ムテキナカクシンハン
3999+4999+5001hitキリ番SS(なげーよ)




遠くからばたばたと足音がする。
ここはリグレ公爵家。
ベルン動乱終結後、すでに半年がたっていた。
自室で魔道書に目を通していたクラリーネはふと顔を上げた。

侍女や使用人に徹底した教育をしているこの公爵家において
そのような騒々しい音を立てる人間はかなり限られていた。


(また何かやらかしたのですね…)

そう考えている間にもその音は近づいてくる。
小さく嘆息し。クラリーネはゆっくりと戸口のほうへ振り向いた。

それと同時に、

ばん!!
「うわーんクラリーネ〜!」

乱暴に扉を開く音と、高い声が聞こえた。
そこに立つのは、大地の髪と瞳を持つ、純朴そうな少女。
その瞳がクラリーネを捉えるや否や、彼女はクラリーネの首に抱きついた。

「…ドロシー。いつも言ってますけれど、もう少し静かに来れませんこと?」

「あ。ごめん、つい…」

「で、今度は何をやらかしたのですか?あの色ボケ神父は」

ドロシーと呼ばれた少女は、クラリーネに抱きついていた手を解く。
この少女と、彼女が護衛しているエリミーヌ教団の神父サウルは、
数日前からリグレ公爵家に滞在していた。神父という確たる地位を持つ
サウルはともかく、ドロシー自身は平民なので公爵家に足を踏み入れる
ことすら許されない身分であるのだが、クラリーネの、
『ドロシーはお友達ですのよ!!』
の一喝により自由に滞在していた。

その数日というもの、このようにドロシーがクラリーネに泣きついてくることが
頻繁にあったのだ。しかも理由はただ1人。彼女が護衛する神父、サウルである。
サウルという男は神父でありながら女性に目はないは、運はないは、素行は悪いは
およそ神父とは言いがたいような言動をよく取る。
それに常にドロシーは振り回されているのだ。

クラリーネ自身はそんな男はほうっておきなさい、と思うのだが、
始末の悪い事にドロシーはサウルに恋しているのだ。
しかも今は俗に言うところの「彼氏彼女」な関係だという。

公爵家に姿を見せて程なくしてドロシーに言われたその言葉に正直クラリーネは心中で
「勿体無い」と思ったものだ。

ドロシーがサウルに勿体無いのではない。
あの色ボケ神父に素直で可愛いドロシーが勿体無いのである。



「………しようって。言われた」

「…聞こえないのですけれど」

「だから!結婚しようって」

「あらおめでとう。良いではありませんか」

…結婚?…あの男もこれまた手の早い…。
そうは思いつつも悪いことでないのでは?とクラリーネは怪訝そうな顔になる。

「良くないー!…ぅぅ」

「あー、解りましたわ。ちゃんと聞きますから泣かないで…」

再び泣きそうになるドロシーをなだめつつクラリーネは話を促した。
ドロシーは自分より2歳は年上のはずなのだが、そうは見えない。
鼻をすすりつつドロシーはぽつりぽつりと話し始めた。



「何ですってー!!キスを断ったら結婚を迫られたーー!!?」

「ちょ、クラリーネ、声が大きい!…しかも微妙に違う…」

そうじゃなくって、とドロシーは再び語りだした。

先程のことである。
珍しくサウルが女性を口説きに行かなかったので、ドロシーから
「中庭に出ませんか」と誘った。
想いが通じたとはいえそれ以降も以前と同じ態度のサウルが気になったのもあった。
機嫌よく中庭を歩いていたドロシーは、足元の石に躓きそうになった。
とっさに手を伸ばしたサウルに支えられる、
自然とサウルに抱きついている格好になっていた。
慌てて離れようとするが、気がついたらきつく抱きしめられていた。
顔を上げると、蒼い瞳と目が合った。
『別に離れる必要はないでしょう?』
瞳はそう語っているかのようで。
なんとなく嬉しくなったドロシーはサウルに体を預けた。
と、ゆっくりとサウルの顔が近づいてきた。
…こ、これはもしかして…!!

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

思わずドロシーは声を荒げ、勢い良くサウルから離れた。

「どうしたんですか?」

「あの、えーと、その、そーいうのは…けっこんするまで、とっときたいなーって」

自分で言いながらも恥ずかしくなり、口調もたどたどしくなる。
だが、次に聞こえた言葉にドロシーは度肝を抜かれた。

「そうですか。じゃあ結婚しましょう」

まるで天気の話しでもするように。
さらりとサウルは言ってのけた。

「…は?」

「結婚すれば問題ないわけですよね。だから…」

ばっちーん!!

サウルは皆まで言うことは出来なかった。
かなり大きな乾いた音が辺りに響いたかと思うと、その衝撃が自らの頬にきたのである。

…要は、ひっぱたかれたのだ。
先程まで腕の中にいた少女に。

「…神父さま…信じられない!!実は体目的だったなんて!!!聖職者の癖に!」

「ドロシー、それは」

明らかに誤解だ。
流石に訂正の必要性を感じたサウルだがそれもさらに大きな声で遮られた。

「神父さま最低!!神父さまなんか大っ嫌いですー!!」

想いっきり啖呵を切り。
ドロシーはその場を走り去った。
……そして今に至るわけである。





「…そうですの。全く、女心というものが解っていませんわね」

一通り聞いたクラリーネは疲れたように肩をすくめる。

あの男、普段女性ばかり追い掛け回しているくせに、女心に本当に疎いのですね。
だからナンパも成功しないのだわ。

「ホントに!…でもどうしよう…。大嫌いって言っちゃった…」

盛大にため息をつき卓に突っ伏すドロシー。
言われたことの怒りよりも自らが言った言葉の後悔の方が大きいらしい。

「…ドロシー。言われ方はともかくとして、結婚どうこうには抵抗はないのですか?」

「……あーうー。恥ずかしいよー」

…何か想像したらしい。思いっきり赤面したドロシーを見てクラリーネは
『いやではない』と判断した。
自身の衣裳部屋に入りがさごそと何か探してきたかと思うと卓の上にそれを置く。

純白の、レースをふんだんに使った明らかに高価そうなドレス。


「クラリーネ?これは…」

何かは明らかなのだが訊いてみずにはいられなかった。

「見て解りませんの?ウエディングドレス、というものですわよ」

言いながらクラリーネは手にした呼び鈴を軽く鳴らす。
程なくして、心得顔の侍女たちが4,5人ほど現れた。

「え、あの?なにこれ。クラリーネ?!」

両方の腕を侍女に捕まれ、身動きの取れなくなったドロシーは訳もわからず、
クラリーネに視線を向けた。

侍女に軽く目配せしたクラリーネはドロシーに手を振る。

「行ってらっしゃい〜」

嵐のように視界から消えていった6人を確認し、クラリーネは席を立った。


「お嬢さん、いいんですか?あんな強引に」

扉の外から聞こえる声に振り向くと、そこには見知った人影ひとつ。

「あら、大丈夫ですわ。それに、これもきっとあの男の計算の内でしょうからね」

「それに乗ってあげるのですか。こりゃあお嬢さんも大人になったものだ」

「私の大切なお友達の為ですもの。それくらいはします。あと、私の名前は
 ク・ラ・リー・ネ、ですのよ。ディーク」





1刻後。
再びクラリーネの前に現れたドロシーはすっかり見違えた格好になっていた。

「まあっ!とってもとっても、とっても綺麗ですわ!!」

「ほう。見違えるものだな」

純白のドレスに身を包んだドロシーを見て、思い思いの観想を口にする2人。
ウエディングドレスに身を包み、うっすらと化粧をしたドロシーはヴェールの中の
照れたように顔を赤らめた。

「で、どうしてあたしがこれを着ているの?」

「あら、手っ取り早く謝るにはちょうどいいかと思ったのですわ。プロポーズの
 返事だって見れば解りますし」

「でもどうしてあたしのサイズのドレスが都合よくここにあるの?」

その理由がわからないとドロシーは首を傾げた。

「ここがリグレ公爵家だからですわ」

無意味に胸を張り訳のわからないことを言うクラリーネ。
と、遠慮がちに響くノックの音。

「クラリーネ様。お呼びだと伺ったのですが…」

戸口からは聞き慣れた低音。声だけでそこにいるのが誰か分かってしまった
ドロシーは、慌てて扉に背を向ける。

開いていますよ、とクラリーネの言にゆっくりと扉を開けたのは、他でもない
サウルその人であった。頬にはくっきりと手形が残ったままであったが。

サウルの視界に最初に入ったのは、清浄なる純白。
背の高さと大地の色の髪で誰かはすぐに分かる。
クラリーネを見ると、彼女は意味ありげにウインクひとつ。
その彼女は、ドロシーに向き直る。

「ドロシー、サウルに何か言うことがあるのではないの?」

しばらく、動こうとしなかったドロシーは、やがて意を決したかのように、
ゆっくりと振り向いた。

「神父さま……あの…」

ともすればうつむきそうになる顔を必死に上げ、蒼の瞳を見つめた。

その姿にサウルの動きが一瞬止まる。
と、おもむろに僧衣の隠しに手を入れ、簡素な造りの指輪を自らの指に嵌めた。
それを2回、3回…4回、と繰り返す。

不意に、サウルの体が淡い光に包まれた。彼以外の3人は思わずのけぞる。

「なんだ…こりゃ」

小さくディークが呟く。

それを横目に、サウルはまっすぐにドロシーの前に歩み寄り、軽々と彼女を
肩に担ぎ上げた。

「ふぇ…っ?」

担ぎ上げられたままじたばたするドロシー。
サウルはそれを意に介することなくクラリーネに微笑む。

「ちょっと急ぎの用事が出来たので、これで私たちは立ちます。お世話になりました。
 クラリーネ様。またお会いしましょう」

「…何を仰るの!?…ディーク!!」

いきなり出て行くと言い出すサウルに激昂したクラリーネはディークに彼を止めるように
と、声を荒げた。

「へいへい…。神父さん、お嬢さんはああいってるんだが…」

とりあえず腰の剣に手をかけながらディークは苦笑する。

「お久しぶりですディークさん。…服着たんですね」

「流石に公爵家に上半身裸っていうのはいただけないからな…、ってそうじゃない!
 どうする?ここでおっぱじめるかい?」

「…今の私は、強いですよ」

相変わらず淡い光を発している体からは何かただならぬものを感じる。
向けられる微笑すら凄みのあるもののように思われる。
サウルを凝視したディークはまともに顔を引きつらせた。

「…そうだな、今のあんたには多分勝てねえ。行きな」

「有難うございます。では」
「ちょっ…神父さま!?クラリーネ!」

落ち着き払ったサウルの声と慌てたようなドロシーの声が重なる。

テンポの速い足音と暴れるドロシーの声が遠ざかっていった。




「ディーク…どうして止めなかったのですか」

憮然とした表情でクラリーネはむくれる。

「お嬢さん。故人はいい言葉を残しているんですよ」

「存じていますわ…『人の恋路を邪魔する方は…』」

「『馬に蹴られて死んじまえ』ですよ」

「でもなんか悔しいですわ、利用されるだけ利用されたのですから。これでただで
 すむとは思わないことですね、サウル」

窓から見える2人の姿に向かってクラリーネは小さく呟いた。




担ぎ上げられてもう半時ほどたつ。
街道の外れまで来たところでようやくサウルはドロシーを下ろした。
指輪を外すと、ずっと光りっぱなしだった彼の体から光が消えた。
暴れるだけ暴れて、すっかりおとなしくなっていたドロシーはサウルを睨む。

「なんなんですかいきなり!」

「それよりも、ドロシー。クラリーネ様が仰っていましたが、何か私に言うことがあると?」

「…そうでした。……大嫌いなんていって、ごめんなさい」

不思議と素直に言葉が出た。
あの時はあんな軽くあの言葉を言われたことで、頭に血が上ったけれど、
今考えれば、サウルであれば当然のような気がした。
当たり前のこととして言ってくれたことに今は喜びすら感じていた。

だから。

「じゃあ結婚しましょうか。神父さま?」

微笑だけは絶やさずに。
当たり前のことのように。軽く誘いかけた。




向けられた光り輝くような笑顔。
ヴェール越しに見るドロシーはいつにもまして綺麗に見えた。
隣で微笑んでくれる。
それだけでなにもいらないと思えるほどの存在がある事に。
それがこの先ずっと共にある事に。
この上ない喜びと、運命への感謝を感じ、サウルは空を仰いだ。


「…はい」


リーーーン、ゴーーーン

程近くから、鐘の音が聞こえる。

音のする方角を見ると、さほど遠くない距離に、教会の屋根が見えた。
サウルは何か思いついたかのようにニヤリと笑う。

「式、しちゃいましょうか」

「…えぇ?」

「ちょうど良い格好をしているではないですか。それとも」

笑みは絶やさぬまま、ドロシーの大地の瞳を見詰める。

「私と2人だけでは、嫌ですか?」

あくまで穏やかに、やさしく問いかける蒼の瞳。
見詰められている快さと、低い声の響きに、ドロシーは頭がくらくらするような
心地よさを覚えた。

…結局落とされるのねあたしは。

「…そんなことないですー」

「では、行きましょうか、新婦どの」

差し出される腕。

「はい、神父さま」

応える手。

2人はゆっくりと、教会の大扉を開けた。


リーーーン、ゴーーーン。


再び鐘が鳴る。

それは、新しい門出を迎える2人を祝福するかのようであった。





(おわり)

     サウドロ部屋へ



*一言言い訳*
 関係の進展したサウドロ、というリクエストでした。
 
…行きすぎました。
 だれも、ここまでとは言ってません。はい。夢見すぎです。
 以前うりはらさんとしたチャットの話題を
これでもか!というくらい入れてます。
 4個とか落ちるとか無敵とか。(何の話だ)
 きっと訳分からないと思うのでゴミバコにてすこし説明しました。
 (↑またの名をさらに長い言い訳 *ゴミバコ→サイト内どっかにあります)
 式の模様はうりはらさんのサイト内、「暴走中」で皆さん妄想してください(笑)
 クラリーネと共に何の前触れもなくディークが出てくるのはちょっとしたサービス
 です(うりはらさんディークラ派だとのことなので)←サービスになってない。
 今回ばかりは本気で謝ります。うりはらさんホントにすみませんでした。
 文句は遠慮なく掲示板まで。リクエスト有難うございましたv