君を護る為
4000ヒットリクエストSS



「あーーー!!オレの魔道書がないーー!」


進軍準備中のエトルリア軍にレイの声が木霊した。

この大陸全土を巻き込んだ戦いも終盤、竜殿へと攻め込もうと言う軍の中は、
いつになく喧騒に包まれていた。
竜との戦いになる事から神将器を扱える者を中心とした、少人数で進軍するのだが、
これが最後の戦いになると誰もが解っているだけに、皆が浮き足立つのは当然だった。

そんなさなかである。
彼が扱うとして渡されたはずの「黙示の闇」アボガリプスが、少し目を離した隙に手元から
なくなっていたのだ。
自ら志願して、最後の戦いに進軍するのに、魔道書を失くしたことがロイの耳に入ったら、
何を言われるかわかった物ではない。
実際、エトルリア軍の現将軍、ロイは穏やかな外見に似合わず怖いところがあるのだ。
想像して恐ろしくなったレイは、隣で進軍の準備をしていた兄の声も無視し、魔道書を
探す為、その場を離れた。


同時刻。
ソフィーヤは軍に響いたその声を、ロイの目の前で聞いていた。
両手で大事そうに抱えられているのは、「黙示の闇」。

「どうしても…駄目ですか…?」

ソフィーヤ魔道書を持つ手に力を込めた。

「私…あの人に、あそこに入って欲しくないんです…。あの人はやさしいから、きっと…
 傷つくと思うんです」

ソフィーヤは竜殿を指差した

「私…レイに救ってもらったんです。…だから…今度は私が…あの人を護りたい…」

いつもは伏目がちなソフィーヤだが、今はロイの目をまっすぐに見据えていた。

「…君と同じことを、レイは僕に言ってきたよ」

あくまでも静かに、ロイはソフィーヤに対した。

「それも、現段階で魔力が君よりも低いのを解った上でだ。それがあのプライドの高い
 彼にとって…辛いことだということは、君にもわかるね?」

「……」

「それだけ彼が君の事を想ってるってことだよ?それに、僕には彼の気持ちのほうこそ
 解るんだ。僕だって大切な人を傷つけたくない。だから今回は共に行かないことを、
 選択したんだ。彼女は怒ったけどね」

その状況を思い出したのか照れたように笑う。

「とにかく僕は、君を連れて行くのを認めるわけにはいかない。レイがそれでいいって、
 そう言うのなら別だけれど」

「…わかり…ました…」

それだけ言い置き、ソフィーヤはゆっくりと踵を返した。
歩く足に力が入らないような感覚。

どうして…解ってもらえないの…?

こころが自分の物ではない様な感覚だった。
たまらずに手近の木にもたれかかり、ずるずると腰を下ろした。
長い髪が緩やかに吹かれる風に掬われる
自らの髪が流れるさまを見るともなしに見ていたソフィーヤは、ふと自分の上に落ちた、
木の葉以外の影に顔を上げた。

「ソフィーヤさん、どうされたのですか?辛そうですが…」

ライブは要りますかと杖を向けるのは、確か、エリミーヌ教の神父…。

「サウルさん…」

「何か私が手助けできることがありますか?」

ソフィーヤは数瞬考えた。
この神父は女性の言うことであればたいていのことは無条件で聞くという。
この、こころに残った重いものを取り除く為に、少し、話してみても良いかもしれない。

「サウルさん…。少し…私の話を聞いていただけますか…?」

「あなたの言うことであれば…喜んで」

ソフィーヤは、ロイに話した内容と同じことをサウルに話した。
アボガリプスを持ち出したことを含んで。
サウルは、だからさっきレイ君の声がしたんですねと、さも面白そうな目をした。

「…なるほど。まあ私もロイどのと同じ考えになるのですが。私も男ですからね」

ソフィーヤの表情が一気に曇る。

「まあただ、彼との話し合いは必要だと思いますが」

サウルが言い終えた瞬間。

「こら!このエロ神父!!ソフィーヤから離れろ!!」

激しく怒気を含んだ声音でレイが近づいてきた。

「エロ神父とは人聞きの悪い…」

「ソフィーヤ、大丈夫…って、あーーー!!オレの魔道書!!なんでお前が持ってるん
 だよ!!それ早くオレに返せ!!」

「…いやです…」

サウルに隠れるようにして、ソフィーヤは言い放った。

「何だと!!」

「いやです!!」

お互い険悪な雰囲気になったのを認め、サウルはレイをたしなめる。

「こらこらレイ君。女性に対してそのような態度はよろしくないですねえ。ちゃんとお話位
 聞いてあげないと」

「お前には関係ない!!」

にべもなく突っぱねるレイにサウルは目をすっと細めた。

「そんなことをいいますか君は。少しお仕置きが必要ですねえ」

ちょっと借りますねと、アボガリプスを手にしたサウルはニッコリ笑う。
魔道書を開き、小さく詠唱に入る。

「使えもしない魔道書持ったって怖くなんか……!!おい、なんだそれ!」

レイは自身の目を疑った。
本来光の術者である彼では、発動するはずのない闇の結界が姿を現したのだ。
普段自身が使い、見慣れているはずの闇なのに光の術者であるサウルがそれを
使用している姿は、あまりにも異様だった。

「わかった!!話し合うから。それやめろ!!気味悪いぞ!」

「解ればいいんです」

魔道書を閉じると、サウルの周りに張られた結界が音も無く姿を消した。
ソフィーヤに魔道書を返し、ちゃんと自分の気持ちを話しなさいと彼女の肩をやさしく
たたく。

「ソフィーヤ…」

いまだ顔を引きつらせたままのレイはソフィーヤを見た。

「レイ…ちゃんと…話すから…」

「じゃ、少し歩くぞ」

レイはソフィーヤの手を引き、その場を離れた。




2人の後ろ姿を見送り、やれやれと肩をすくめたサウルは視線はそのままに口を開いた。

「これドロシー、いつまで隠れているつもりですか」

「隠れてなんかいません。あたしの方がここに先にいたんですから」

遥か頭上からの声。
木の上で、何やら考え事をしていたらしいドロシーは軽い音を立てサウルの前へと降り立った。

「あれ、どうやったんですか?」

「ああ、あの魔法ですか、それは企業秘密ですよ」

「まあ、神父さまなら闇使えても驚きませんけど」

失礼なと顔を顰めるサウルに、ドロシーは笑いかける。

「で、神父さまにはいるんですか?危険な地に連れて行きたくない位大事な人」

「…ドロシーはどうなんです?」

「あたしは…神父さまですね、当面の間は」

「ほう、私ですか」

「…あああ、変な意味に取らないで下さいよ?任務ですからね!…それに…危険
 では無いと判断してその場所に留めたのに、実際、どちらが危険かなんて判らない
 ですよね。あたしの手は本当に小さくて、遠くにある護りたいものなんて、なかなか
 護れない。手に届く範囲が精一杯なんです」

手にした神将器を見詰めるドロシー。

「だからあたしは、本当に大事な人の近くにいることが、一番良いことだと思います」

さわりと、風が吹いた。サウルの法衣が、大きく靡いた。

「私も、おまえと同じ考えですよ。…さ、腹が減っては戦も出来ません。これでも食べて、
 落ち着きましょうか」

放られた物を手に取り、見ると赤い林檎がひとつ。

「そうですね」

いつもと変わらない神父に救われたような気がして、ドロシーは初夏の風のように爽やかな
微笑を浮かべた。








サウルの視界から消える位置にまで歩を進めたレイとソフィーヤはどちらとも無く足を止めた。

「ソフィーヤ。どうして魔道書を持ち出したのか話してくれるか?」

「あなたと同じ理由です…。あなたに…危険な目にあって欲しくない…!」

紫の瞳を彩るまつげが震えた。

「私の方が…魔力もあるし…それに、あなたは本当にやさしい人だわ…きっとこの先にある、
 真実に…傷つくのが、…みえるの」

太陽の光が蔭る。2人から伸びる影が色濃くなった。

「竜の力はいままで以上になるわ…私…あなたを護りたいの…だから!!」

レイは胸の詰まる思いだった。彼女にこれだけの決意をさせたのが自分だということに。
憂いに沈む表情から目が離せない。
こんな顔をさせたいわけではないのに…!!

「ごめん。お前の気持ちを考えなかった」

レイの表情が苦痛にゆがむ。

「でも、オレが行くよ、兄貴も心配だしさ」

「…レイ」

「お前は、人の心が分かるから、きっとオレが生きているか、外にいても見えるだろ?」

こくりと頷くソフィーヤ。

「でもオレは、外にいたら分からないんだ。お前が竜の力の故に苦しんでるかもしれない。
 竜や、人の心を見て痛みを感じるかもしれない、命を落とすことだってあるかも…!」

ソフィーヤのほほに光る涙をレイは手で拭った。

「そんな不安の中にいたら、オレの方が持たない」

珍しく照れたように笑うレイの顔。
ソフィーヤはさらにあふれる涙をとめることが出来なかった。

こんなにも、想われていたなんて。
私が一人戦地に立つことにこれだけの不安を覚えてくれる、彼のことが嬉しくて、
不謹慎だと思いつつ笑いもこみ上げてきた。

泣き笑いの顔になったソフィーヤの手の力が抜ける。
レイは黙示の闇を手に取った。

「大丈夫だ、ソフィーヤ。オレ達は負けない。そこまではまだ見えないだろ?」

「はい…」


ピーーーーー

高く細く響く笛の音。
進軍者集合の合図だ。
魔道書を片手に抱え直したレイはそっと、ソフィーヤの手を握った。

「じゃ、行って来る」

「必ず…戻ってきて…」

「もちろん!」

名残惜しげに手を離し、背を向けたレイは肩越しにソフィーヤを振り返り、年相応の
悪戯っぽい笑みを浮かべた。


遠ざかるレイの背中にソフィーヤは小さく呼びかける。

「レイ、…気をつけて」


笛の音は未だ高く細く、鳴り響いている。
決戦の時は刻一刻と近づいていた。




(おわり)




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*一言言い訳*
 今回のリクエストは「レイソフィ+さり気〜にサウドロ」でした。
 実際のところは…微妙??
 因みに今回書きたかったのは「闇魔法使用サウル」
 だったのは内緒の話です(こら)。
 で、どうやっていたかというと
 1>ソフィーヤに使わせた。
 2>ニイメさんに遠隔操作してもらった。
 3>ただの手品である。
 4>実はサウルが本当に使っていた。
 さてどれでしょう??(正解考えてないけど)
 瑞樹こるとさま、こんなんなっちゃいましたー(汗)。ごめんなさい。
 リクエスト有難うございましたvv