第11話
大きな鏡とエリクスン




異種生命体捕縛部隊員達は、テーブルを囲んで、奈津の作った料理を食べていた。
「それで、先生。その・・・二重性マホロバ憑き・・と、言うのは?」
エリックが、隊員達に混ざって夕食を食べている大林光貞に尋ねる。
「そうだね・・・・。マホロバ憑きには間違い無いのだが・・・。
 人間と、マホロバで、それぞれ別の人格を持っているんだ。
 いわゆる、身体は一つ、精神は二つ・・・と、いうことかな。
 伊緒君の中に住んでいる、という表現も間違ってはいないかもしれないな。うん。
 それに、凛君は害のあるマホロバでは無いようだ。
 おそらく伊緒君の守護霊的存在なんじゃないかな?
 最も、それが行き過ぎて周りの人間に危害を加えている事には変わり無いのだがね。」
大林の説明は、複雑なものではなかったが、やはり長い。
「で、あんた。解決法は、見つかったのか?」
椎名が大林に尋ねた。
「・・、君は、もう少し年上に対する言葉遣いに気をつけた方がいい。
 口調を変えろとは言わないよ。ただ、僕の事を『あんた』と呼ぶのは頂けない。
 せめて、呼び捨てでもいいから名前で呼んで頂きたい。エリックのように、『先生』でも構わないが。」
大林は椎名の問いに答えず、説教を始める。
「・・・、分かった。で、大林。解決法は、見つかったのか?」
呼称以外は全く変えずに、椎名が再び尋ねた。
「さっき見せた本にも書いてある通り・・・・。」
「鏡・・・ですね?」
大林が話そうとしたときに、奈津が言う。
「えぇ。そうです。彼女が2重性マホロバ憑きだとすれば、鏡が、キーワードとなるはずです。」
「それは、確実ですか?」
大林が奈津の言葉を肯定した後、太一が再び尋ねる。
「結構、信用できると思うな。うん。
 今日、伊緒ちゃんの部屋に上がって・・・、洗面所を借りたんだけど・・・。
 そこにあるはずの鏡が、何でだか、取り外されてたんだよね〜。」
大林は答えず、琴奈が代わりに答えた。
「じゃあ・・・。とりあえず、彼女を鏡に映してみましょう。
 多少強引な手段ではありますが、それが何かの突破口になるかもしれません。」
「じゃ、私が明日もう一回、・・なんか、鏡持って伊緒ちゃんの家に行きますね。」
琴奈がそう言った。
「僕は、明日は少し時間が合わないな。
 ・・・・エリック、代わりに行ってきなさい。とりあえず君でも説得は可能かもしれませんからね。」
「・・・、分かりました、先生。」
大林がそう勧めると、エリックは快く承諾した。


具体的に、大きな鏡と言っても、何を持って行けばいいのかわからない。
なので、とりあえず琴奈の持つ手鏡で、良しということにしておいた。
琴奈とエリックの2人は、そのまま大橋駅から、池浜町まで電車で移動する。
琴奈が前を歩き、エリックを先導する。
そして、しばらく歩くと、伊緒の家の前へとやってきた。
「伊緒ちゃーん、居るー?」
琴奈が、扉をノックしながら、そう叫んだ。
と、横からエリックが出てきて、インターホンを鳴らす。
「琴奈さん、インターホンがあるんですから、そちらを使いましょう。」
「ははは・・・・そうだね・・・。」
少し待つと、インターホンから、伊緒の声が聞こえて来る。
『浅原さんですか?それと・・・エリクスンさん?』
「そうそう。ちょっと上がらせてもらっていいかな?」
「あ、はい。よろしいですよ。今、開けますね。」
そう聞こえてインターホンがきれると、すぐに扉が開いた。
「やっほー、伊緒ちゃん、昨日ぶりー。」
「え・・・あ、はい、昨日ぶり・・・・です。」
琴奈が軽く挨拶すると、伊緒も照れながらそれに続く。
よくみると、伊緒の髪は寝癖が立っており、その手にはクシが握られている。
「ひょっとして、今起きたばかりだった?」
「あ・・・・はい・・・。すみません、来るという連絡は貰ってなかったから・・・。」
「あぁ、謝らなくて良いよ。連絡してないから。」
「とりあえず、部屋の中に入らせて貰いますか。」
琴奈と伊緒が会話していると、エリックがそう切り出す。
「あ・・・ちょ・・・今は・・・その・・・。」
伊緒が、少々慌てだす。
「・・・?どうかしましたか?」
「エリックぅ。ちょ〜っと、そこで待っててくれる?私達は先に入っとくから。」
琴奈がエリックを静止して、伊緒と一緒に入っていく。
「・・・・・????」
エリックは、その場に不思議そうに立ち尽くしていた。


「すみません、浅原さん・・。助かりました。」
部屋の中は意外なほどに散らかっており、とても男性を入れられる部屋では無い。
「良いって良いって。私の部屋も大体こんなもんだから。」
そう言うと琴奈は、まるで自分の家にいるかのように、ソファーに座り込む。
「浅原さん、ちょっと片付けて来るので、待っててくださいね。」
そう言って奥の部屋に行こうとする伊緒に向けて琴奈が。
「ねぇ、名字で呼ばなくても良いよ。下の名前で呼んじゃってよ、伊緒ちゃん。」
「え・・・でも、私そう言う風に呼んだこと・・・無くて・・。」
「昨日は『琴奈さん』って呼んでたよ。うん、覚えてる。」
「あ・・・。昨日は・・・頑張ってたんですけど・・・。何か、ちょっと・・失礼な気がして・・。」
「あのねぇ、下の名前で呼んだら失礼って・・・。それじゃあ、私は失礼の塊だよ。」
「け・・・決してそんな意味で言ったのでは・・・。」
伊緒がオドオドと焦りだす。
「いいよ。それと・・・さっきエリクスンさんって言ってたけど・・・。」
「え・・はい?」
「エリックは欧米人だから、名字はブルフォードだよ。」
「あ・・・・・。」
「残念でした。観念して、私も名前で呼びなさいっ。」
「え・・あ、はい・・。えっと・・・琴奈・・・さん。」
「ちゃん付けで良いんだよー。あ、愛称とかでも良いんだけど。」
「あ・・・え・・琴奈・・・ちゃん。」
伊緒は、照れながらかつ、嬉しそうにそう呼んだ。
「よし、伊緒ちゃん!これで友達!片付け、手伝うよ。」
そう言って、琴奈は立ち上がり、片づけを手伝い始めた。
2人で進めると、それは意外と早く片付いていった。



「確かに・・鏡がありませんね・・・。」
エリックが洗面所を見て、そうつぶやく。
「ねぇ、伊緒ちゃん。なんで、鏡外しちゃったの?」
「いえ・・。小さい頃から、鏡を見ようとすると、突然頭が痛くなって・・・。」
伊緒はこめかみを押さえながら、そう言った。
「やはり、読みは間違いないみたいですね。」
エリックがそう言った。
「え・・・?」
伊緒が不思議そうに、エリックに聞き返す。
「恐らく、あなたが鏡をのぞけば、そこに英 凛がいるはずですよ。」
「でも・・・鏡をのぞくのは・・・怖いんです・・・・。」
伊緒が目を細めて、言う。
「凛ちゃんと・・・話したくない?きちんと会って、話を聞こう。」
「・・・・わかり・・・ました・・・・。」
琴奈とエリックが説得すると、思ったよりも簡単に伊緒は承諾した。
しかし、よく見ると琴奈の手鏡は少し頼りない。
この小さな手鏡に凛が出てきたとしても、とても話し合える環境ではない。
何か、もっと大きい鏡を3人は探そうとした。しかし、琴奈は・・。
「えっとね、この近くに、小さい頃通ってたダンス教室があるんだよねー・・・。行く?」
事は意外と簡単に解決した。
エリックと伊緒は、それに応じ、琴奈の後をついていく。



「こんにちは、先生。」
琴奈は、建物の入り口を入ったところにいる背の高い女性に挨拶をした。
「浅原さん?久しぶりじゃない。どうしたの、今日は。またダンス始めるの?」
「いえ、今日はちょっと・・・。レッスン室の鏡を、借りたくて。」
琴奈がそう言うと、ダンスの講師の女性は、快く引き受け、3人を2階へと勧める。


広いレッスン室には、誰も居なかった。
この時間には、まだ生徒達は来ていないようだ。
普段、鏡が敷き詰められているはずのそこには、カーテンが掛かっている。
「さ、カーテンを開けますよ?」
エリックはそう言うと、何の躊躇もなくそのカーテンを引き払った。
そこには、綺麗に光り輝く鏡があった。
鏡は、3人の姿を、左右逆にしっかりと映し出していた。
3人の行動も、寸分違わず。・・・と、思っていた。
琴奈は、右に動く。鏡のそれも、あわせて動く。
エリックは鏡に背を向けて歩き出す。鏡のそれは、背中をむけて離れていく。
伊緒は・・動かなかった。鏡のそれは、ゆっくりとこちらへと足を進めている。
鏡の中の伊緒の目は・・・。鋭くこちらを睨みつけている。
「凛・・・・なの?」
伊緒が意を決して鏡に映る自分に話し掛けた。すると、返事は戻ってくる。
「伊緒・・・。私に、会いに来てくれたの・・?嬉しいよ、私。」
凛が伊緒に向ける目には、負の感情は何も含まれて居なかった。それは、ただの純。
「伊緒さん・・・。そこに居るのが・・・?」
エリックがそう口走った瞬間、その場の空気は張り詰めた。
「また、お前か!!伊緒の名前を、気安く呼ぶんじゃない!!」
その時、凛の右手が赤く変色するのを伊緒は見た。
「やめて、凛!」
その声を聴いて、凛の右手は元の色へと戻っていった。
「伊緒・・・?なんで?こいつは伊緒に怪我させた奴だよ?」
「凛・・・。私に構わないで・・・。私が、みんなを怪我させるから・・・。
 だから、私には友達ができなかったんだ・・・!」
伊緒が、心の底から叫んだ。
「伊緒・・・。友達なら、私が居るでしょ?こんな奴らなんか・・・。」
「この人たちは・・・。私の中にあなたが居る事を知っても、変わらず話してくれた・・・。
 だから・・・この人達を・・傷つけないで!!私の事は、放っておいて!」
その言葉を言い切ったとき、凛の表情は明らかに変わった。
凛の目は、伊緒に向けるものでさえ、鋭い光を放つ瞳へと変わっていく。
「・・・そっか。伊緒は、私が邪魔なんだね。・・哀しいな。キミが小さい頃から、ずっと守り続けて来たのに・・・。ホント、哀しいよ!」
そういうと、凛が突然鏡の中から飛び出してきた。
そしてその銀色の影の両手は、赤くはなっていないものの、確実に伊緒の首に向けて突き出されている。
「伊緒ちゃん!!!」
とっさの事で、琴奈は長薙刀の準備をできていなかった。
まさか、話し合う暇も無く、戦闘態勢に入ってしまうとは。
とりあえず凛を引き離す為に、琴奈は凛のこめかみを強く蹴りつける。
が、マホロバである彼女の身体は、よろめく事も無かった。
そうしている間にも、伊緒の呼吸器はどんどん締め付けられていく。と、その時。
エリックが飛び出し、全力で凛の頭を、正面から蹴りつける。
強烈な蹴りで、一瞬凛の手が伊緒の首から離れる。
その隙を突いて、エリックが素早く凛のふところから伊緒を引きずり出した。
「ゴホ・・っ!!ゴホ!!けほ!!!」
「大丈夫ですか、伊緒さん!」

「だ・・・だい・・・・大丈夫です・・・」
伊緒は息を切らしながらもそう返事をした。
凛が再び構え直し、琴奈がぎこちなく拳を構えると、伊緒が口を開いた。
「お願い、エリックさん、琴奈ちゃん!凛を・・・殺してあげて・・・!」
伊緒の口から発せられたそれは、意外なものだった。
いや、意外と言うのもまた、見当違いである。
伊緒は、伊緒であり・・・・。凛が伊緒の中に居座る事は、許されない事であった。
凛は確実に伊緒を殺そうとしている。今までがどうだったのかは分からない。
一度伊緒の身体から解放されたそのマホロバは・・・・。
一介のマホロバと、同一の存在となっていた。
伊緒は割り切る。凛は自分を守る為に今まで多くの人を傷つけた。
しかし、その行き過ぎたお節介が、伊緒を余計に苦しませている事になろうとは。
そして、その事実を突きつけられたマホロバは、殺意をもって伊緒と接する。
伊緒も、凛も、互いに『敵』として認識し始める。
彼女は、自分を取り戻す為に・・・・。凛にあえて戦いを、挑む。
たとえそれが、無謀な決断だとしても。




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