第二話 まわり始めたコマ
突然!! トータス・フライヤーの全ランプが
真っ赤な光を放ち、ブザー音が激しくコックピット内を駆けめぐり
すべてのモニターに、リターンの文字が表示された。
「なんや お前いろたらあかんもん いろたやろ」耳を押さえながら
光が隣の席の走一に、ブサー音に負けない声で怒鳴った!!
「何も 触ってないっすよ」「あんたじゃないんすっか」口をとがらしながら
反論するように光に怒り返した。
いっこうに鳴りつづけ、止まろうとする気配のない、ブサー音
激しく点滅しだすリターンの文字
二人の視線が、激しく点滅する、リターンの文字に同時に向かい、
一瞬二人は目を合した。
操縦かんを、引きながら、右に回した、まったく同時に、二人共
同じ動作をした。
まるで、ツバメが旋回するように、すーーーと、イタリヤの上空
5000メートルの位置で、トータス・フライヤーは、行き先を
一週間前に旅立った、日本の方向に変えた。
緊張の空気がゆっくりとコックピット内にながれる。
光の視線は、真っ赤な光を放つランプに、走一の視線はリターンの文字が
激しく点滅するモニターに集中していた。
徐々に、コックピット内のブサー音が、弱まっていく。
真っ赤なランプと、点滅する文字は以前そのまま。
「緊急事態マニュアルっての、どこかにあるって言ってたな」独り言の
ように、つぶやきながら、座席を立ちあがりながら光は、ピンクの大きな熊のぬいぐるみが座っている、その席の後方に、ゆっくり足元に気をつけながら
むかって歩いた。
「このまま 日本に帰っていいんだな」走一の口から出た言葉は、光の意見を聞くつもりなく、断固とした意思を感じさせるものだった。
ガッツン 鈍い音が、走一の後方からから聞こえてき、その音に続いて
光のうめくような声がしてきた。
「何してんだよ」不機嫌そうに、走一が後ろに目線を向けた。
次の瞬間、黙って走一が、ポッケトから、ティシュを出して、A4サイズ程の
厚さ5センチはある、水色の樹脂で出来た箱のような物を持って、鼻血を出して、うずくまっていた光に、投げつけた。
「この おやじは ・・・」少しにやけながら、走一の口から、
その言葉が、無意識に出ていた。
箱のような物の片面は、ディスプレーになっており。普段はコックピット内の、どこかにセットされていて。緊急事態のみに、飛び出してくる品物で、
ここの会社、つまりベビー・キャットの実験機には、すべて積み込まれていて
創立以来、今まで一度も使った事が、ないと、入社時に、社長が繰り返し言っていた品物であった。
もしも、緊急事態になった場合、シートから5分間、離れずにと、
これも繰り返し、言われていた事であり。
なお、日本出発時にも、この言葉を、社長、副社長、整備主任、管制官
営業部長、さらに事務のおねーさんからも、言われていたのだった。
そのディスプレーに、文字が次々と表示されていった。
「なんて書いてあるんだよ」
「ちょっと まってや なんやねんこれわ」
戸惑いと怒すら感じられる言葉が、走一の耳に帰ってきた。
数秒後、コックピットのモニターに、ドイツに向かえという文字が
浮かび上がた。
ディスプレーの文字を、読み終えた光が、自分の掌を、その文字の
上に押し当て。そして、それを黙って、走一に差し出した。
「俺がかわるわ 自分で読んだ方がいいと思うで」
「話はそれからや 時間もあんまり、ないみたいやからな」
そう言って、光は操縦かんを握り、行き先をドイツに向けた。
体を小刻みに震わし、みけんにしわを寄せて、硬直した顔で
ディスプレーの文字に、見入っていた走一の顔が、光の方に向いた。
「しゃあないやろ」光の言葉には、どうしようもないという感情が
みちていた。
至急コックピット内のモニターの指示に従って行動すること!!
この文面が真っ先に現れて。数秒間点滅し、次の文字が表示された。
このような事態におちいった事に対して、会社及び、全社員より
一丸となり無事に帰ってこられる事を、願っております。
つきましては、もしなんらかの、非常事態により、生命を落とされた
場合、残されたご遺族に対して、出来うる限りの保障をお約束します。
1、見舞金として、一時金3000万円を、お支払いします。
2、100年間、毎月生活費とし、50万円遺族にお支払いします。
3、その他必要に応じ、金品及びその他の保障をお約束します。
4、今回の非常事態にあたり、怪我等を、おわれた方には
後遺症、及び、治療に対し、100年間の保障をお約束します。
なお、これらの、保障は以後の行動を、会社の指示に従った場合のみに支払われます。
同意される方は、てのひらを、このディスプレーに3秒間押し当てください。
なお同意された方におきましては、会社の全力をかけて命を保護する事を
約束します。
会社からの指示は、おって、表示されます。
じろりと、光の方を見て、納得したように
走一がてのひらを、あてた・・・・
チクッリと、するどい痛みを感じた。
光が、自分のてのひらを、走一の方に向けた。
掌から、少し出血していた。
「血の検査もあるみたいやで」「うそうそ 生理やねん」
(一言言っとけよ)光に言いたかったが、光なりの場の雰囲気を
なごますために出た言葉だろうと、口には出さなかった。が
光の本心は、こんな状況で、俺だけ痛いのも、腹立たしかったからである。
痛みというのは、覚悟が出来ていたのなら、ある程度がまんもできるものなのである。
「お前ついでに、性病の検査もしてもろたらどうや」
むかついた、この能天気のおやじが、と言い返したがったか、それも
あほらしく思えて。
「DNA 検査だろう」とだけ言い返した。
急にまじめに「心配すんな お前だけは なんとしても生きて
帰したるさかいな」そう言いながら、照れくさそうに光は、走一から
ディスプレーの付いた、緊急命令書を自分の元に引き寄せた。
コックピットから見える景色は、いい天気だった。
同時刻、民間会社ベビーキャトの研究施設ジャック
施設内に滑走路があり、管制塔の横に研究施設兼用の格納庫があり。
ジャンボ旅客機が、収納出切る大きさがあった。
普段は、ここで、約12名ほどの研究員職員が働いている。
今は、タイガーと、呼ばれてる男と、その部下であろう兵士4名が、ここジャックを占拠している。
タイガーと、一人の兵士が滑走路に向かって歩いている。
兵士は白衣を着ながらタイガーの言葉に、笑いを浮かべている。
「寂しくないように、全員一室に集めてやっただろうな」
「そうか でも、雑談はしないか」「喋りたくても 喋れんわな」
ククク低いタイガーの笑いが、滑走路を走った。
時刻は4時半を回っていた。季節は夏。日は、まだ、まぶしかった。
一人の兵士が、慌ててタイガーの元に駆けよって来る。
「ここに入ってくる配線は全部切ったな」
「ハイ!! すべて」
眉間に少し、しわを寄せタイガーが、白衣を着た兵士に
急いで、全員ここから撤収させろとの命礼を下した。白衣の兵士と
駆けている兵士と入れ替わった。
「つい先ほど 例のターゲットが方向を変えました」
管制塔の下で、白衣を着た兵士と残りの兵士が、ざわめきながら、施設内から
2台のジープを引っ張り出して。一台はそのまま研究施設の外に
一台がタイガーの方に向かって走って来た。
タイガーが、そのジープに向かい、走りだし、兵士もその動きに
同調するように、一緒にかけ出した。
2人と一台がすれ違った時、タイガーと、兵士がふわっと、宙に舞い
次の瞬間、2人はジープの後部座席に、座っていた。
ジープはそのまま、スピードを上げ、施設から離れた。
4分後、突然施設から、轟音を上げ、炎が空へと噴出した。
二台のジープは、平行に走っていた。
通信機を使い、今までの、状況を報告し終えた。タイガーが
行き先を指差した。
方向は、トータス・フライヤーがいる方だった。
兵士が、納得いかないような顔でタイガーを見た。なにやら
聞きたそうな顔をしている。
にやっと、笑いながら、タイガーの口がゆっくり開いた。
納得いかなそうな兵士は、弁当を食べろといわれた、新入りの兵士だった。
質問は二つあった。
一つ目は、すべての配線を切ったのに、なぜトラップが作動したのか
二つ目は、本部の命令では、別の部隊が捕獲に動いたのに、なぜ命令を
無視し、捕獲に向かうかの事だった。
「占いだよ」「それに 少しぐらい寄り道しても、怒られないからな」
二つ目の問いにだけ答え。後は手に持った、コインを眺めていた。
不満そうな顔をしながら「ハイ!! 解りました」と返事を返すと。
ジープを運転してる兵士が、ゆくっりとした口調でトラップの説明をしだした。
ある特別な電波が、定時にジャックから発信されていて、それが、ある回数
以上発信されなくなった場合作動するしくみになっていたのだった。
ジープには、ジャックから持ち出した資料が積んであった。
そのトラップに気が付いたのは、時間にして、彼らが研究施設ジャックから
脱出した後。トラップの内容を理解したのは、それらの資料を見てからだった。
「タイガーの指示に従えば、俺達は死なないさ」兵士は、そう言って
アクセルを少し踏み込んだ。