きしめた。
「あの時と、同じぬくもり…あなたを感じる幸せ。私は今一番幸せです……。」
昔…小さな家で抱き合ったあの日…
幸せだったあの時……
戻れない日々…

そして2人の霊体は光となって静かに消えていった…

こうして一つの夫婦の物語が終わった。

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