真琴に会う気力が萎え、束の間の奇跡が本当に尽きてしまう前に会いに行くんだっ……!
行こうっ…! あの場所へっ…!」
「相沢さん……私は駄目です…」
「何言ってんだっ……!」
ぽろ……ぽろ…と天野の目から涙が落ちる。
「駄目…なんです……!
昔消えていったあの子の残像が消えないんです…………
心の震えが止まらないんです………
だから……会いに行けません……
私は………もう………」
「天野っ………!
しっかりしろっ…! またお別れも言わないで終わりにしたいのか……!」
「ありがとうございます………そしてすみませんでした…。
こんな私に今まで……いろいろと………う……くっ……………」
また天野の目から大粒の涙。
「天野………大丈夫だ、落ち着けっ……!
昔を思い出しすぎるなっ…! 昔に縛られすぎるなっ………!」
祐一に励まされてか天野の震えはだんだんと治まる。
そして……平静を取り戻した…かに見えた。
「相沢さん……これを……」
「どういうつもりだ……?
そのチケットは…………?」
「相沢さん…………
相沢さんに……頼みます…」
「え……………?」
「虫のいい話ですが………私の代わりに……
このローソンチケットを肉まんに代えて………
渡してあげてください……
真琴との思い出は少なかったですから……
真琴……私の友達……
ものみの丘から……相沢さんを追いかけて……
私のせいでもあります………」
「おいっ…!
何言ってんだっ………! 知らねえよっ………そんなことっ…!
それなら天野がどーにかすりゃいいだろっ…!
会うんだよっ…!
そんな風に思ってるならなおさら……会って肉まんでも何でも渡してやれっ……!
天野がっ……!
天野がっ………!
天野がっ………………!」
「駄目です……。
私は駄目なんですっ………!」
「いいのかっ………! もう会えないかもしれないんだぞっ………!」
「相沢さん………。
わかったんです…………私にはもうわかったんです………」
天野はうつむいたまま続ける。
「人には……二種類のタイプの人がいる………と…。
土壇場で臆して大事な事を伝えられなくなってしまう人とそこで伝えられる人と……
私はその駄目な方………駄目なんです……
………どうしてもあの子の思い出が拭えない……会いに行こうとしても……
また別れの悲しみに苦しむのがちらついて………震えが止まらない…………
本当に………!
今こうして相沢さんと話しているだけでもギリギリ……精一杯なんです……
でも…………」
そこで言葉を切る。
地面には涙の雫が落ちる。
「相沢さんは違う………!
相沢さんは……悲しみも越えられる人…!
謎ジャムの時も………真琴の悪戯の時もそう………
相沢さんは悲しみに直面した時めげずに立ち向かえる人………
芯の強い人なんです……
相沢さんなら別れも言えます……安心して頼めます……
これを受け取ってください、そして学校をでたら商店街にあるローソンというコンビニで……
タイヤキ屋から逃れるために…ひっそり売っている肉まんを……真琴に……
これで交換できる肉まん………肉まんを渡してください………
お願いします……
そうしたら……
もう真琴とのお別れ………悲しむ事は少なくなります……」
「天野…………
だ……だからそういうことは………」
「……相沢さん……早くっ…! 早くっ……!
受け取ったら早く行ってくださいっ………!
私なんかにかまわず……行ってくださいっ……!
決して私なんかを見ずに……振り返らずにっ………
私を見たら……
相沢さんは私を気にして何かをする……
そんな…そんなことはしないでください……
相沢さんは、ただ前を見て……相沢さんの道を行けばいいんです………
………伝えて……
…伝えてくださいっ………!
人は大事な人に想いを伝えなければ悲しいです………!
私はそれができませんでした……。
できなくて…本当に悲しい……悲しい毎日でした…。
そんな………そんな悲しい毎日を相沢さんは送っちゃいけないんです……。
相沢さんは……
伝えられる人なんだからっ…………!
伝えて……伝えてくださいっ…相沢さん…………。」
く……
出会って本当に無意味な………
違うっ………!
無意味なんかじゃないっ…!
天野は泣けたじゃないか………!
どんなに人脈が多くて………つるんでいたって………
利用できるまで人を利用しようとしか考えられないくだらない奴ら………
別れの際まで………
なんとか利用しようと考え、本当に大切な人がいない奴らより………
会えなくなるというのに自分以外の人間のために涙した天野………
どんなに…………
素晴らしいかっ…………!
そう……!
伝えたんだ…………!
伝えた………!
天野は立派に伝えた………!
決して本人にではないけど伝えたんだっ………!
『相沢は伝えたかった
おそらく誰よりも真琴と別れるのが悲しいはずの天野に伝えたかった…………
想いは伝わる…………と………!
想いを伝えられないなんてとんでもない……………
天野の日々は悲しみだけじゃない
いや……
むしろ………
天野は寂しかっただけだ……!
一人だと思っていたけど………
一人ではなかったんだ………と……………!』
真琴へ別れを告げている時の相沢の心中だった。
心の叫びであった。
そしてやはり天野を連れてこようとし走り出そうとした。
だが、何かが引っかかり後を振り向いた。
「真琴っ…………!」
「あ……………………!!」
「あああああっ……………!」
「あああああああっ!!!」
『真琴は消えていた………………!
相沢が振り返った時、真琴の姿は既になく…………
結局天野を呼べなかった
真琴に伝える天野自身からの声を伝えられなかった………!』
(消えたっ……! 消えたっ……! 消えたっ………!
消えちまった………!
それも………
無言で……………………!!
無言で消えたっ………!
あの寂しがり屋で強がり屋の真琴が最後の最後………
オレのため………オレに動揺を与えないために………
言葉を一欠片も発さず………
ただ………黙って……
黙って消えたっ…………!
歯を食いしばって耐えたんだろう………
ともすれば口から漏れない呼びかけを………
強引にねじ伏せたっ………!
噛み殺したっ………!)
そして……季節は巡り……いつの日か……。