第四話 獣 前編
空が徐々に漆黒の闇に、包まれていく。
黒煙が、かぶさっているその下の地面は木々で覆い茂っていた。
一部分だけ、広場になっているような場所があった。
そこに、全身緑の機体トータス・フライヤーが静かにたたずんでいた。
パチ パチ 焚き火から、音が聞こえる
光と走一が、トータス・フライヤーの横で、焚き火を焚いていた。
ここに着陸した時から、エンジンが停止し、復旧もままならない状態になっていた。 通常のエンジンなら、何とかなったのだろうが。
今まで現存したことの新型エンジンであり。なおかつ、すべての回路が
完璧に封印されていたのだった。
それに伴い、電気系統も停止、開閉ハッチのみ、開けることだけできた。
光が、尻を走一の方に向けて、パンツをはき変えていた。
さっきまでの、戦闘で思わず漏らしたのだ。 焚き火の周りに下着が乾してあった。
ついでにと、光がまとめてあったものを、洗濯したのだった。 「タオルぐらい 巻きなよ」「セクシーやろ」二人が馬鹿な会話を交わしていた時、下半身裸の光の前に、赤い戦闘服着た。長い金髪の、割といい女が、現れた。 「・・・・・・・」「・・・・・・・」「・・・・・・」
FH-66 コング 消音装置内蔵型 戦闘へリ全長16m 最大速度550q/h
30_機関砲1門 対地ロケットランチャー4基搭載
が、ジープを一台吊り下げ、音を消しながら、飛行していた。
パイロット二名の他に、5名搭乗していた。
オールバックにサングラス姿の男、タイガーが、その中にいた。
例の新入りの兵士は、釈然としてなかった。
本来、彼らの任務は、戦闘機部隊に連絡をとった時点で終了だったのだ。
それを、このタイガーという男は、本部に連絡し、ヘリを用意させて、
トータス・フライヤーが、一瞬、行方をくらましたポイント。
三機の撃墜されたMiG S-A13パンプキンのブラック・ボックスを回収するという任務を、わざわざ買って出た事に対して納得できないでいたのだ。
「セイレーンを知っているか?」釈然としていない、新入りの兵士に、隣に
掛けている兵士が、ボソボソっと、話しかけてきた。
その言葉を聞いて、新入りの兵士の顔が、青ざめた。
赤い色を好み、出会った者の大半は死ぬと言われている女傭兵
「ふ〜〜ん名前ぐらいは知っているんだな」「まあ、うちに転属届け出して
認められるぐらいだからな」新入りの兵士をからかうように、他の兵士達が
言葉を吐いた。
妙な空気が、ヘリの中に漂っていた。緊張と興奮、それに狂喜が入り混じったような。「ニューハーフかもよ」ジョークを言いながら、兵士達が、口にコカの葉(麻薬の一種)を含んだ。
「銃は使うなよ」「やつらの事だ、あれにどんな安全装置を付けてるかもしれんからな」タイガーの言葉に全員気合を入れなおした。
ホーホー ふくろうの鳴き声がどこからか聞こえてくる。
今だにトータス・フライヤーは沈黙を続けていた。
赤い戦闘服を着た金髪のいい女は自分を、村雨 ミユキと名乗った。
彼らが勤めている会社ベビーキャットの親会社、総合機械開発機構アームズの
社員で、こういった非常時に対応する カ カ リ だと説明した。
じろじろと走一が、ミユキの方をさっきから、見ている。
「あんた 二世か?」「それとも染めてるんか?」
走一が、さっきから、じろじろ見ていたのは、それが気になっての事だった。
その様子を、我慢できなくて、光が聞いた。
父親がアメリカ人で、母親が日本人だと答え。ミユキも光に質問した。
下半身裸で、何をしていたのかと。
ミユキが、二人に出会って初めにした事は、自分はアームズの社員だと
名乗ったこと。次に彼女は、コックピットに、乗り込み、A4サイズの水色の
樹脂で出来た、光を攻撃した例のディスプレーを取り出し、それに、ポケットから取り出したCDを上に載せて、もう一度セットしなおした事だった。
「後、30分もすれば 復旧できるわ」ミユキがそう言いながら、コックピットから降りて着た。
そうして、三人で焚き火に当っていのだった。
光と走一には、何かの安全装置を解除したのだろうと容易に考えが及んだし
疑問に思っている事を、下手に聞いて、これ以上やっかいな事に巻き込まれたくなかったので、黙っていたのだったが。
20分も過ぎたころ、たまたま走一が、ミユキの髪に目がとまり
なんとはなしに、気になり出し。
それに気が付いた光も、じろじろ見ている走一の態度に、何か
いらいらしだし、聞いたのだった。
「ちびったんや」ちいさな声で答えた。
「あ〜〜もう ちびらんように 小便してくるわ」
さっきの自分の答えを掻き消すように、わざとらしく大きな声で言い
林の方に歩いて行った。
もう辺りは、かなり薄暗くなっていた。月明かりだけが
唯一のたよりだった。
「あ〜〜〜」意味もない言葉が光の口から漏れた。
「泣きそう」「なんで こんな外国まで来て」「それも こんな知らんとこで」
ぶつぶつ言いながら、小便をしていると、背後で人の気配がした。
「あの女どう思う」「俺の手乗りインコ、絶対見られたわ」
向こうを見たまま人影に話しかけた。
いつもの走一の反応が無いので、首だけ後ろを向いた。
オールバックの身長2メーター程の長身のスーツを着た男が
そこに立っていた。
「こんな所に隠れるなよ」「おかげでスーツが傷だらけだぜ」
タイガーの上着のポケットには愛用のサングラスが折りたたんで
しまってあった。
タイガーの後ろに4名の戦闘服に身を包んだ兵士が立っていた。
(絶対最悪の状況やんか)(夢だったら、いいのにね〜)泣きそうになりながら
頭の中に、なんども同じ言葉が繰り返し繰り返しこだましていた。
すっとタイガーが、距離を縮めて、トータス・フライヤーの場所を聞いた。
タイガーの後ろで4名の部下がにやついてた。
きらっと、例のナイフが月明かりに反射してひかった。
「こっちをむけよ」新入りの兵士が、ここぞとばかりに、光の肩をつかみ
タイガーの方に向けた。
いやな物がタイガーのスーツにかかった。
始めたばかりだったらしく、量もそれなりにあった。
「さあ 終わったんだろう」「さっさとしまって 案内しろよ」
以外にタイガーは平然としていた。・・・ように見えた。
パン 乾いた音がし兵士の一人が地べたに倒れた。
ドサッ 倒れる音がする瞬間、タイガーが光を羽交い絞めにし、ナイフを
ポケットにしまいこんだ。
興奮して、人質である光を、あやまって殺害しないために自分なりに考えた対処方だった。
「貴様らは、出しとけよ」部下にナイフを抜いて構えておくように指示した。
乾いた音はしなかった。
(やはり 奴か)タイガーは頭の中でつぶやいた。口元に笑みを浮かべた。
兵士がタイガーの方を見た。
「もう発砲はないさ」「では やはりセイレーンですか」
疑問であり答えでもあった。 撃たれた兵士は、生きていた。
弾があたった場所は、左の膝だった。痛みは麻薬によって麻痺していた。
悲鳴は出さなかった。出せば自分の場所を相手に知らせる事になるからだ。
銃を発砲したのは、ミユキだった。側には誰もいない。
次に彼女がした事は、腕時計で時間を確認した事だった。
(間に合った)そう心の中でつぶやいた。
ジジジジゆっくり音をたてて、光のズボンのチャックがあがっていく。
「帰れ」新入りの兵士にタイガーが言った。
無視した、いや拒否した、新入りの兵士はタイガーの部隊に転属されるまでは
彼らの組織でもエリート部隊と呼ばれている所に所属していた。
様々な、困難な任務をもクリヤーし、部隊内でも非常に高い評価を受けていた。 そんな彼が偶然タイガーの事を知り。自分より非常に高い評価を得ていた事に不満を感じ、転属願いを出したのだった。 当初、研究施設制圧に対しては、タイガーのあまりにも残酷さに思わず呑まれて、当初の自分の思惑を忘れてしまっていたのだが。
追加任務、さらに自分に対しての仲間からの侮辱とも言える言葉
そしてタイガーの帰れとの言葉が、彼の当初の目的を思い出させたのだった。
さっきまで、おどおどしていた彼の姿が見る見る自信に溢れだし
勇敢な兵士の、いや戦士の姿に変化していった。
「セイレーンと戦った事はあるのですか?部隊長!!」「いいや これがはじめてだよ」 嫌な笑みをし「自分はリヤー少尉であります」そう言うと一人
林の中に音も無く消えていった。
タイガーの部下が何か話しかけようとしたが。それを制するように
ナイフを取り出し、撃たれた部下の足から弾を抜き出してやった。
「奴が別行動しだしら ほっとけと命令を受けているんだ」
そう言いながら手当てを続けた。
光は顔をそむけていたが、時折興味ありげに、治療の行為を見ていた。
リヤー少尉がタイガーの部隊に編成された時、タイガーは上官に編入条件として、行動を共にしない時、いつ、どこでも除隊さすという条件だった。
その条件をリヤー少尉も了解していた。
薄暗い林の中を、迷う事なく、すべてを知り尽くしているかのように
走っている。 臆病者め、うわさとは、そんな物か、彼は頭の中で呟いた。
ちっ 少し音がした。 躊躇なく音を消しながら、銃をとりだし安全装置をはずした。 ひぅ 風の音が聞こえた。 何も見当たらない。
が いる 確実にそこに何かいる
リヤー少尉の経験が、彼に語った。落ち着いていた。
いくつもの修羅場をくぐり抜けた。なんども視線を越えた。
一人で一個中隊と戦った事も、なんどかあった。自信、経験と訓練により得た
技術。
ズザッ 後ろに飛んだ!!
なにかが、自分の目の前を通り過ぎた。目には見えなかったが、細いワイヤーのような物だと確信できた。
銃を自分の左方向に向けた。 引き金を引く! 止めた!! 引き金を引く指を止めた。 そこに霧状の何かが舞っていた。 気化性のガス! かすかに香る臭いによって、十分に判断できた。 もし発砲したのなら自分は炎にまかれていた。 にぶい痛みが銃を持っている右腕に走った。
蹴りが突き刺さっていた。掌がひろがり銃が空中に浮いた。
(後ろに)考えが頭の中をよぎった。ぐっ 後ろに飛ぶために体に力を少し
入れた。 ガツン 後頭部に鋭い痛みが走り意識を失いかけたが、ここで意識を失うとまずいと瞬間的に本能が働いた。 意識をその時失っていれば、リヤー少尉はもっと楽だったはずだった。 左腕で自分の体を防御しよとした。
「動かない」おもわず口から言葉が漏れた。
右のわき腹の前面に、にぶい痛みが3発続けてした。膝蹴りらしかった。
ポキ いやな感じの音が右の足の方から、体の中を伝って聞こえてきた。
見た。見てしまった。右ひざが反対に向いていた。膝を正面から思いっきり
蹴られれば折れるのだ。
「あんまり、いじめてやるなよ」意識が遠のく前にリヤー少尉の耳に、その言葉が聞こえた。 地べたに倒れこんだリヤー少尉の頭元にはボーリングの玉が転がっていた。
「相変わらずいい手際ね」林の中から、全身真っ赤の戦闘服に身を包んだ
ミユキが手に、黒色に染めた細いワイヤーを持って現れた。
3名、紺色に染めた戦闘服を着た屈強そうな兵士が、新たにこの場に現れた。
「あ〜〜あ 絶対玉ゆがんだな」3人のリーダー格らしい男が、ぶつくさいいながら、ボーリング玉を拾い上げ、もう一度、倒れこんでるリヤー少尉の頭におとした。
「あ ごめん手がすべった」部下が笑いを必死で押さえ込んでいた。