第三話 猛禽類
少年が空を見上げていた。
我が物顔で大空を、4機の戦闘機が轟音を吐きながら、流星のごとく
駆けて行く姿に目を奪われていた。
MiG S-A13戦闘機 パンプキン 全長25m大気圏内ぎりぎりの、超高度での
戦闘が可能な機体である。巡航速度は最高マッハ2.4
武装は対空ミサイルが左右の翼に3発、対地ミサイルが腹部に4発、4砲身ガトリング砲が2門。全域対応の万能型の戦闘機である。
その翼には、曼荼羅(まんだら)模様が描かれている。
彼ら向かっている、遥かかなたには、トータス・フライヤーが、マッハ1の速度でドイツの方に向かって飛んでいた。
「このまま 無事に行けると思うか?」「機体か? 俺らの命か?」
走一の疑問に対して、光が疑問で返した。
「両方か」時間を置く間もなく、自分で出した疑問に、答えた。
走一が、大きなピンクの熊のぬいぐるみを、ちらっと見て、ゆっくり
目を閉じた。目尻から、すーと涙が出ていた。(もう会えないかもね)頭の中で
遠く離れた日本に居る、愛する娘、亜由美対して言った言葉だった。
「俺の先祖 宮本武蔵なんやで」「大丈夫 亜由美ちゃんに会えるって」
「ちゅうても、武蔵野の子孫なんて、ようさんおるし」
「ま、会社も助けたる ちゅうてるわけやしな」
プッっと、走一が、笑いを噴きだした。
「何がおかしいんで」けげんな顔をした光に対してクククと
今度は声を出して走一は笑った。
普段何か有るたびに、光は口癖のように、会社なんか信用できんと、言っている男であった。以前こういう事が会社の中で、起こったのであった。
それは、前々から、ごまをすって上司にとりいっていた社員が、自分のミスを、光に押し付け、上司もそれを信用し、光を詰問し、身に覚えの無い事だと
釈明したら。 いい訳をするな、会社はすべてを把握していると言われ。
なおかつ釈明したら、自宅謹慎一月の上、3ヶ月給料10%カットと告知されたのであった。 ミスが、あまりにも大きかったので、調査に入ってきた課の調べで、10日後、光の濡れ衣は晴らされたのだったが。
その後が、いけなかった。上司と、その社員は会社から1ヶ月、給料15%カットの社命を受けたのだが、悪びれずに、食堂で、別の社員達に、宮本(光)の恩知らずと。みずからの非は、ないように言っていったのだった。
もちろん、光に対して、何も恩を感じさせるような事は一度もした事は、なく、飯や、飲みに、連れて行ってやった事も、ない二人だった。
たまたま、光が食堂にいて、その言葉を聞いて頭にき、二人に罵声を浴びせかけ挑発し、手を出させた上で、正当防衛と言って。叩きのめしたのだった。
その以来、「会社なんか信用できん」と言うのが口癖のようになっていたのだった。 で、その後、人事異動によって、今の部署に移り、走一と組む事になったのだが。 本人は、今だに例の事件によってだっと考えているし、会社のほとんどの職員も、そう思っていた。・・・・真相は・・・明かされる事のないはずだったのだが・・・・・・
トータス・フライヤーのレーダーに4つの機影がうつり、ぐんぐん
こちらに近づいて来ている。
二人は、それに気づいたのだが、どうする手段もなく
二人同時に「もしかして 領空侵犯したのかな」と言うぐらいの事だった。
数分後、トータス・フライヤーの四方を、4機の戦闘機MiG S-A13パンプキンが囲んでいた。
「無線機や とりあえず 言うだけ言うてみようや」閃いたように叫んだ。
走一がジェスチャーで、答えた。「うそや」光は、走一のジェスチャーに対して、半べそを、かきながら、その答えを否定した。
無線機は、非常警報が鳴った直後から、使用不能になっていたのだった。
コックピットから見える、右側の戦闘機が、左の主翼を、なんどか傾けた。
おとなしく、言う事を聞けとの、合図のようだ。それに続いて、後方の二機から、ガトリング砲の威嚇射撃があった。
「どうする」「ゆうこと聞くしか ないんちゃうか」
「領空侵犯だけやったら どない転んでも、死刑はないやろう」
「だな 」すっとトータス・フライヤーは速度を落とした。
その様子を見て、4機の戦闘機のパイロットも、一瞬安心した顔を示した。
「まっ これで亜由美ちゃんに、生きて会えるわな」
二人にも、ひとまず安心した空気が流れた。
「少しだけだったけど なんか、映画みたいな時間だったよな」
35歳の男の言う言葉に、なんらかの安心感をいだいて、無意識にでた、走一の心からの一声だった。
ほんの一時の、安心した時間は、次の瞬間、コックピット内に、流れてきた
女の声で、音もなく、くずれた。
「指定ポイントに、何があっても、着陸しなさい」「さもないと撃墜する」
通信が終わった瞬間、トータス・フライヤーを囲んでいた、右後方のMiG S-13
パンプキンが、轟音を放ち空中で、爆発し、その断片が放物線を描きながら
地上に落ち去っていった。
音はいつ聞こえたのだろう。その機体が、トータス・フライヤーの
横を通過してからだろうか。それとも通過する、前に聞こえたのだろうか。
全身を真っ赤で、染め上げていた。機体が、残した残像と機体の色とが
あわさって、その通り道が、炎が走ったように見えた。
FB-V 203戦闘機ピスケス 全長20m 45_機関砲を6門
下腹部に対空ロケット、熱対応誘導ミサイルを6基
巡航速度マッハ3.2 対戦闘機用の機体 機体は全身を真っ赤で
染め上げている。
その望まれない、来客によって、彼らの同僚は、この世から、消え去った。
散開。3機となったMiG S-A13パンプキンは、爆発と共に、その行動をとり。
そのうちの一機が、急上昇し、残りの2機が、FB-V203 ピスケスを、挟み込むように方向を変えた。
その姿は、大型の猛禽類の姿に、光と走一の目に映って、目を離すことが、出来なかった。
夕日をバックに、4匹の、猛禽類が激しく交差する。
赤い猛禽類の、頭上から一羽の、翼に刺青を入れた猛禽類が、襲いかかる。
火を吐いた。4砲身ガトリングが、赤い猛禽類に向かって、発射された。
その赤い大きな体では、避ける事は出来ない程の銃弾が、一発もかする事も無く、赤い猛禽類の体をすり抜けて行く。まっすぐに、機体を立てていた。
そうする事によって、面積を減らし、銃弾を、避けたのだった。
「機体を立て直せ 地面に突っ込む気か!!」仲間のパイロットの声に、自分の意識を取り戻した。
「あんな芸当が、出切るものなのか」悪夢でも見ているかのように、その言葉を、つぶやいた。
仲間の無線が、聞こえる、内容は同じ事の繰り返しだった。
「ロック出来ない」「ミサイルのロックが 出来ない」
三羽の猛禽類は、たった一羽の、赤い猛禽類の前に、まるで、初めて、空を飛んだ若鳥のようになっていた。
容赦なく、赤い猛禽類が、彼らに襲いかかる。
「お前達にも、爪はあるんだろう」FB-V203 ピスケスのコックピットで
全身赤い戦闘スーツを羽織った。パイロットの口から、言葉が漏れた。
赤い猛禽類が、襲いかかる。「上だ!!上空に逃げろ!!」「ピスケスは・・・」
すべての言葉を言い終わる前に。
何かを伝えようとした男は機体と共に空に散っていった。
急に、赤い猛禽類が、くちばしを、トース・フライヤーに向けた。
吼えた!!正確には、吼えたように聞こえたのだ。
すれ違いざまに、FB-V203ピスケスは、そのジェットエンジンを
めいいっぱいふかしたのだった。
轟音に、光と走一は、意識を現実に戻したのだった。
トータス・フライヤーは、その高度を下げた。高度1千メートルあたりに
黒煙が立ち込めていた。突っ込めば視界がふさがれる。
「突っ込む?」眉間に皺を寄せ、光の方に、顔を向けた。
「撃たれて 死ぬ」その光の疑問ともいえる答えに。二人の覚悟はきまった。
トータス・フライヤーは、吸い込まれるように、黒煙の中に消えていった。
その姿を見、MiG S-A13 パンプキンが、後を追うように、空中で急旋回し、
獲物に襲いかかろうとした。
対空ロケット砲が空中に描く線が、赤い猛禽類の存在を、再び実感さした。
もう一発、FB-V203ピスケスの下腹部から、発射された。
空中で二発にロケット砲弾が、花火のように空中に模様を描いた。
振動が二羽の猛禽類に、ふりかかった。
「くそっ」本来の彼らの目的であるトータス・フラヤーを追いかける事が
出来ないばかりか、自らの命が危うくなっている事に対しての、焦りから出た
言葉だった。
三羽の猛禽類が、美しい放物線を、夕日で美しく染められたキャンバスに
描き続けている。 それはまるで、芸術作品のようでもあった。
時間にして5分程過ぎた時、その作品に、もう一本の線が、黒煙より現れた。
ずんぐりとした緑の体を持った物によって描かれた。
「出てきたぞ!!」「なんとか 赤いのをどうにかしないと」
緑の機体は、三羽の猛禽類から逃げようと、速度を増した。
赤い猛禽類が、彼らの行く手を阻むように、ロケット砲弾を空中に
一つほうり出した。 奇妙な絵柄が写し出された。
それは、MiG S-A13パンプキンの翼に、ロケット砲弾に突き刺さっていたのだった。 不発。ロケット砲弾は爆発しなかった。
翼に傷を負った猛禽類は、以前の用に、美しく舞う事ができなくなっていたが、その速度をなんとか維持していた。
傷ついた、猛禽類がいつまでも。大空を駆けることを許されるほど
時間は優しくなかった。
死の影を、赤い猛禽類が運んできた。
死はすべてのものに平等に与えられる。誰かが言った言葉だ。
FB-V203ピスケスが、再び、くちばしを、緑の機体に向けるために
旋回した。 その時、視界が一瞬、先ほど撃墜した機体が吐き出した煙によって、奪われた。
黒煙を振り払った時、赤い猛禽類の後ろに、仲間を失い、たった一羽になった、翼に曼荼羅の入った、残された猛禽類がへばりついていた。
コックピット内のアラームが鳴り響いた。ミサイルロックの音だ。
血が舞った!!真っ赤な機体FB-V203ピスケスの右の翼が、無残にも砕けそして、その肉片を空に撒き散らしたのだった。
シュッバ 火花を散らし、曼荼羅模様の翼の下から、対空ミサイルが
翼を無くしたFB-V203ピスケスに向かい放たれた。
黒煙に向かって落ちていく、赤い猛禽類に、止めを刺すように。
轟音と共に、爆発した。黒煙の一部が、爆風によって、一瞬消し飛ばされた。
その隙間から、何かが見えたようだったが。
大空を自分の物に取り戻した猛禽類は、目もくれることなく緑の機体を
追いかけて行った。