FIRST CONTACT
16000hitキリリクss



ペガサスの、羽音が心地よく耳を打つ。
慣れ親しんだ等間隔に聞こえる音。
遠くに聞こえていた、それはだんだんと近く響く。


『地上には俺がいる。安心して降りて来い…』


羽音と共に響いた声は現(うつつ)のものか幻か。


急速に一際大きく聞こえる風を切る音に導かれ…。
シャニーは閉じていた瞳を緩やかに開けた。


目の前に広がるは、どこまでも青い空。
眼下には、先程まで戦場だった平原。
作戦の標的であった城には、白旗が見えた。

そうか、あたしあれを見て…。

作戦が終了した事で気を抜いて、…いつの間にか眠ってしまったらしい。

その間も、彼女の忠実な天馬はゆっくりと標的の城の上を旋回していたようだ。

ティトおねえちゃんには黙っておこう…。

飛行中の天馬の上で寝入ってしまったなど、彼女の姉が聞いたらものすごく怒りそうだ。

それよりも。
起き抜けに頭に響いたあの言葉。

うーーーん。誰だっけ…。

しばし、考える。
夢の中での一幕。

何かにおびえていたような気がする。

たった一言で安心出来るんだ、そんな気持ちにさせられたのは。


あの時の。…あの人との、初めての…戦。


「ディーク、さん」

シャニーは知らず知らず口にしていた。
安心する言葉をくれた、大切な人の名前を。

そして。過去へと想いを馳せたーーー。






シャニーの属する傭兵団が、ロイ率いるリキア同盟軍と合流するちょうど半年ほど前の事。

「どうか、あたしを傭兵団に入れてください!」

リキア南部の村の小さな酒場。
シャニーは屈強な男達を目の前にしても臆することなく隊長と思しき男を見上げていた。
手には、自らの身長よりも長い槍。

「俺達の、隊に入りたいってのか?はん!ガキが生意気な事言うんじゃねーよ!」

隣に控えた斧戦士がせせら笑った。

「あんたになんか聞いてないのよ!あたしは隊長さんに聞いているんだから」

「なに!!女だと思って黙っていれば…」

「何よ!やる気なの!?」

「おいおい、よさないかワード!…お嬢ちゃんもだ」

見るに見かねたのか、シャニーとワードと呼ばれた斧戦士を止めたのは隊長と思しき男。

「で、お嬢ちゃん。どうして俺達の傭兵隊に入りたいって思ったんだ?」

椅子に座りなおし、酒を一口あおった男は立ったままのシャニーを見上げた。

「あなたたちが悪い人じゃなさそうだから」

「どういうことだ」

「ずっと見てたの。今日この村で悪い山賊と戦ってたでしょ?だからあたしも…」

「ディークさん!こんな小娘の…」

「黙ってろワード」

まだ腹の虫が収まらないのか言い募るワードを、ディークと呼ばれた男はさえぎった。

「で、お嬢ちゃんはどこから見ていたんだ?」

ディークの問いにシャニーは真っ直ぐ上を指差した。

「空。山賊が逃げていく姿もしっかり見えたよ」

「ってことは…お嬢ちゃん…」

ディークはシャニーが示す空…ここで見えるのは天井だが…と、手に持った長い槍とを
交互に見遣った。

「そ、イリアの天馬騎士だよ!…まだ、見習いだけど」

誇らしげに胸を張るシャニーを疲れたように見て、ディークはもう一人の斧戦士を振り返った。

「ロット、どう思う?」

「空からの偵察ができれば俺たちも有利に戦えるとは思いますが…子供ですから、彼女…。
 戦力になるかは…」

ロットと呼ばれた男の言葉にシャニーは納得いかず、思わず口を挟む。

「あ!ひっどい!!やくにたつよあたし!!お願いだよ、あたしを仲間にしてよ…」

しばし、考えるような仕草を見せるディーク。

「…よし!じゃあ…一回だけ一緒に戦ってみてお嬢ちゃんが役に立つと解ったら、仲間にしてやろう」

それでいいか?とシャニーを軽く見るディーク。
完全に、では無いもののとりあえず認められた事が嬉しくてシャニーは満面の笑みを浮かべた。

「うん!あたしシャニー!」

「ああ、俺は…」

「ディークさん、だよね!よろしく!」




次の日。
シャニーが見た山賊が再び村へと襲い掛かってきた。
ディークの傭兵隊は今、村の自警団として雇われている。
その知らせを受けディークたち傭兵団は、いっせいに酒場を出た。

村に入れないようにと、門の外に全員が集結する。
ディークは他の傭兵に次々に指示を出していた。

シャニーは自分にも指示があるかとディークの言葉を待っていたが、ディークはそれを無視している
かのように、何も言わない。

「ディークさん!あたしは…?」

「シャニー。俺はまだお前を認めたわけではないんだぜ。自分で考えて動いてみな」

厳しい言葉に、一瞬俯きそうになるシャニー。
だがその後口を開く間もなく。

「敵襲だーーーーーーーーーーーーー!!」

伝令の傭兵の声が響いた。

「行くぞお前ら!傭兵団の力を見せてやれ!」

ディークの鴇の声と共に、傭兵たちは山賊へと向かっていった。


一人取り残されたシャニーは、自分がやるべき事を考えていた。


先ずは、天馬に乗って…。

ふわりと、音も無く天馬に乗り込む。

とりあえず…戦況の確認よね!

飛翔の命令を天馬に与え、ゆっくりと上空へと向かっていった。


矢も届かないほどの上空に来たところで、シャニーは眼下を見渡した。
村の入り口付近は最早乱戦状態。
手斧が飛び交い、剣戟の音が響く。
それははるか上空でもはっきりと確認できることだった。

そしてひときわ活躍が目を引くのが、頑丈な体躯に信じられないほどの剣の腕。

ディークさん…流石だなあ。

思わずシャニーは目を留めた。
ふと、その視界の角に怪しく動く人影を認める。

ーーーあれは!

山賊の一人が、迂回して村の裏手から侵入している姿だった。

それに味方が気づいている様子は…無い。

大変!あいつを止めなきゃ!

シャニーはそちらへと、天馬を旋回させた。


一方、地上で戦っているディークも、シャニーの動きに気づいた。
彼女が向かっているのは村の裏手。
恐らく、何かを見つけたか。

「ロット!ここは任せた。俺はあいつを見てくる」

「任せてください兄貴!こんな奴ら俺たちだけで十分です」

心得たロットに短く命を出し、ディークはシャニーの後を追った。


少しずつ高度を下げ、山賊を射程範囲内に捉えたシャニーは、手槍を構え、狙いを定めた。

斧を持ち進んでいる山賊はシャニーに気づかない。

頭をめがけ一気に手槍を振り下ろす。槍はあやまたず、山賊の頭を貫いた。

「…やったあ!これであたしも傭兵団にはいれるね!」

遊撃してきた敵を倒したのだ。
これが戦果にならないわけが無い。
シャニーは浮かれていた。
それが故に、自らを狙う弓を持った山賊の姿に気づいていなかった。

風を切って、物陰から矢が放たれる。
頭部を狙ったと思われるそれはとっさに頭を動かしたシャニーの髪の毛を浅く薙ぎ、頭に巻いて
あった紐を切り裂いた。

はらりと、風に流される紐を目で追う余裕も無く、矢の飛んできたほうを見遣ると、そこにしっかりと
山賊の姿を確認できた。


シャニーの姿を目で追っていたディークは、山賊が放った矢と、それを避けたシャニーの姿を
一部始終捉えていた。
矢の軌道からおそらく山賊がいるだろう場所へと、足を進める。

遠目で確認出来る程度に山賊を捉えたディーク。
明らかに再びシャニーを狙っている。

今度の狙いは…頭ではなく…天馬!
矢の方向と、シャニーの両方を見て眉をひそめる。

ディークは走りながら、短剣を手に持ち直した。


再び矢を引き絞る山賊。

高度を上げようと天馬に命を出すシャニー。

全力で走るディーク。



ーーー山賊の手から、矢が離れた!

きらりと反射した矢の軌道を読み、高度を上げても間に合わないと、シャニーは両目を瞑った。
死、というものを目前に捉えたかのような、そんな気がした。

「シャニーーー!!」

ディークが叫ぶ。
声と共に短剣を矢に向かって思いっきり投げ放った。

短剣の方が重いのにもかかわらず。
剣は真っ直ぐに矢へと向かい、乾いた音と共に矢を弾いた。


ーーーあれ…?あたし、落ちてない…?

むしろ高度を上げている。
恐る恐る目を開けると、未だ広がる空。

その下で、今矢を放った山賊がディークにちょうど斬られているところだった。


それと同時だろうか。

入り口で戦っていた山賊も全てが、斬られるか逃げるかしたらしい。
傭兵団の勝ち鬨の声がそこかしこから響いていた。


村の上を旋回し、シャニーは大きく息をつく。

自分も降りようと、天馬に命令をしようとし、シャニーは怪訝そうな顔をした。

ーーーあれ?手が動かない?

何故か、シャニーの手は震え、こわばったように手が動かなかった。


あたしーーーもしかして怖いの?


考えてみれば当然なのかもしれない。
初めて死を意識するほどの恐怖に見舞われたのだ。
その恐怖をもう一度味わいたくないと、そう思ってしまっても仕方のない事だった。


「シャニーーーー!!どうした!?降りてこないのかーー!!」

呼ばれる声に下を見ると、ディークの姿が小さく見えた。
ここまで聞こえる大音量の声に吃驚しながらも、シャニーも負けじと大声で叫んだ。

「怖くて降りられないのーーー!!!どうしよう、怖いよーーー!!!!」

普段のシャニーであれば怖がっている事を知られるような事は決してしない。
だが今は、戦闘後の興奮状態だったのと、死への恐怖も手伝って思わず大声で叫んでいた。

「もう賊は倒したぞーーー!!」

「でも、怖いのーーー!!」

ふるふると、首を振るシャニー。

「…地上には…俺がいる。…安心して降りてこいーーー!!」


地上には、ディークさんが…。

シャニーの顔がゆっくりと、ほころんだ。
ディークの叫びに導かれるように、ゆっくりと、シャニーの手は高度を下げる命令を、出した。



「あたし、失格ですよね」

降りてきたシャニーがディークに言った一言目は、そんな言葉だった。

「……」

「あっさりと窮地に陥るような天馬騎士なんて…傭兵団に必要ないですよね…」

がくりと肩を落とし、シャニーは恐る恐るディークを見上げた。

一方で憮然としたディーク。

「そうだな、あっさりと窮地に陥る天馬騎士って…使えねえなあ」

「ヤッパリ…」

「だがな!お前さんはその前に遊撃して来た山賊をきっちりと見つけて、倒してたろ。
 それは天馬騎士のシャニーだから出来た事だ。だから…」

「え!じ、じゃあ!!」

シャニーの顔が期待に満ちたものに変わる。
笑いたいような、まだ心配なような。
ディークは優しく微笑んだ。

「ああ、ぎりぎり、及第点ってところだが、傭兵団に入れてやる」

くしゃりと、優しく置かれた手の暖かさに。

今度こそ、シャニーは満面の笑みを浮かべた。

「へへへ!ありがとう!たいちょー!」








へへへ…。
今思い出しても嬉しい思い出の一つ。
未だ、白旗の上を旋回しているシャニーは顔をほころばせた。


「おーーーい、シャニーーーー!!」

下から聞こえる声に我に帰る。
それは今まで考えていた人の声で。

「いつまで飛んでるんだーー!?降りて来い…!!」

地上に何時もいてくれる、シャニーにとって大切な…。


「うん!今行くよーーー!!」

大きく手を振って答え、シャニーはゆっくりと、高度を下げた。


ディークさん。

今のあたしは…ディークさんが待っててくれるから、
降りていく事が…できるんだよ?

いつか、そんな事を言えるようになればいいな。


でも、それはきっとーーー、遠くない未来に。

透明な空に向かうように、言う事が出来るだろう…。


いつか、きっと。



(おわり)




きりばんべやへ  home  FE封印SS部屋へ



*一言言い訳*
 ほのぼのラブなディーク×シャニーって言うリクエストだったのですが…。
 できてみれば…ラブってか…片思い…?しかも過去話?
 あれ?おかしいなあ?でもとりあえず見守ってるっぽいところとかは出せたでしょうか…?
 ほとほと自信などは無いのですが…。
 鈴木秋葉さま申し訳ありません…ディーシャニは私にはこれが限界です…(涙)
 リクエスト、有難うございましたvv」