慟哭
1111ヒットリクエストSS
「おい!ソフィーヤ!!なんで逃げるんだよ!」
背を向け走り出すソフィーヤを見据え、俺はあいつを追いかけていた。
その時オレは、ソフィーヤと、ファと同じ部隊にいた。
最後尾に配列されていたので、残存兵を倒していく。前線に比べれば楽なところだった。
恐らくロイは、ファの力を温存していたのだろう。
しかしその目論見は大きく裏切られる。
突如ベルン戦闘竜の部隊が襲い掛かってきたのだ。
「レイおにーちゃん、ファが行くよ!」
隣にいたファが竜を見据えた。
「おまえ、竜になったことってあんまりないんだろ、大丈夫かよ?」
ロイの話ではもう何年も竜化していないらしい。
もう何十年と生きているのだろうが見た目は幼女なので頼りないことこの上ない。
「…大丈夫です……、ファは神竜の…幼体ですから…」
「そうだよ。レイおにーちゃん、ちょっと離れててね」
ファは言うなり、懐から神竜石を取り出した。
小さな手に神竜石を持ち、天に掲げる。
その瞬間、ファの体が輝いた。小さな体が見る見る膨張し、人に在らざるもの、竜へと変身していく。
オレはその様子に釘付けになっていた。人が竜になるところなどそう見れるものではない。
「ぅあああぁぁぁあ!!!!」
突如、ソフィーヤが悲鳴を上げた。自らの体を抱きしめるような格好でうずくまる。
「おい!どうした!!」
オレはソフィーヤへと駆け寄った。
ソフィーヤの息が荒い。何かを必死で抑えている表情。苦痛に零れそうになる涙のゆらぎ。
なにが、あったのだろう。
「とりあえず、シスターのところへ行くぞ」
しゃべることも出来ない様子のソフィーヤに一声かけ、手を引っ張って連れて行こうと手を伸ばす。
手にした感触は、知らないものだった。
不可解に思いながらそれを確かめようと少し下を向く。
…おい…これって…。
さすがのオレも目を見開いた。
今つかんでいるソフィーヤの左手は、
先ほど見た、竜と化したファのそれと同じつくりだった。
次の瞬間。オレは思いがけない力で突き飛ばされていた。
どこにそんな体力があったのだろう。
そう考えている間。すでにソフィーヤは走り出していた。
何で逃げるんだ、あいつ…。
俺は唇を噛んだ。怒りとも悔しさともつかない気持ちにどうしようもなくなっていた。
どのくらい走っていただろう。
欝蒼とした森の中。
しゃがみこんでいる紫の髪をようやく認めることが出来た。
オレもそれほど体力には自信がない。すでに息も上がっていたし、走る足もフラフラだった。
「ソフィーヤ!!」
細い肩が震えるのが見えた。立ち上がろうとしている。
「逃げるな!!そこにいろ!!」
今度は体ごと震えたのが見えた。逃げようとはしていないようだった。
オレは走りよって振り向かないソフィーヤの肩を掴んだ。
「どうして逃げた!!」
振り向こうとしないこいつを強引に振り向かせた。
ソフィーヤは黙ったままうつむいている。
「分かってるんだぞ!!お前の手を見たオレが、お前のことを変な目で見ると思ったんだろ!?」
こいつは心の声が聞こえるらしいが、そんなものに頼らなくたって、人の気持ちなんか分かるものなんだ。
表情、声、目、注意深く見ていれば判る。
「図星なんだな?お前矛盾してるぞ!!前言ってたじゃないか!オレよりオレの事わかるって…」
オレは強引にソフィーヤの顔を上げた。
「判るんだろ!言ってみろよ今の俺の気持ち!!…言え!」
ソフィーヤを強い目で見た。自分でもこれだけ取り乱しているのが不思議だった。
「…とても…悲しい…気持ちが見えます……」
暫くして、ぽつりと聞こえた一言は、オレの心の奥底に今まであったものだった。
「…そんなわけねえだろ!…って言ったって。お前には無駄だよな。そう、正解」
両手をソフィーヤの肩に置いたままオレは呟いた。
今オレはどんな表情をしているのだろうか。
「お前がオレのことを優しいって、言ったときがあったろう?今までオレの事そんな風にを言ったのはルゥだけだった。
正直すっげー恥ずかしかったけど、少しだけ嬉しかったんだ」
ソフィーヤの表情が変わった。
「オレにそこまで踏み込んでくるやつなんでそうそういなかったし。だから」
そこで言葉を切った。この先を言うのはオレにも勇気がいることだった。
「お前が逃げたとき、お前がオレを信用できないのかって、怒った」
でもほんとうは。
それ以上に。悲しかったんだ。
ソフィーヤが遠くに去ったような感覚に陥った。
裏切られたように感じた。
今まで人に心を見せたことが無くって、初めて見せた相手が遠くへ行ってしまった事がこんなにも辛いなんて。
今までのことはオレが孤児だから、同情で言っていたのかとさえ考えた。
これがソフィーヤ。お前じゃなかったら。
こんなにショックでは無かっただろう。
思うことも言うべきことも、たくさんありすぎて頭の中がぐちゃぐちゃだった。
「お願いだ……オレの傍から…離れていかないで…くれ」
チャドあたりが聞いたら卒倒しそうな言葉だなと、心のどこかが感じていた。
気を抜けばすがりつきそうになってしまう自分を必死に御し、ソフィーヤの肩に力を込めた。
顔を伏せた。なぜだか涙が零れそうだった。
ふわりと、花の匂いがした。
オレはソフィーヤに頭を抱きしめられていた。
いつもだったらものすごく動揺するだろう状況だった。
しかし今は、安らきの気持ちのほうが大きかった。
「…おい??」
でも、胸は高鳴るもので。思わず声をかけていた。
「…ごめん…なさい…。あなたが信用できないから…逃げたんじゃない……」
ソフィーヤの声は掠れていた。
「わたしが…臆病なだけなの…!!あなたが私の事を知ったってあなたの心は変わらない
ことくらい…わかっていたわ」
「…」
「でも、あなたに竜の血の部分は……見られたのがショックだった…」
「どうして」
「急に…不安に……なっただけ…でも、あなたを悲しませてしまった……。ごめんなさい。
約束します…あなたから離れていかないと…」
「ありがとう…」
小さく。本当に小さくオレは言った。
今までのオレではこんなことありえないけれど。
顔は見えないけれど、ソフィーヤも泣いているようだった。
頭を抱えられているから見られないだろうと思い。オレは少しだけ、泣いた。
ソフィーヤの嗚咽が聞こえなくなったのを確認し、俺は顔を上げた。
顔を覗き込んでくる紫水晶の瞳に、急にオレは今までのことが恥ずかしくなった。
「おい!今日のこと。ぜっっっったいに!!他に言うんじゃないぞ!!」
「分かってます…」
ソフィーヤが笑顔になった。それだけで周りの空気が綺麗になるような錯覚を覚える。
「絶対だぞ!!」
言うだけ言って、オレは踵を返した。
赤くなった顔を見られたくなかった。
やっぱり、ソフィーヤは笑顔のほうが良いな。
柄にも無くそんなことを思いながら俺は森を後にした。
(おわり)
*あとあがき*
1111ヒットのリクエストは、「レイソフィ。何でもOK」
とのことでレイソフィです。
初めてうち設定のソフィーヤの秘密を見たレイ、見られたソフィーヤはどうなるのか
て感じで書いてみました。これってダークになりますか?
しかも慟哭って…「一晩中泣いて〜」(そんなに泣いてません)
それ以前になんですかねこれ。cube様、マジで申し訳ありません!!
陳謝いたします。
リクエストありがとうございましたvv