95. 夜店 (尽×主)  ☆リクエスト(尽。主人公が尽に何か買ってあげる話)


夏祭りといえば夜店
夜店といえば、尽には忘れられない思い出がある
できれば思い出したくないもの
できれば忘れてほしいもの
あんな風に泣いた自分は、とてもガキだったと今は赤面する程恥ずかしいから

その日、何人かの友達と夏祭りにきていた尽は、同じく友達と一緒に歩いているにバッタリ出会った
「姉ちゃん、浴衣なんか着てんのか?」
「うんっ、似合う?」
尽の方が先に出かけたから、の浴衣姿を見て 尽はドキっとした心臓に思わず手をあてた
「馬子にも衣装」
「失礼ねぇっ」
照れ隠しに言ったら、が笑いながら反論した
は可愛い
高校生になって、毎日毎日今日はこんなことがあった、とか
明日は何がある、とか
そういうのを聞いてると妬ける程
どうして自分はもっと早くに生まれなかったのか、と思うほど
の側にいたいと思う
尽ははっきり言って、このいくつも年上の姉が大好きなのである

「おまえの姉ちゃん可愛いなぁっ」
「すげー美人・・・優しそうだし」
尽の後ろで、友達がひそひそと囁いた
それを耳聡くききつけてが笑う
「みんないい子ねっ、お姉ちゃんが何かオゴったげよっか」
そうして、いつもの調子で浴衣の袖をピラピラ振った
愛嬌があって、人なつこくて、優しい
のそういうところが大好きで
美人だとか可愛いとか、そう言われると悪い気はしないけど
「お菓子でもお面でも何でも買ってあげるっ
 昨日バイトのお給料日だったんだ〜」
にこにこ笑ってみんなに言うのを聞いて やっぱり妬けた
俺にだけ、そういう顔を見せてくれたらいいのに

やきとうもろこしとか、わたがしとか
友達はさんざん迷ったあげくに好きな食べ物をゲットした
おおはしゃぎで、うちの姉ちゃんはこんな風に優しくない、とか言って盛り上がり
その隣で尽はちょっとだけおもしろくない気分でいた
がみんなに笑顔を向けるのが気にいらない
ふてくされたような尽に、が隣でくすっと笑った
「どうしたの〜? 元気ないよ?」
「別に」
「尽にはあれ買ってあげよっか、あれっ」
「・・・あれって?」
の指指す先には、キラキラしたものをたくさん並べている屋台があった
ぎくり、とする
そして 瞬間かぁっ、と体温が上がった
「いいよっ
 もぉ俺子供じゃないんだからなっ」
あの暗闇でキラキラしてるもの
パキっと折ったら蛍光色に輝いて
腕や頭につけて歩ける、夏のおもちゃのアクセサリー
一晩だけそれは光って、朝になると沈んだ色になってしまう
「えー? 尽あれ好きだったじゃない」
「・・・昔の話だろっ」
「今は嫌いなの?」
「・・・・・」
昔、初めて行った夏祭りで、母が尽とに買い与えてくれたことがあった
二人の腕を飾るキラキラの腕輪
手を繋いで家まで帰りながら お互いに星が腕についてるみたいだと
おおはしゃぎしたものだった
格好よくて、
とおそろいってのがまた嬉しくて
暗闇も、これがあったら恐くない気がした
自分は勇敢な勇者になって、この腕輪の光で夜の魔物から姫を守るのだ
「・・・・嫌いとかじゃないけど・・・」
つぶやいたのと同時に が楽しそうにその屋台へと走っていった
「ちょ・・・っ、姉ちゃん・・・っ」
慌てて後を追う
昔見た時のように、屋台に並んだ光たちは やっぱり星みたいに見えた
小さな子が、嬉しそうに腕や頭につけて歩いている
こういうの、子供は好きなんだよな
「これくださーい」
「買うのかよ・・・」
今そこを通り過ぎていった子供みたいな目をして、が光る腕輪を2つ買った
「はい、一個は尽のねっ」
「・・・そっちは?」
「これは私の
 おそろいだね〜」
「・・・・・っ」
かぁっ、と顔が熱くなる
がこちらを覗き込んで笑ったのに、慌てて顔をそらした
恥ずかしくて、くすぐったくて
だけど、こうやって無邪気でいるに体温が上がる
はあの時のことを覚えているのだろうか

バイバイ、と
友達の所に戻ったの後ろ姿を見ながら 尽は腕に輝いている腕輪をそっと手でなぞった
一晩だけの輝き
それを知らなかった尽は、翌朝光を失ったそれにショックのあまり大泣きした
どうして光らないの?
星が死んじゃった
今思えば 本当にガキで
本当に恥ずかしいことだと思うけれど
たかだか5才や6才で、このおもちゃの寿命が一晩だっただなんて理解はできなかった
勇者になれた気がしたあの時には

「泣かないで、お姉ちゃんがまた買ってあげるから」

あの時、はそう言った
自分よりいくつも年上だったは、困った顔で泣きわめく尽を慰めてくれた
また来年買ってあげるから
一緒に夏祭りに行こうね
だから泣かないで

「覚えてるわけないか」
テスト範囲を間違えたり、数学の公式が覚えられないような記憶力の持ち主である
そんな昔のことを覚えているはずなかった
苦笑して、ため息をついて
腕輪に視線を落とした
あの頃ほど感動はしないけれど、それでも嬉しくて
今、もこれをつけていると思うと 余計にくすぐったかった
まだまだ子供かもしれない、と尽は自分に苦笑する

帰り道、ちょっと暗い道のとこで ぼんやり光る星が見えた
「尽?」
「おそかったな、姉ちゃん
 あぶないから一緒に帰ろうと思って待っててやったぞ」
同じく、浴衣の袖から光をこぼしたに、精一杯大人ぶって尽は笑った
幼い頃の、あの帰り道みたいに
手を差し出したら はにこっと笑ってそれを握った
「尽ってば優しいなぁ」
「当然だろ」
暗い道も、今なら平気
星の腕輪に二人は守られているから
を想う尽の手が、をちゃんと守っているから