「ただいま」
「おかえり、ヴィクトール兄さん」
静けさを取り戻したリビングには、
自由業組の面々がのんびりとくつろいでいる。
「アンジェたちは無事に学校につきましたか〜?」
「それはそうよルヴァ。
軍隊きっての名司令官がついてて何かあるわけないよねー☆」
二人で楽しそうにお茶を飲んでいるルヴァとオリヴィエの傍を
通り過ぎて、エルンストは手に持っていた書類の束を
どさり、と机の上においた。
「それ何?エルンスト兄さん」
ソファに寝転がりながら、セイランが物憂げな瞳を向ける。
「今月の家計簿その他、会計関係の書類ですよ。
ああ、みなさんの給料明細も含まれていますから、ご心配なく」
「悪いな、エルンスト。面倒なことをまかせきりで」
ヴィクトールが頭を掻いた。
「いえ、私が一番適役なことは明らかですので。
それに・・・」
「それに?」
「アンジェリーク達にあげるお小遣いを増やすために
家計をやりくりするのが、最近の私の生き甲斐なのです!!
おかげで昨晩はあまり眠れませんでしたが、これもアンジェ達の喜ぶ顔が見れればこそ。
さ、リュミエール、目を通しておいて下さい」
似合わないガッツポーズを決めるエルンストに、うんうんとうなずくリュミエール。
「はい、エルンスト兄さん」
そうして生活面で家計を預かるリュミエールとエルンストが
何やら難しそうな相談をしている間、
クラヴィスとセイランは、毎朝の日課である
アンジェとアンジェリークのアルバムを眺めていた。
「・・・・いつ見ても愛らしい・・・」
「全く、これを見なきゃはっきり起きてくれないんだから、クラヴィス兄さんは」
「・・・そういうセイランもこれを見なくては何もしないだろう」
「それはそうだけど・・・あ、これこれ。この写真特にお気に入りなんだよね」
「お前達は朝からそんなことをしていたのか・・・」
「まあまあ、ヴィクトール兄さんも
せっかくのお休みなんだから、ほら」
「確かに、たまには夜じゃなくて朝見るアルバムもいいかもしれないな」
夜見てたんですか・・・なんてつっこみは押さえつつ、
セイランはある写真を指さす。
それは7歳くらいの二人が、白いワンピースをきて
海辺ではしゃいでいる写真だった。
「・・・この時だったな、確か」
「ええ、クラヴィス。そうでしたね」
いつの間にか集まってきたルヴァやオリヴィエ、書類はそっちのけになっている
リュミエールとエルンストも、クラヴィスの台詞にうなづいた。
「そうだな・・・アンジェ達に、本当のことを知らせたのは」
「アンジェリークとアンジェは、俺達と血が繋がっていない。」
この事実を知らせたのは、きょうだい全員で海に旅行に出かけた、10歳の夏だった。
夏の海辺で無邪気にはしゃぐ二人にどう言い出したものか考えあぐねていた長男は、
それでもその性格からストレートに伝える以外のすべを知らず、そのままの事実を伝えることにした。
「お前達はある朝、家の玄関に置かれていたんだ」
『・・・』
「だからといって勘違いしてほしくない。
・・・俺は、いや俺達は二人を本当の妹だと、そう思っている。
血が繋がっていようがいまいが、その気持ちは決して変わらない。
お前達は、俺達の宝物で宝石で・・・何より大事な存在なんだ。
いきなり真実を言われて驚いたと思うが・・・兄さん達のこの気持ちは、信じてほしい」
下を向いて黙ったままの二人に、残った兄達はかたずを飲んで見守っている。
泣いたらどうしよう。
いや、泣いたとしても、何がなんでも俺達の気持ちをわかってもらって、
そして今まで通り俺達の大事な妹として暮らしてもらうんだ!!
と気合い十分な兄達に、顔をあげた妹二人は意外なほどあっけらかんとした表情で。
「・・どうしよう、アンジェ」
「こうなったら言うしかないんじゃない、アンジェリーク」
『・・・え?』
「あのね、実はね」
「そんなのとっくの昔から、知ってるわ」
申し訳なさそうな金色の髪のアンジェリークと、
何よそんなの、とでも言いたげな茶色の髪のアンジェ。
『え・・・ええーっ!!』
「そ、それはどうしてなのだ!」
ジュリアスが珍しく慌てた様子で尋ねると、アンジェリークがにっこりと笑って言った。
「あのね、あれは・・たしか7歳くらいのとき、だったかなあ。
近所の公園であそんでたらね、知らないおねーさんがきて、教えてくれたの」
「ばかねアンジェリーク。あれは教えてくれたんじゃなくて、
私達きょうだいのなかをさこうとしてたんでしょ。
ふん、ばっかじゃない。そんなことくらいでどうにかなるとでも思ってたのかしらね、わたしたちを」
「そんなこといってアンジェったら、少しよわきになってたじゃない」
「へいきなアンジェリークのほうがふしぎなのよっ!ってああ、ばかー、しゃべっちゃだめじゃない!」
「だっておねーさんがおもしろくって。ふふ、
入るすきがないからって、むだなことしてるなって思ったんだもん♪」
「あんたって・・・時々こうだからこわいよね・・・」
「えー、こわくないよー」
なんてきゃあきゃあわいわい騒ぐ妹たちを尻目に、兄達は少なからずショックを受けていた。
妹の様子が少しでもおかしければ必ず気がついていたはず。
なのに、こんな幼い妹は、3年間も隠し通していたというのだろうか。
「・・・ショックじゃ、なかったの?」
ぽつり、とオリヴィエが問うた。
今度はアンジェが、にっこりと笑って、言った。
「だって私達、おにいちゃんのことだいすきだもん」
「そうだよ。だからちがどうとかってよくわかんないことなんて、かんけいないもん」
『アンジェ、アンジェリーク・・・・!!(感涙)』
「や、やだおにいちゃんったら、ぬれちゃうよ」
「ここ海だよー」
「そんなことは関係ねーよっ!!・・・おめーらは、ずっと、ずうっと俺の妹だ!!」
叫んだゼフェルの声が海辺に響いた、アンジェとアンジェリーク10歳の夏の思い出。
じーん。
そんな表情で、そろいもそろったいい大人達はリビングにたたずんでいる。
大抵こうやって一日一度はアンジェリーク達の回想をする兄達なのであった。
が、今日に限って一度では終わらなかったらしく、
セイランはぱらぱらとアルバムのページをめくった。
「そうだ、忘れちゃいけないのがこれだよ」
「・・・中学の、入学式の写真だな」
ワンピースの制服姿の二人が、笑顔でうつっている写真をクラヴィスが指さした。
「ほんっとに、あの時は許せなかったよねえ・・・」
オリヴィエが怒りの形相となる。
「ま、まあまあ。もうここにはいないんですから、ねえエルンスト?」
「いいかアンジェリーク、アンジェ。
何かあったらすぐにお兄ちゃん達に言うんだぞ?高校、隣だからね」
学ラン姿のランディが気合いをいれている。
「大丈夫ですよ。僕達も一緒のクラスなことですし」
「頼みましたよ、ティムカ、ゼフェル、メル、マルセル」
リュミエールが渡す鞄を手に、4人はしっかりとうなづいた。
もちろん兄達全員勢ぞろいの入学式を終えて、一ヶ月もしたころの話である。
アンジェとアンジェリークはその可愛らしさから
瞬く間に学校で人気者となっていたが、
兄達のガードが堅いことでは小学校から定評があったために、手出しをしようと
するものはいないはず、だった。
これまで様々にアンジェ達に手を出した人間がどうなるか、いやというほど知っているからである。
しかし他地区の生徒は、それを知らなかったため、
お金持ちでもてると評判の双子の男子生徒がアンジェ達に目をつけるようになってきた・・・。
「おーいアンジェ、ちょっといい?」
「なによ」
「この問題、どうしてもわかんないんだ。教えてくれるかな?」
にこっととってつけたような笑顔に、
教室できゃーっという嬌声がわく。
一応顔の造作が整ってはいるが、普段あの兄達に囲まれているアンジェは、
(あの程度で騒ぐ気なんてならないわ)
と思っているものの、頼まれたら断れない性格で、日々放課後は
残って勉強を教えてあげることになってしまっていた。
「おいアンジェリーク。ちょっと顔かせよな」
「なあに、何の用なの??」
「いいから。ったく、俺に声かけられただけでも感謝しろよな」
「?」
不思議そうな顔をしたアンジェリークをそのままひっぱりだした彼は、
学生服を着崩して、にやにやと品のない笑顔を浮かべている。
クラスが違ってしまったゼフェル達の目の届かない場所に限って行動をおこすことを
心得ている彼らは、2週間ほどこの調子でアンジェ達をひっぱりまわしたのだ。
そんな、ある日のことである。
ゼフェルとティムカが、放課後の部活を終えて一年生の廊下を歩いていたときに
偶然会話が聞こえてきたのは・・・。
「・・・ったく、簡単だよね。この笑顔一つでだまされるんだからさ。
僕があんなレベルの勉強わかんないわけないのに」
「俺のほうはとろい奴だからな、わけわからなそうにひっぱりまわされてるぜ」
「なんかさー、アンジェ達には近づくななんて言われてたけど、拍子抜け」
「あんなん、ちょろいぜ」
「そうだよね、あはは!」
夕焼けが校舎に映る中で、二人は下を向きながらそれを聞いていた。
「・・・ゼフェル兄さん、ここで飛び出さないで下さいね」
「で、でもよっ!!」
「僕に、考えがありますから・・・ね?」
リュミエールじこみの、笑顔。
今にも飛び出さんとしていたゼフェルはその笑顔にしぶしぶとうなづいた。
「というわけなんです、兄さん達。
すみません、僕らの注意が足りませんでした」
「ええっ、メル、休み時間とかずうっとアンジェのところにいたよ?」
「僕も、放課後は一緒のクラブだし(ちなみに園芸部)」
「だから、それほど俺らに見つかんねーようにしてたってことだよ!
ったく、自分のふがいなさが情けねーぜ・・・」
下を向いたゼフェルの頭に、ぽんっと手が置かれた。
「まあまあ4人とも、今後はより注意深くなってくれればよいだけですから」
「そうだ。あんなに可愛いアンジェリーク達が目立たないはずはないからな。
そのフォローをいかにやるか、これが問題だ」
「それにしても、やはり女子中にしておくべきでしたね」
「仕方ない。
早速その夜開かれた、アンジェ達には内緒の家族会議には、
残業デートおつきあいその他すべてなげうって兄達が勢揃いしていた。
「・・・その者達に、思い知らせてやらねばなるまいな・・・」
「クラヴィスの言う通りだ。皆、何かよいアイディアはないか?」
ジュリアスの質問にすっと手を挙げたのは、にっこりと微笑むルヴァだった。
「え〜、私によいアイディアがあるんですけど、どうでしょう?こういうのは」
こそこそこそ。
ルヴァの提案を聞いた数秒後、全員がこくり、とうなずくと、
愛用のパソコンを取り出したエルンストが、早速具体的な計画案を練りはじめたのであった。
Continue...
あとがき