Seasons
8700hitキリ番SS
| case1:spring:ノアどのとフィルさんの場合 花びらが、舞う。 散り行く桜の雨の中、フィルは戸惑ったように立ち尽くしていた。 傍らで、同じく桜を見上げるノアの横顔が遠いものに感じられたのだ。 繋いでいる手のぬくもりは、本物なのに。 「ノアどの…?」 だから、声をかけずにはいられなかった。 「どうされたのです?」 「圧倒されていたんだ。この桜に」 端的に、それだけ応えるノア。 散り行く花びらを、片手ですくう。 「どれだけ存在感があっても、こうして散っていくものを見るのは…どうも悲しい気がしてね」 花びらを、握り締める。 それすらも、どこかにやらないようにと。 「心を奪われたものが、なくなった時にも、このような気持ちになるのかと…そう、感じたんだ」 繋いだ手にも、力がこもった。 ノアは只、桜に目を向けている。 握り締められた手の強さに、フィルはどうしようもない思いに駆られた。 繋がれた手はそのままに、ノアの正面へと回りこむ。 「ノアどの。わたしはここにいます」 …おねがい。私を見て。 わたしは…ここにいます。 「フィルさん…」 漆黒の瞳が不安に揺れた。 只一心に、自分を見詰めるフィルの姿に、ノアは意識を現実に戻す。 …どうしようもない感傷は、桜がもたらした、狂気なのかもしれない…。 何を不安になる事があるのか。 そう。彼女はここにいる。 「ごめん、俺、どうかしていたみたいだ」 …好きな人に、こんな不安な顔をさせるなんて。 「…よかった。いつものノアどのです!」 そう朗らかに笑う彼女が愛しくて、ノアもまた笑みを浮かべた。 「じゃあ…今日は俺がフィルさんにお手合わせ頼もうかな?」 「ええ…!!いくらノアどのでも、手加減は無しですよ?」 そう、こんなやり取りが、俺たちらしい。 剣を合わせる心地よい緊張感を感じながら、ノアは腰の剣をすらりと抜いた。 桜の雨は、未だ降り続けていた。 case2:summer:神父さまとドロシーの場合 大輪の向日葵を抱えたサウルは、きょろきょろと辺りを見回していた。 求めていた人物を見つけ、声をかける。 「これ、ドロシー、探しましたよ」 「あれ、神父さま。…どうしたんですかその花は」 「怪我をしていた子供を治療したら、お礼にと、その親御さんがくれたのですよ」 これを教会の花瓶に活けて欲しいのです、と手渡されたドロシーは複雑な表情で それを受け取った。 「…どうしたのです、その顔は」 「いえ、…あたし、切花って、本当の事を言うとあまり好きではないんです」 「おや、どうして」 サウルにとって、意外な一言だった。 女性は得てして皆、花が好きだという固定観念を持っていたからだ。 それをそのまま疑問にすると、ドロシーはちょっとばつの悪い顔をする。 けして花が嫌いなわけではありません、と言いおいて。 「ただ、切花って、切り口を見てしまうと、どうも痛々しくて…小さな子供では ないけど、『花が可哀想』って、思ってしまうんです…へんですよね」 …まったく、あなたという人は…。 本当に…。 ドロシーらしいといえばあまりにもらしいそれに、サウルは苦笑する。 「ドロシー、ちょっと付き合ってください」 戸惑うドロシーの手を引いて、サウルは足早に歩き出した。 暫く歩き、小高い丘の上に上がると、眼下には黄金色のじゅうたんが広がっていた。 …大きな向日葵畑だ。 「う…わあ」 これにはドロシーも圧倒され、思わず声を上げた。 「すごく…綺麗ですね」 「ええ。本当に。…ここは、先程助けた子供の御家族の花畑なのだそうです。 彼らは、この綺麗な花を、少しでも多くの人に見てもらいたい…そう言っていました」 「……」 「そう、歩けない人や、病気の人、元気のない人にこそ、見せてあげたいとね」 無論。ドロシーも頭では解っていたことだ。 土に根ざしたままの。自然なままの花を見る事が出来ない人の為、 切花は存在していると。 この目で花畑を見て、この花を、届けたいと願う暖かい想いを感じ、ドロシーは胸を熱くした。 「…神父さま。あたし、少し考えを変えた方が良いみたいです。…切花にも、 相手を思う人の心がこもっているのだと…。でも、やっぱり」 ドロシーは照れたように笑う。 「この花畑をこそ綺麗だと。あたしは思います」 …そう。それでこそ…あなたらしい。 「…まあ良いでしょう。それでは。戻りますか」 サウルがどうしてここに連れてきたのか、ドロシーにはいまいちわからなかったけれど。 この黄金色の花畑をサウルと見る事が出来ただけでも、ドロシーには嬉しいことだったから。 「…はい!」 ドロシーは微笑み。 立ち去るサウルの後に続いた。 case3:autumm:パージバル将軍とセシリアの場合 …あの人を亡くしてから、2度目のこの季節…。 降り注ぐ水が、虹を描く。 如雨露を手に、咲き誇る薔薇へと水を撒くセシリアは、自らと同じように薔薇を見る 一人の人影を眼にした。 「パージバル将軍…このようなところに、珍しいですわね」 「セシリアか」 壊れ物を扱うかのように薔薇に触れていたパージバルは呼ばれた声に気づき、顔を上げた。 「あの方が…急逝してから、もう1年たつな」 「はい…」 彼らの主君、エトルリアの希望、ミルディン。 王子が何者かによって暗殺されたのは公然の秘密ではあるのだが、あえて『暗殺』と言う言葉を 使わないパージバルにセシリアは内心舌を巻く。 「この薔薇園の御主人でもある…ここの薔薇を誰よりも愛したあの方が、戻らないのを 感じているのかしら。今年は薔薇もあまり元気がないようですわ」 如雨露を再び傾ける。 しおれたように見える薔薇に、少しでも活力をと。 「皆、まだ悲しみから立ち直れないのだ」 短く呟くパージバル。 ーーー貴方こそが、辛そうに見えるわ。 その鉄面皮の奥に隠れた思いに気づかないわけないのに。 「パージバル将軍、貴方、侍女に何て言われているかご存知?」 無言で頭を振るパージバルに、不意にセシリアは悪戯っぽく笑う。 「薔薇の騎士様。だそうですわ。紅い薔薇が似合う、とね」 「セシリア。おまえこそ、一般の騎士に薔薇のようだと讃えられているだろうが」 「それは違いますわ将軍。私の場合は…棘があると。そう付け加えられるのです」 それは、事実だった。 その美貌ゆえ、男から言い寄られる事も多いが、言が手厳しい事でも有名である彼女は、 皮肉も込めて『薔薇に近づくと棘に刺される』と皮肉混じりに言われていたのだ。 ふいに、セシリアは背中にぬくもりを感じた。 パージバルに、後ろから抱きすくめられていた。 「…別に、痛くはないが。棘に刺される事もないな」 「変な、噂が立ちますよ」 「おまえとなら、いいだろう。それに、たとえ醜聞でも、恋愛沙汰の噂は、周りが明るくなるものだ。 それで、少しでもこの城中を包む重い空気が和らげば…」 いいではないか。 思いも寄らぬ近くに聞こえるその声に、そのいつもの張りのなさに、セシリアは慈愛に満ちて 微笑を浮かべた。 「そうですね」 きっと貴方は気づいていないけど。 一番傷ついているのは貴方。 かりそめでも、それを紛らわす事が出来るなら。 私はいくらでも慰めになりましょう。 薔薇のように気高く、傷つきやすい貴方のためにーーー。 case4:winter:クリフトとアリーナ様の場合 時節はずれの、大雪だった。 サントハイム城の尖塔の一室の窓際で、、アリーナは頬杖をつき、外を見ていた。 纏っているのは、白を基調とした、青いレースの豪奢なドレス。 …踵の高い、小洒落たパンプスは脱ぎ散らかされていたが。 物憂げに、息をつく。 コン、コン。 「アリーナ様、いらっしゃいますか」 ノックと共に、掛けられた声は、彼女の信頼する者。 「クリフトか。入れ」 短く、応える。 失礼します、と軽く声をかけ、クリフトが部屋へと入った。 「雪で難儀していた、エンドールの使者殿ですが…そろそろ到着するとの事 です…ってアリーナ様!またそのように靴を脱ぎ捨てて…」 「いいじゃないか誰が見てるものでもなし…」 「…いけませんよ。しかし…珍しいですね…そろそろ春になろうと言うのに」 クリフトも、窓に近づき、外を見た。未だ、雪はしんしんと降り積もっている。 「クリフトは、雪が嫌か?ボクはむしろ歓迎すべき事だと思うのだが」 「アリーナ様は、使者殿との謁見が面倒なだけでしょう」 呆れたように肩をすくめるクリフトにアリーナはいささかむっとした。 「そんな事はないぞ!失礼な奴。そうじゃなくて…。この雪を見ていると…」 目を細め、再び外を見る。 「降り積もる、雪の結晶が集まって…まるで花畑のように美しく見えるだろう?」 クリフトは、意外な顔でアリーナを見た。 変わらず外に視線を泳がせるアリーナ。 その姿は、本人の美貌も相まって、ひどく幻想的に見えた。 武道においては他の人間の追従を許さない、魔王とすら互角に戦った勇者。 そんな一面ばかり城の者に小言を言われている、そのアリーナに見えなかった。 「…アリーナ様も、風雅を解するようになりましたか…」 「お前という奴は…本当に失礼な奴だなあ。…ボクだって、外交くらいはこなせるんだ。 この位自然に言葉は出るさ。…それに。この雪は、そう讃えるにふさわしいとは 思わないか?」 …やはりあなたにはかないませんね。 にやりと笑うアリーナを、眩しそうに見たクリフトは、ふわりと、微笑む。 「…ほんとうに、その通りですね」 「だろう?…ち、もう来やがったか」 苦々しく呟くアリーナに倣い下を見るクリフト。 エンドールのものらしい豪奢な馬車が小さく見えた。 「さあ、アリーナ様参りましょうか。…言葉遣いは丁寧に、お願いしますよ」 「そのくらい解っている。…わたくしを誰だと思っているのですか?」 変わり身の早さには驚かされる。 これでも、立派な姫として、あの戦いの後は活躍しているのだ。 「わがサントハイムの至宝、アリーナ様です」 「よろしい。行くぞクリフト!」 アリーナは立ち上がり、歩を進めた。 クリフトもそれに続く。 現在の彼女の戦場ーーー父王の待つ玉座の間へとーーー (おわり) |
| *一言言い訳* in花畑、というリクエストでした…。 特にカップリング等の指定もなく、好きにしてくださいとの事でしたので…。 本当に好き勝手してしまいました。 ショート&ショート4連発。…慣れない事はするものではありません。 しかもゲームちゃんぽんです。 突っ込みどころ満載です、時季考証特になしです。 はにわ煎餅様。…恩をあだで返してしまって申し訳ないですー(泣) |