白い花
8765hitキリリクSS
| 「おかあさん!!」 突然の声と共に、見知らぬ子供に抱きつかれ、あたしは、硬直した。 夕闇にあたりが染まるこの時間に。 …町や人家からかなり離れた街道を歩いていて、いきなり飛び出してきた子供に、 こともあろうに『おかあさん!!』などといわれ抱きつかれたら、あたしでなくても 皆驚くだろう。 それは、共にいた神父さま、 ーーー信じられないことについ最近あたしと結婚までしてしまったーーー 彼にとっても同じみたいで。 不自然な動作で、子供と、あたしを見遣った。 「…ドロシー…。知りませんでした…」 「はあ?何がですか??」 「まさか、あなたに隠し子が…」 神父さまのとんでもない発言にあたしは二の句が告げられなかった。 何も言えずただ口をパクパクさせるだけのあたしを見て、さらに続ける。 「人は見かけによらないものですね…。でもドロシー、心配しないでください。 わたしはそのようなことで、あなたに偏見を持つほど心の狭い人間ではありません。 エリミーヌ様の愛の如く、私の愛も広いのです。」 「あのー…、神父さま?」 「その子供は認知しますよ。…ただ…1つ教えて欲しいのです。父親は誰ですか…? 女性…こともあろうに私のドロシーに子供をはらませておきながら逃げるような男に 神の鉄槌を下さなければ…!!」 「ち、違いますよ!!何言ってるんですか!?」 どんどん暴走していく神父さまに思わずあたしは声を荒げた。 大体…どうしてそんな発想になるのか…!! 「どこの子かはわからないですけど、この子は知らない子ですよ…!!」 大仰にため息をついて、あたしは神父さまを見遣った。 未だしがみついて離れない子供の頭に手を置く。 とりあえず。この状況を何とかしなければ。 「ねえ、どうしたの?お母さんとはぐれたの?」 子供と目を合わせるためにしゃがみこみ、なるべく優しい声で問いかけた。 あたしと似た瞳と、髪の色を持った…5歳くらいの少年はあたしの顔をまじまじと見て、 一気に顔を曇らせた。 「お母さんが…帰ってこないんだ…だから僕…」 突付けば泣きそうな表情で、たどたどしいことばで訴える。 その様に、あたしはすっかり同情してしまった。 もともと子供は好きだ。 可愛いとも思う。 それが、自分と似た色を持つ子供ならなおさらだった。 放ってはおけない。詳しい話を聞きたいと、無言で神父さまを見る。 やれやれ…。 ことばが出るとしたらきっとそんな感じだろう。 呆れたような顔をして神父さまは頷いた。 少年ーーーリルと名乗った彼の話ではーーー リルの父親が農作業中に事故にあい、足に怪我を負ったらしい。 町医者のところではちょうど薬草を切らしており、それを聞いた母親が、山向こうの町 まで、薬草を取りに行くといって単身でかけていったまま、戻らないということだ。 心配になったリルは父親の目を盗んでこっそり母親を迎えに町を出たのだが、リル自身も 道に迷ってしまい途方にくれていたところに、あたしたちが通りかかったーーー。 とのことだった。 「リル君。君の町の名前はわかりますか?」 「わからない」 神父さまの問いにふるふると首を振るリル。 「じゃあ…町のことで覚えていることだけでも」 「えーと、…おねえちゃんがつけてる白い花がたくさん咲いてる」 リルはあたしをを指差した。 そう。確かにあたしの髪の一房には白い花が編みこまれていた。 2人だけで挙げていたはずの結婚式に、ロイ様をはじめとしたもとエトルリア軍の皆さんが お祝いに駆けつけてくれたのだ。 …クラリーネが呼んでくれたのだそうだけれど。 そのとき、ベルンのシスターエレンさんが祝福の魔道を与えてくれた白い花を 編みこんでくれたのだ。 『幸せにね』と。 魔道を帯びたその花は、式から数日たったにもかかわらず瑞々しかった。 確かこの花は。 アクレイアにも馬車で1日と、程近い町に群生していた筈…。 そしてそれは、あたしたちが向かっている方と同じであった。 それに神父さまも気がついたのだろう。 「わかりました、リル君。家まで送ってあげましょう」 「本当?!…でも…」 リルの顔が喜びに輝く。でも、やはりお母さんが心配なのだ。 あたしと神父さまを交互に見て、顔を曇らせた。 「大丈夫ですよ。きっと君のお母さんも、君の家にもう帰っていることでしょう」 穏やかに微笑んで、神父さまは言った。 こういうときに思う。 この人は、いつもはしょーもない人だけれど、やはり神父さまなんだな。 リルから詳しく話を聞いているうちに、あたりはすっかり真っ暗になってしまった。 夜闇の中を歩くのは街道でも危ない。 あたしたちは野営をすることにした。 街道を逸れ、森へと分け入り、火をおこす。 簡易的に用意した食事でも、丸一日何も食べていないと言ったリルは瞬く間に平らげて しまった。 ずっと一人で歩き続けて、気持ちも張り詰めていたのだろう。 食事を終えたリルは、あたしの膝に頭を置いて、寝入ってしまった。 炎の色に明るく染まる、リルの顔。 安心しきったその寝顔にあたしはほっとした。 「よほど疲れていたんですね…」 リルの頭を撫でながら、あたしは神父さまを見た。 神父さまの影が炎と共に大きく揺れる。 「そうですね…子供が、一人きりで知らないところを歩いていれば当然です。 私たちと会って安心したのでしょう」 それは、そうだろう。 もし自分が、この年齢で暗い森の中に一人になったら。 心細さに耐えられないだろう。 それを思うと、いまあたしたちがここにいることが出来た事に、リルと会えたことに、 神様に感謝したくなった。 「神父さま」 「なんです?」 「あたしたち、リルに会うことが出来てよかったです。この子を、助けてあげられたから」 にこりと笑い、神父さまを見上げる。 神父さまは、複雑な表情を見せた。 「………」 「え?何か言いましたか?」 「…いえ、何でも。…ただ、その子が女の子だったらもっと良かったのに、と思っただけです」 …何かと思えば…相変わらずなんだから…。 「はいはい。明日は早くこの子を送ってあげないといけないんですからもう休みますよ」 微妙に予測はしていた神父様の言葉にげんなりしながら、あたしはリルを抱いて床についた。 次の日。 リルをつれて町へと向かう。 早くこの子を、家族のもとへと。 「ねえ、神父様、他にお話を聞かせてよ」 「そうですねえ…、じゃあ八神将のお話をしましょうか」 「うわーい!嬉しいな」 リルは、片方にあたしの手を、もう片方に神父さまの手を握りぶんぶんと元気に振りながら 歩いていた。 神父さまは付き合いよくリルに神話を話している。 神父さまって、結局は子供好きなんだよね…。 それを見るとはなしに見ながら、あたしはなんとなくそんなことを思った。 あたし自身長年神父様の護衛として近くにいるけれど、子供に対する神父さまの態度は、 いつだって優しいものだった。…男の子か女の子かで、微妙に待遇の差はあるけれど。 いいお父さんになりそうではあるよね…。 …って、あたし何考えてるの!? 自分でも予期しなかった考えに思わず足を止める。 神父様とリルの怪訝そうな顔に曖昧な笑みを浮かべて、その場を取り繕った。 半日ほど歩いただろうか。 緑ばかりだった視界に、ちらほらと白が混じり始めた。 それは。 あたしの髪にもついている白い花と、同じものだ。 「リル、この近くに君の家はあるかな?」 「うん!もう少し歩くと、町が見えるよ!…帰ってこれたんだ…!」 彼の言うとおり。半刻もしないうちに町が見えてきた。 「おや…?誰かいるようですね…女性のようですが」 神父さまが凝視する方を見る。 町の入り口に、人影が見えた。 何かを探しているのだろうか、ひどく慌てた様子だった。 「おかあさんだ!!」 言うなりリルは走り出す。 「ちょっと!リル!!」 あたしは、神父さまと共に、リルを追った。 「おかあさん!」 呼びかける声に、その女性は反応した。 あたしと、2,3歳しか違わないだろうその人は、あたしと同じ色の目を大きく見開いた。 「リル!!」 女性はリルの姿を認めると、彼の名を大声で呼んだ。 リルはそれに応え、母の前に笑顔で立った。 感動の再会、になるのかな。 あたしはそう思ってそれを見ていたのだけれど、目の前には想像さえしなかった光景が、 飛び込んできた。 ぱん!! 乾いた音が辺りに響いたかと思うと、リルの頬が赤く染まった。 たたいた母親はリルを睨みつけている。 …どうして!?母親を捜しに行った子供を叩くの!? 「ちょっと…!!」 思わず女性に詰め寄りそうになるあたしを、神父さまが押しとどめる。 どうしてと、ことばにしようとする前に、神父さまは何も言わずゆっくりと首を振った。 神父さまに腕をつかまれ、その場を離れさせられる。 「神父さま…!?どうして?」 「ドロシー、ここからは、私たちが関与しては駄目ですよ。リルのご家族の、問題ですから」 「でも…っ!あれじゃリルが可哀相です!」 「大丈夫です。見ていなさい」 神父さまが持っていた杖でリルたちのほうを指した。 何事か怒っていたはずの母親が、突然崩れ落ち、リルを抱きしめていたのだ。 「…ほんとうに、本当に心配したのよ…ほんとうに…無事で…良かった…」 途切れ途切れに聞こえる母親の声。 そこで漸くあたしも納得が行った。 …リルがいない間中、ずっと、お母さんも心配だったんだね。 少し考えればわかることなのに…あたしは。 リルのことしか考えなかった。 「あたしも、まだまだです」 あたしは神父さまに向き直り、苦笑いした。 神父さまはひだまりのように柔らかく微笑み、行きましょうと、あたしを促した。 「おねーちゃん!!」 と、大きな声に呼び止められた。 振り向くと、放物線を描いて飛んできたそれは。 白い花のブーケ。 摘んだ花を紐で束ねただけの、飾りも何もないブーケだった。 とっさに手を出し、受け止める。 「ありがとう、おねーちゃん」 大きく手を振りリルが叫ぶ。 母親が耳元で何か耳打ちしていた。リルの顔が輝く。 「おねーちゃん、新婚さんなんだね!神父様と、幸せにねーー!!」 …あれ?あたし、リルに話したっけ…? あたしは目を瞬いた。 と、母親が満面の笑みを浮かべて、あたしに礼をした。 …そうか、この花だ。 手に持つ白い花。 髪に編まれた白い花。 ーーーそれは、幸せのしるし。 「ありがとう、リルーーー!!」 あたしも負けじと大声で、リルに感謝のことばを送った。 あなたたちも、幸せに。 「そういえば神父さま。あんまり機嫌よくないみたいですけど…」 リルたちとと別れ、暫く街中を歩いていたあたしは、何時になく憮然とした表情の神父さまが 気になっていた。 「それは、そうですよ」 あたしの持つブーケを凝視して。 「子供とはいえ、男に貰った花束をそんなに大事に抱えていたら、あまり気分は良くないです」 それに、と言い置いて。 「折角の貴重な新婚の夜を邪魔されればだれだって不機嫌な表情の一つもしたくなりますよ」 神父さまはため息をついた。 …あれ?もしかして…。 「神父さま、妬いてます?」 「悪いですか?」 「子供相手にそんなにむきにならなくても…。神父さまって、意外と子供っぽいんですね」 あたしは思わず吹き出してしまった。 相手は小さな子供なのに。 子供にまで妬くような人だったんだ。 「…私だって、聖職者である以前に、一人の人間ですからね」 あたしと神父さまは長い間一緒だったけれど。 お互いの関係が変わって、そして初めて見えることもあるんだなって。 なんとなく判った。 「安心してください。あたしには神父さまだけです」 噛んで含めるように。 子供に言い聞かせるように言って、あたしは神父様に笑いかけた。 「そのようなことは重々承知です」 包み込むような笑顔と共に。 神父さまは優しい口付けをひとつ、くれた。 幸せに。 皆は、リルはそう言った。 あたしは。 たぶん。みんなの望むとおりに。 あたしの望むとおりに…、そして、神父さまの望むとおり。 きっと、いまも、これからも幸せであればいいと。 抜けるような青空を見上げ、輝くような白い花を抱きしめた。 (おわり) |
| *一言言い訳* 「ムテキ〜のその後の2人」というリクエストでした。 何か…オリキャラでばりすぎなんですけど。 というより、イチャイチャしてませんねほとんど。 こんな感じですが空回りしすぎの気合は十分なんですーー!! うりはらみく様。これに関しても、苦情はがんがん受け付けますのでーー(滝汗) リクエストありがとうございました(逃) |