天上界、天使がすむといわれている世界。結界が張ってあるためめったなことでは近づく事も出来ない、中にはいるなんてとうてい無理だろう。しかし今は違った。天上界に住む二人の幼い天使が悪魔達に襲われていた。この天使が棲んでいるところは天上界でも唯一天使が住まない場所というか普通の天使が近寄ることすら出来ない特別な場所だったため助けはいくら待っても来ることはなかった。

「おい!そっちにはいたか!」

「いや、コッチにハタイショウハいませン! シャドウサマ」

 天使の家の中であわただしい声が響き渡る。

「はぁ、はぁ……もう、ダメだよ、走れないよ……」

「諦めちゃダメだ! アリュエス。俺達が捕まったら魔王が復活しちまうんだぞ、そうなれば天上界はおろか地上まで奴に乗っ取られちまう」

「サリュートだけでも逃げて……僕だけが捕まっても、サリュートさえ捕まらなかったら……」

 それを聞いたサリュートが思いっきりアリュエスの頬を殴った。

「馬鹿野郎……俺だって、俺だって恐いよ……でも逃げなきゃ、俺達が逃げなきゃあいつが復活しちまうんだよ!」

 涙目でサリュートはアリュエスに言った。その時……「ウコケケケケケっ! みツケタゾ、ヒキさいてオマエらのちヲすすッてヤル!」

 二人に向かってどんどんと数匹の悪魔が近づいていく 「……い、いや…こ、こないで……」 恐怖で震えてアリュエスは動けなかった。

 それを見たサリュートは、意を決すると恐怖を振り払うかのように悪魔達へ右手を払う。

 右手の先から放たれた黒い炎が悪魔達を包む。渦巻、収束するその黒い炎の中で断末魔の悲鳴を上げる暇さえなく悪魔達は燃え尽きた。

 もう燃える媒体が無く、消えかかっている黒い炎を見据えながら、毒づく。

「ザコが、アリュエスに近づくな」

「ほう、完全に力は目覚めてないようだがなかなかのモノだな」 消えかかっている炎の向こうから、一人の悪魔が不気味な笑みを浮かべていった。

「オマエも、燃えろぉー!」黒い炎を繰り出す。悪魔は意外にもあっけなく黒い炎に包まれた。

「ぬるいな、この程度じゃ俺様を倒すことはできん」悪魔は一振りで自分を取り巻く黒い炎をかき消した。

「はあっ!」恐怖を振り払いアリュエスが腰に付けている剣を悪魔に向けて振った。

 悪魔はアリュエスの剣をいとも簡単に掴み、一気にアリュエスごと投げ飛ばした。「貴様がアリュエスか……うまそうな血だな。クックックッ」投げ飛ばされてできた怪我から真っ赤な血が滴り落ちていた。「痛っ」アリュエスは足に酷い激痛を感じた。

(こいつ……ただもんじゃない)

 ――こいつには勝てない――

 そう判断すると、サリュートは思いっきり地面を蹴りアリュエスを掴んだ。「良く聞けアリュエス、おまえを地上に降ろしてやる。必ず逃げ延びるんだ、わかったな……」

 サリュートはアリュエスに手をかざすとアリュエスから天使の翼が生えてきた。「これで飛べるはずだ俺の魔力を少しわけってやったんだからな……行け、後から絶対に迎えに行くから」サリュ−トは自分の魔力を最大限に高めそれを全て地面に叩きつける。

 収束された魔力は、すさまじい轟音を起てて厚さ400mはあるはずの天上界の一角を崩した。

 それにはさすがに、あの悪魔も驚愕の声を上げる。だが、最後の方は、喜悦さえ含んだ声だった。

「な、なんだと!? まさかここまで強力な力とは……! 必ず、必ず手に入れてやるぞ。貴様らの力を!」

 高笑いをあげながら、悪魔は影の中に消えていった。

「サリュ−ト、やだ、やだよぉー」アリュエスとサリュートの二人は崩れ落ちる地面――だったもの――と共に、地上へと落下していった。

 アリュエスは、その背中から生えた白い翼でゆっくりと。サリュートは、力つきたようにまっすぐに。

 もどかしいほどに遅い落下感の中で、どんどん小さくなっていくサリュートを見ながら、アリュエスは泣き叫び続けた。





 だが、ショックで気絶してしまったのかアリュエスは眠ったようにして天上界から落ちてくる。まるで空に舞う羽のようにゆっくりと。







 ミドガルズ大陸の南部に位置する小島に一つの小さな光は静かに誰にも気づかれることなく地上へと舞い降りた。







小説トップへ

次の話へ