第16話
覚醒の夜




太一を除く、夏幻を加えた異種生命体捕縛部隊は、北の都市にある、広い荒野へと来ていた。
太一の身体は、まだ本調子ではないようだ。
彼等が居る、その荒野の周りには、別の特殊捕縛部隊が陣取っている。
その、一同の視線が集まる中央には。
赤く、巨大な獣が、悠然と立ち構えていた。



7月10日  午後8時50分。作戦開始の10分前。
蒸し暑い夏の夜に、特殊捕縛部隊の一同は、重く、厚い装備を装着していた。
「この暑い中、よくあんな暑苦しそうな装備、つけてられるなぁ。」
琴奈が、ボソっと呟く。
「・・・いや、あのデカいマホロバを相手にするのに、軽装の俺たちも、充分おかしいと思うぞ。」
椎名がそう言う。もっともな意見だ。
重装備の彼等ならともかく、第13小隊の彼等は、異常なまでに軽装備である。
まともな装備をしているのは、椎名くらいで、他はほとんど私服と言ってもいい格好であった。
「もうすぐ、作戦開始やで。琴奈、椎名。前線に出る準備や。」
橘が、2人を呼ぶ。
「俺も前に出る!!」
夏幻が、そう言って前に出てくる。
「あかん。お前が持っとる『熱線』は、多少の遠距離射撃も可能や。遠距離から狙える者は、遠距離で応戦するんや。」
「関係ない!!俺は、近くであの悪魔と戦ってやる!!」
夏幻は一歩も退きそうにない。そこに椎名が。
「なら、この『爆風』を持つか?」
「おいおい、椎名!」
「・・・・。わかった。貸せ。」
夏幻が、手を伸ばす。
「・・夏幻。これも、銃だ。だから、多少距離をおいて使える、そう思っているか?」
椎名の突然の問いに、夏幻が表情を曇らせる。
「この銃は、散弾銃だ。遠距離から撃つと、全弾、関係の無い方向に飛び散ってしまう代物だ。」
「・・・・。」
「全弾当ててこそ、本当の効果を発揮する。どうするか、お前にも分かるな?」
夏幻は、静かにうなずいた。
「近距離射撃。もしくは、零距離射撃だ。それほどまでに接近しなければならない。お前にそれが出来るという自信はあるか?」
しばらく沈黙したあと、夏幻は。
「・・ふん、やってやるさ。」
そう言って、椎名が差し出す『爆風』を受け取った。
そして。
作戦開始を知らせるサインが。
他の部隊から・・上がった。



それと同時に、赤い獣へと走り出したのは、3人。
冷静に考えれば、そうだ。
本来、捕縛部隊は近距離武器なんて使わない。
数少ない近距離戦闘員でさえも、捕縛用のネットを手に構えている。
この距離で、周りを行き交う3人の隊員に当たらぬ様、獣を撃ちぬける隊員は、果たしているのだろうか?
琴奈や橘が知る限り、同部隊の2人は、それが可能だ。
全速力で走る3人の後ろから、隙間を通って獣を撃ち抜く弾丸。
低速ながら、重みのあるその弾丸は、椎名三鈴の『熱線』。
それと同時に、他の部隊からも、弾丸が飛び交う。
しかし、3人が獣の元へ到達すると同時に、弾丸は止まる。
しかし、第13小隊から、2種類の弾丸。
先程と同じ、椎名三鈴の『熱線』。
鋭い回転を持ち、高速で突き進む弾丸、天城奈津のスナイパーライフル。
その2つの弾丸は、正確に3人が居ない隙間を通って獣へとあたっている。
しかし、遠距離では、その弾丸が、皮膚に当たると同時に地面に落ちていることには気付かない。
一方の、近距離戦闘隊員。琴奈と橘、夏幻は。
この毛むくじゃらの身体の、どこが急所かわからず、防戦一方であった。
前回の戦いで深い傷を負わせた場所、それは尾。
琴奈はそれを思い出して、跳躍し、赤い獣の尾に向かって長薙刀を振り落とす。
しかし、刃を受けたその長い尾が、胴体と分かれる事も、血を流す事も無かった。
「き・・切れない!!」
両手で長薙刀を振り下ろしていた琴奈は、バランスを崩し、その場にしりもちをつく。
そこに、獣の巨大なうでが、落とされようとしている。
「琴奈ちゃん!!!」
橘がすぐに反応し、下から獣の尾をなぎ払う。
刀の斬撃は、尾を弾き飛ばし、周囲を鮮血に染めた。
その時、琴奈は悟った。
遠距離からの射撃では、傷はつかない。女の腕力では、傷はつかない。
(私は・・攻撃の意味がない・・。防御・・・回避だ!)
琴奈は、素早く起き上がり、長薙刀の柄で、軽く獣の後ろ足を突付く。
「こっち!」
琴奈は、出来る限り獣の気を引いて、チャンスを作るという方法を選んだのだった。
獣は、琴奈の方へと向き直る。
その時、琴奈の右腕に、また突き刺すような痛みが走った。
(こんな時に・・・なんなの!)
もちろん、そんな事気にしていられなかった。すぐに、橘や夏幻とは逆の方向へと走り出す。
獣は、いとも簡単に、橘や夏幻に背を向けた。
その隙を見逃さず、2人はすぐに背中へと駆け上る。
先にしかけたのは、橘。刀を、胴に向かって突き立てる。
後に続くのは、夏幻。左前足を狙って、散弾銃の零距離射撃。
殺すわけにはいかないので、急所は狙えない。
捕縛部隊も、捕縛用ネットを構えて、準備をしていた。
が。
橘が振り下ろした刃は、獣の胴体を貫く事は無かった。
夏幻が打ち出した散弾銃は、前足を貫く事は無かった。
獣は怒り狂い、2人を背中から叩き落す。
「ぐぅ・・ぁ!!」
「う・・っ!」
橘と夏幻は、勢いよく地面に叩きつけられ、苦痛の表情を浮かべた。
「祐宇さん!!夏幻君!?」
琴奈が驚いて、倒れている2人に駆け寄ろうとした時には、赤い獣の巨大な爪が上空へと掲げられていた。
遠くに居る椎名と奈津は、驚いて身を乗り出した。
琴奈は、目をつぶり、願う。
ふたりを、どうにかして、無事に助けたい。
その琴奈の願いは望まぬ形で叶えられた。
彼女の目の前にあるのは、巨大な獣の体。
橘と夏幻を殺そうとしている、巨大な獣の体。
今から死にゆく、巨大な獣の体。



意識は、あった。
橘と夏幻の方を向く。
2人は、無事だ。血がついているように見えるが、傷のようなものは無い。恐らく、返り血だろう。
よく見たら、2人共、何故か驚いたような表情をしている。
・・・?返り血?
あの獣は、尾以外は怪我していないはずだ。
位置的に、尾の血が、彼等につくとは考えられない。
それに、なにより量が、尾の怪我からの返り血にしては、かなり多い気がする。
じゃあ、なんだろう。
右手に、何か持っている。
それは、黒くて、焦げ臭い匂いを放っている。なにやら棒状の物。
しばらく考えていると、突然その棒状の物は燃え出した。
「あつつつ!!」
思わず言葉を発して、それを地面へ放り出した。
熱い・・?本当にそう思っていたのだろうか?
放り出した直後も、別に「熱い」「痛い」といった感覚はない。
そのとき、数メートル先で倒れこんでいる巨大な獣の姿が目に映った。
それを見た琴奈は、驚愕した。
右前足が、無い。
バランスを崩した獣は、立ち上がるのに苦労しているようだ。
さっき、刀や散弾銃がびくともしなかったあの足を・・・。
誰がどうやって切り離したと言うのか。
ふと、先程投げ捨てた棒状の物を見た。
黒く変色し、焦げ臭い匂いを放っているものの、それの形は、まさしくあの獣の『足』であった。
それを琴奈が右腕に持っていた。
(私が、素手で・・・?)
信じたくは無かった。と、いうよりもはや信じる事は出来なかった。
出来るはずがない。出来るはずがないのだ。
しかし、橘と夏幻が浮かべるその表情。
ありえない。そのような事が起きたかのような、その目。
まさか、本当に自分が。
改めて自分の右手を見た。
自分の右手が、赤く、熱を帯びていた。
先程、勝手に獣の『足』が燃え出したのも、自分でやった事なのだ、と彼女は自覚した。
そして、これと同じ力を持つマホロバを、彼女は知っている。
浅原琴奈の右肩に奇妙なアザを残した張本人。
英 凛。伊緒の中に住んでいた、お節介なマホロバ。
憑かれた。自分は、英 凛 というマホロバに憑かれた。
(琴奈は、何を望む?)
今、自分が望むこと・・・。
仲間を、守る事・・・。

(守ろうよ。あの赤い、マホロバから。)
守る・・・守る・・・あの、赤いマホロバから・・・。
・・・・・殺さなきゃ・・。守れ・・・ない・・?
自分が、意識が遠くなるのを感じた。



橘祐宇と、宵原夏幻は、浅原琴奈と呼ばれる人物を見ていた。
「どうしたんや・・・あいつ?」
「素手で・・・・足を切り離しやがったぞ・・」
今の彼女は、赤い獣に飛び掛ろうとしている所であった。
その両手は、赤く光を放っている。
「死ね!!!仲間を傷付ける、嫌な奴!!」
高温を持ったその両手を、獣の体に押し当てる。
その赤い毛皮からは、煙が立ち昇り、獣は苦痛の咆哮をあげる。
その、人の姿をしたマホロバは、一瞬のうちに獣を痛めつける。
残った右前足を、切り離す。
両後足を、順番に切り離す。
それだけで、その獣は体の自由を失った。
それから、胴を焼き、頭を焼いた。
今まで、手に負えなかったその赤い獣は、すぐに命を絶った。
遠くで、捕縛するために構えていた隊員達は、唖然としている。
そう、殺したのだ。
捕縛対象であるはずのマホロバを、捕縛隊員、浅原琴奈が、殺したのだ。
「え・・?え・・・?」
なにやら、手の色も元に戻っている、その浅原琴奈の形をした者もまた、唖然としている。
「琴奈・・ちゃん?」
橘が、恐る恐る近付く。
「な・・何で、死んでるの・・?え・・・?」
混乱する琴奈の背後で、無線を持った隊員が、何やら話している。
「捕縛は失敗。第13小隊にいる隊員が、赤いマホロバを、殺害しました。」
「琴奈ちゃん、とりあえず戻るんや。話はそれから。」
橘が、琴奈の手を引いて、13小隊の元へと戻って行く。
その後ろに、夏幻も続いた。
部隊のビルに戻れば、伊緒、そしてエリックが居る。
彼等と、会ってみると、いいかもしれない。
捕縛失敗、彼等が無線でそう言ってくれていたのが、唯一の救い。
下手をすると、追放処分をも受けかねない。
琴奈の行為は、端から見ると、「故意」の出来事だったのだから。



・・・・。あのデカブツは、結構な味だと思ったのだがな。
どこかの隊員が、しくじりおったか。
まぁいい。まだ代わりはいくらでもいる・・・。
そうだ・・・。いくらでも・・・。
そういえば、以前捕らえておいたマホロバ憑きも・・・まだ喰ってなかったな。
人型は鮮度が落ちる事がない・・・。獣型を先に喰ってやろう・・・・。
あのマホロバ憑きを喰うのは、獣型を食い尽くした、そのときだ。
・・・・くっくっく・・・。
低く、大きいその笑い声は、建物の中に響いた。
ドス黒い何かが、起ころうとしていた。




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