第5話
いつの時代も、国民に半永久的に秘密にされている国家の施設がある。
ドイツ、ベルリン郊外、農業開発研究施設、表向きにはそうなっている。
地下10メートルに、その施設の本来の姿があった。
E.U秘密戦略研究所、そこの格納庫で、トータス・フライヤーは改装を
受けていた。
彼らが、ここに到着したのは、現地時刻でAM2:00頃であった。
あれから、速度を落としロンドン方面に向かい、そこから
海岸線沿いに、ぎりぎりの高さで飛行しこの基地に到着した。
到着してすぐに、走一と光は寝室に案内されシャワーも浴びずに
泥のように深い眠りについた。
翌日、二人はAM10:00に、起こされシャワーを浴びた後、医療室らしい所に
案内され、説明もないまま、さまざまな検査をされた。
普段の二人なら、説明を相手に求め、文句の一つでも言っているはずなのだが、昨夜からの事件のおかげで、心身共に疲労こんぱいの状態だったのだ。
検査は3時間程かかった、終了後二人は、何か得体の知れない注射をされ
応接室の様な所に連れて行かれ、3人がけのソファーに一人ずつ座らせられた。
数秒もしないうちに、彼らは眠りに入ったが。眠る前に机の上に置いてあった、置き時計の針がAM11:40分だったのをなぜかしら無意識に確認していた。
コーヒーの良い香りに目が覚めた。
すこぶる体の調子が良かった。たっぷり休息したような感じだった。
置時計の針はPM1:15分を指していた。
奇妙な感覚だった。10時間以上は寝た感じがしていたし、体から全身の疲れが完全に抜け落ちていて、頭の中もいやにすっきりしていた。
「さっきの注射やろう」走一の疑問に答えるように光が言葉を落とした。
二人の前には、ここの責任者らしい男がシートに腰掛けていた。
彼は、二人にニッコリと微笑むと、黙って部屋を出て行き入れ替わりに
ミユキが入ってきた。
いくらかの安心感が、二人の緊張感を和らげた。
彼女から残酷な言葉を聞くまでは・・・・・・・・・
「曼荼羅それが、あなた達を狙った組織の名称よ」「貴方達とトータス・フライヤーを奪うまであきらめないわ」淡々とミユキの口から語られ始めた。
「生き残るためには、ここでトレーニングを8日間受けてもらう」
「おいおい、俺ならなんとか、体力があるからいけても」「光さんは、35だぜ
体力的に無理だぜ」冗談ではなく、真剣な問題だった。
この場から今すぐにも、逃げ出したい気持ちが光の顔から出ていた。
「心配はいらないわ」「体力が無くなった時点で栄養剤をうつから」
「効き目は体感してもらってるでしょう」
そっけなく、無表情に淡々と、かわらずに答えているミユキの言葉を
さえぎるように、走一が軽く光の肩を軽く叩いた。
無言の意思のそつうだった。心配いらないよ俺がなんとかしてやるという
走一の気持ちだった。
「自由時間と練習場所」「それに練習用に台になる人間は借りれるのかい?」
「朝8時から夕方6時までが、こちらの時間よ」「いる物は出来る限り用意させてもらうわ」その言葉に走一の瞳が凛と輝きを放った。
「また奴は来るんだろう」走一の言葉にミユキは、彼らが何か知らずの因縁があるという事を、確実なものにした。
「俺が空手の世界選手権で2位だったてのは、知ってるよな」
ミユキに対しての言葉でありながら、言葉は光に向けて話していた。
「決勝前に控え室で、誰かに襲われて出れなかったって、話だったな」
「そうそれで2位」「ま、入院先で・・・この話は違うか」
言い終わると、ドアのノブを握りクルット回し引いた。
「光さん、先に行っとくわ」「案内は立ち聞きしてる、さっきの人にしてもらうから」
部屋には、ミユキと光の二人だけが残った。
まるで自分だけ何かに取り残された、そんな感じが光の心を包みこんだ気がした。
「ずいぶん雰囲気が変わったね 彼」
「あの背の高い男、ナイフであんたを切りつけた男って」「知り合いか?」
部屋に設置してあるコーヒーメーカーから、二杯のコーヒーを取り出し
「カフェオレでいい?」そう言って光に一杯を差し出した。
黙って、ミユキと光は口にコーヒーを運んだ。 「すべてを知りたい」「それとも」カップを机の上に置きながら
光の方に背を向けて言葉、選択肢を投げ出した。
「推測、それとも沈黙どちらがいいんや?」
「推測の方が興味あるわね」ミユキはさっきまで走一が寝ていたシートに
軽く腰掛け、光の目をじっとみた。
「いいわ」「なんしか、走一が日本に生きて帰れたらいいから」
そう言って残りのコーヒーを一気に飲み干した。
ミユキの目線から逃げるための手段だった。
「知りたくは無いの」「人間知らん方がいい事ってあるやろう」
「狙いはフライヤーよ、あなたの推測道理だった?」
光にとって嫌な答えだった。
せっかく逃げ出した場所に再び引き戻された感じがした
それも以前より状況が悪化し。
「あなた達二人でないと、あの機体は動かないように設定されているわ」
「厳密に言うと、あのエンジンの起動、制御に必要って事」
「あれが、そうなんか」光の脳裏には、あのディスプレーに採血された出来事が、瞬間的に浮かんだ。
光がさっき飲み干した、カップに、再びカフェオレが注がれた。
いい香りが、部屋の中を漂った。
眉間にしわを寄せて、ミユキの目を睨んだ。ほんの1秒にもみたない時間
光の目線は、自分の姿が、揺れながら映っている、カフェオレの水面に
向かっていた。
「私達はあなた達を、無事に生かす為に全力をあげているの」
「その為には知ってもらわなければならない事もあるわけなの」
優しく、誰でも安心して心を許してしまう、そういう声のトーンだった。
この人の心を操る声、ボイスが、ミユキがセイレーンと呼ばれている理由の一つであった。
「理由とかは、もう何だっていいよ」
緊張した声で、光が言い出した。様子が少しおかしくなっていた。
ミユキのボイスを聞いてからだった。
一瞬、ミユキの中に、戸惑いが生まれた。
今まで、ボイスを使って、こういう状態になった事は、自分の能力に気ずき使い出してからはなかったのだ。
頭を軽く抑えながら、シートから立ち上がり。
自分のポケットから、手紙をとり出し、机の上に光は置いた。
「あいつの分かれた女房からなんや」「今でも走一の事心配してるんや」
「この、この仕事終わって帰ったら、ちゃんと話あいして」
光は右手で、右の顔半分抑えながら、脂汗を出しながら、必死で
しゃべっていた。
「もういっぺん家族で暮らすんや」「だから、あいつだけは生かして・・」
そこまで、言うと、意識を失って、その場に倒れた。
その様子を最後まで、黙って見ている事しかミユキには出来なかった。
ただ一つ、した事があった。
それは、手紙を他の職員が来るまでに、自分のポケットにしまいこんだことだった。
なぜかしら、手紙を走一に見せてはならないという気がしたからだった。
室内グラウンドで、走一と光がランニングをしていた。
あれから時間は3時間経過していた。
光が意識を取り戻すのに30分も経たなかった。
走一は光が意識を失った事は知らなかった。
ただ何かしらの話で光が来るのが遅れただけとしか考えてなかったし
今は、あの男タイガーを自らの手で打ちのめす事しか頭に無かったから。
グラウンドの端で、ミユキがぼんやりとトレーニング中の二人を眺めていた。
脳裏には、自分の幼い頃の記憶がゆっくりとよみがえっていた。
小学生、中学生時代、彼女は学生会長をしていた。
選挙に出て演説するその言葉に誰もが、安心感を覚え賛同していったのだった。
教師もPTA、大人達も例外ではなかった。
演説中、気分が悪くなり卒倒する生徒が何人かいたのだが、当時は誰も
その事に不信感を抱かなかった。ただ、貧血を起こした、その程度でのものだと考えていた。
ミユキに転機が訪れたのは、高校入学のクラスでの自己紹介の時だった。
自分の言葉が口から出るたびに奇妙な出来事が起こり出した。
最初に、兆候がでたのは担任の教師だった。ミユキの言葉に陶酔していったのだ。 そして自分の周りの生徒達が次々と同じようになっていった。
奇妙な感覚が自分の中で起こり出した。
どの人間が、私の言葉に従い、どの人間が私の言葉に恐怖を感じるのかが、手にとるように理解できたのだ。
恐怖を感じる人間に、声をかけ続ければどうなるのだろう、そう考え、じっとその相手を見つめて喋りつづけた。
その生徒が口から泡を吐き気絶した。それを見た何人かのミユキの言葉に恐怖を感じとった生徒が、顔を真っ青にし教室から逃げ出すように飛び出した。
教室の中は、奇妙な光景で覆われていた。
ミユキの言葉に陶酔した者は、彼女の言葉から離れる事ができず。
恐怖を感じたものは、逃げ出すか、気を失っていた。
異変はミユキの身にも、起き出してきた。
血管が浮き出して、全身からおびただしい量の汗が吹きだしていた。
言葉が止まらなかった。
自分の意思とは無関係に、次々と口から言葉が発せられ。
突然!!教室のドアが開き、黒いスーツ姿の男と両親が入ってきた。
「助けて、パパ、ママ」言葉にならない声を、頭の中でミユキが何回も
言い続けた。
黒いスーツ姿の男が、何か注射器の様な物をとり出し
ミユキの首の動脈に打ち込んだ。
次にミユキが気が付いたのは、病院だった。
目の前には両親と黒いスーツ姿の男がいた。ミユキのしてみれば
居てくれたのだ。
そこで初めて自分の能力の事を聞かされ、そして使い方を教わった。
中学時代までは同じ地域で、子供の時代から自分の無意識の能力になじんでいる人々の中で能力の発動だったので、しいて問題は起こらなかったのだが。
高校とういう、場所に来、初めて触れる人々に対しての能力の発動、それが暴走の引き金になったのだ。
「あれから、区別を間違うことはなかったのに」「彼からは恐怖は感じとれなかった」独り言を呟やいた。
「むしろボイスが効果のある人間よ」そう言うとミユキは室内グラウンドから、静かに出ていった。
手紙はまだミユキが持っていた。