第19話
戦場の森




森に入ってから、10分経った。
そろそろ、生徒達がこの森に入ってくる頃だろうか。
だが、まだこの辺りまで達するにはかなりの時間を要するはずだ。
なのに、身がピリピリするこの空気は何だろう。
近くに・・自分に殺気を持った何かが居る。
そんな気がする。



(困ったなぁ・・・。)
浅原琴奈は、森に入ってから、一直線に走った。
その後、手近な木に駆け上ったのだが・・・。
生徒達の第一波がすぐそこまで来ている。
それと、どういうわけか、背後からも同じような気配を感じる。
どうやら、森の中心あたりまで走ったせいで、別の入り口から入った生徒達もやって来たようだ。
生徒達は、5人ずつの小隊を組んで行動している。
5人程度なら、重傷を負わせない程度に手を抜くことは可能だが・・。
10人ともなると、本気で戦わなければ勝てる可能性も低い。
と、なると、やはり重傷を負わせてしまう可能性がある。
出来る限り、大人数との戦闘は避けたい。
そこで、琴奈は考えた。
いっその事、どちらかの小隊に突っ走ってみればどうだろうか?
その5人を早い所どうにかした所で、再びどこかに逃げる。
それしかない。行動は早い方が良い。と、言う訳で早速行動に移った。
琴奈は木の上から飛び降りると、すぐに正面の気配に向かって走り出した。
走れば走るほど、その気配は大きく強くなってゆく。
どんどん大きく・・・大きく・・。
その途端、琴奈はピリピリと、嫌な予感を感じた。
琴奈は、全速力に達したその足を思い切り止めると、すぐに真横へ飛びのいた。
自分が飛びのいた位置に、何かが飛んできた気がしたが、そんなことは気にしない。
(何、今の・・。銃弾ではないみたいだけど・・?)
と、すぐにその気配は消えた。その直後。
『うわーーーっ!!!』
琴奈の耳に、数人の男女の声・・悲鳴が、入ってきた。
(な・・・何!?)
琴奈は、驚いて先ほど自分が来た道の先を見据える。
その先には。
血と、死。



「わっ!!痛いですって!!ボク、もう死にましたから!!」
5人の生徒が、口々にそう言う。
「どうした?この程度じゃ、捕縛隊員になんてなれないぞ?」
「私は、捕縛隊員じゃなくてふつーの警察官志望なんだけどなぁ・・。」
「普通の警察官だろうとなんだろうと、マホロバと戦う機会はあるんだから、こういう力は必要だ。」
椎名三鈴が、『爆風』に込められたゴム弾で、5人の生徒を一掃し、説教をしていた。
「ゴム弾だからって、無茶苦茶しないで下さいよぅ。結構痛いんですよ!」
「当たり前だ。痛くなかったら訓練にならないだろう。」
立ち止まって談話を続ける「仮想マホロバ」と、生徒達は、近くにせまる殺気に気付かない。
正確には、「仮想マホロバ」だけは、その殺気に気付いた。
が、気付いた時は、既に遅い。
木の上から何かが降りてきた。
その、何かは、しりもちをついている男子生徒の首を貫き、鮮血に染めた。
「う・・・・うわ!!!」
「お・・・おい!!お前!!」
力を失ったその生徒は、その場に前のめりに倒れ込む。
「な・・・何だ・・・何が起こったんだ・・・」
「気をつけろ!!!この近くにマホロバがいるかもしれないぞ!!」
椎名は、青環の言葉を思い出し、咄嗟にそう叫んだ。
(どこだ・・・・・。・・・?空気が、動く音・・・。・・・・後ろか・・・!!)
椎名は、ゴム弾が込められた『爆風』を構えて、そのまま背後に向けた。
そして、ひきがねを引くと、ゴム弾が、3つの弾道を描いて前方に飛んでいく。
そのうちのひとつが、なにやら異形のものをとらえた。
弾の命中したそれは、青くゲル状のもので、大きさは拳大くらい。
宙を飛んで移動していたらしく、肉眼で確認したときは、1mほどの高さから地面に落ちる所であった。
(なんだ、これは・・・。)
よくみると、その異形は、まだ弱々しくではあるが、体を動かしている。
生かしておいてもしかたがない・・と、とどめを差す為に、『爆風』の銃口を異形に向ける。
引き金を引くと、ゴム弾が集中してその異形に命中し、その体は弾けとんだ。
血は、出なかった。どうやらあのゲル状のものだけで体が構成されているらしい。
「せせせせせ・・・先輩ぃー・・。どうなってるんでしょうかぁーーっ;」
後ろにいた生徒達が、情けない声を椎名に向ける。
「分からない・・・。こいつは・・・見たことの無いマホロバだ・・・。」
青環の言葉から、この異形はマホロバなのだろうと、そう判断した。
そこでハッとした。
このマホロバが、一体ではなかったら?
他にも同じマホロバが存在していたら?
危険だ。
プロの捕縛隊員であったからこそ、かろうじて撃退はできたが。
遠距離攻撃の可能な銃をもった椎名だからこそ撃退はできたが。
経験の浅い生徒達はもちろん、遠距離攻撃の手段をもたない琴奈は・・・。
「お前ら!!絶対に俺から離れるな!しっかりついてこいよ!」
そう言って、椎名は琴奈が入った入り口の方向へ走り出した。
うしろにいた生徒達は、すぐに後を追うために足をだした。
が、椎名は、その生徒達が自分の後を追う事無く、その場に倒れ込むことなど、知る由もなかった。



何か、青く透き通った小さな物体が、自分の方へ飛んでくる。
その小さな物体は、自分のそばにいた仲間達を、次々と貫いていった。
そして、その小さな物体は、遠くからこちらに向かって飛んで来ようとしている所だ。
自分の顔を狙って飛んでくるそれを、左手一本で受け止める。
そしてすぐさま、右の手刀を左から振り払い、小さな物体を、二つに切り分けた。
「こういう小さいマホロバは・・・。どこかに必ず『親』がいるもんなんだよね・・。」
青環昴はそう言うと、自分の右手にこびりついたゲル状のものを振り払った。
「同種族を殺すのは、気が引けるけど・・。人間も、ボクにとっちゃ、仲間だからね・・・。」
そう言うと、青環はゆっくりと歩き始める。
「おかしくなったのは、キミ達だ。悪く思わないでくれよ。」
青環は、誰に話し掛けるわけでもなく、そう呟いた。



「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
目の前の光景に、琴奈は背を向けて走っていた。
今は、横手の木の影に座り込んでいる。
(死んでた・・・?死んでた・・・・!!)

琴奈は、混乱する自分を必死に落ち着かせようとするが、上手くいかない。
琴奈は、後輩の顔は、大抵知っている。
さっき見た光景の中に、名前が解る者も居たのだった。
(何・・・?何があったの・・・!)
そして突然。
付近に、先ほど感じた、ピリピリした気配を感じた。
恐らく、この気配の正体が、この事態の原因なのだろう。
そう思うと、琴奈は自然と立ち上がっていた。
そして、刃のついていない長薙刀を両手にしっかりと握り締めた。
木の幹に、背中を合わせると、そのまま気配の感じる方向を覗き見た。
何か、小さくて、透き通ったモノがこちらに向かって飛んできている。
「こちら」というのはあくまで琴奈ではなく、方向を指すのだが。
琴奈は、そのモノが近くまで来るのを確認すると、横っ飛びに飛び出して、長薙刀を振り下ろした。
長薙刀の先端は、そのモノに命中し、地面へと叩き落した。
が、すぐに浮かび上がり、琴奈に奇襲をかける。
琴奈はすぐにそれに反応して、体を横転するが、少し間に合わなかった。
そのモノは、琴奈の左肩を貫いて、自分の後方へと飛んでゆく。
痛みに顔を歪めつつも、すぐに構えなおして後ろを振り向くと、そのモノがこちらに戻ってくる姿が見える。
刃のない長薙刀で殴った所で、効果が無いのは確認済みだ。
かといって、逃げるにも、あのスピードから逃げられる自信ははない。
どうすればいいか迷ううちに、そのモノは琴奈の頬をかすめ、再び背後に。
琴奈の頬から、少量の赤い筋が流れる。
そもそも、木の陰から飛び出した事自体が間違いだったのかも知れない。
得体の知れない相手なのだから、あの時はあのまま見過ごした方が良かったのだ。
などと、琴奈は後悔の念を重ねていたが、今となってはそんな事を考えている余裕なんか無い。
琴奈は、必死に飛んでくるその相手を、振り払いながら紙一重で攻撃をかわしている。
が、かすり傷ではあるが、琴奈の体には、少しずつ傷が刻み込まれていく。
(これは・・・。ヤバいな・・。どうしよう・・・。)
琴奈の脳裏に、少しずつ恐怖が芽生え始めた。
このまま避け続けるとしても、いつか力尽きるのは目に見えている。
防御・回避だけしていたところで勝てる相手ではない事は、良く解る。
ではどうすればいいのだろうか?
琴奈は、回避目的で長薙刀を振るってはいるが、仮にも彼女の「武器」で殴りつけているのだ。
それで何の効果も示さない以上、攻撃の手段が無い。
こちらに真っ直ぐと飛んでくる相手に、もう一度長薙刀を振りぬいたその時。
みしぃ・・・。
そのモノが通り過ぎると同時に、鈍い音を立てて琴奈が持つ長薙刀がへし折れた。
持っていた棒が突然軽くなってしまったため、勢い余って琴奈は前のめりに倒れこんだ。
しりもちをつきながら後ろを見ると、今まさに琴奈に襲いかかろうとする相手の姿が見えた。
(う・・・うわぁ・・・っ!!)
琴奈は、両手を顔の前にかざし、死を覚悟した。
が、琴奈に死が訪れることは無かった。
少々の静寂の後、琴奈は自分の命があることを確認して、両手をゆっくりと下げ、眼を開いた。
目の前の地面には、2つに切り分けられてしまったその『相手』の体。
その奥に、足が見える。
足から順に上へと見あげると、そこには。
蒼い髪の少年が立っていた。
先ほど、森の入り口で少しだけ話をした、自称マホロバの少年。
青環昴が、そこにいた。
「キミは・・・。青環・・君?」
「大丈夫ですか?だから言ったでしょう。マホロバの気配がする・・って。」
青環は、琴奈の質問の答えとは別の言葉で琴奈に話し掛けた。
「それは・・・マホロバなんだ・・・ね。」
琴奈はゆっくりと立ち上がり、地面に落ちている物体を指差して言う。
「うん。そう。どっかに、これのでっかいのがいると思うんだけど。」
「こ・・・これのでっかいの?」
「そう。でっかいのです。多分、その素体さえ倒してしまえばこいつらも消えると思うんですけど。」
「探そう!!探さなきゃ!!どんどん人が死んじゃう!」
「もちろん、そのつもりですよ。実際、探してる途中に、襲われてる貴女を見つけたんだから。」
そういうと、青環は再び歩き出した。
「ちゃんと後ろついてきてくださいよ。あなた、武器なくなっちゃったんだから・・・。次、一人になったら絶対死んじゃいますよ。」
青環のその言葉を聞いて、琴奈は急いで青環の背中を追う。



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