第15話
獣は北へ




部隊のビル。
赤い獣との戦いで負傷した者の手当てが続いていた。
大丸太一の傷は、深かった。
「さて、どうしたもんや・・・。」
橘が、困った顔でそう唸る。
そこに、エリックが。
「来たぞ!捕縛命令だ。北の町で、赤い獣が出現したらしい。」
「捕縛やて!?」
橘が、驚いた表情でそう聴き返す。
「嘘でしょ!捕まえるなんて、殺すよりも難しい事なのよ!?」
琴奈もそれに続いて言う。
「中央塔の命令ですし・・・。」
エリックがそう言う。それに続けて。
「今回は、中央塔から、別の捕縛部隊も派遣されるそうですから・・・。」
「それじゃ、日時とかも合わせなあかんとちゃう?」
橘が、そう言うと。
「いえ・・。日時は決まっていますよ。3日後、北の町の有馬(ありま)で、捕縛作戦が実行されるそうです。」
3日後。その短い日数では、ただの打撲である椎名の傷はともかく、太一の傷は治りそうにない。
「その、捕縛部隊とかもいるんだろう?なら、1人抜けた所で問題ないんじゃないか?」
夏幻が横から口を出す。
「そうかな・・・・・。」
琴奈がそう言った。その時。
「・・・っつぅ・・・!!」
琴奈は、右腕に確かな痛みを感じた。
脳を刺すような、鋭い痛み。
その時はまだ、琴奈の体の内側で起こっている事態に気付く事は無かった。



2日後。明日には、あの赤い獣の捕縛作戦が控えている。
そんな時、大橋へと向かう一本の電車。
その電車には、英伊緒と、宵原夏純の2人が乗っていた。
伊緒の膝の上には、菓子包みのようなものが乗せられている。
「夏純ちゃん、次で降りるからね?」
伊緒が、ウトウトと眠りかけている夏純に声をかけた。
「お兄ちゃん、元気かな?」
夏純がそう言う。
「ん、大丈夫。元気だよ、きっと。」
伊緒が夏純に笑いながらそう言葉をかけると、夏純も、笑顔でそれに答える。
彼女達は、明日、宵原夏幻が捕縛作戦に参加することなど、知る由もない。
本来なら、部外者の関係は禁止されている、その作戦。
しかし、今の夏幻を止められる者は、居なかった。



その日の午後、部隊のビルについた伊緒と夏純。
伊緒は、手に提げていた菓子包みを、琴奈に渡した。
琴奈が中を開けてみると、そこには様々な形をしたビスケットが入っていた。
「へぇ〜、なんか珍しい。高いでしょ、これ?」
「そうでもないんですよ。すぐ近くのお店で買ったんですよ。」
琴奈は、伊緒と夏純を、ソファーに勧める。
2人は、それに応じて、ソファーに座った。
「夏純君・・・?は、どうしたの?」
「あ、今出かけてるんだぁ〜・・。祐宇君に、彼流のリラックス方法に、突き合わされてるの」 琴奈がそう言うと、伊緒と夏純は、不思議そうに琴奈の顔を見る。
「・・・まぁ、夕方には帰ってくると思うよ。・・多分?」
琴奈はそう言うと、苦笑いを浮かべた。



「・・・まだ、やるのか?」
缶ジュースを飲みながら、夏幻は橘の背中を見てそう言う。
「当たり前や!ワイの金が続く限り!」
橘祐宇は、燃えている。
部隊ビルから、少し離れた場所にある、バッティングセンター。
そこに、橘と夏幻はいた。
橘がひとりで、ひたすらバッティングを続けている。
夏幻は、つまらなさそうに、ただうしろでジュースを飲みつづけていた。
「おーい、どうしたんやぁ、夏幻よぉ〜。」
一通りバッティングを終えた橘が、夏幻に近付きながらそう言った。
「こんな事、してる場合なのか?」

夏幻が、缶ジュースを飲み終えて、そう一言。
「・・・、お前なぁ、妙に気負うより、こう言う風に気分転換したほうが、いいで?」
橘の言う事は間違ってはいないのだが、彼のそれは行き過ぎている。
「銃の点検とか・・・他にやることもあるだろう。」
「あいにくやけど、ワイは銃なんか使わへんしなぁ。」
「・・・俺は、銃使うんだけど・・・。」
「・・・何や、あんたも行くつもりやったんか?」
「当たり前だ!」
それを聞いて、橘はすぐに、バッティングスペースへと戻った。



橘自慢の武器工房。そこに天城奈津はいた。
床に座り込んで、長身の銃を点検している。
そこに、後ろの扉から大丸太一が入ってきた。
「おぅ、奈っちゃん。銃の点検か?」
後ろから話し掛けられた奈津は、すぐに太一の方に振り向く。
「うん。今回は、私も作戦に参加するし。しばらく銃使ってないから点検しとこうと思って。」
「そっか。ところで、俺今からボウガンの矢、買いに百貨店行くけど・・一緒に行くか?」
太一がそう言う。
「私の狙撃銃も、弾丸がちょっと不足してるのよね〜。」
奈津が、弾丸が入ったバックパックを覗きながらそう呟く。
「そうだろ?行こうか。」
太一がそう言って、扉の方へと歩き出す。
しかし、奈津はそこに座り込んだままだ。
「じゃ、お願いね〜。あ、弾の型は、なんでもいいから。できるだけ経費は節約してね。」
奈津が左右に大きく手を振りながら、そう言っている。
「・・・。買って来いって?」
「そだよ。いいじゃん、ついでに。」
太一としては、奈津を連れて行く事に意義があったのだが。
もちろん、奈津はそれに気付いてはいない。
「なぁ、俺って何?」
「物資調達係かな。」
奈津ははっきりそう言ってのけた。
これで彼の肩書きも3つに増えた。
(色々、苦労してるな、俺は・・・。)
そう思いながら、太一は橘自慢の武器工房を出て行く。



「あ、みー君、たーさん、おかえり〜。」
弾丸や、ボウガンの矢等を抱えた椎名と太一が、部隊のビルへと戻ってきた。
琴奈に伊緒、夏純、奈津が、土産物の菓子包みの中身を食べている。
「あれ、祐宇とエリックは?」
太一が、周囲を見回してそう尋ねてみる。
「あの、橘って奴は、まだバッティングセンター。」
壁によりかかっている夏幻が答えた。
「んでもって、エリックはそのお迎えに。」
琴奈が、更に付け足してそう答えた。
「な・・何やってるんだ、橘の奴は・・・。」
椎名が呆れた表情で、そう言う。
「だから・・・バッティングでしょ?」
琴奈がそう答えた。確かにそうなのだが、椎名が口走った言葉はそんな事を聞いていない。
「なんか、大変そうな時にわざわざ来ちゃってゴメンなさい。」
伊緒がそう言う。
「あぁー、だいじょぶだいじょぶ。夏純ちゃんも連れてきてくれて、夏幻君も気が紛れるだろうから。」
「・・・・そういうの、普通本人がいないときに言わないか?」
「君も、だいぶツッコミを覚えてきたねぇ。」
「・・・・・。」
椎名は、夏幻をも話術でふみ倒してしまう琴奈に感心した。




それから橘とエリックが帰ってきたのは30分後。
明日、赤い獣、マホロバとの戦いが始まる。
捕縛。
中央塔はそう言った。
マニュアルには「場合によって、捕殺の命令を下す」と書いてあったのだが。
ある時期から捕殺の命令が全く来なくなる。
どんな困難な、「捕縛」でも、中央塔は捕縛を命ずる。
明日、赤い獣、マホロバとの戦いが始まる。
殺せない。捕まえるための、戦い。



※ブラウザの戻るでお戻りください。
 人気キャラアンケートにも、是非参加してくださいっvV
票が集まったキャラは、少しだけ登場増やしたり・・・。
 終了時の上位3名のイラストを描いたり・・します〜っvV