(月ってさ綺麗だよな)

 ――……この人、誰?――銀色に薄い緑色がかかった繊細な髪、まだ小学生くらいの少年。服装は青いブレザーのような感じだった。

(うん、綺麗だね。お母さんみたいに白く光ってる♪)

 ――小さい頃の僕? でも、何で知らない人と僕は喋ってるの……それに、この人、僕にそっくり――

(そうだよな♪俺達もいつかあんなに綺麗に光れるようになるのかな?)

 ――何?この夢……頭が、痛いよ……――
 
 自分でも訳の分からない夢に不快感を感じ少年は目を覚ましベットから顔を上げベットからゆっくりと体を起こした。
  傍に掛けておいた服を取り、袖を通す。傍でぐっすりと眠っている少年を起こさないようにゆっくりと部屋のドアを閉める。薄暗く静まりかえった廊下を一歩ずつ確実に進み中庭へと出ていった。

「月が、出てる。まだそんな時間なんだ……」

 少年は夜の闇を白く照らす月を見つめながら何故か瞳いっぱいに涙をためていた。自分でも何故泣いているのかわからない――でもその白く光を放つ月が何か懐かしいそんな気がしていた。

「涙……どうして僕泣いてるんだろ……ただ月を見てるだけなのに…涙が、とまんない…」

   わからなかった。自分でも何故泣いているのか――あの変な夢のせい――しかしその夢がどんな夢だったか少年はもう思い出すことが出来なかった。

 やがて月はその姿を逃げるように隠し、その月を追いかけるかのようにして少しずつ太陽がその姿を現す。

「どうした? まるで泣いていたような顔してるじゃないか」

 後ろからいきなり声を掛けられ少年は思わず飛び上がった。

「い、いきなり声を掛けないでくださいよぉ、フォルシスさん!」

 後ろから声を掛けた少年は苦笑をしながらぶつぶつと独り言を呟くようにいった 「そんなにびっくりすることはないだろアヤ、人がせっかく声掛けてあげたのにさ、いきなり声掛けないでくださいなんて、あんまりだよなぁ」 近くに落ちていた小石を足の爪先で蹴った。

 その時、ものすごい轟音が城内に響き渡った。それと同時に無数の黒い物体が城の中次々とに入ってくる。その物体は、逃げまとうメイド達、轟音で駆けつけた兵士達を鋭く研がれた刀のような爪で次々と切り裂いていく。
「ま、まずい、悪魔だ! 早く王様に知らせないと」 アヤの手を引っ張りフォルシスは長い廊下を走り出した。その動きに反応するように悪魔達がアヤ達に襲いかかる 「邪魔なんだよ!」 フォルシスはリボルバー式の銃を構え悪魔達の目を確実に打ち抜いた。動かなくなった六匹の悪魔を跨いで王の寝室へと向かった。
 


 やっと寝室までたどり着きフォルシスがドアを蹴破る。目に飛び込んできた光景を二人は疑った。真っ赤な血で染められた部屋に横たわる王と王妃の姿、部屋の隅で血まみれになって気絶している少女、そして返り血をべっとりと浴び不気味な笑みを浮かべる男。
「ま、まさか、ルーン王が……き、貴様、いったい何者だ! 何故、王を殺した!?」男に銃を構える。

「俺様か?俺様の名はシャドウ」シャドウが手を振りかざすとフォルシスの周りに影が収束し邪悪な魔力で動きを封じる。

  「……あ、あ……」『シャドウ』その名前を聞いたとたんアヤが膝をついた。 ――な、何で、体が動かないの……あの人の名前を聞いたとたん、か、体が…動かないよ…――

(シャドウだと!あの魔王に付いていた四邪神の一人か……それにしても…すごい魔力だ……それになんだこの影?体が動かない、それに声も!)

 影に体を包み込まれフォルシスは完全に身動きがとれなくなってしまった。

 震えているアヤの姿に気が付き、シャドウは一気にアヤとの間合いを詰めアヤの髪を掴む。

「ほう、貴様……天魔天使アリュエスに似ているな?」

「い、痛っ、離して、離してよ!」必死にもがくがアヤの力などではびくともしなかった。

「似ているんじゃなくて本物なのよ。この子が天魔天使アリュエス、ハーディス様復活に必要な鍵の一つ」

 影からもう一人、悪魔姿を現した。ロングの銀髪、その銀をひときわ輝かすような褐色の肌、黒い服に身を包んだ美しい女性。とても悪魔と思うことは出来なかった。

「それは本当かカース……本当ならこいつの血はさぞかしうまいのだろうな」

 ニヤリと不気味な笑みを浮かべるとシャドウは鋭くとがった爪でアヤの肩を貫いた。綾が言葉では表すことの出来ないような悲鳴を上げる。シャドウは高笑いをあげて爪を肩から引き抜くともう一度アヤの肩にズブリと爪を突き刺した。

「ひゃーっはっはっはっ、いいぞ、もっと泣け、泣き叫べ」

「……さわるな……」

 髪を掴んでいるシャドウの手をアヤが掴んだ。

「……僕に、さわらないでよぉー!」
 さっきまでは全然びくともしなかったシャドウの手をいとも簡単に払いのけた。その時のアヤの瞳はいつもの優しい瞳とは違った。体の奥から凍り付きそうになるくらい冷たい瞳、いつものアヤからは想像も出来ないくらいの殺気と憎悪。その姿はまさに死神としか思えなかった。

「な、なんだ、こいつさっきとは闘気が違いすぎる! いったい何が起こったんだ……」 殺気までとは全然違うアヤの闘気にシャドウは初めて恐怖を覚えた。

「覚醒?……まさか天魔の力が目覚めたというの!いくらなんでも早すぎるわ」

「……あなた達は、僕の大切な人を奪った……だから殺すね」

 アヤが右手を払うと光りの弾丸がものすごいスピードでシャドウ達に飛んでいく。必死にかわそうとするがその速さ故にシャドウは腹部を貫かれカースは両腕と右足を貫かれた。

「ぐっ、この光りは!」 貫通された腹部を押さえてアヤから距離をとる。

「この、光り……エリュエスの時と同じ光り……シャドウ、一度退くわよ。今のあたし達じゃ覚醒したあの子に勝てないわ、力を押さえているあたし達では……残念だけど今のこの子から心を奪うことが出来ない」

 そう言うとシャドウと女性、それに悪魔達が闇の中へと姿を消した。

「……逃げた……もう、大丈夫……だよね……」

 どさっ、我に戻ったアヤは安心したのかそのまま気を失ってしまった。呪縛を解かれたフォルシスがアヤに急いで駆け寄る。

「おい、アヤ!目を覚ませ、覚ませってば……」 体を揺すってもアヤは目を開けることはなかった。そのままアヤを抱え込むと次に血まみれになった少女も一緒に抱え込む。 「……王様、王妃様……必ず、必ずこの国をミルア様をお守りいたします……」王と王妃に最後の別れの言葉をフォルシスは言った。





 あれから三日、アヤが目を覚ますことはなかった。少女は二日前に目を覚ましてからというもの、ずっとアヤのそばから離れようとはしない。両親を亡くしてしまった彼女に残ったのは5年間兄弟のように一緒に居たアヤだけだったから。








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