第10話
琴奈の護衛道中
英伊緒を連れて、浅原琴奈とエリクスン・ブルフォードは部隊のビルに戻って来ていた。
椎名三鈴は、結局大林光貞の話を嫌々ながら聞かされていたようだが、二人が戻ってくる事によって、その対象は椎名からその2人へと移った。
「と、いうのはつまり、君の中に凶暴性の強いマホロバが・・・・・。」
「違います!凛は・・・。私の事を心配してるだけで・・、凶暴なんかじゃないんです!」
大林光貞の長話が始まる寸前に、英伊緒がその言葉を断ち切る。
「君は、凛・・・というマホロバと直接会った事があるのか?」
椎名が伊緒に尋ねる。
「いえ・・・。ただ、凛を見た人達の話を聞くと・・。凛はただ、私の心配をするような発言をしていた・・という事でしたので・・。」
「たが、その心配が行き過ぎて周りの人間に害を与えているのは確かだろう。」
椎名が更に伊緒を問い詰める。
「君はあまり外に出ないほうが良いかも知れないな。あんなちょっとした怪我で『凛』が目覚めてしまうのなら、この街ではかなりの頻度でそれが起こると思って良い。」
「そうだね。街に出たら、一日に5〜6ヶ所は擦り傷作っちゃう事になるもんね・・。」
「それだけ怪我するのは、お前だけだろう。」
エリックと琴奈、椎名が続けて言う。
「どうにかして、その、凛というマホロバと話し合う事が出来れば良いのだがね。
その為にはそこの伊緒と言うお嬢ちゃんを傷つけないと出てきてくれないだろうからなぁ。
そんな事したら僕が『凛』の攻撃対象になってしまう。そんなことはゴメンだね。
まぁ、僕としては女の子を傷つけるという事自体、解せないのだが・・。
なにか良い手は無いものだろうか。しかしそんな前例は聴いた事が無いな。
良ければエリック、君の部屋にある書物を調べさせて貰いたいのだが、どうかな?
それにしてもこのピーナッツは良いね。これは南方の大陸から・・・・。」
「書物はいくらでも使って頂いて結構ですよ、先生。ピーナッツの話は、また今度お伺いします。」
エリックは、慣れた感じで、大林の話を中断させる。
大林は、足早にエリックの部屋へと入っていった。
「あの人、話長いなぁ・・・・。」
琴奈が深く溜息をつきながらそうぼやく。
「でも、先生の話はタメになるものですよ。聞いておいても損は無いと思いますが・・・。」
「さっきからあいつの話を聞いていたが、とてもタメになるとは思えない話ばかりだったぞ。」
椎名がムスっとした顔でそう言った。
「う〜ん・・・。先生は基本的に若い人に好かれませんからね・・。」
「私は別に嫌いって訳じゃないんだけど。」
「私も・・・嫌いじゃないです。」
琴奈と伊緒は、『嫌いではない』と言っているが、『好きだ』とは口が裂けても言わなかった。
「信用できる定義だな。若い俺はあいつが大っ嫌いだよ。」
「あんまり大きい声出したら聞こえちゃうよ。」
椎名の声の大きさを、琴奈が注意する。
「構いませんよ。先生はそんな事が聞こえたくらいではビクともしませんから。それに、先程言ったように、先生は基本的に若い人に好かれていないので・・・。その辺りは本人も自覚しています。」
(じゃあ、嫌っている事を承知で、あの長話を聴かされているのか・・・)
椎名がは心の中でそう思うと、余計に腹が立った。
「そんな事より・・・どうするの、伊緒ちゃん。」
「え・・・と・・とりあえず、自分の家に・・・もどろうかと・・・。」
「家、ここから遠いの?」
「大橋駅から4駅先の駅で降りてから・・・歩いて10分くらいの所です・・・。」
(うわぁ〜・・・・・電車、乗るのかぁ・・・。)
琴奈はかなり心配した表情で伊緒を見る。
「あ、大丈夫ですよ!できるだけ、怪我しないように、注意しますから・・・。」
「あなたが注意しても、怪我なんていつするかなんて誰にも分からないよ・・・。」
「でも・・・歩いて帰るには、遠いから・・。」
伊緒がオドオドしながら、話している。
「・・・しょうがないなぁ・・・。私がお供するよ、伊緒ちゃん。」
「よろしいのですか・・?」
「良いってば。ここであなたが何かするんじゃないかって心配してるよりかはよっぽど疲れないで済むよ。」
琴奈は皮肉っぽく伊緒にそう言った。
「すみません・・・。」
「おい、浅原。俺もついて行ってやろうか?」
椎名が琴奈に小声でそう言う。
「・・・いい。君が来たら、もし凛ちゃんが出てきた時にややこしくなっちゃいそう。」
「・・・どういう意味だ。」
「凛ちゃんが出てくるのはそりゃ、避けたいけど、もし出てきたらそれは、話を聞くチャンスでもあるんだよ。
君のその短気な性格はそのチャンスも潰しかねないの。・・わかった?」
琴奈がそう説明すると、椎名は何も言えずに黙った。
「そのつもりなら琴奈さん、先生を連れて行ってあげたらどうですか?」
確かに、話を聞くとなると大林が居るとかなり心強い。
「うー・・・。なんか、気が進まないなぁ。」
「琴奈さんは、確か先生が嫌いでは無いんでしたよね。」
エリックが嫌味な言い方で琴奈にそう言った。
「・・・わかりましたよぉ・・じゃ、大林さん呼んでくるね。」
琴奈は渋々と、エリックの部屋へと歩み寄る。
大林は、ピーナッツを口に放り込みながら、書物を読み荒らしている所だった。
「やあ、浅原君。君がこの部屋に入ってくるということは、君が僕に何か用事があると言う事だね。
いや、ただエリックの部屋を見にきたという線も、無いと言い切れないが・・・。
そうだとすると、また別の線に話が進んでしまうから、そちらの線は考えない事にしておこう。
後ろに立っているのは、英伊緒君だ。と、なると彼女に何か関係のある用事だね。
あいにく、僕はまだ伊緒君を傷付けずに凛というマホロバと話をする方法は、見つけていない。
」
だとしたら、君達がここに来た理由が、方法を求めに来たというのであれば僕には力になれないな。
それとも、別の理由でここに入ってきたというなら、その理由を聞こうと思うが、どうだね?」
「・・・・・・。」
琴奈は、これからこの大林光貞と、伊緒の家まで伊緒を送り届けるのかと思うと、嫌気がさした。
その時浅原琴奈は、間違いなく拳を握り締めていた。
琴奈、伊緒、大林の3人は、ビルの外へと繰り出した。
「まずは、大橋駅まで歩こうか。」
「はい。」
大橋駅まで行く為に、とりあえず大橋平和公園を通る。
そこには、何やら楽器を持った数人の若者が、道端でその楽器を演奏している。
「なんか、凄い音ですね・・・。なんですか、あれ?」
「へ?ギターだよ。知らない?」
「はい・・。すみません、東の街にはあのような楽器はありませんので・・・。」
「そう。ギターは、西方の海外から伝わった弦楽器でね。
この島にも伝わってはいるのだが、まだ、この西の町と、北・南の町の一部にしか伝わってないのさ。
と、言うのも・・・・。」
「まぁ、とにかく、西から伝わった楽器なのよ。じゃ、行こうか。」
「あ、はい。わかりました。」
大林の長話が始まる前に切り上げて、琴奈と伊緒は、さっさと先に進んだ。
しばらく平和公園の中を歩くと、大橋駅が見えてきた。
「さ、行こう。もうすぐ電車が来・・。」
そう言うと、琴奈はガクっと肩が落ち、そのまま地面に滑り込んだ。
「不覚ね・・・。こんな所に段差があるなんて・・。」
「だ・・、大丈夫ですかっ?」
伊緒が、倒れている琴奈に心配そうに声を掛けた。
「あ、だいじょぶだいじょぶ。ここでコケるのって、もう両手でも数え切れないから。」
「都会って・・・危ない所なんですね・・・。」
「あなた達は、なにやら間違った方向で物事を捕らえていますね。
その、足首程度しかない高さの段差で、十数回転ぶあなたは、かなり珍しいと、私は考えますよ。」
「あ、残念。十数回じゃなくて、数十回。」
もはや琴奈は慣れてしまったのか、何の動揺もない。
「あ、でも琴奈さん、凄い。擦り傷一つない!」
伊緒が、立ち上がった琴奈の姿を見てそう叫ぶ。
「まぁ、自慢じゃないけど私も受身、嫌って言うほどしてきたしねぇ・・。」
「自慢じゃないというのは、言われなくともよくわかりますよ。」
大林がさりげなく突っ込んでいる。
その瞬間、駅のホームに、汽笛を鳴らしながら電車がやって来る。
「あ、急ぎましょう!!」
3人はとりあえず話を中断して、切符を購入し、電車の中へと駆け込む。
大林は、電車に揺られながらも、ピーナッツを食べている。
伊緒は、ウトウトしながら左右にゆらゆらと揺れている。
「おぉ〜・・・・。本当に擦り傷ひとつない・・・。私も成長したなぁ・・・。」
琴奈が、手鏡で自分の顔を見ながらそう呟いた。
「君がそうやって手鏡で自分の顔を確認するという事は、先ほどの伊緒君が言った言葉が信用
できずに、自分で確かめない事にはどうしても安心できなかったということだね?
もうちょっと他人の言う事を信用して・・・・」
「うるさいです、大林さん。」
琴奈は素で大林に返答してしまった。
「うるさい?それはどのような意味を指すのかな?
大きな音が自分の聴覚を邪魔して、集中できない、と言う意味なのか・・・。
それともただ単に耳障りで、拾いたくない音まで拾っていしまわなければならない、その手間を、うるさいと言っているのか。
現在の僕の声は電車の走る音で、大部分は掻き消されている。
つまり、前者の可能性はきわめて低く・・・・」
(早く・・・・着かないかな・・・・。)
しばらく電車に揺られ、伊緒の家がある、池浜という町にやって来た。
「さ、伊緒ちゃん。こっからは私道わからないから・・・。先頭歩いて、道案内お願いね。」
琴奈が、道を伊緒に譲る。
「はい・・わかりました。」
(ここからが本番かぁ〜。伊緒ちゃんが怪我しそうになったらすぐに何とかしないと・・・。)
伊緒が道を歩きだし、それに琴奈と大林が続く。
しばらく歩くと、市立の図書館が道の脇に見えた。
「ほぉ・・。結構大規模の図書館のようですね。
・・・琴奈君、僕はこの図書館で本を読みたいのだが。どうかな?
なに、少し送り届けするくらいなら、貴女1人でもできるでしょう。
あなたが伊緒君の家に行っている間に、私がここの書物で情報を集める。
椎名君にはもう言った事だが、私は効率の悪い事は嫌いで・・・。」
「わかった!わかりましたから!えぇ、あなたはここで本を読んでいてください!」
琴奈が、少し嬉しさも混ぜて、怒鳴った。
「そうですか。それと、送り届けた後は、そのまま帰って頂いて構いませんよ。
私は一通り書物に目を通したら戻るつもりです。」
「わかりました。」
琴奈は、それだけ聞くと、足早に伊緒の背中を押す。
「あ、あんまり乱暴にすると・・・凛が・・。」
「えっ、この程度でも凛ちゃんって出てくるの?」
「あ、はい・・。凛が出てくるのは、私が怪我したときではなく、私が何か強い衝撃を受けたりしたら・・みたいです。」
「それ、先に言ってよぉ・・。」
「すみません・・。」
それを聞いて、琴奈は慎重に伊緒の後をついていく。
しばらく歩くと、何とか伊緒の家まで辿り着いた。
「ふぅ〜・・・。良かった、何も無くて。
」
「どうぞ、そこのソファーにお座り下さい。今紅茶を入れてきます。」
「あ、私紅茶よりコーヒーとかの方が良いな。缶コーヒーでも良いよ。」
「すみません・・・。コーヒー豆は、無いんです。それに、缶飲料も・・。」
「そっかぁ。じゃあ、紅茶飲んでみるかな。実は飲んだ事無いんだよね。」
琴奈はソファーに座り込むと、殺風景な部屋を見渡した。
(引っ越したばっかなんだなぁ〜。まだ荷物がほとんど置かれてないや。)
その広い部屋は、荷物がほとんど置かれていないためか、余計にその広さを目立たせている。
(この部屋って・・・鏡も無いんだ・・。女の子なのに、困らないのかな・・?)
(テレビも無いな・・・・。私だったら、退屈で死んじゃうかも。)
琴奈は、部屋を見回しながら、ゴチャゴチャと文句を心に浮かべる。
しばらくすると、伊緒が紅茶の入ったカップを2個持って戻ってきた。
「はい、琴奈ちゃん。紅茶です。」
伊緒は、紅茶のカップを琴奈の前のテーブルに置き、自分はその反対側のソファーに座る。
「あ、ついでだから、手ぇ洗ってくるね。」
琴奈は洗面所の場所を教えてもらい、そちらに歩く。
普段はあまり手を洗うなどと言わない琴奈だが、今日は洗わないといけない、そんな気がしてくる。
洗面所に入った琴奈は、本来あるべきものが無い事にまた気がつく。
(鏡が・・・無い?)
鏡の無い洗面台は、琴奈が知る限り、無い。
しかもここのそれは、明らかに始め付いていたものを、取り外した形跡がある。
(でも、何の為に・・・?)
その疑問をひとまず置いておき、ハンドソープを付け、手を洗う。
そして、伊緒のいる居間へと戻った。
(これは、何かあるかも・・・。大林さんに、話してみようかな。)
琴奈は少し甘めの紅茶を飲みながら、そう思っていた。
その頃、大林は市立図書館の中。
書物を読みあさる大林も、琴奈と同じ事を考え出していた。
「2重性マホロバ憑き・・・・それに、鏡・・・か。」
大林は、過去に起きたマホロバが関わる事件等をまとめた書物を開きながら、そう言った。
そこに載っている写真には、巨大な大鏡に向き合っている一人の男。
鏡の中には、別の姿が、映し出されている。
鏡の中のそれは、鋭い目をしており、鏡の外のそれは、優しい光を放っていた。
※ブラウザの戻るでお戻りください。
第11話へは、小説TOPから飛べます。
人気キャラアンケートにも、是非参加してくださいっvV
票が集まったキャラは、少しだけ登場増やしたり・・・。
終了時の上位3名のイラストを描いたり・・します〜っvV