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あの惨劇から5日、今だにアヤが目を覚ますことはなかった。アヤのベットの横では徹夜で看病をしていた少女がすー、すーと寝息を立て眠っていた。 王と王妃が亡くなってしまって国では大混乱するかと思われたが、意外にも今、すー、すー、と寝息を立てている幼い王女がしっかりとしていたため混乱はしなかった。まあフォルシスがしっかりしていたというのもあるのだが……。今もこうしてアヤの看病をしていられるのもフォルシスを信頼しているから、何より兵士や民からもフォルシスは信頼が厚い、本当に15歳の少年とは思えないくらいしっかりとしている。 「んっ……あ、あたし眠っちゃったんだ」 両手をぐーっと伸ばし、まだ眠たい目をこすった。 「アヤ、まだ起きないんだ……」 悲しげな表情を見せるがアヤは目を瞑ったまま、いつもなら悲しそうな顔をするとすぐにアヤが優しく頭を撫でてくれていた、それを思い出すと少女の目からは大量の涙があふれ落ちる 「ぐすっ、アヤ……早く…目を、覚ましてよ……いつもみたいに……ミルア、おはようって言ってよ……」 がちゃ……、ドアが開いた。ミルアは急いで涙を袖で拭いた。入っていたのはフォルシスだった。 「失礼します。アヤの具合はどうです、ミルア様?」 「まだ、目を覚まさない……でも、もうすぐ…きっと、もうすぐ…目を開けてくれるよ」 ミルアが今まで泣いていたことにフォルシスは気付いた。しかし、その心の傷を癒してやることがフォルシスには出来なかった。 話を邪魔するかのように兵士が部屋に入ってきた 「失礼します!ミルア王女、話がしたいという龍族の者が二名来ておりますが……いかがなされますか?」 少し考えミルアは答えた。 「いいでしょう、通しなさい」 少しだけミルアの顔が引きつっているようにも見えた。アヤが眠っている場所へ知りもしない者を通すそれはミルアにとって気分のいいモノではなかったからだ。 「その必要はないぜ、こっちから来てやったんだからな」 兵士の後ろを見ると男が二人そこに立っていた。 「き、貴様!どうやってここに入ってきた」 兵士が腰の剣の柄を掴もうとしたのより速く男の右手が兵士の剣の柄を握った。 「そんなにかっかしちゃ体に悪いぜ……ん?」 男が後ろを見るとフォルシスが銃を男達に向けて構えていた。 「おい、おい、その物騒なモノをしまえよ、別に争いに来た訳じゃねえんだから」 「……フォルシスさんだったかな? その銃をしまってはもらえないだろうか……我ら二人は本当に争いに来た訳じゃない。弟の無礼は私が詫びる、どうか許してもらえないだろうか?」 いたって冷静な口調で話す男はフォルシスに近づき銃の銃口を指で押さえた。 「くっ、お前達は何をしにここに来た?」 その問いに男は答えた。 「王女に大事なことを伝えに来た。この国の危機を……」 「国の危機?い、いったいどういうことですか」 その言葉でミルアは不安と焦りに押しつぶされそうになった 「そうだぜ、この国が危ない……西の帝国、ミッドガルがここに攻めてくる、もう第1、第4部隊はここに向かって進軍してきている……今、仲間の情報じゃ深淵の森に入ったそうだ……」 「たぶん、王が亡くなったと知り軍を送ってきたのだろう……第1部隊の兵力はざっと2万5千第4部隊でも同じ事が言える……それに敵の将は剣聖ウイルド、爆炎使いジーク二人ともミッドガルではかなりの実力の持ち主……この戦いは絶望的とも言える、そこでだ、微力ながら私たちが力を貸そうとここにやってきた。ここの周辺の森は私たちのすみかでもある、だから私たちの力をこの国に貸したい……どうだろうか幼き王女よ?」 「わかりました、あなた達の力を我が国にお貸しください」 ミルアの瞳の輝きは先ほどの不安と焦りの色など全く見つからない、一つの国の王女として今自分がやるべき事をまっすぐに考えるそんな瞳の色だった。 「そう言えばまだ名を名のってませんでしたね、私はルーシャル・ドラグナー、ルードで構いません。私たち龍族の力必ずやこの国のためお役に立って見せます」 「俺はアーシャル・ドラグナー、アールでいいぜ♪ 一暴れする予定だからよろしくな。」 「……そういえば、さっきからそこで眠っている方が気になっていたのですが……いったいどうなされたんですか?」 ルードはさっきからベットで死んだように眠っているアヤの姿に疑問を感じていた。 「うん、もう5日も目を覚まさないの……」 ミルアがまた泣きそうな顔をする。 「……ん?おい、アール、この顔、天魔天使アリュエス様に似ていないか?」 まさかそうゆわんばかりの顔でアヤの顔をのぞき込む 「……マジかよ、そっくりじゃねーか。この幼顔絶対に見覚えあるし……ん、でも何でこんなとこにいるんだ?」 「それはそうと、魔力を消耗しきっているようだ……放っておくと手遅れになる」 そっとルードがアヤに触れ、魔力を送る 「かなり消耗しているようだな……私の魔力で持つかどうか……」 「まだまだかかりそうだな……兄貴がここまでてこずるなんて……時間が惜しい俺達は部隊編成と作戦を考えようぜ」 「でわ、会議室に移りましょう」 ルードとアヤを残してミルア、フォルシス、アールの3人は部屋を出て会議室へと向かった。 数時間後、部隊編成、作戦の会議もほぼ終了しかけた頃、会議室の扉がゆっくりと開いた。そこにはアールの姿ともう一人5日ぶりに深い眠りから目を覚ましたアヤの姿があった。 「……お、おはようございます。……あ、あのいったい何が起こってるんですか? ルードさんにだいたいは聞いたのですが……」 「あ、アヤ……起きたんだ、起きたんだね……良かった、本当に良かった……」 「よっす、久しぶり、アヤ」 「兄貴、なんか疲れてるみたいじゃねーか♪ 早速でわりいんだけど作戦にうつらせてもらうぜ。だいたい仲間の報告だと第1部隊、第4部隊は深淵の森を越えてルーン高原にたどりつくのが2日後だ、そこで早急に部隊を配置に付けとかないとまずい、そこで作戦はこうだ。まず、森からルーン高原に出たところで俺が率いる龍族部隊で空中から奇襲を掛ける、そしてルーン王国から3q離れた場所にフォルシス率いる射撃部隊を配置し敵を遠距離から狙う。兄貴は白兵部隊を率いて裏から回り込み敵を攻撃。まだ完全な状態じゃないアヤはミルアと一緒に城で待機だ。作戦って言えるほどのモノじゃないが今はこれに掛けるしかない。」 時はあっと言う間に過ぎ去り作戦開始の前夜が訪れた…… 月が憎いくらいに白く輝く。まるで降り積もる雪のように真っ白に。そのには光に照らされる二人の影があった……。 「ねえ、アヤこのところ忙しくて言えなかったことがあるんだけど……訊いても、いいかな?」 「なんですか?」 「う〜んとね、アヤって人間じゃないの?ルードが言ってんだけど天使だって……」少し気まずそうにミルアが言った。 「……よく、わからないんです。たまに僕じゃない誰かが僕の中にいるような気がするのですが……それなんなのかよくわからないんです。記憶はミルアのお父さんに拾われた5年前のことからしか覚えてないから……」アヤとミルアの間に重い空気がのしかかった。 「そう……ごめんねへんなこと訊いちゃって。明日も早いしからもう寝なきゃ。おやすみ、アヤ」 「おやすみなさい、ミルア」 不安で押しつぶされそうな夜を皆が過ごす中、月はあざ笑うかのように鈍く輝いていた。 小説トップへ 次の話へ |