第12話
銀色の笑顔
壁に鏡が張り巡らされたその部屋は、とてつもなく暑かった。
その熱を発する少女を、エリックは一人、押さえ込む。
少女の振るう熱拳を、紙一重で避わす。
部屋の隅で、浅原琴奈は焦りながら長薙刀の準備をしている。
熱を放つ少女、凛とよく似た銀髪の少女は、傍らより、それを悲しそうに見つめていた。
「エリック!!」
長薙刀を構えた琴奈が、エリックと凛のもとへと駆け寄る。
「琴奈さん!!」
エリックが一瞬琴奈の方へ振り向く。
凛は、その一瞬の隙を突いてくる。
エリックのこめかみに、強烈な掌底を叩き込んだ。
「う・・ぁ!!!!」
エリックの体は大きく弾き飛ばされ、鏡へと突っ込む。鏡は、割れない。
弾き飛ばされたエリックの頬は、赤く腫れ上がっていた。
「エリック!銃を出して!私が足止めするから!後ろから援護!」
琴奈が荒々しくエリックに指示を出す。
それと同時に、琴奈は長薙刀を振りかざし、凛に向かって振り下ろす。
しかし、その太刀は空を切り、凛のすぐ横の床を割った。
体勢を整えるのと同時に凛が回しげりを琴奈の腹に入れる。
「あ・・ぁっ!!」
琴奈は、息苦しそうにその場でうずくまる。
凛は、その瞬間も見逃さない。琴奈の顔面めがけて、思い切り蹴り上げた。
琴奈は、長薙刀の柄で、かろうじて防いだが、多少の衝撃が頭に響く。
(これが、純粋なマホロバの強さ・・・・!!)
琴奈は後ろへと飛び、再び長薙刀を構え直す。
凛も、赤くなった両拳を構え、こちらに向けている。
すると、凛の背後から、銃声が聞こえる。
撃ち出されたのは、ごく普通の弾丸。部隊に支給される弾だ。
弾道の向こうには、硝煙を噴出している銃を構えた、エリックだった。
弾丸は凛の首を撃ち抜いた。が、凛はまだ倒れず、両拳を構えたままだ。
「急所を狙ったと言うのに・・。凄い生命力だ・・・。」
エリックがそう言うが、凛はエリックの事など、眼中にも無いようだ。
その鋭い眼光は、まっすぐに琴奈を見据えている。
その眼光ににらまれ、焦った琴奈は長薙刀を構えて凛に突進した。
「はぁ!!」
琴奈が凛の右手に向けて斬り付ける。凛の右手は、床へゴトリと音を立てて落ちた。
しかし、凛は残った左手で、琴奈の首を掴む。
「・・つかまえた。」
凛は、落ちた右手の事など気にせず、左手の体温を急上昇させる。
琴奈は、あわててその左手を振り払った。
が、凛は更に琴奈の肩をつかみ、動きを封じる。
「あ・・・!!熱・・っ!!あぁぁ!!!!!」
琴奈が、肩に走る高熱に、苦悶の声を上げる。
「琴奈さん!!!」
エリックはそう言うと、狙いを定めて、凛に銃を撃つ。
弾丸は凛の耳へと当たる。
「ぐ・・ぐぅ!!!」
これには流石の凛もよろめく。
琴奈は、急いで体勢を整え、水平に長薙刀を振り払う。
刃先は、凛の胸部を切り裂いた。
凛は、足に力を無くし、その場に倒れ込む。
「・・・!!!」
その姿を見た伊緒は、走りながら凛に近付く。
「凛!凛!大丈夫!」
伊緒が、凛に対して声を掛ける。
「・・・・私は、死んじゃう。伊緒は、一人で。生きる。」
凛は、言葉を不自然に切りながら、そう言った。
「ごめん・・・なさい、凛・・。」
「何で。謝る・・。の?私の役目は・・。伊緒を。守る。事。」
凛の言葉は、もはや途切れ途切れであった。
「だから。伊緒が生きて・・。いれば。私は・・。死んでも・・問題・な、い。」
「り・・・凛・・・。」
「伊緒・・・。あなたの中から・・私が消え・・たよ。これ・・からは・・自由・・・だよ。」
伊緒の瞳から涙が流れる。
「凛・・・。私は・・。」
凛は、それ以上伊緒の言葉に反応する事は無かった。
先程まで熱かった、彼女の手も、今は熱を失い、冷たくなっている。
「凛・・・!ごめん・・・・!ごめんなさい・・・!!!」
伊緒は、凛の横にひざまずいて、ただ凛の手を握り締めていた。
その小さな手は、もう熱を帯びる事は無かった。
部屋に張り巡らされた鏡は、鈍い光を放っていた。
「それで・・・。凛ちゃんは、どうなったの?」
琴奈とエリックと一緒に部隊のビルに戻った伊緒に、奈津がそう尋ねた。
「お墓を・・作ってあげました。花畑の良く見える丘に・・・。」
そう答えた伊緒の目は、涙で赤く腫れていた。
「そのマホロバも、これで幸せだったのかもしれないな。」
太一が、そう言う。
「そう・・だと良いんですけど・・。」
「・・・・。ねぇ・・・。祐宇さんは?」
琴奈が、辺りを見回して、橘が居ないことに気付くと、そう言う。
「橘はまだ帰ってきてないんだ。一体、どこで何をしていることやら・・・。」
椎名が、琴奈の問いに答えた。
「変ですね。彼が家を出たのは、朝のはずでは・・・。」
エリックが不思議そうにそう言った。
その時。ビルの扉が、勢い良く開けられた。
そしてまた、勢い良く入ってきたのは、橘祐宇であった。
「おーう、遅くなったわー!いやぁー、パチンコやっとったら妙にツキが回ってきてな?・・・どないした?」
橘が、一気にそう言うと、部隊員と、伊緒は、顔を見合わせた。
そして、微笑がもれる。
「楽しい事だってあるわけだし・・・。伊緒ちゃん、今を楽しく生きるってのも良いんじゃない?」
琴奈はそう言うと、伊緒に微笑みかける。
「そう・・・ですね。」
伊緒はそう返事すると、その表情に笑みが戻った。
「なんやなんや、何の話や?なんかよぉ分からんが、これやるわ。景品の缶コーヒー。」
橘は、笑いながらそう言って、琴奈の肩を、ポンと叩く。その瞬間。
「ぁ・・・・っつ・・・!」
琴奈の肩に、ひどい痛みが走った。
「ど・・どした?ワイ、そんなに強く叩いとらんで?」
「その場所・・・。凛さんにつかまれた場所・・・?」
エリックがそう指摘する。
「琴奈ちゃん、私の部屋に来て。ちょっと、外傷が無いか見てみるから!」
奈津はそう言うと、救急箱を持って、自分の部屋へと琴奈を連れて行った。
と、ドアが閉まる前に、奈津が隙間から顔を出した。
「覗いたら吹っ飛ばすわよ。」
それだけ念を押すと、再び部屋の中へと引っ込んだ。
「こ・・・・これって・・・・一体・・。」
琴奈の背中を見た奈津は、驚きの表情を見せていた。
「え・・っ、どうなってんの、奈津ちゃん、ねぇ〜;;」
琴奈が、半分泣き声で、奈津に尋ねる。
「これ・・・・何の形・・・。手・・・かな・・・。」
「それって・・・。捕まれた時に火傷したんじゃ・・。」
「違う・・・これは、火傷じゃないわ・・。何ていうか・・・・黒いし。」
琴奈の背中には、どす黒い、手の形をした『アザ』のようなものが刻まれていた。
「な・・・なに、それ;;どうしよぅ〜〜っ。」
「と・・とりあえず、しばらく様子を見てみるしか・・・無いんじゃない?」
奈津は困った顔でそう言った。琴奈は、とりあえずはそれで納得しておいた。
琴奈の右肩に刻まれたアザは、ただ黒かった。
「なんか・・ヤな感じ・・。」

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