第18話
合同訓練開始




浅原琴奈は、警察育成高専行きのバスに揺られていた。
もう生徒ではないので、スクールバスには乗れない。
なので、一般バスに乗り込んでいたのである。
少し来るのが遅かったのか、バスの中は満員で、琴奈は席に座り損ねた。
時折、車体が大きく揺れる度に、前後の人や左右の手すりなどに体が当たって少々痛い。
バス停の横にくると、バスが停車した。
扉が開き、バス停で待っていた人たちは乗り込もうとするが、中の混み様を見ると、立ち止まる。
運転手は、それを『乗らない』と判断し、扉を閉め再び合図と共にバスを走らせる。
琴奈がいた頃はスクールバスだったので、途中のバス停に止まることはなかった。
関係の無いバス停にいちいち停車するのが、彼女にとってはかなり面倒なことであった。
と、仮にも警察官とは思えないような思考をもっている琴奈は少々問題である。
(あ〜あ・・。早くつかないかな・・。)
そう思う琴奈なのだが、高専まではまだ20分弱かかる。
その間ただ立っておくのも無駄な時間なので、何気なく椎名の姿でも探してみる。
が、そこに椎名の姿がある訳はない。
(そういえば、みー君・・・。車の免許持ってたっけ・・・。)
自分の車があるのに、こんなバスに乗ってきている訳は、ない。と、思った。
(暑い・・・。)
琴奈の戦いは、まだまだ続く。



琴奈が走り去った、ひとつあとのバス。
バス停に止まったそのバスに、椎名三鈴が乗り込んだ。
(車がなきゃ・・・。免許もただの紙っきれだな・・。)
正確には、免許証は紙ではないのだが、その辺はあまり気にしない。
今年の4月、マホロバに自分の車は、大破させられていた。
そのせいで、この満員バスに揺られるハメになってしまった。
しかし、その巨体を生かして、他の客を押しのけて半ば強引に席へと座った。
その辺に関しては、彼は琴奈よりも警察官らしからぬ行動をとっている。
バスの中には、特に老人も乗っていないので、まだマシではあるが。
席に座ると同時に、手すりに3本の銃を立てかける。
それは、席に座れず、立っている他の客にとっては、邪魔以外の何者でもない。
が、そんなことに椎名は全く気付かない。
そんな状態のまま、バスは高専へと向い、走り出した。




「暑い!!!!やっとついた!!!」
浅原琴奈が、缶コーヒーを片手にカーテンのようなものをくぐって、そう叫んだ。
カーテンの先には、なにやら照明のあたり、妙に気温の高い場所。
そこには、拡声機を片手に持った、水守教授が立っていた。
その教授には、ステージ下から、武装をした生徒達の視線が集まっていた。
が。一瞬で、ステージに乱入してきた『誰か』へと視線が移る。
「えーっと、ここは、警察育成高等専門学校ですか?」
「・・・そうですよ。浅原さん。」
琴奈が、水守教授に尋ね、それに、教授は律儀に答える。
そこから数秒の静寂。そしてすぐに。
「浅原せんぱーーい!」
「琴奈せんぱーーい!」
生徒達が並ぶ、24列のうち、前4列を除く、20列に並ぶ生徒達が一斉に声をあげた。
その代わりに、前4列の生徒達は、唖然としているのだが。
「やっほーっ!!みんなーっ!元気ー!」
琴奈が、両手を振ってそれに答え・・ようとしたが、缶コーヒーを持った手は、振らずに留まらせる。
前4列は、今年入学してきた、新1年生。
それより後ろは、琴奈が在学していた当時からこの高専に居る生徒達。
琴奈は、ほとんど全員と言っていいくらいの後輩との付き合いを保っていたのであった。
新1年を除いて、彼女を知らない者は、恐らくこの学校には居ないだろう。
「浅原さん。今、合同訓練の説明中なのですが。」
水守が、琴奈にそう言う。
「はーい。ちょっと黙ってまーす。」
琴奈が気抜けした返事を返すと、水守は生徒の方へと向き直る。
「えー・・っと、1年以外は解っていると思うが・・・。彼女が、マホロバ役となる浅原琴奈さんだ。」
そう水守が言うと、1年達は、琴奈に視線を集める。
と、琴奈の右脇にある、『長薙刀』に眼をやって、少し恐怖の色を見せている。
「浅原さん?まさか、それしか持ってないわけじゃないでしょうね?」
「だいじょぶだいじょぶ。これ、刃をつけなかったら、単なる長棍だから。」
そういって、刃のついていないそれを掲げると、生徒達から安堵の色が見てとれる。
が。再び彼等の表情は凍りつくことになる。
「すみません!遅れました!!」
そういって、琴奈と同じ入り口から飛び込んできたのは、椎名三鈴であった。
「・・・・浅原?お前、休暇とってなかったか?」
「お呼びになったの。私もここの卒業生だし。力にならないとね〜。」
「そうか・・。俺の一期後の卒業生だったな、お前は。」
「・・・・そんなことより・・・。それ・・。」
琴奈は、椎名が右腕に抱えている3本の銃に眼をやった。
「まさか、訓練にそれ使う気?」
「ん?ああ。そうだけど、弾はちゃんとゴム弾使うぞ?人間が喰らうと、ちょっと痛いんだけどな。」
椎名が銃を掲げてそう言った。
「・・・こほん。」
水守が、咳払いをすると、琴奈と椎名はすぐに向き直る。
「・・君たちには、裏手にある森林に入ってもらう。それを、生徒達が追う。それで良いな?」
水守が簡単にそう説明した。解りやすく、単純なルールだ。
「どんな事があっても、殺傷は禁止。彼女等も人間だ。あまり無茶はしないように。」
今度は、生徒達全員にも聞こえるよう、そう説明した。
「開始は、30分後。しっかりと準備を整えておくように。解散!」



「ども、こんちわ、浅原先輩、椎名先輩。」
休憩している2人に、蒼い髪をした少年が話し掛けて来た。
どうやら、新入生らしい。
「ん、こんちわ。挨拶に来るなんて、感心感心。」
「挨拶もそうだけど、先輩達、俺、ちょっと気になる事があってさ。」
そう言うと、琴奈と椎名は、顔を見合わせる。
「どういう意味だ?」
椎名がそう聞き返す。
「みー君、顔が怖い。笑う笑う。」
「将来警察官になる奴が、この程度でビビっていては始まらないだろう。」
「えぇ、もちろん。ビビってなんか、いませんよ。」
蒼い髪の少年は、笑いながらそう答えた。
「で、その、気になる事って?」
琴奈が少年に聞く。
「いえ。貴方達や、ここの生徒達が入る、森なんですけどね。・・・マホロバの気配がします。しかも大型の。」
少年がそう答えると、琴奈と椎名は、唖然として少年を見る。
「どうして、君、そんな事がわかるの?」
琴奈が聞くと、少年の口からは、驚くべき答えが返ってきた。
「僕がマホロバだから。同類の匂いとか気配は、すぐ判っちゃうんだよねー。」
彼は、マホロバ、と、言った。もしそうだとしたら、あまりにも友好的。
なにより、彼がこのような警察育成の高専に居る事自体が不可解だ。
「貴方達人間は、忘れてしまったかもしれないけれど・・。俺みたいなのが、マホロバの本来の姿なのさ。」
「・・・・え?」
「いつからだろうね。マホロバがおかしくなったのは・・。自分がおかしくならなかった事は、ホントに嬉しく思うよ。」
「意味が、解らないぞ。」
「華秦(かしん)には気をつけて。あいつが、全ての始まりであり、終わりだ。」
少年の言葉は、ますます琴奈達には理解できないものになった。
華秦なんていう名前には、2人は心当たり無かった。
その時。
『生徒は、作戦開始位置に移動してください。浅原琴奈、椎名三鈴両名は、それぞれ別の入り口から森へ入ってください。』
スピーカーから、アナウンスの声が響いた。
「あ、俺そろそろ行きますね!・・・っと、名前。俺の名前。青環昴。セイワスバルです!!」
そう言って、彼は集合場所の方へと走っていった。
「華秦・・・。誰だ・・・。」
椎名が、まだ謎の名前のことを気にしている。
「それより、早く森に入るよ。私東から入るから、あなたはここからね。」
東口の方向へ走り出そうとする琴奈を、椎名が呼び止めた。
「おい!浅原!あいつの忠告通りマホロバが居るかもしれない!気をつけろよ!」
「心配してくれたんだ。ありがとね、みー君。それじゃ!」
椎名は、走り去る琴奈の姿をじっと見つめていた。

それは確かに合同訓練。
の、はずだ。
今日、この森で、人間が血を流す。
マホロバが、血を流す。
この戦場の森で。



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