「またか」

 

その時そう思った。

だって私は『別れ』にも『新たな別れの始まり』にも飽きていたから。

 

 

smile as hard as possible.

 

                                               作:相馬 夏樹

 

 

私は父の仕事の手伝いがしたくてこの仕事に就いた。

父はレイヴンだった。

 

子供心に、大きなロボットを操り悪い奴等をやっつける、そんな父の事を強くかっこいい、と思ったのを覚えている。

まるでテレビのヒーローの様だった。

 

私もレイヴンになりたいと思った。

「危ないから」と母は反対した。

父も反対した。だけど理由は教えてくれなかった。

 

 

それから十数年が過ぎた。

私はレイヴンのサポートをするナビゲーターになった。

 

 

 

貴方を最初に目にしたのは、ナーヴス・コンコードのACガレージだった。

 

そのとき私は、更新されたIDカードを受け取りにコンコードの本部に来ていた。

コーヒーを片手に何気なく休憩室からガレージを見下ろしていると、なぜか一人のレイヴンに目が留まった。

 

理由は今でも分からない。

 

 

アセンブルされてゆく自分のACを、自信と希望に満ちた、『レイヴン』の顔で見上げている、その姿を。

それが貴方だった。

 

ちょうどそこに主任が入ってきて、初めてそれが今度の私の『パートナー』だと知らされた。

 

 

 

いつもと同じ、いつかは別れる事になる、仮初めの『パートナー』。

 

 

 

 

「はじめまして」

 

そう言って、あなたは笑顔とともに右手を差し出してきた。

 

あなたと初めて直接言葉を交わしたのは、私がサポートについて何度目かのミッションをこなしたあとだった。

『君に一度会ってみたいと言っているのだが』と主任から連絡が入り、私はガレージに呼び出された。

 

 

いつもならそんな申し出など即断るところだが、その時はなぜか断る気がしなかった。

どうせあと幾つかのミッションの後、永遠に会う事も通信を交わすこともなくなるというのに・・・・

 

 

あなたの第一印象は私の想像とは大分違っていた。

ミッションの最中、あなたからたびたび入る通信の声から想像されたのは、冷静で無愛想なレイヴンの姿。

 

だけど初めて会ったあなたは、温和な笑顔を浮かべ、あまつさえこの私に『右手』を差し出してきた。

私は少しだけ拍子抜けしその手を握りかえした。

 

あなたは口篭もりながらも『これからもよろしくお願いします』と言った。

私は冷淡に応えた。

 

「初めに言ったはずです。それはあなた次第だと」

「頑張ります」

 

頑張る? 何を呑気な事を。明日には死ぬかもしれないというのに。

こんな気の抜けたような人間にレイヴンが務まるのだろうか?

私はそう思った。

 

けれど悪い気はしなかった。

 

 

帰り際、カフェのガラスに映る私の顔はなぜだか少しだけ笑っているように見えた。

 

 

 

その後も彼は数々のミッションをこなしていった。

裏切り、罠、圧倒的不利。

当然のように訪れる死地の全てをことごとく切り抜けていった。

 

 

 

そんな彼の何に魅かれたのかはわからない。

 

いつからだっただろう、彼への『ナビゲート』が『心配』という気持ちに変わったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし、俺が今回のミッションをこなして戻ってきたら・・・・・・俺とデートをして下さい」

その時のあなたの瞳はとても穏やかだった。

 

 

私は訊ねた。

 

「戻ってくる自信は?」

 

あなたは答える。

 

「あなたが約束をしてくれるのなら、必ず」

 

 

私が一言「デートをしてあげる」といえば必ず戻ってくるというの?

相手はあのフライトナーズ。事態は深刻極まりない。

そしてバトルフィールドは「アウェイ」である。

何か選択を一つ間違えば大惨事になるこの状況下で、そんな事を彼は言う。

 

いや、言うにしてももう少し言葉を飾り立てればよいだろうに。

これから貴方が挑もうとするミッションの事を考えれば、少しくらいキザな台詞を言うのも許されるだろう。

 

だけど、なんとも貴方らしい言葉だと思った。

 

 

 

 

だから私はこう言った。

 

「『戻って』くるんじゃなくて『帰って』きて」

 

 

 

私は貴方にキスをした。

 

 

 

唇を離すと、あなたは自分の唇に指をあてたまま顔を赤くして目をパチクリさせていた。

そんなあなたを見て私はクスッっと笑った。

 

「いってらっしゃい」

 

それは何の飾りも無い、素直な言葉。私自身が驚くほどの。

あなたは私を見つめたまま暫らく呆けていたが、私が何を伝えたかったのかを察したのか、その表情を引き締めた。

そしてその引き締めた表情の中にわずかに笑顔を覗かせこう言った。

 

「行ってきます」

 

 

それは『レイヴン』ではない『あなた自身』の言葉。

私はそれに『ナビゲーター』ではない『私自身』の、今出来る最高の笑顔で返した。

 

 

 

 

 

私は連絡船に搭乗したあなたへ一通のメールを送った。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

発信者:ネル・オールター

受信者:あなたへ

 

本文:最高のレイヴンであるあなたへ、私からの依頼を送信します。

   全てを終えて私の元へ帰ってきてください。

 

成功条件:私の元への生還

成功報酬:私とのデート+成功結果から算出

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

そして私はメールの最後にこう、一文を付け足した。

 

 

『前払い報酬:私のファーストキス』

 

 

あなたがこれを読んでどんな顔をしているのかと思うと自然と笑いが込み上げてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方の死亡は確認されなかった。

それが意味するのは貴方の「生存」ではなく「行方不明」。

それも見つかる可能性の極めて低い事を意味するものであることは十分にわかっていた。

 

 

それでも私はなぜか悲しくなかった。

 

 

多分、初めて「還ってくる」事を約束してくれた人だからだろう。

だから信じていられる。

 

数週間後、その「予感」は的中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

貴方の、飾らない、笑顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい」

 

 

それに答える、私の、精一杯の笑顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の瞳は涙でいっぱいだった。

 

 

 

                                                      Fin

 

 

 

<あとがき>

と、いうわけで相馬初の小説です。

何が初かってーと、「人の目に触れるところに乗せるの」が初なわけです。

今までも何本か書いてるんですけどね。読み直すといまいちというかなんと言うか・・・・・。

 

で、今回思い切ってやってみたわけですよ。

今まで書いたストックの中からまともなのを何本かピックアップ。

その中からさらに書き直しがききそうなこれを選び、大幅な加筆(2倍以上)と更正をしてアップしてみたわけです。

 

もともとは「ネルの日記(ネル’sダイアリー)」ってタイトルで、日付とかが入っていて、その名の通り日記風味な小説でした。

変わり種なものだったのは確かなんですが、まあ文章力なんてない人間が出来る代物じゃなかったわけで・・・・。

で、こんな形になりました。

 

この小説についてはいろいろ語り足りないところもありますが、またそれはいつか。

では、今回はこの辺で。

 

                                                   2002年3月11日


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