第6話

 

 マレーシア半島に点在する小さな島の一つにも曼荼羅の基地は存在する。

曼荼羅、時代の影に必ず存在する死の商人たちの集合体の名称の一つ

時代そして人により呼び名は、さまざまに存在する。

 その組織に対を成すのが、ミユキが在籍している組織アームズの親会社

超大型企業ロジックである。

 今、この島にある基地に、タイガーは居た。

 イタリヤで走一と光、曼荼羅の目的であるトータス・フライヤーを奪い損なった後の時間にさかのぼって物語は進んで行く。

 輸送ヘリの中にタイガー達は居た。

膝を撃たれた部下とリヤー少佐は、治療を受け眠りについていた。

2名のパイロット、それに軍医と後1名スーツ姿の男が乗った輸送ヘリが

タイガー達を引き上げに来たのは、時間にしてあれから2時間ほど経過した頃だった。

 ヘリが到着し、最初にスーツ姿の男がタイガーに耳打ちした。

「やはり偽者だったか」ぽつりとつぶやくと、部下に指示し、負傷している

2名を先にヘリに乗せ続けて残りの部下を搭乗させた。

 ヘリの外にはタイガーとスーツ姿の男が残った。

ヘリのローターは回っている。

外に居る二人の会話は中に居る者にはまったく聞こえない。

リヤー少佐はタイガーの様子が気になって仕方が無かったのだが

麻酔が効いてきたらしく、頭がぼんやりしていき。

だんだんと意識が遠のいていった。

 タイガーともう一人の男はヘリの背中を向けお互いに夜空を見上げていた。「しばらく捕捉は出来ないと言った所が正直なとこです」

スーツ姿の男は、そう言いながら、胸ポケットからタバコを出し口にくわえた。

「もらえるか?」「何かいい事があったようですね」

「ああ。仕事より優先しそうだが」

 にこりと、微笑みながらスーツ姿の男はタバコを差し出した。

「君がここまで来たんだ面白い話でもあるんだろう」

タバコを加えながらタイガーは、空を見上げその男に話した。

 ジャッカル、スーツ姿の男は曼荼羅の中でそう呼ばれている。

両手の指は色とりどりのきらびやかな指輪で飾られ。髪は肩まで伸びており

唇は、真っ赤なルージュで綺麗に染めあげられていた。

「わかりますか」「こちらも面白い話ですけどね」

 「あの少尉がらみでかい?」「ま そういう所です」

夜空には、星が無数に輝いていた。

 曼荼羅の中にも権力争いは存在する、一枚岩ではないのだ。

参加している企業は自己の利益をなによりも優先させる。

その為の実行部隊としてタイガー達などが存在する。

 「で、これからの命令かい」そう言って右手を軽く握り親指だけを突き出した。

 「そうです、これからです」ジャッカルは同じしぐさをした。

 「君からうまく断ってくれないかい」「御仁はおっしゃられておりましたよ」

 「ご馳走だらけでタイガーは喜ぶと」

 言い終わるとニッコリと笑い、一枚の写真を胸ポケットから取り出した。

 黙ってタイガーは両目を閉じた。

 「彼も絡んできますよ」ジャッカルの言葉に、タイガーは軽い笑いを飛ばした。 写真には走一が写っていた。

 「それじゃあ断る理由がなくなったな」「御仁からの命令は」

 ヘリから3歩程離れた、目線は空を向いたままだった。

タイガーにゆっくり歩み寄りながら、くわえていたタバコを地面に吐き捨て

靴のそこで、難度も踏み潰し火を消しながらジャッカルは命令の内容を伝え出した。

 リヤー少佐の父親ネッド卿は、曼荼羅の中でもかなりの地位を獲得していた。

今回の曼荼羅がトータス・フライヤー奪取の計画も彼が打ち出した物だった。

彼には大きな野望があった。

 世界その物を自分の思うままに動かしたいと

当初はネッド卿も自己利益拡大とういう目的でいたのだが、組織での地位の向上、それに伴っての利益増大。

 やがて、そうした事がネッド卿に曼荼羅の力すべてを自分個人の物と錯覚させたのだった。

 「今回のプランはネッド卿からの物だってことは、君も知っているだろう」

 「らしいな」「その目的は?」

 ジャッカルの問いに、鼻で笑った。

 「君らしい、君は血と獲物があればいいのだからね」

 「飛行空母の完成が卿の目的だよ」

 一瞬タイガーは自分の耳を疑った。

それは空母程の巨大な物体が実際に空を飛行するという現実とはあまりに

かけ離れたものだったからだ。

 「それ程の力を持っているんですよ。あのエンジンは」 

 「むろん、あれ単体では飛びません」「あれが心臓部なんですよ」

 「装置はすでに完成されていて、後はあれ待ちという話なんです」

 ジャッカルの言葉は、タイガーが否定の言葉を喋り出すより先に出た。

 その方が余計な説明をしなくてすむというジャッカルなりの理論にしたがっての事だった。

 「そうか、で」そっけない返事を返しながら、タバコの煙を夜空に向かって

深々と吐き出した。

 「簡単ですよ」「その空母を一旦飛ばしてから、潰してくれればいいのです」

 「俺が飛ばすのかい」にやっとタイガーは、薄ら笑いを浮かべて、ヘリの方に向きをかえた。

 「俺一人の方が動きやすいんだが」「奴らには最近休みも取らしてなかったしな」遠めで部下達を眺めながら、つぶやくように言いはなった。

 「引き受けてもらえるのならね」

 「そのつもりだが、飛ばすのは面倒だな」

 「飛ばすのは、こっちで段取りしますよ」

 「そいつは助かるよ」言い終わると、タイガーは吸っていたタバコを

夜空に吐き出しだ。

 タバコがタイガーの頭の先から、地面に弧を描くように落下していった。

「理由は聞かないのですか」

「世の中バランスが大切だって事だろう」「その通りです」

 タバコが地面に着く前に粉々に砕け散った。

落ちる直前に、タイガーが蹴りを当てたのだった。

 「怖い怖い」冗談まじりにジャッカルが言った言葉に対して

ポツリとタイガー言葉を漏らした。

 「奴にはあたらんだろ〜〜な、こんな蹴りは」

ヘリはゆっくりと、この地を離れて行った。

 

豪華な応接間にタイガーは居た。

革張りの真っ赤な色の5人は座れそうな、ふかふかしたソファーに一人腰掛けていた。

 ソファーの前半分に自分の尻を乗せ、両腕を組んで肘を自分の膝の上に置き

顎を組んだ両手に乗せていた。

 部屋にはタイガー以外誰も居ない。

天井にはシャンデリアが吊るされ、床にはペルシャ絨毯がひかれており

タイガーが腰掛けているソファーの前には大理石で出来た丸いテーブルがあり

その向こう側には、タイガーが座っているのと同じソファーが置いてあった。

それ以外に部屋には、様々な美術品と装飾品が飾られてあった。

 タイガーは全身を真っ白なスーツで包み、腕には銀色一色の古臭い

デザインの時計を巻いていた。

 時計の時刻は、まもなく腕時計の針が4時を指そうとしていた。

(一時間か)横目で時計の針と文字盤を眺め、頭の中で呟いた。

コンコンと軽い音が部屋に響いた。

ドアの向こう側からノック音がし、ドアが音も立てずに

軽く開いた。

 ネット卿が、ゆっくりと部屋に入ってきた。

茶系の高級なスーツに樫の木で出来た杖をついていた。

頭は綺麗に禿げ上がっていたが、あごには立派な白い口まで被っている

髯をはやしていた。

 すっと、ソファーから腰を上げタイガーが、にっこりと会釈した。

 「ずいぶん待たせてしまったかね」

 「いいえ、これ程の美術品や装飾品に囲まれて時間が経つのを忘れていました」

 ネット卿がタイガーの腕の時計を見て、目を輝かして、ゆっくりと

うなずいた。

 「かけたまえ」

 ネット卿が、先にソファーに座り、その姿を確認してゆっくり

先程と同じように、椅子半分に腰掛けた。

 大理石で出来た丸いテーブルの上に置いてある銀のベルを

ネット卿が軽く振ると。

 部屋全体に、軽くそれでいて上品な金属音が鳴り響き

使用人らしき女性が、スコッチ・ウイスキーと色々な種類の入った

チョコレートのバスケットを運んできた。

 トクトクトクっと小気味いい音をたてて、ウイスキーがグラスに

そそがれていった。

 「いい趣味の時計だ」「うわさとはずいぶん違うようだが」

 「どのような噂をお聞きで?」

 ネット卿の前にウイスキーの入ったグラスが置かれ、続けて

タイガーの前にも同じ物が置かれた。

 女性がタイガーの目をすっと見て口を開いた

 「血と殺戮をとても好まれる男(かた)とお聞きしております」

思わず女性の方をチラッと見た。

 服装は間違いなく使用人の物だ。年齢は40前後、妙に色っぽい

 一瞬タイガーの口元がニヤっとしたのを、ネッド卿は見逃さなかった。

 「もう下がっていないさい」優しく女性にそう言うと、その女性は

二人に軽くおじぎをし部屋を出た。

 「妻と息子は未だに気付いてはおらんよ」「妻以上に尽くしてくれるよ」

 「いいのでは」

 ネッド卿がグラスを口に持って行くのと同時に、タイガーもグラスを

口に運んだ。

 いい香りがした。

同じ基地の別の部屋にリヤー少佐は居た。

つい30分ほど前まで、実の父親のネッド卿と会話をここでしていた。

椅子に大きく腰掛け、右足を自分の左足にからませ腕を組み、眉間に皺を寄せ

タイガーとネッド卿との会話の結果を色々予想していた。

 「気に入らないな」つぶやいた。

ネッド卿に組織から、タイガーを作戦に加えろとの通達があったのだ。

リヤー少佐は、その件に反対の意思を示した。

それは、さきの作戦中での自分の失態に係わっていた。

 自分自身の落ち度による失敗だったのを理解はしている。

タイガーの戦闘能力の高さも十分認める物がある。

自分の部隊に加われば部隊の力も上がる。だが、嫌だったのだ。

 コンコン部屋に軽いドアのノックの音が響いた。

部屋に入って来た人物に驚いた。

 そこに立っていたのはジャッカルだった。

 父からの連絡役はあの女性の役だったはずだった。

 「貴方が思っていた通りの結果ですよ」少しうつむき加減にジャッカルは

言葉を切り出した。

 リヤー少佐は、この男ジャッカルに対して好意をもっていた。

 「自由に行動させれば良いのですよ」「部下として使う気なら

それこそ統率がとれなくなりますから」

 「なるほど、そう言う使い方があるか・・・」

 「ジャッカル君にはいつも助けられるよ」「これからも頼むよ」

 リヤー少佐は笑顔を浮かべ、ジャッカルに握手しネッド卿とタイガーが

待っている部屋に向かった。

 ジャッカルは薄っすらと笑みを浮かべていた。

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