例えばこんな友情 「よう祐介、ちょっといいか?」 俺は名前を呼ばれて顔を上げた。 目の前には、長髪に黄色いシャツ、おまけで ジャージ姿といういでたちの男が立っていた。 「よかねーよ、今メシ食ってんだぜ、話なら後にしろよ、一番星」 しかしその男…一番星は俺の言葉など無視して目の前に座る。 「まあ、そう言うなよ、いい話があるんだからよ」 一番星は俺の顔をのぞき込みながらそう切り出した。 (どうせロクでもない事に決まってる) 「オイオイ、『どうせロクでもない事に決まってる』とか言いたそうだな?」 「分かるのか?」 俺は味噌汁を飲みながら、一番星の洞察力に少なからず感嘆した。 「まあ、その顔を見ればな」 「じゃあ、俺が何を言いたいのかも分かるよな…ハッキリと言うぞ。ことわ…」 「まあまあ、祐介どん。ここは一つ、一番星の話を聞いてからでも遅くはないと 思うでごわすよ」 横でメシを食っていたルームメイト、天神が俺の言葉を遮ってくる。 全く、いつ聞いても怪しい鹿児島弁だ。 「聞くまでもねーよ。一番星の『いい話があるんだけどよ』に騙され、 何回俺達が酷い目に遭ったと思ってるんだ!?」 俺の脳裏に、エロ本の密輸入がバレて校庭を100周させられた事 (ちなみにエロ本は轟に全部没収された)をはじめ、様々な悪夢が甦る。 感情が高ぶり、味噌汁のお椀を持つ手が震えるのが自分でも分かる。 「はて?」 天神は真剣に考え込んでいるようだ。 「はっはっは、ムリねーよ天神。いつも酷い目に遭うのは『俺達』じゃなく『俺』、 つまり祐介のみだからな」 一番星はにやけた目を歪ませ、楽しそうに答える。 「分かっているならテメエ等だけでその『いい話』をしろ! 俺を誘うな!!」 ついに俺はキレてお椀を破壊した。 「じゃあな、俺は部屋に戻る」 俺はおもむろに立ち上がり、食堂を立ち去ろうとしたが… 「ちょいと、高崎君」 食堂のおばちゃんの声に呼び止められ、立ち止まった。 「何ですか?」 「あんたが今壊したお椀代金200円、後できっちり払ってね」 「………分かりました」 (全く、アイツ等がからむといつも貧乏クジを引くのは俺一人なんだよな) そんな事を考えながら、俺は今度こそ食堂を後にした。 「オイ、本当に寝てんだろうな?」 「大丈夫っしょ。コイツは一度寝たら、そばで花火鳴らされても起きないっしょ」 「祐介どん、スマンでごわす」 …何やら声が聞こえる。 けど、そんな事は関係無い。俺は…ねむ…い…ん…だ… 何やらゴツゴツした感触が、一定のリズムを保って体全体を叩く。 …何か俺の体にぶつけられているのか? …違う。俺の体が何かにぶつかっているんだ。 おかしい。俺は部屋で寝てたはずだ。 やがて、痛みに耐えかねてうっすらと目を開ける。 まず俺の目に映ったのは、一本のロープだった。 (ロープ?) 見ると、そのロープは俺の足をきつく縛っている。 もう一辺は、見慣れた黒いランニング姿の男の肩へと伸びている。 暗くてよく分からないが、あの体格とランニングはバッチグーに 間違いないだろう。 「天神、一番星。祐介引きずるのをジャンケンで決めるの止めるっしょ?」 「何言ってんだ。 ジャンケンがもっとも公平かつ公正な手段だろ?」 「おいどんはバッチグーに賛成でごわす。さっきから一番星は一度も負けてない からそんな事が言えるでごわすよ」 …コイツ等のセリフから考えるに、ジャンケンで負けた奴が俺を引きずっているらしい。 …だけど、何の為にだ? 本来なら何か言うべきなんだろうが、寝起きで頭が惚けているせいか、 そんな間抜けな事を考えてしまう。 「分かった分かった。じゃあ、順番に引きずろうぜ…あいうえお順で」 「ま、それならいいっしょ。じゃあ一番星、俺と交代するっしょ」 「へ、何で? あいうえお順だったら、お前が一番最初だろ?」 「順番でいったら、一番星の『い』、天神の『て』、バッチグーの『ば』の順になるん じゃないでごわすか?」 「バッチグーの本名は伊集院だろ。あいうえお順でいって、 やっぱ伊集院が一番最初じゃねーか」 「ムキーッ、ハメられたっしょ!?」 「あいうえお順でいいって言ったんだ。今更イヤだとは言わないよな…伊集院君」 …どうやらコイツ等は、次に誰が俺を引きずるかでモメているらしい。 全く馬鹿らしい。このまま寝たふりをしてようとも考えたが、これ以上 引きずられるのはゴメンだったので、仕方なしに起きあがる。 「お前等、一体どういうつもりだよ?」 本当にそうだ。人が寝ている間に拉致し、あげくの果てにロープで引きずるのだから。 「よう、お目覚めかい、ねぼすけ君」 一番星が、振り返りざまに懐中電灯で俺を照らす。 「で、何のつもりだ?」 「お前が今回の『いい話』を断ったから、無理矢理ご足労願ったっしょ」 「大体、人を拉致監禁してまで」 「祐介どん、それは違うでごわす。おいどん達は祐介どんを拉致したばってん、 監禁はしてないでごわすよ」 天神が指摘してくる。 コイツに指摘されると、どうもバカにされている気がしてならない。 「そうだよな、引きずってただけだし」 同意する一番星。 「で、今回の目的は何だ?」 「やっと一緒に行く気になったっしょ?」 「こうなった以上仕方ないだろ」 俺はため息と共につぶやいた。 「実は、バッチグーが宝の地図を見つけたんでごわすよ」 「宝の地図?」 「そうっしょ。学校の資料室の片隅に眠っていたこの地図を偶然発見したっしょ」 そう言って、バッチグーは一枚の古びた地図を取り出す。 「地図の古さからいって、相当の年代モンに違いないぜ」 「もしかしたら、徳川埋蔵金かもしれないでごわすな」 (おいおい) 「あのなあ、そんな年代物の宝の地図があるわけないだろ? 俺達の学校、創立何年だと思ってるんだよ?」 …俺の記憶が確かなら、鐘の音学園は60年前に創立されたハズだ。 とすれば、この地図は古くて昭和初期、眠っている宝も貴重な物とは思えない。 いや、それ以前に、この地図自体が昔の生徒のイタズラだという事も 十分に考えられる。 「どうせ眉唾モンだって。」 「よし、じゃあ祐介が目を覚ましたところで再出発だ」 「よし、行くっしょ」 一番星とバッチグーはそう言うやいなや元気良く歩き出す。 俺の話を全然聞きやしない。 「だから、お前等、人の話を聞けって…」 「祐介どん、いいじゃないでごわすか。大切なのは、宝うんぬんより、 こうして皆で一緒に行動し、何かを成し遂げる事だと思うでごわすよ」 「…天神…」 「ん、どうしたでごわすか?」 「いや、何でもないよ」 (そう、かもしれないな) 周りは緑だらけ、娯楽もなければ女もいない。 ならせめて、男同士の友情とやらを育むのも悪いことじゃないかもしれない。 「じゃあ、おいどん達も行くでごわすよ」 天神はそう言うと、はるか前を歩く一番星達の所へと駈けだした。 「お、おい、天神!」 ある事に気づいた俺はあわてて天神を呼び止める。 しかし、天神は聞こえてないのか、はたまた無視してるのか、 そのままはるか遠くへと消えてしまう。 「…せめて、足のロープをほどいてからにしてくれ…」 俺の呟きは誰も聞く人間がいなかった… 結局、三人が身動きとれない俺の事に気づき、 引き返してきたのは20分後の事だった。 (やっぱりコイツ等の友情なんか信じられない…) 地図によると、宝とやらが隠されていた場所は、 寮から1時間ほど歩いた洞窟の中だった。 中は俺達が4人並んで平気で歩けるほどに広い。 この不自然なほどの広さは、自然にできた洞窟とは到底思えない。 昔は防空壕にでも使用していたのだろうか? …もっとも、こんな何も無い山の中に防空壕が必要だったとも思えない。 「どうしたっしょ? 先代が遺した黄金の遺産を目前にして、 感動のあまり言葉がないっしょか?」 「黄金ねえ…ホントだったら凄いよな」 「お、君もやっと我々の使命の崇高さが理解できたっしょ?」 何気ない俺の一言に、バッチグーは喜んで反応する。 そんな会話をしながら、洞窟内部まで詳細にしるした地図を見ながら、 右へ左へと曲がりながら進んでいく。 やがて、先頭を歩いていた一番星が大声を上げた。 「オイ、見つけたぞ!」 「おおっ、本当でごわすか?」 「どこっしょ、どこっしょ?」 天神、バッチグーが一番星のもとへと駆け出す。 「おい。懐中電灯で照らしているといえ、暗い洞窟を走り出すのは危ないぞ」 そう言いながらも、早歩きで一番星の所へ行こうとした自分に気づき、 苦笑した。 「何が入ってるんでごわすかな?」 「楽しみっしょ」 「にしても、思ったより小さいな」 皆、宝の入った箱を目の前にして様々な感想を述べる。 その箱は、一言で言えば小さなつづらだった。 大きさは、30センチ四方くらいか。 「こんな小さな箱じゃ、中に眠っているのが宝だとは思えないんだけどな」 「祐介、物の価値は大小で決まるんじゃないぜ」 「そうっしょ。この箱の中が全部黄金だったら、俺達は一夜にして大金持ちっしょ」 「お宝お宝」 不安を微塵も感じてないのか、三人とも妙に盛り上がっている。 「よし、開けてみようぜ」 「ずいぶん軽いっしょ」 一番星の言葉にバッチグーが応えて、箱を手に取る。 「ぐふふ…お宝お宝」 天神はトリップしてしまってる。 そして、箱の中には、一冊の本が入っていた。「…………………」 「…………………」 「…………………」 「…………………」 箱の中に入っていたのは、これだけだった。 「なあ、これって昔のエロ本じゃないのか?」 いち早く正気に戻った俺が呟く。 「こんな事だろうと思ったよ」 「それはないっしょ! 君さっきは 『黄金ねえ…ホントだったら凄いよな』とか言ってたでしょ!?」 「さっきはさっき、今は今だ」 俺は嘆息混じりに言った。 「黙るっしょ! もしかしたら、すごい貴重なエロ本かもしれないっ…しょ」 「そ、そうだよな、苦労して見つけた宝だ。超プレミアもんかもしれない…しよ」 バッチグーと一番星も、不安げに語尾を濁す。 「…お宝…」 そして、俺達はヤングVを開いてみた。
「……………」 「……………」 「……………」 「……………」 「フザけるなっしょ!」 バッチグーが雄叫びと共にヤングVを力一杯引き裂く。 それを見てた俺達は誰も止めようとはしなかった。 …いや、正しくは止める気力すら無くしたのだが… 「これは何でごわすか!」 静寂の後、真っ先にキレたのは天神だった。 「こんな物の為においどんは貴重な睡眠時間を削って、寮を抜け出してまで…」 「大体よお、バッチグーが悪いんだぜ。こんな地図なんか見つけてくるから!」 「何言ってるっしょ!? 地図を見て、『貴重なお宝が眠っているに違いない』 とか言ったのは、一番星の方っしょ!?」 キレた三人は、口々に叫び、お互いを罵りあう。 俺はというと、その様を冷めた目で見守っていた。 「★@#¢%@§」 「○◆■▽△◎◇」 「▼→〒〓∋∞¥」 三人の罵りを見聞きしながら、 (コイツ等と青春の思い出を作ろうとした俺がバカだったんだよな) などと考えてしまう。 「そうだ、祐介が悪いんだ!」 「そうっしょ!」 「祐介どんがおいどん達を止めてくれれば、こんな事にならなかったでごわす」 人が黙ってるのをいいことに、コイツ等の怒りは理不尽な物となって 俺に飛び火してきた。 ピシッ 何かがひび割れる音がした。 俺の血管が切れる音だろうか? 「黙ってないで何とか言うしょ!」 ピシ、ピシッ その音と共に、俺の怒りがヒートアップするのを感じる。 「そうでごわす!!」 ミシミシ、メキメキ 「いい加減にしろー!!!」 ついに俺は叫んだ。 ガラガラ、ボコッ、ボコボコ 俺の叫び声で、謎の音は一層激しさを増した。 「ん、何だ? この音は?」 いち早く異変に気づいた一番星が周囲を見回す。 「もしかして…」 つられて周囲を見回す天神。 「俺達が大声で叫んだから、洞窟の脆くなった壁が崩れてきてるのか?」 さっきまでの怒りはすっかり冷め、逆に冷や汗をかきながら俺は唸るように言った。 ガラガラガラガラ その言葉を肯定するように、洞窟の壁・そして天井も崩れ始める。 「ヤバいっしょ、早く逃げるっしょ!!」 バッチグーの台詞を皮切りに、俺達は我先にと洞窟の出口へ駆けだした。 「ふぃー、危なかったな」 完全に崩れ、入り口すら埋まってしまった洞窟を見ながら一番星が言った。 「大体、祐介どんがあんな所で大声を出すから悪いんでごわすよ」 「そうっしょ、そうっしょ、反省するっしょ」 「何言ってるんだ!? 最初に大声を出したのはお前等だ……つっ…」 俺は立ち上がって叫ぼうとしたが、不意に右足首に走った痛みに顔をしかめ、 もんどりうった。 「おい、どうした祐介?」 「…逃げる途中で、落石が足にぶつかったみたいだ」 逃げている最中は気にもとめなかったが、いざ安全な所で落ち着いたら ズキズキと痛みが強くなってくる。 「祐介どん、大丈夫でごわすか」 俺の顔色がそんなに悪いのだろうか? さっきまで怒ってた天神が顔を覗き込む。 「ああ。そんな事より疲れたよ、早く帰って寝ようぜ」 「それがいいな…天神」 「分かってるでごわす」 一番星の言葉に応え、天神が俺を持ち上げたかと思うと、そのまま背負う。 「お…おい!?」 「怪我人は黙っておぶさっておくっしょ」 「バッチグー…」 「そういう事。元々、俺達がお前を無理矢理連れ出したんだからな」 「それに、骨に異常があるかもしれないでごわすからな」 「明日の朝イチで保険医にで見てもらうっしょ」 「みんな…すまない」 何に対してすまないと言ったんだろう? 考えるまでもない。コイツ等との友情を疑った事に対してだ。 先頭を歩くバッチグーは、後に続く天神(と俺)、一番星が歩きやすいように、 草木をかきわけながら歩いている。 俺の後にいる一番星も、常に周囲に気を配っている。 「ふう、そろそろ半分ってトコっしょ…祐介、具合はどうっしょ?」 「ああ。大丈夫だよ」 「天神、お前はどうだ? 祐介を背負うのに疲れたら代わるぞ」 と、一番星。 「大丈夫でごわす。まだまだいけるでごわすよ」 天神は気丈に振る舞っているが、背中越しにも、かなり疲れているのが分かる。 それでも天神は弱音一つ吐かず、俺を背負ってもくもくと歩いてる。 (何だよ、みんな暖かいじゃないか) 胸の奥から熱いものがこみあげ、涙の滴が天神の肩の上に落ちた。 「おや、雨でごわすかな?」 肩に落ちた涙を雨と勘違いした天神は空を見ながらつぶやく。 「本当か、天神…よし、祐介、これを羽織れ」 一番星はそう言うと、ジャージの上着を脱いで俺の背中に乗せた。 「いいのか?」 俺は、自分が泣いている事を悟られないよう、注意を払って 言葉を口にした。 「気にするなっしょ。俺達は仲間っしょ」 「そうそう…って、お前が言うなよ」 一番星は笑いながらバッチグーにツッコむ。 見れば、バッチグーも草木を掻き分け、腕や顔に軽い擦り傷を負っていた。 俺はもはや何も言えなくなって、ひたすら俯いていた。 (ありがとう…俺、お前等と友達でよかったよ) 「ふう、やっと寮まで着いたでごわすな」 「そろそろ日付が変わる頃っしょ」 頭上を見上げると、月が真上から俺達を照らしていた。 「じゃあ後は、先生達にバレないように部屋に戻って寝るか。 夜中に抜け出した事がバレたら校庭100周くらいじゃすまないからな」 「宝はあんな物だったけど、俺、お前等と一緒に行動して良かったと思ってるよ」 そう、一番星、バッチグー、天神。彼らとの友情・絆を確かめる事ができた。 「無茶苦茶だったけど、楽しかったでごわすからな」 「ああ、じゃあ部屋へ…」 一番星の言葉を遮って、夜の寮にダミ声がこだまする。 「こらーっ、お前等、今何時だと思ってる!?」 「げ、轟だ」 (この呟きは、俺達の誰がもらしたのだろう?) そんな事を考える間もなく、轟はまくし立てながらこちらへと近づいてくる。 「就寝時間以降の無断外出…」 「ヤバい、逃げるっしょ」 バッチグー、一番星、天神が三方向に散る。 天神が急ダッシュした拍子に、俺は天神の背中から振り落とされた。 「しまった、祐介どん」 「構うな天神。轟に捕まったら俺達もヤバい」 「そうっしょ。奴の犠牲を無駄にしてはならないっしょ」 「そ、そうでごわすな。祐介どん。ご武運を」 三人は勝手に自己完結して、闇の中へと消えていく。 「え、ちょっと…お前等」 俺も逃げようとしたが、足の痛みが響いて立ち上がるのがやっとだった。 (アイツ等、土壇場で裏切りやがった…) そして、俺の姿を確認した轟がヤカンを振り回しながら叫んだ。 「高崎…またお前か!」 「あ、あの…先生、これは…」 「問答無用!!」 俺が轟の説教から解放されたのは、それから三時間後だった。 夜間の無断外出の罰は、無論それだけで済まない。 明日…今日の朝からか…から一週間正座して授業を受けなくてはならない。 机はみかん箱というオマケ付きだ。 ようやく部屋へ帰った俺は、隣で高いびきをかいている天神を思いっきり 蹴飛ばそうとして止めた。足が痛くて蹴れないからだ。 結局俺は、枕を涙で濡らしながら、ひたすら「呪」という字を延々と 空中に書き続けた。 終
画像はちゆ12歳から頂きました。 トップページへ SSインデックスへ