私はチェスが、あまり上手ではありません。
また、棋力の向上を目指して真面目に取り組んでるわけでもなく、私にとってのチェスは、「楽しければそれでいい」程度の遊びにすぎません。
でもチェスは、これまで私の身の回りに起きた出来事と妙にリンクしていたりして、
なんだか特別な思い入れがあるのも事実です。
だから、彼氏や親友のことを書くようなつもりで書きますね。
「強くもないのに何様のつもりだ?」と感じた人は許してね(笑)
私が初めてチェスをしたのは中学2年の時。
その後、高2の終わりに約2ヶ月。
パタッと止めてから、大学入学後に再び初めて約4ヶ月。
合計すると、約8ヶ月になります。
ここではまず、中学時代の事を書きます。
私の部屋から見える向かいのマンションに、外国人家族が引っ越してきたのは知っていました。そこには小さな男の子がいることも知っていました。
どこの国の人なんだろ?
インド?パキスタン?それともどこかのアラブの国?
そんな感じで少し興味はあったものの、接点はなく、挨拶することもなく、知り合う機会はなかなかありません。
そんなある日、知ってる近所の子供とその男の子が歩いていたので、話し掛けることができました。
彼はインド人だということで、まだ日本に来て間もないため、日本語がうまく話せません。
でも子供同士(私は中学生ですが)にそれほど言葉は障害ではなく、あっという間に仲良しに。
招待された彼の家で、初めてチェスを体験することになったわけです。
彼の名前はシッダールタ、年は8歳。
シッダールタは、あのお釈迦様のシッダールタですが、ご両親は別に仏教徒というわけではなく、インドではよくある名前ということです。
彼はとっても可愛い子でした!
大きな目がクリクリしてて、表情が生き生きしていて、なのに凛々しくて・・・
ゲームの最中に「うっポっポー!」だの「ォワオわおお、」だの言いながら駒を進め、勝つと決まって「フィニッシュゲーム!!」と雄たけびを上げながら踊りまわる、とても楽しい男の子。
その日以来、私の姿を見つけるたびに「チェス?」
2〜3日、会わないと私の家まで迎えに来て「チェス?」
チェス三昧の始まりです。
でも、私は何度やっても勝てません。
チェスは将棋と似たようなものだな、とは思ったものの、私は将棋も動き方が分かる程度の超初心者で、将棋の知識は役に立たない。というより知識などありません。
というわけで、全く彼には歯が立たない。
彼は毎回気持ちよく勝つのが嬉しいらしく、いいカモを見つけたぜ!って感じで楽しそう。
もちろん、友達が増えて楽しそうだった、というのは言うまでもないことです。
「私ってバカなのかな〜」と落ち込んでると、お母さんが香辛料の効いたインドカレーを作ってくれ、機嫌を直して家路につくと、家でもまたカレー・・・そんなこともあったかな。1度ではなく(笑)
そうこうするうち、時にはまぐれで勝つようになりました。
初勝利まで、何日かかったことか。
ものすごく嬉しかったのを覚えています。
ところが彼は、私が勝つと、今までには見せたことのない新しい表情を見せ始めたのです。
負けると急に不機嫌になり、バン!とチェス盤を引っくり返したあげく
「アゲイン!」「ワンスモア!」「プリーズプリーズプリーズ!!!」と、こうくるわけです。
私はめったに勝てないし、勝つと態度は悪いし(子供だから当たり前ですね)際限なく続けさせられるし・・・・
そんな感じでだんだんとチェスが億劫になりはじめ、
(子供の相手ばっかりしてられんわ!)っていう気に。
適当な理由をつけて誘いを断るようになってしまいました。
何度か続けて断っているうち、彼は私が避けている空気を感じたようです。
そのうち彼もあまり誘ってこなくなりました。
・・・・・・・・・
それから何日くらいたったんでしょうか。
時折見かけるシッダールタが、なんとなく元気がないように見えて気になっていたある日、久しぶりに彼からチェスの招待が・・・
ただ以前と違って、申し訳なさそうな、聞いちゃいけないかなぁ?という表情だったのが、こっちこそ申し訳なくなって。
「チェス?」「OK、いいよ」
その瞬間、彼の顔がパーっと明るくなって、光り輝いたように見えたのです。
まるで、「僕、点いたほうがいいの?それとも消えたほうがいいの?」って言いながらチラチラしていた豆電球が、急に力強く光り始めたって、そんな感じです。
それから、チェスの日々が再開したかと思われたのですが・・・、
それはあっというまに幕を閉じてしまいました。
というのも、彼の一家が引越しをしてしまったから。
日曜日の朝トラックが止まっていて、誰か引越しするのかな?と思っていたら、なんとそれは彼の家。夕方帰宅したときには影も形もなくて・・・。
彼の友達の日本人の男の子たちに聞いても、誰も移転先を知らず、日本のどこかにいるのか、本国に帰ってしまったのか、それすら分かりません。
久しぶりにOKといったときの彼の顔。
あんなに嬉しそうな顔をした裏には、それまで寂しく感じていたことが語られている。
それまでの私は理由があって、彼くらいの年頃の子供が切なくて、弱くて、守ってあげたいような気持ちになることが何度もあった。
なのに私は・・・
しかもあんなに懐いてくれてたのに・・・
もう会えないって分かってたら、チェスくらい何百回でも相手してあげるんだった。
シッダールタと出会ってから、彼がいなくなるまで、わずか1ヵ月半くらいの出来事です。
いま、どこで何してるのかな?
元気にやってるのかな?
それから高2の終りまで、
チェスをする機会はありません。