第13話
其れはマホロバを




照りつける太陽の下。大橋平和公園の片隅。
少年と少女が、静かにテントを張っている。
「ねぇ、お兄ちゃん・・。これから・・・どうするの?」

背の小さい少女が、少年を見上げながら言う。
「・・・。とりあえず、お前をどこか、住めるような場所に預けてやるよ・・。」
「・・・・おにいちゃんは?」
少女が少年を見上げて言うと、そよ風が吹きぬいた。
「俺か・・?俺は・・・。」
少年は、遠い空の向こうを眺めている。
その少年の右手には、拳銃がしっかりと握り締められていた。
「夏純・・。兄ちゃん、戻ってくるから、ちゃんとここで待ってるんだぞ?」
少女は小さくうなずくと、少年は静かに、見据える方向へと歩き始めた。



「暑いわ!!クーラーつけんかい!!」
部隊のビルに、橘祐宇の叫び声が響く。
「だから・・・・壊れてるんだって・・・誰かさんのせいでね。」
天城奈津が、暑苦しそうに、橘を見返す。
先日、祐宇がクーラーのリモコンを力の限り踏み付け、使い物にならなくなった。
エリックが必死に修理をしているが、修理が終わるのはいつになるのか分からない。
ハリィは、7月に入った。
本格的に夏の始まりで、その暑さには耐え難いものがある。
琴奈や椎名、太一は、近くの喫茶店へ涼みに出掛けて、今はいない。
「あー、暑い暑い暑い暑いでーーー!どないしてくれるんや!」
「あ”ぁーっ、暑苦しい!あんたもどっか散歩にでも行ってきなさい!」
あまりにも五月蝿い橘に、奈津がそう言う。
「あぁ、この炎天下の太陽の下、外に追い出すって言うんかいな!そりゃないで!!」
「なら、どっか店でも探して入りなさい!この暑いなか、リモコン修理してるエリックの身になってみなさいよ!」

部隊ビルから、いかにも「部屋着」の、スキンヘッドの男が出てきた。
何やら、その背中は寂しそうに映った。



「涼しいねぇ・・。」
「あぁ・・。外に比べると・・な。」
「エリックも・・・災難だよ。」
浅原琴奈と、椎名三鈴、大丸太一の3人は、近くの喫茶店で涼んでいた。
琴奈が、アイスコーヒーの氷をストローで突付いている。
氷のぶつかり合う音が、また涼しげである。
「太一君、よくこんな暑い日にそんな熱いコーヒー飲めるねぇ。」
琴奈が太一のカップを見ながらそう呟いた。
「どうも、冷たいとコーヒーのような気がしなくてな。」
「冷たくてもコーヒーはコーヒーだろう。」
太一の言葉に椎名が突っ込む。
そう言っている椎名は、アイスコーヒーと冷奴、鮭茶漬けと、全く統一性の無いメニューを並べている。
「お前には、こだわりというものは、ないのか?」
太一が苦笑いしながらそう言い、肉じゃがを口に放り込む。
琴奈は何も食べていない。アイスコーヒーをゆっくりと飲みつづけている。
そのアイスコーヒーのグラスは、右手に握られていた。
「・・・・浅原?お前、左ききじゃなかったか?」
その手に気付いた椎名がそう指摘した。
「最近右の方が、なんか使いやすくて・・・なんでだろ?」
「そんな事、俺が知るかよ。」
琴奈の言葉に、椎名は素っ気無く答える。
「ま、いっか。両手使えるってのも悪い気はしないし。」
琴奈はその一言で済ませると、再びアイスコーヒーを飲み始める。
「もうちょっと涼もう。・・・だから、なるべくゆっくり食べるんだぞ?」
「了解!」「もちろんだ。」
太一がそう言うと、琴奈と椎名は、何の意義もなくそれに同意した。



部隊のビルの近くにあるコンビニエンスストア。
そこに橘は居た。
「はぁー・・。暑いわ。クーラーで生き返った気分やで・・・。」
漫画雑誌を立ち読みしながら、橘はそう呟いている。
このような狭い空間を選んで、一体彼はいつまで涼む事ができるのだろうか。
警察官であろうものが、こんな所でいつまでも立ち読みをするわけにもいかない。
橘は、おもむろにポケットに手を突っ込むと、硬貨が出てきた。
その硬貨を握って、缶ビールを手にとる。手に伝わる感触が冷たくて心地良い。
そのままレジに向かうと、缶ビールを購入・・できなかった。
硬貨が、あと数枚足りていなかったのだ。
「なんでや・・・神様・・・。」
橘は悲しげな表情で、再び漫画雑誌の元へともどろうとした。
その時、コンビニの扉が開いた。
扉をささえたまま、ひとりの少年が店内を見回している。
「おい、坊主!早く扉閉めんかいな!冷気が逃げる!」
橘は、何の躊躇もなく、見知らぬその少年を怒鳴りつけた。
だが、その時明らかに店員が橘を見る眼が変わった。
『涼みに来ただけ』というのがバレてしまったようなものだ。
こうなってしまうとますます長くはいられない。
なので、橘は外に出ようと扉の方へと歩く。
少年はまっすぐと食料品のある辺りへと歩く。
その途中で橘とすれ違ったが、明らかに違う空気を感じ取った。
橘の野性的な勘が、そのまま扉を出ることを許さなかった。
少年とすれ違った後、橘は素早く棚の陰に身を隠した。
店員や、他の客が見たら、明らかに不審人物は橘の方である。
そんな事も気にせず、橘は少年を見張りつづける。
少年はしばらく目線をキョロキョロしていたが、突然、行動に移った。
パンや、インスタント食品等を、素早く腰のポーチへと直しこんだ。
(やっぱり・・!!万引きや!)
少年が何食わぬ顔で外に出ようとするところに、橘祐宇は立ちふさがる。
「・・どいて下さい。」
少年の口の奥から、低くこもった声が聞こえてきた。
「あぁ、どいてやるわ。その、腰のポーチの中身を出してからやけどな。」
その言葉を発した瞬間、少年の表情が変わった。
「分かりやすいガキやなぁ・・。もう少しバレない工夫をしたらどうや?」
橘がそう言うと、少年は思いもよらぬ行動へと打って出た。
「た・・・助けて下さい!!このおじちゃんが、僕を!!」
先程とはうって変わって、大きなさけびごえを張り上げると、店員がレジの向こうから飛び出してくる。
すぐに橘の後ろから、両腕を捕まえて押さえ込む。
「君、早く逃げるんだ!」
店員はそう言うと、扉への道をいとも簡単に開けた。
少年はすぐに走り出し、扉を開けて出て行った。
「アホか!!話聞いとらんかったんかい!!あいつは万引きやで!!!」
それを聞いてハッとすると、店員は橘の両腕を解放した。
橘は、自由になるとすぐに少年を追い始める。
「待たんかい!!」
「く・・っ!しつこいな!!」
橘は少年の背中を見つけると、すぐにその後を追いかけた。
浅原琴奈が座る椅子の正面にその姿が映し出された事は、琴奈しか知らない。
「ね・・・ねぇ・・・。祐宇さん・・・。子供、虐待してるよ?」
琴奈の突拍子の無い言葉に、椎名と太一の目は点になる。



走りに走って辿り着いた先は、大橋平和公園。
うかつにも、橘は少年の姿を見失ってしまった。
小柄な体を生かし、草むらの奥へと入っていってしまった。
が、それでもすぐに、橘は少年が居そうな場所を発見した。
目立たない場所に立ててある、緑色のテント。
とても、保護色にはなりきれていない。
橘は、ゆっくりとそのテントに近付くと、話し掛ける。
「さ、そこにいるんやろ?早く観念しぃや。」
そう言うと、先程の少年・・・ではなく、小さな少女が、表へと姿を現した。
「・・・あ・・・。」
麦わら帽子を被り、白いワンピースを着ているその少女は、7〜8歳くらいだろうか。
端から見て、かなり可愛らしい容姿をしていた。
「あ・・?お・・・おかしいわ・・・。ワイの予定ではここにさっきのガキが居る筈なんやけど・・。」
橘が焦りながらそう呟く。
すると、背後から。
「おい!!!何してるんだ!」
背後から聞こえたその大声に、橘は驚いて振り向く。
「あっ、さっきのガキ!」
「俺の妹に何してる!!そこを離れろ!」
先程の少年が、声を高ぶらせている。
「おいおい、お前なぁ。ワイはお前が万引きしとったから追いかけて来ただけやがな。」
「はっ!全く・・。とんだ偽善者だ!」
「偽善者っつってもなぁ。人は専門外やけど、一応これが仕事やし・・。」
その橘の言葉に、少年は、固まった。
「警察・・か?」
「おぅ。正確には、異種生命体捕縛部隊第13小隊兵器全般担当 橘祐宇さんや。」
「異種生命体・・・!それは、マホロバの事だな!?」
少年が橘に食ってかかる。
「なんや、ワケ有りかいな。場合によっちゃ、万引きを多めに見てやらんでもないでぇ。」
と、橘は警察官とは思えない発言をし、とりあえず少年から話を聞こうとする。



「両親が・・・。マホロバに殺された・・?」
話を聞いた橘はそう呟いた。幼い少女のほうは、小さくうつむいている。
「俺達は、その、マホロバを探してるんだ。大きな・・。大きな赤い獣だった。」
「赤い獣・・か。やとしたら、マホロバ憑きやないな。純粋なマホロバや。」
橘は、簡単に分析して、少年達に伝えた。
「しかし、なんや。それで、そのマホロバを探し出してどうするつもりだったんや?」
「・・・この手で、殺す。」
そう答えた少年の手の脇には、ベレッタが置かれていた。
「言っちゃなんやけどなぁ・・・。あんたが行っても、100%返り討ちや。」
「・・・・・。」
橘がそう言うと、少年は黙り込んだ。
「まぁ、あれや。あれ。小さい兄妹二人で、こんなテント暮らしはキツいやろ?とりあえずウチまで来いや。」
「ふん・・・。他人の力なんて借りなくても・・・。」
「・・んーん・・・。」
断ろうとする兄の服を、妹が引っ張っている。
「お前は良いかもしれんけどな、その娘はまだ小さいし・・。それに、うちなら、そのマホロバ退治、手伝ってやらんでもないで。」
「ふん・・・。仕方ないか。」
少年はやっと観念して、橘についていく事にした。
「名前、聞いとらんぞ。ワイは橘祐宇。さっき言うたよな?」
「俺は・・。宵原だ。」
少年は素っ気無く答えた。
「宵原夏純(かすみ)です。お兄ちゃんは、夏幻(かげん)。宵原夏幻です。」
妹が、兄の下の名前まで丁寧に答え直した。
「全く・・・。別にフルネームで答える必要なんてないだろう・・。」
「じゃあ・・お兄ちゃんが宵原なら、私は何なのかな?」
夏幻は答えられず、そのまま黙って橘についていった。




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