「・・・ふう」
自然とため息が、出た。
・・・それはそうだよね。
だってこんなに怒濤の一日、生まれてはじめてだったんだもん。
いきなり宇宙船の船長に、だなんて言われて会社も仕事もみんなお休みして
船に乗り込んだはじめての日。
長かったような、短かったような・・・不思議な一日だったなー。
それにしてもクルーのみなさん、全員かっこいいなんていったいどういうこと?
嬉しいけどねえ(笑)。
ベッドに座ると、ぽすんって音がした。
パジャマに着替えてのんびりしようと思ったら、なんだか妙に眠れない。
やっぱり緊張、してるみたい。
うーん。
何かあるだろうとは思うんだけど、やっぱり今日だけじゃわかんない。
ふと。
耳をすますと、コンコンというノックの音が聞こえてきた。
やだ、ぼっとしてたから気がつかなかった!
「はい」
「夜分遅くに申し訳ありません、ジュリアスです」
「あ、ジュリアスさん!今、開けますね」
えっと・・・まあ、カーディガンはおればいいかな?
「こんばんは、ジュリアスさん。どうなさったんですか?」
「・・・そ、その。お休み前に失礼かとは思うのですが、
私と一緒に来てはいただけないでしょうか」
?
あ、ジュリアスさん。
パジャマ姿に照れてるんだ、可愛い。
なんていったら怒られそうだけど・・・(笑)
「はい、もちろんいいですよ。何だか眠れなかったし、それに」
「それに?」
「副船長さんと、ゆっくりお話したいって思ってましたから、ちょうどよかったです」
「・・・はい、私でよければ、何なりと」
コホンと、咳払いをした頬が少しだけ赤かったりして。
それでも次の瞬間には、厳格そうな顔つきに戻ると、
長いローブのような服装の衣擦れの音とともに、私たちは歩き出した。
そして、数分間歩いたあと。
「・・・・ここは・・・?」
「船長は初めていらっしゃることと思われます。
昼間は案内することがかないませんでしたこと、お詫び申し上げます」
「いえいえ、そんなことないですよ。ゆっくり時間をかけて見ようと思ってましたし。
でも、なんだか」
ジュリアスさんについてきた場所は、コンピューター関係の部屋があるって
昼間聞いたところよりも、更に奥の奥のほうの、重たそうな銅の扉の目の前、だった。
その扉を見ただけで・・・・なんだか胸が、どきどき、してきた自分がわかる。
「なんだか、最新鋭の宇宙船らしくない、そう・・・古い感じがする場所ですね」
ここだけ、空気が違う気がする。
「・・・さすが・・・」
「え?」
「いえ、何でもありませぬ。・・・さあ、どうぞ」
ジュリアスさんの声と同時に、内側から扉が開いた。
「ま、眩しい・・・?」
光が溢れてきて、一瞬、目がくらんだみたいになった。
次の瞬間、目を開けると。
「・・・わあ・・・!」
そこには。
まっさおな、空。
緑色にひろがる芝生。
少しだけ頬を撫でる風。
懐しいような、不思議な不思議な景色が、そこにあった。
「・・・ここ、宇宙船だよね?」
「ああ、そうだ」
「きゃ、きゃっ?」
扉の傍に立ってた人が、いきなり口を開いた。
そ、そうだよね。勝手に開くわけないもんね。
「会うのは初めてになる。お前が船長か?」
「は、はい」
低い声の持ち主は、
泰明さんとおんなじくらいの無表情、しかもかなりの三白眼の男の子。
「俺は整備担当のダイチ・フワだ。通常任務はこの船の整備だが、
この場所の担当でもある。以後、よろしく」
「こ、この場所って?」
「・・・見ての通りの場所ってことだよ、チャン?」
「ひゃ、ひゃあっ!」
「やめぬか、チヒロ!」
「・・・・全く、冗談が通じないんだから、揃いも揃ってさぁ」
いきなり後ろから私を抱きしめてたチヒロさんの手がとまる。
恐る恐る振り返ると、そこには、左からダイチくん、
右からいつの間にいたのか泰明さんが揃ってスパナと数珠を構えてた。
「私はこのような冗談は好まぬ」
「泰明さん、いつの間に?」
「、無事か?」
「はい」
「・・・すまない、繋げるのに少々手間取って遅れてしまった」
じろり、とチヒロさんを睨む。
あはは、泰明さんに睨まれたらしゃれにならないよ、きっと・・・(笑)
「どうかお気になさらず。この者たちはいつも揃って皆このような調子でおりますゆえ」
「そう、なんですか・・・」
いや、やっぱり船長としてはみんなのチームワークにも気を配らないと、ねえ。
「それでは全員揃ったところで、ご説明いたします。・・・ダイチ」
「ああ」
ダイチくんが、どこからか取りだした小さなカード状のものの、スイッチを押す。
何が起こるんだろう。
胸の動機が、ここに入ってきてからずっと止まらない。
・・・一瞬、目の前の空が、揺れた。
「泰明」
「わかっている」
数珠を持った泰明さんが目を見開くと、空気が固まったような、そこだけ切り取られたような感覚がして。
「チヒロ」
「はーい♪」
口調はいつもの軽口だけど、目を閉じた途端にチヒロさんの表情が、消えた。
入ってきた時よりも、ずっとずっと眩しい光が私を包んで。
そうしてもう1度目を開けたとき・・・目の前には、見たこともないような
綺麗な綺麗な生き物が、私を見つめていた。
そう。
まるで、おとぎ話で見た、ユニコーンみたいな、翼の生えた生き物が。
「・・・こ、れは・・・?」
心臓が跳ね上がるみたいに鳴ってる。
目が、まわりそう。
なのに。
どうしてだろう。
浮かんできた名前が、ある。
「・・・アルカディア?」
どうしてなの?
宇宙船につけたはずの名前が、浮かんでくるなんて。
私の声を聞いて満足げに鼻をならした目の前の生き物は、まるで微笑んでるみたいに、見えた。
長いような短いような沈黙の後、4人の感嘆ともため息ともつかないような音が、後ろから聞こえてきた。
「さすが、チャン♪」
「やはり船長だけのことはあるな」
「・・・よくやった」
「船長」
最後に口を開いたジュリアスさんが、真剣な面持ちで私を見つめてる。
「最も重要なご説明がこのように遅れてしまい、お詫びの言葉もございませぬ。
ですが、どうか・・・お聞き下さいますよう」
「は、はいっ」
いつの間にか4人は、私のまわりを囲むようにして立ってて。
「・・・この船は、ただの宇宙船ではありません」
「え?」
「もちろん、宇宙船にある機械は最新鋭の宇宙船と同じものだ」
スパナを持ちながら、ダイチくんが呟いた。
「ただ・・・今までとは大きく違うのだ」
「何が、ですか?」
泰明さんがちらり、と隣のチヒロさんに視線を送る。
にっこり笑ってそれを受け取ったチヒロさんが、さも楽しそうに続けた。
「この宇宙船は、機械だけできているわけでもない。
機械だけで動くわけでも、ないんだ」
「ええっ?それじゃ、他に何が・・・」
ふと、目の前にずっと座っている生き物と目があう。
「・・・もしかして」
「そうなのです。
他の船になく、この船に必要不可欠なもの。
それがこの船に搭載されている、精神生命体・・・船長が名付けられた、アルカディアです。
アルカディアと心を通わせることが出来なければ、この船は動かすことができません」
ジュリアスさんの荘厳な声が、部屋に響いた。
名前をよばれたと思ったのか、空間を揺らしながら近づいてきたアルカディアは、
私の頬に触れるような仕草で目を細めた。
私は、と言えば。
展開に頭がついていかず、アルカディアを見つめ返すだけ。
・・・何かある、とは思ってたけど・・・
まさか。
まさか、こんな展開だなんて・・・!
そんな私の動揺を知ってか知らずか、ダイチくんが話を続けていく。
「ただしこのアルカディアは、誰にでも見える、扱えるというわけではない。
そこでアルカディアと精神的波長が一致する人物を見つけだすことが課題となり、
選ばれたのが、というわけだ。
抽選という形を取ってはいたが、一種の精神感応を試したようなものだ」
淡々とした口調・・・泰明さんと兄弟?(笑)
じゃ、なくて。
「そして、じゃーん。ここはね、実はこの船のメインコンピュータールーム、なんだよ♪」
「え?昼間みた、航行室は」
「あそこも一応メインだけどね、本当の中枢はここ。だから整備にダイチくんとか、
警備に不思議な力が使える泰明さんとかがいるってわけ」
「陰陽道だといつも言っている。お前こそ、あるかでぃあと繋ぐチャンネルを持っているではないか」
「まあ、そうなんだけど・・・って、チャン?聞いてる?」
「・・・船長と呼ばぬか、チヒロ」
「だあってさー、こんなに可愛い人をそんな他人行儀で呼べないって。
・・・はいはい、わかったよ」
瞬間的にまた両方からダイチくんと泰明さんが、無言でせまる。
はたで見てても、怖いわ(笑)
「という訳なのです、船長。
ご説明が遅れて、申し訳御座いませんでした」
なんとかまとめるように、ジュリアスさんが頭を下げる。
「い、いえ!頭を上げて下さい、ジュリアスさん。
・・・実は私も不思議に思ってたんです。
どうして私みたいなのが、選ばれたんだろうって。
でも、これでわかりました。
だから・・・がんばります、これから」
『え?』
「精神なんとかって言われても、まだよくわからないんですけど。
取りあえず目の前にいるこの子と、仲良くなればいいんですよね?
だったらなんとかできそうな気がしますから、がんばりますよ!
・・・って、あれ・・・?」
荘厳、不敵、無表情、こわもて。
な、4人の方々の顔が・・・不思議なくらいに、びっくりしてる。
うわあー、きっとこれ滅多に見られない光景だよー。
「チャン、あのね」
「・・・そなたはやはり」
「俺の考察通り」
「この船の・・・私達にとっても、立派な船長でいらっしゃいます」
「え、え・・・?」
4人と、それからいっぴき(と言っていいのかな?)の笑顔に囲まれて。
私の意識は急に、フェードアウト・・・したのだった。