zeniCaprice ~猫心と秋の空〜
1、encounter /日向
私は神や心霊現象の類を全く信じていない。
目に見えるものが全て…そんな生き方をしばらく変える気はない。
そんな私の膝の上で今、神は寝ている。
私と彼の出会いは、彼が落ちて来た所から始まる。
ある日、道を歩いていた私がふと空を見上げると黒い点が見えた。
点は見る間に大きくなり、ソレは私の目の前に前足から綺麗に着地した。
「ふむ、着いたか」
ソレは首を曲げ、自分の体を見ながら呟いた。
「その質量で、あの高さから着地できるとは…何者だ?」
私はソレを見下ろしながらソレに聞いてみた。
「ん…」
こちらを見上げソレは言った。
「私のことか?」
「あぁ、この場で口を訊けそうな物は私と貴様ぐらいだ」
「そうかな?そこに生えている花でも口を訊きそうなものだがな」
「そうかも知れないが、私はまだ植物が喋ったのを聞いた事は無い」
「聞きたいか?」
そう聞くソレの目は子供が悪戯をする直前のような、笑いを押し殺し…それに失敗している目だった。
「興味が無い。植物の喋りよりも貴様の正体を聞きたい」
「ふむ…私は貴様ら人の子が神と呼ぶだ」
「そうか」
私は一つ頷くとソレ…神の横を通り過ぎ先に行こうとした。
「待て、そこの人間」
私は立ち止まり、振り返った。
「私の事か?」
「あぁ、この場に人間は貴様しかいない」
「確かに、それで用件は何だ?」
「今の私の姿は、貴様らに猫と呼ばれる生物の形をしているのではないか?」
「そうだ」
「猫とは本来人語を解さないモノではないのか?」
「そうだな」
「ならば、何故貴様の心は平静なのだ?」
「貴様は猫ではなく神なのだろう?」
「…信じたのか?」
「嘘なのか?」
「真実だ」
「ならば問題はない」
私の答えを聞き、神を名乗る猫は何かを考えているようだった。
「…面白いな、貴様」
右前足を口元にやりながら、くっくっと笑うと
「しばし貴様の家に住み着くとしよう」
「そうか」
「家主の名前を聞いておこうか」
「橘あずみ」
「あずみ…か、私の事はそうだな…ムッシューとでも呼ぶがいい」
「分かった」
これが私とムッシューの出会いの全てである。
この後、私は学校に行き、帰宅すると彼は当然のように家のリビングで一番日当たりの良い場所で寝ていた。
「猫というのも…存外悪くない」
「猫なのか?」
「いや…神だ」
了