数日後のことである。

「ごめん・・・アンジェ、いるかな?」
「きゃーっ、高等部のセイラン先輩よ!」

ワン、ツー、スリー。
セイランは心の中で、昨日兄達と立てた計画開始のカウントを開始した。

・・・僕のアンジェとアンジェリークに手を出そうとした罪。
今から、ゆっくりと思い知らせてあげるから、覚悟しておくんだね。

そんな恐ろしさなどみじんも見せずに、セイランは珍しく満面の笑顔で
アンジェリーク達の教室のドアを開けた。

「やあ、君たち。いつも僕の大事な妹によくしてくれて、ありがとう」
「・・・あのセイラン様が私たちにお礼を・・・
きゃー!!!聞いたみんなっ」
「聞いたわよ!!」

教室中が、瞬く間に騒然となった。

一応説明しておこう。
アンジェリークの兄弟たちは、みな同じ学園に通っている。
卒業生として様々に名を馳せている兄達であったが、アンジェリーク達と同学年の
4人を除いて、一番年が近いのはランディとセイランであった。
特にセイランはこの年代に一番夢を持たせやすい容貌のためか、
ファンクラブは数えきれず、ひょっとしたら中等部・高等部の女生徒全てが
入っているやもしれずといった勢いなのである。
いまはやり?な王子様系といったところであろうか。
(ちなみに同学年の王子様はティムカで、セイランの前はオリヴィエだったりする)

ふふ、と笑ったセイランは、アンジェとアンジェリークの目の前に
お弁当を置いた。
ちなみにこれは故意に今朝忘れていかせたものだったりする。

「ありがとうお兄ちゃん、お弁当忘れちゃってどうしようかと思ってたの。
アンジェリークは今ちょっといないから、私が預かっておくね」
「そう。じゃ、頼むよ」

実は高等部のクラスなんてそっちのけで毎日行きたいところだったが、
日々兄達に渡すラブレターを受け取り疲れた二人に「そんなことしたらもう口聞かない!」と
厳しいお達しがあったランディとセイランは、中等部に出入り禁止となっていたのだった。
他の誰の言うことも聞かないセイランだったが、
妹たちとなれは話は別。というわけで珍しく素直にお達しを守っていたはずだった。

「お兄ちゃん、あの」
「わかってるよ。・・・長居しなければいいんだよね?」
兄弟の中でも一番つかみきれないセイランの、思いっきり含みをもたせた笑顔に、
思わずアンジェはうなずいてしまう。
「よかった。じゃ明日から、僕はここでお昼を食べるから」
「えーっ、な、なんで!?」
「・・・高等部に僕の居場所はないんだよ・・・」

「え、そんなひどいです!」
「そうですセイラン様、ぜひここで食べていって下さい!」
「あ、よければ私おやつ作ってきましょうか」
「ちょっと、抜け駆けしないでくれる?」

(みんな、翻弄されてるよ!どうしよう・笑)
そんなアンジェの心の中を知ってか知らずか、セイランはなおも続ける。

「・・・ほらね、アンジェ」
「うー」
ひそひそ、と囁くいたずらっぽい声とはうらはらに。
セイランは少し寂しげな笑顔を、クラスの女生徒に向けた。
「そう・・・ありがとう。嬉しいよ」

『・・・!!!』

女生徒だけに向けられたほほ笑みで倒れた男子生徒がいたことは、いうまでもない。

さて場所は変わって、休み時間の屋上。
いつものように引っ張り出されたアンジェリークは、
とりあえず青空を眺めたりなんてしていた。

「わー、いいお天気♪」
「おい、ガキじゃないんだから、上ばっかり見てんなよ。
それよりそろそろいいことできる時間じゃねー?」
「え、いいことって何?」

アンジェリークの金色の髪が、風にふわりと揺れる。

(こいつ・・・よく見たらやっぱきれーだよな・・・)

と手をのばしかけた、その瞬間。

「おいっ!!汚ねー手で触んなっ!!」

がしっとアンジェリークを抱きかかえたのは、
昨日の夜に晴れて許可をもらってはりきっているゼフェルであった。

「んだよ。てめーにゃ関係ないだろ」
「関係ないのはお前だろ!俺はこいつの兄貴だ。
お前みたいなゲスには一歩たりとも近づけねえ」
「・・・言ってくれるな」
「人間ほんとのこと言われるとキレるってなー、あれ、マジだな」
「んだとっ!」

まさに一触即発。
っていうか計画というよりそのままなのでは・・・(笑)
なんて思っているときに、後ろからすっと姿を表したのは。
二代目策士の名をリュミエールからうけついだ、ティムカその人であった。

「まあまあ、二人とも。・・・そんなに血気盛んなら、
どうせのことはっきりと勝負したらどうです?」
「え、ティムカお兄ちゃん、止めにきてくれたんじゃなかったの?」
「いえいえ。そんな野暮なまねはしませんよ。ね、ゼフェル兄さん?」
「お、おう」
てっきり止められると思っていたゼフェルは、拍子抜けしたようにティムカを見つめた。

「・・・というわけで。
場所は屋上。勝負は一週間後の放課後ということでいいですか?」

にーっこり。
その笑顔に逆らえる者は、誰一人としてその場にはいなかったのであった。

それから一週間というもの。
毎日昼休みにセイランはアンジェの教室を訪れては、女生徒(ひそかに男子生徒)に
彼なりの愛想をふりまきながら、昼食をともにしていた。
「きゃーセイラン様!これ食べて下さい」
「やだ、私のほうが先よ」
「ありがとう、みんな。・・・でも僕今日は、食欲ないんだ」
『セイラン様・・・』
「可愛い妹の顔を見てるだけで十分だから、ここにいさせてくれる?」
『はい!』

「・・・お兄ちゃん。何たくらんでるの?」
「え、何。なんのこと?」
「ごまかしてもムダだよ。だってお兄ちゃんが理由もなく愛想ふりまくなんて
あるわけないもん」
「・・・アンジェ、やきもち?」
「な、何言ってるのお兄ちゃん!」
「大丈夫。僕が愛してるのはアンジェとアンジェリークだけだから・・・ね?」
「お兄ちゃんってば!」

この状況に
面白くないのは、ルイ(双子の兄)である。

「・・・今までお昼時には、僕の前に女生徒が群がってたのに」
「へー。ご自慢の甘いマスクもきかないってか?」
「コリンズ!うるさい!
・・・お前のほうこそ、アンジェリークに一歩も近づけないじゃないか」
「ぐっ・・・それは」

そしてアンジェリークのほうはと言えば、
ゼフェルはわかりやすく、そしてティムカはいつの間にか必ず彼女の傍にいて、
他の男を一歩も近づけないようにしていた。

「まあ、いいさ。今日の放課後には決着がつく。
とっととあの女ものにして、この学園しきってやるぜ」
「じゃあ僕も参加しようかな。この歳だからこの学園のプリンスが誰かわからせてやる」

どうもこのお二人は古いタイプの学園ものがお好きなようだが(笑)、それでもやはり
放課後はきてしまった。

「へえ、よく来たね」
「それはこっちの台詞だ。ちょうどいい、てめーも一緒にかたしてやる」
「待って、ゼフェル。僕もいるよ?」
「おっ、セ、セイラン!何でここに」

あの面倒くさがりのセイランが、と驚くゼフェルを尻目に、セイランが一歩進み出る。
コリンズの前にはゼフェル。
ルイの前にはセイランが、並んで立つ格好となった。

審判役のティムカが口を開いた。

「それでは、アンジェリークとアンジェをかけて勝負していただきます。
方法と時間は無制限となります。
・・・それでは、はじめ!」

合図とともに4人が激しく殴り合う・・・はず、だった。
しかしそれはまず、女生徒の嬌声にかき消されることになる。

「ちょっとアンタ、セイラン様になにすんのよ!」
「そうよそうよ」
「ちょっとでもセイラン様に何かしようものなら、私達が許さないからね!」
「ま、待ってよ君たち。そんな高校のやつより、僕のほうがいいに」
「決まってるわけないでしょ!」
「アンタなんかよりぜーったいセイラン様の見方よ!」
「ちょっとくらいかっこいいからって、勝手にうぬぼれないでよね」
「ねー、セイラン様♪」
『私(俺)達はみーんなセイラン様の見方です♪』

・・・ルイ、撃沈(笑)。
もともともてていることが生き甲斐な人物にこれほどのカウンターパンチもないだろう。
ということであえなく戦線離脱したルイを見放したコリンズは、
ゼフェルと向き合った。

「おい、てめーの軟弱兄貴は勝負前に負けたみてーだぜ」
「うるさい!俺には関係ない。・・・行くぞ!」

「・・・俺の妹に・・・俺のアンジェに手を出した奴には、容赦しねー!!」

ゼフェル渾身のアッパーが見事に決まると、ティムカは笑顔で片手を挙げた。

「決定。勝者はゼフェル兄さん!」

「くっそ・・・お前ら、どうなるか見てろよ」
「俺らの親父を誰だと思ってるんだ」

「・・・さあて、誰なんでしょうねえ?」
『ルヴァ兄さん!』
「いやーゼフェル、強くなりましたねー。兄さんは嬉しいですよ」
「っておい、そこで泣くなよそこで!」
「すみませんね、年を取ると涙もろくなって。
・・・さて、ルイくんにコリンズくん、でしたっけ?
はやくお家に帰ったほうがいいですよー」
「・・・え?」

ルヴァの笑顔に何かを感じとったのか、二人は慌てて鞄を持つと走り出した。

その数日後、二人は転校し、二度とアンジェリーク達にあうことはなかったという。

「あの時はルヴァ兄さんの知恵が怖いと改めて思ったね」
「おやおや、セイランからそんな言葉を聞こうとはね」
「だってオリヴィエ兄さん!あの時ルヴァ兄さん、僕になんていったと思う?」
「あの計画でしょ?
あんたがアンジェに手を出してるやつのほうのプライドをずったずたにして、
アンジェリークに手を出してるほうにはゼフェルの情熱をぶつける正攻法。
で、裏で私たちがそいつらの転校手続きをとる、と」
「・・・転校手続きといっても、具体的には裏から」
「全てに手を回し、あらゆる手段をつかって」
「あの場所にいられなくしたんでしょ?それは知ってるんだけどね。
・・・あの時僕に、『あなたなら簡単でしょう、セイラン。
さっさとクラスどころか全生徒を虜にして、そうですね・・・
勝負の日に応援でもしてくれるように微笑んでごらんなさい。
それで簡単ですよ。あはは、かわいそうですね彼らも』なんて
にっこりして言うんだよ!
全生徒虜にしろなんていう兄がどこにいるのさ」
「・・・ここではないのか?」
「・・・なら自分でやってよ。って普通なら言ったところだけどね。
アンジェがかかってるなら、問題じゃないよ」

「・・・それにしてもだ。あれ以来、そんな輩が出なくて、よかったなあ」

わあわあと騒ぎつづける弟たちを前にして、
なんとかまとめるように、ヴィクトールが口を開いた。

「・・・いけしゃあしゃあと・・・裏工作で一番はりきったのは兄さんでしょーに」
「今でも、ですよ」

オリヴィエとエルンストのひそひそ会話を聞こえないふりをしつつ、
ヴィクトールはうーん、と大きくのびをした。

「ま、あれが効いたんだろう。
さて、と。今日もはじめるか」

アンジェとアンジェリーク達のいなくなった、平和?な朝の風景もここまで。

そのころのアンジェとアンジェリークには、確実に変化が訪れていたことを、まだ彼らは知らない。

Continue.....

あとがき

回想終了第三話、いかがでしたでしょうか。
もっとみなさんの溺愛ぶりを書きたかったのに・・・
私の力量がたりませんでした。くうっ無念!
次回はとうとう本題にはいります。
どなたがどなたのお相手か、予想してもらえると嬉しいです。
なんて私のことなのでもうわかってもらえてそうですが・・・(笑)
しかしなんだかセイランさまが出番多いですね。
性格もちがってきてないといいんですが(笑)