自業自得
18001hitキリリクSS
| 「全くもう!どうして神父さまはいつもいつも…!!」 右手には軟膏、左手には脱脂綿を握り締め、ドロシーはぶつくさと呟いていた。 一戦終わったエトルリア軍。その駐屯地の一室に、ドロシーは居た。 ベッドのほうへと目をやると、見慣れた蒼い髪。 そう。本来はこの時刻、負傷兵の治療に当たっているはずの、エリミーヌ教の 神父、サウルが横たわっていた。 つい先だって、司祭の資格を得た彼は、光の魔道を扱い、前線に出ていたのだ。 「調子に乗ってライトニング使いまくって!!暴発させたなんて…!!」 聖女様が聞いたらあきれるわよ。 ドロシーとサウルは今回の作戦では別行動だったので、「サウルが怪我をした」 という情報にはものすごく心配したのだが、その原因を聞いて、一気に脱力したのであった。 どーせ、戦場で綺麗な女の人でも見つけて見とれてたんだろうけど…。 そう思い、怒り心頭ながらも、こうして看病をしてしまうのは、最早惰性と言っても 差し支えないのかもしれない。そんな自分にも腹が立ち、ドロシーは一つ、ため息をついた。 現と夢の狭間を、彷徨っていたサウルは、頭部の、ひんやりとした感触に目を覚ました。 濡れた手巾が頭に載っていたらしい。目を開いたままの状態でしばし、考える。 これは一体…?? と、そこまで考えたところでようやく合点が行った。 先の戦闘の時に、術を暴発させてしまったのだった。 …原因は、不明。 そのときに怪我したのは首から下の上半身だったはずなのだが。 どうして頭に手巾を載せられているのだろうか…。 「あ、気がつきましたか神父さま」 それと同時に女性にしては低い声。 最早聞きなれてしまった、ドロシーの怒っているときの声だ。 「ドロシー……?これは」 額を指差し、はっきりとしない頭で、尋ねるサウル。 「え!?気付いてないんですか?倒れた時に打ち所が悪かったんでしょ。おっきなたんこぶ が出来てますよ!」 「……おや。運が悪いですねえ」 呆れたように言われ、サウルは額に手を伸ばした。 軽く触れると、ずきりと痛んだ。少々、盛り上がっているか。 「…起きれるようなら、起き上がってください!どうして、杖でちゃんと治療してもらわなかった んですか?エレンさんもレイ君も居たでしょう?」 「いやその…。エレンさんは応急処置だけしたあと、私よりもっと、重症な人の所に行って しまったのです。レイ君は…『自業自得だ』と言って、治してくれませんでした」 ばつが悪いのか苦笑するサウル。 ドロシーはさらに脱力するしかなかった。 「全く…日ごろの行いが悪いからですよ…」 負傷兵の処置や看護は、ドロシー自身も慣れたものだ。 てきぱきと彼の僧衣とシャツを脱がせ、上半身の傷口に、軟膏を手早く塗っていく。 「いたっ……!ちょっとドロシー、他の人にもこのように荒っぽく治療しているのですか!?」 「いいええ。他の人にはちゃんとしてますよ。あたしだって忙しいんです。さっさと治療 済ませたいだけですよ。そ・れ・に。神父さまがここで倒れているおかげで、 人手が足りなくなっているんです。処置してあげるだけでも、ありがたく思ってくれないと」 辛らつな口調に、何も言えなくなるサウル。 「だからいつも言ってるじゃないですか。ふらふらしないでって…あれ!?」 胸部の治療を終え、包帯を巻こうと何気なく背中を見たドロシーの手が止まった。 「背中も……魔法の傷跡がありますよ?」 しかも、まだ新しい。彼女の顔がすっと蒼褪めた。 「ああ、そういえば、戦場に迷い込んだ美しい娘さんを魔法から庇った様な気がします。 私は魔法耐性強いですから、それほどのダメージには……」 「何言ってるんですか!?」 にこにこと、自慢するように言うサウルに、ドロシーはたまらなくなり怒鳴る。 「どうして!?そんな事を…!!」 「おや、れっきとした人助けを、褒めてはくれないのです?」 「それとこれとは別問題です!あたしの居ないところでこんなに傷を負って…!!それこそ、 それこそ護衛の意味がないじゃないですか!?あたし…あたしがどんなに心配したか」 サウルが傷を負った。 その事をドロシーがどんなに心配したか。 そんな事すら、彼には解っていなかったのだ。 護衛としての存在価値を、失われたのと同じだと思うと、胸が詰まった。 「ドロシー…すみませんでした…」 そこで漸くサウルも自らの発言の浅はかさに気付く。 彼女がどんなに責任感強く、誠実だったか。 どこまでも素直だったか。 解っているはずで彼にとっては当たり前の事だった故に、失念していた。 「あたしが、そんなに薄情だと思ってるんですか…?」 「いいえ。あなたは良く働いてくれています。私もそうやって心配してくれる人がいる事を、 考えてなかったのかもしれません。人との交わりを説く神父が、こんな事ではいけませんね」 サウルは頭を垂れた。 ドロシーも、そのまで言い募ってしまった恥ずかしさから、何も言えなくなっていた。 暫く。無言が続く。 部屋の中に只響くのは、背中を治療するため、彼に触れる彼女の手の音と、治療器具を探す 音のみ。それが、だんだんと、包帯を巻く音にすりかわる。 「ドロシー」 「はい」 「これからは、もっとあなたの事を頼らなければいけないようですね…」 「どうして、です?」 「あなたをまだまだ子供だと、そう見ていましたから」 「…そうなんですか?」 彼女の声に少々不機嫌が混じる。 「もうこれからはちゃんと、子供ではなく、れっきとした護衛としても、たより、甘えさせて頂きます」 「……はい」 彼女の声は、先と高さは変わらなかったが、少し嬉しそうに聞こえた。 「……はい。出来ました」 静かに、卓の上にはさみを置きながら、ドロシーはにこりとした。 新しく用意された寝着を羽織ながらサウルは笑う。 「ありがとうございます」 「ちゃんと寝て、明日からはきっちり働いてくださいね」 器具を片付けようと立ち上がったドロシーの腕を、不意に、サウルが掴んだ。 「な…!何ですか?」 「ドロシー、一つ甘えさせてもらってもいいですか…?」 「はい?」 懇願するようなサウルの顔に少々たじろぐドロシー。 その彼から出た言葉は、彼女の度肝を抜くものであった。 「怪我をした夜に、一人寝は寂しいものです。どうか、側に…寝てもらえませんか?」 「!!!んな!?何言ってるんですか!?そんな…あたし!!」 巧い言葉が見つからない。 なんていったら良いのか分からない。 そもそも、そんな事言われたのは初めてで。 ただ、ドロシーは焦るしかなかった。 大体・・・神父さまなのに…!! 神父さまだけど・・・!? 考える事すら支離滅裂である。 「私は神父ですが、その前に一人の人間なのですよ…」 「そんな……あたし…」 顔が、熱くなるのが自分でも解った。 人に、自分こそが必要とされている感覚、それはドロシーにとっても心地よいものだったのだ。 「あたし、…は」 意を決して、答えを言おうとしたその瞬間、サウルのあっけらかんとした声が脳に響いた。 「本当であれば、もっと何と言うか…セシリアさんとか、イグレーヌさんとか…こう、包容力のある 女性がベストなんですけどね…ドロシーも女性は女性ですし…そんなわけでお願いします…」 既に赤くなっていた顔が、さらに濃いものになった。 しかしその原因は先程とは違う。 この男の話を真剣に聞いていたあたしが馬鹿なんだわ。 そう思わずに居られないほどの感情。 ーーーつまり、怒りであって。 「神父さまの…ばかーーー!!!!」 医療器具を全てサウルに投げつけて。ドロシーは足音も高らかに、部屋を出て行った。 ばたんと、必要以上に大きな音を立てて閉まるドアを苦笑いで見詰めるサウル。 「やれやれ…からかいが過ぎましたか」 ベッドの上には、ハサミ、軟膏、包帯、ピンセットなどもろもろの治療器具。 それらを拾い集めながら。サウルは可笑しげに笑った。 痛い目にあっても、結局のところ、彼女をからかうのが楽しいらしい。 が、この衝撃で、額にさらにたんこぶを作り、その痛みは一週間も引かなかった。 ーーーそれこそ。自業自得と言うものなのだろう。 (おわり) |
| *一言言い訳* ドロシーに甘えるサウルです。 書きやすそう♪とおもいきや、何故かまとまりがつきませんでした(駄目じゃん) 身体はってドロシーの事をからかうサウルが突然書きたくなりまして。文字通り 身体張らせて見ました。 てか、キシルさん・・・無理やりリク頂いておきながら…こんな感じになってしまい ました…。謹んで(捧げられるようなものかがはなはだ疑問ですが)お捧げいたします。 |