第14話
月の下は血の獣
土を掘ったら、何か食べ物が出てきた。
それは少し変色していた。
それは少し腐食していた。
腹が減ったから、喰ってみた。
不味かった。
都会の、鉄の味。
腹が減る。何か、食い物は無いか。
・・・・・・。
そうだ、人を喰おう。
ボクは人を食べたいんだ、きっと。
「・・・で、連れてきちゃったんだぁ?」
天城奈津が、後ろに少年少女を引き連れている橘に向かってそう言った。
「いやぁ〜、ま、いいやろ?ガキ2人増えた所で問題・・・・。」
「大有り。隊員分の食費だけで一杯一杯なのっ!隊の経費なんだからあんま無駄遣いできないでしょ?」
「そこをなんとか〜っ。なっちゃ〜んっ」
「ひとりならともかく・・・2人だなんて・・・。」
「一人なら、良いんだな?」
奈津が言うと、すぐに夏幻が口を開いた。
「妹を、ここに置いてくれ。俺は、あのテントに戻る。」
夏幻はサラリとそう言ってのける。
「う〜ん・・・。最近あの辺物騒だよ?」
(ああ言えば、こう言うやっちゃなぁ・・・)
「俺は妹さえ無事に暮らせたら、それでいい。」
奈津は、しばらく黙って考え込んだ。すると。
「そうだ、良い考えがあるよ!君、・・夏幻君?は、ここに居ればいいよ!」
「・・・夏純は?」
「ちょっと、アテがあってねっ♪琴奈ちゃんが戻ってくるまで、待とうか?」
その時ちょうど、リモコンを直し終えたエリックが広間へと出てきた。
スイッチを入れ、冷たい風が、広間を駆け抜ける。
「ただい・・・・あ、涼し〜い!」
浅原琴奈は、帰ってくるなり、そう言葉を発する。
と、広間の中に入ると、15歳くらいの少年と、7歳くらいと思われる少女が目に入った。
「・・・、奈っちゃん、この子達、誰?」
「子供扱いするな!お前、そんなに歳違わないだろ!」
言われてみれば、琴奈と夏幻は2つしか違わない。
「食いつかないの〜。初対面の相手にお前はないんじゃないの、お前は〜。」
琴奈がそれを軽くあしらう。
「あの・・夏純です・・。よろしくお願いします」
「あーら、お嬢ちゃん、可愛いねっvV私は、浅原琴奈って言うの。よろしくねっ♪」
「・・・・・。」
すっかり無視されている夏幻は、黙りこんでしまった。
「・・に、しても、クーラー直って良かった〜っvVもう、外出たくないよ〜。」
琴奈がそう言うと、奈津が申し訳なさそうに近付いてくる。
「あのね、琴奈ちゃん・・。そう言うところ悪いんだけど・・・頼まれて・・くれるかな?」
琴奈は、奈津から頼みの内容を聞くと、なきそうな表情になった。
そして、夏純を引き連れて、外へと出て行った。
浅原琴奈は、目的地につくと、チャイムを鳴らした。
3秒ほど待つと、インターホンから声が聞こえて来る。
「はーい。どなたですか?」
「あ、私私。琴奈だよ〜。と、ちょっとおチビさんも一緒。」
「・・?とりあえず、開けますね?」
そう聞こえると、足音が玄関の方へと近付いてくる。
ちょっと待つと、扉が開いて、家の住人が顔を出す。
「やっほー、元気してた〜?1ヶ月ぶりくらいかなっ?」
英伊緒。以前知り合った貴族育ちの少女。
「とりあえず、入って。外じゃ、暑いでしょ?」
伊緒に招かれて、琴奈は中に入っていく。夏純も、少し遠慮しながらも、琴奈に続く。
部屋のソファーに座り、一通りの事情を説明する。
「とりあえず、分かったよ。本家から、お金も送られてるし・・・。預かれるよ。」
その、可能の意を、琴奈は了承と受け取った。
「ホントはもう一人お兄ちゃんもいたんだけどね。そっちの方が良かった?」
琴奈が、からかい半分にそう言う。
「・・・何が悲しくて、同い年の男の子を養わなきゃいけないの;;」
英伊緒は、15歳。宵原夏幻とは、同い年だ。
「あの・・・ご迷惑、おかけします。」
夏純が、可愛らしくおじぎをして、そう言う。
「ーーーーーっっっvVvv」
伊緒が、夏純を力の限り抱き締める。
(ツボ・・ね。)
琴奈は静かに心の中でそう突っ込んでおいた。
「それじゃ、今日はこれで・・・。ばいばい、夏純ちゃんvV」
「あ、琴奈ちゃん。せっかくだから、紅茶でも飲んでいく?あ、コーヒーも買ってみたんだけど・・・どっちがいいかな?」
伊緒が、琴奈をそう言って引き止めると、琴奈はゆっくりと振り返る。
「じゃ、ここのコーヒーも、ちょっと飲んでみたいかなー・・・とか?」
琴奈は弾むようにソファーへと戻っていった。
琴奈は、もとから台所においてある、コーヒー豆の缶の存在を、知っていた。
そして、ソファーに座る琴奈の表情は、いかにも計画どおりという表情であった。
「このベレッタ・・・。結構な代物やな。お前、凄いもん持っとんなぁ〜・・。」
橘が、夏幻の拳銃を手に、そう呟いている。
「そいつなら、マホロバにだって効くだろ?」
夏幻がそう言う。
「効かない事も無いかもしれへんが・・・。純血の獣型マホロバ相手に・・・拳銃じゃ、不利やで。」
橘がそう言ってのける。
「・・・。だけど!!どうしてもこの手であの赤い獣を殺したいんだ!!」
夏幻の目は、本気の目であった。
「おい、宵原。なんなら、こいつを貸してやろうか?」
椎名が、おもむろに一丁の長身銃を夏幻に向かって放る。
『熱線』
椎名がそう呼んでいる、単発式のライフルは、それなりの貫通力を持っていた。
彼が自分で改造・改良を重ねたそのライフルは、かなり洗練された威力を誇る。
「そう言って・・・。自分は寝床で黙ってるつもりじゃないのか?」
夏幻は、『熱線』を受け取っておきながら、椎名に悪態をつく。
「言ってくれるな、お前。心配しなくとも、俺にはまだこれがある。」
手にもっているのは、銃口が3つある特殊な散弾銃。
彼が『爆風』と呼ぶその銃は、まとめて喰らうと、マホロバの皮膚も貫く事が出来る。
「ワイも出てやるから安心せぇ。たいっさんも来るやろ?」
「あぁ。せっかくだし、俺の連射ボウガンの試運転もしたいしな。」
太一がそう返事をする。
「私は、やめとこうかな。私の銃でマホロバの皮膚を貫くのは大変だから。」
奈津が、そう言う。
「言うまでもないと思いますが・・・私も行きませんよ。・・足手まといでしょう?」
エリックが横からそう言う。
「んじゃ、後は琴奈ちゃんでも誘って、戦争やな。」
「何が、戦争だよ。」
椎名が呆れた顔で橘を見ている。
夕方を過ぎて、浅原琴奈は帰って来た。
「ただい・・って、みんな、どうしたの?揃ってテレビなんか見ちゃって・・・。」
琴奈が不思議そうに近付いてみる。
「・・・う・・ゎ・・。」
テレビのモニターに映し出されたそれを見た琴奈は思わず声を出した。
バラバラになった、赤い物体。
それは、原型を留めていないが、人間の体の一部ということは見てとれる。
大橋平和公園で起こった、殺人事件。
それを、平和公園に設置された監視カメラは見ていた。
犯人は・・・。人ではない、獣。
その真っ赤な毛は、人の血を浴びて、少し黒ずんでいた。
しかし、その3メートルはあろう赤い獣が、間違いなく被害者の解体作業を行っている。
「・・・・こいつだ・・・。」
夏幻が口を開く。
「事件発生は昨日の午後9時・・・!!今日も・・・来るかもしれない!!!」
琴奈が時計を見ると、今は7時を回ったところ。
移動時間も考えると、あと1時間半ほどで準備を行う事になる。
「夏幻君。ひとりで行くのは、やめてね?私達も行ってあげるから。」
とりあえず琴奈は自分の部屋に戻り、準備を開始した。
その頃、橘自慢の武器工房。・・・と、いってもビルの一階に設置された小さなものだが。
そこに、橘祐宇が居た。
そこに立てかけられている、一本の刀。
鞘には、手書きで「虎一文字」と記されている。
「獣に接近戦挑むのは命懸けやけど・・・。やっぱこいつしか無いわな・・・。」

橘は、素早く鞘から、銀の刀身を走らせる。
その剣先は、わずかにビルの壁をかすった。
そこには、寸分狂わず、綺麗な斬り痕が残っている。
コンクリートで出来ているはずの壁を、音も立てずに、鉄で出来た刀で切り裂いた。
これが、彼の真骨頂。
真の、戦闘スタイルだった。
腹が減った。
喉が渇いた。
近くに人が歩いてた。
胸に爪を突き立ててみた。簡単に引き裂けた。
血が出た。気にしなかった。
口に入れたら、やっぱり不味かった。
そういえば、前に喰った人間2人は美味かった。
逃げた子供が2人いた。
・・・・、その子供は、美味いかもしれない。
そうだ、ボクはその2人の子供を喰いたいんだ。
そう、きっと。
浅原琴奈。椎名三鈴。大丸太一。橘祐宇。そして、宵原夏幻。
5人は、まっすぐに大橋平和公園へと走っていた。
琴奈は、すでに準備された長薙刀を右手に持っている。
そう、右手に。
「・・・?浅原?お前、右利きだったか?」
琴奈の後ろを走る椎名がそう尋ねた。
「左利き・・・だったんだけどね。最近、なんでだか、右手の方が力入るんだよねー。」
琴奈が、不思議そうに、そう返事をした。
「前を向いて走るんだ。ただでさえ、夜道は危ないんだからな。」
更に後ろを走る太一が、そう注意を促す。
橘と夏幻は、口を開かずに、ただ黙々と走り続けていた。
橘の右手には、刀の鞘。夏幻の腰には椎名の『熱線』。
平和公園が見えた。
咆哮が、聞こえた。
目の前に見えるは赤と黒の獣。
毛皮と血の、猛獣。
襲いかかるは、大丸太一。
宵原夏純は窓の脇に立っていた。
夏純は聞いた。自分の運命を変えた、その咆哮を。
咆哮は、一体どれだけの範囲に聞こえ渡ったのか。
夏純がいるこの町で。その咆哮を聞いたのは、夏純一人であった。
「夏純ちゃん?どうしたの?外に何かある?」
濡れた髪を、バスタオルで拭きながら、伊緒が夏純に話し掛ける。
「・・何でも、無いです。お姉ちゃん。」
「ほら、髪、濡れたままにしとくと、風邪ひくよ?」
伊緒は、自分の髪を拭いていたそのバスタオルを、夏純の頭へと移す。
伊緒は、少しながらも、不安な気持ちを感じていた。
赤いその爪は、大丸太一の頬をかすめ、コンクリートの地面を抉った。
「で・・でかい・・・!!」
大丸太一が見上げるその赤い獣の体長は、彼自身の倍近いものだった。
少し唖然としていた太一だが、すぐに連射型ボウガンを構え直す。
射出口から撃ち出される4本の矢が、赤い獣に、命中する。
が、その数本の矢は、獣の皮膚を貫くに至らず、その場に音を立てて落ちる。
「な・・・」
太一が構え直す前に、獣の爪は、大丸太一の体に突き刺さり、そのまま吹き飛ばした。
数メートル吹き飛んだ太一を、獣は追わずに、次の標的を探す。
このままやられる訳にもいかない。
太一には悪いが、今はこの「マホロバ」の捕殺が第一だ。
すぐさま夏幻は、椎名自慢の『熱線』を撃ち込む。
が、その弾丸は皮膚にあたり、食い込み、そして落ちた。
「宵原!!よく狙え!急所を見極めろ!!!」
椎名が夏幻に向かってそう叫んだ。
夏幻が構え直す間に、獣は夏幻との距離を縮めていく。
夏幻が驚いて、顔の前に腕を交差させた瞬間。
赤い獣の、断末魔にも聞こえるその咆哮が響いた。
暴れ狂うその獣の尾は半分切れて、地面へと落ちている。
獣の体に残ったその半分の尾からは、血液が流れ出ている。
その傷を負わせたのは、橘祐宇。彼の持つ刀には、その獣の血がついている。
獣は、すぐに冷静さを取り戻し、橘の方へと向き直る。
橘に向かってくるその獣の動きを、椎名は見逃さなかった。
素早く獣の背中に飛び乗り、『爆風』を突きつけた。
「くらえ!!」
椎名は引き金を引いた。弾丸は、獣の背中を貫いた。
しかし、獣は止まらない。
そのまま突進を続ける獣の勢いに耐え切れず、椎名は固いコンクリートの地面へと叩きつけられる。
「うぐ・・・っ!!」
椎名が苦痛の声を上げている。
突進を止めない獣の前に、琴奈がおどりでる。
長薙刀を必死に振るが、やはり獣の皮膚は通らない。
獣の体当たりで大きく吹っ飛んだ琴奈の小さな体は、数メートル先の木に叩きつけられる。
獣はまだ突進をやめない。
「く・・・っ!来るならこいや!!」
橘は、両手で刀を構える。その時。
獣の目を、正確な射撃が射ぬいた。連続する4つの閃光。
大丸太一の連射型ボウガン。
赤い獣は苦しみながら、壁を乗り越えて、高く跳躍する。
「ま・・待て!!」
後を追おうとする夏幻を、橘が静止する。
しかし、獣が去る瞬間。隊員達は見た。
さっき橘が切り落とした筈の獣の尾。
跳躍した獣には、間違いなく完全な形のままの尾が残されていた。
橘が刀で尾を切り落としたのは、何かの見間違いだったのだろうか?
それは、無い。
先程まで戦いを繰り広げていたコンクリートの地面。
そこには、先端部分だけの尾が、取り残されていた。
※ブラウザの戻るでお戻りください。
人気キャラアンケートにも、是非参加してくださいっvV
票が集まったキャラは、少しだけ登場増やしたり・・・。
終了時の上位3名のイラストを描いたり・・します〜っvV