第20話
刃の手刀と散弾銃




椎名は、森の中を歩いて回っていたが、そこら中に同じ傷で死んでいた後輩達を見つけた。
椎名本人も、3,4回程同じ物体に襲われている。
その度にゴム散弾で撃退していたのだが。
ゴム散弾で戦うのも限界と感じ、予備として持ってきていた実弾を散弾銃に込める。
この作業の途中に襲われてしまっては、太刀打ち出来ないので、茂みの影でひっそりと行う。
実弾は、ゴム弾と違い、撃ってしまったら回収は不可能だ。
なので、これからはできるだけ戦闘を行わない努力をしなければならない。
ひっそりと隠れながら、ゆっくりと進み、目で琴奈を探す。
が、この暗い森の中、この茂みの中では、すぐに方向感覚も失われる。
よくわからないうちに、森の深いところまで入り込んでしまっていた。
そこは、とんでもない気配が渦巻く場所であった。



「なんか、この辺怪しいな。」
しばらく黙って歩いていた青環が突然口を開いた。
「どうして?」
琴奈がそう聞き返す。
「さっきから、少しずつ、地面が乾燥しているんだ。森の奥に入れば入る程、ね。」
言われてみれば、そんな気もする。
森に入った頃は、地面に落ちている木の葉は、踏んでもその形を保っていた。
が、このあたりは、少し踏めば乾いた音を立てて粉々になる。
同じ森の中なのに、このあたりは、妙に乾燥しきっている。
「気をつけて、琴奈さん。素体はすぐ近くにいるよ、多分。」
青環にそう言われると、琴奈は息を潜め、両拳を握り締めた。
「素体を見つけたら、貴女はうしろにいてくださいね。危ないですから。」
そう言って、青環は歩調を速め、まっすぐと歩く。
2分程歩いただろうか。琴奈達は、開けた広場に出た。
その広場の置くにある岩壁には、何か、得体の知れない大きな物体が張り付いている。
「見つけた。あいつが、素体だよ。」
琴奈は、岩壁にあるそれを、見た。
体の一部から、先ほど自分が戦ったマホロバが出てくるではないか。
「うわ・・・。」
琴奈は、思わず口をぽかんと開けて驚く。
すると突然、小さいマホロバは、こちらに向かって直進飛行を始めた。
それを青環は冷静に受け止め、受け止めた手と反対の手で、それを切り払う。
マホロバは二つに切り分けられ、地面に落ちる。
なにやら、彼は自分の体を使って、物を切断することができるようだ。
打撃の効果が薄いこのマホロバを相手にするには、心強い事他ならない。
「それでは、琴奈さん。行ってきますね。この、小さいのには、気をつけて。」
「え・・あ」
琴奈が返事する間もなく、青環は素体と呼ばれたマホロバの元へと走り出した。
青環がある程度近付くと、その素体から鞭のようになにかが飛び出してきた。
青環は、それを弾くために、左手を前に出す。
が、その手は、鞭を弾くには至らず、青環の左手からは鮮血が飛び散った。
「予想以上に鋭いな。ボクの体に傷をつけるだなんて・・・。」
そう言って、第二撃を跳躍で交わすと、その鞭のような物に右の手刀を浴びせた。
手刀は鞭を切断し、その先端を地面へと残して素体の元へと戻っていった。
その次の瞬間、すぐに再生された第三撃が青環に向かって飛び出してきた。
「うぁ!!」
青環は驚いて、右足でそれを蹴り上げると、そのまま背中から地面に落ちた。
そこに追い打ちをかけるように鞭が青環にむかってたたきつけられる。
体全体に当たったので、血こそは出なかったが、圧力のせいか青環は息苦しそうにしている。
琴奈は、自分の武器が無い事を、自分が戦えないことを、悔しく思った。
あの小さいマホロバには攻撃こそ当たらなかったが・・・。
この巨大なマホロバ相手には、どう間違えても攻撃ははずさない。
だが、それをするにも、長薙刀は折れてなくなっている。
端から見て、青環の戦況は明らかに不利だ。
青環は、数回その素体の体を、手刀で貫いている。
しかし、一瞬体の一部が消し飛んだだけで、すぐに再生を終えて反撃してくる。
このままでは、決定的な傷を負わすこともできないままやられてしまう。
琴奈は、混乱する頭を両手で抱える。
が、響く銃声が、混乱から現実へと琴奈を引き戻した。



銃声と同時に、広範囲に広がった弾丸が、素体へとくいこんだ。
そのあまりの衝撃に、素体の体が一瞬大きくへこんだように見える。
弾道の先を見ると、先ほど森の入り口で分かれた、椎名三鈴が、硝煙を噴出している銃を抱えて立っている。
「お前は・・・確か、青環とかいう・・。」
そう言って、椎名は青環に駆け寄ろうとする。
と、その道中で、ふと横を見ると、所々に血を流し、気にもたれかかって立っている琴奈が目に入った。
「あ・・・浅原!?どうした、その怪我は!」
怪我の原因は聞かずとも解るが、聞かずにはいられない。
「みー君、青環君を助けてあげて!」
そう琴奈が叫ぶと、椎名は琴奈のもとへと駆け寄るのを中断する。
「あ、ちょっと待って・・・。『熱線』・・・。貸してほしいな。」
椎名は、理由を尋ねようとしたが、彼女が握っている折れた棒を見て、納得した。
手にもっている布包みから、『熱線』を取り出すと、琴奈に向かって放り投げる。
「ありがと。」
その小さくこもった礼を聞くと、椎名は戦っている青環と素体のもとへと走り出した。



「はぁ!!!」
青環は、大きく手を振り回して、ひたすら素体を斬りつけ、また、産み出てくるマホロバを切り裂く。
時たま出てくる鞭により、青環の体には、いくつもの傷が見て取れる。
椎名は、散弾銃を、中距離から狙いをつけるが、細かく動き回る青環が居て、狙いがつかない。
仕方なく、零距離射撃を行う為に、素体へと走り寄る。
と、その時、目の前に何かが飛んでくるのが見えた。
それはみるみる大きくなり、彼の視界を埋め尽くした。
その物体は、椎名に勢いよくぶつかると、背中から盛大に倒れ込む。
椎名は上にのったその物体を押しのけて、立ち上がると、初めて飛んできたのが青環だと気付いた。
「助かりました、椎名先輩。あなたがいなければどこまで飛ばされていたことか・・。」
「余計な礼は要らない。早くあいつと戦うぞ!」
そう言うと、椎名は青環に先行して素体へと向かって走り出す。
が、油断していた椎名に、素体から鞭の一撃が飛んでくる。
椎名の動体視力はそれを捕らえたが、勢いのつきすぎたその両足を止めるにも体がついていかない。
鞭が椎名の顔の寸前に来た時、突然鞭の勢いがなくなり、力なく地面へと落ちる。
その横には、自分の前を走る青環の姿が見えた。
「あなたは、その銃で後ろから援護してください!」
「あ・・・ああ。」
椎名は一瞬呆然としていたが、すぐに立ち直り再び青環の後ろを走り始める。
椎名との距離を大きく離した青環は、すぐに素体の根元へと到達した。
すぐにその両手を素体の体へとくいこませると、中でグルグルとかきまわす。
その苦痛からか、素体から初めて悲鳴と呼べるものを聞き取れた。
すぐに椎名も素体の付近まで到達する。
が、素体から生まれたマホロバが自分に襲い掛かる。
「ぐ・・・!!」
椎名は、それに気付き、素体に向けた散弾銃の銃口を小さなマホロバへと向ける。
が、椎名の銃から銃弾が放たれることはなかった。が、小さなマホロバは弾けとぶ。
青環の両腕は、間違いなく素体の体へと埋まっている
では、誰が?
そこで、ふと気がついて、自分がもと来た道の方を見る。
そこには、うつぶせに横たわり、両手で『熱線』を構える琴奈の姿があった。
「みー君!その、ふわふわチョロチョロ飛び回ってるのはなんとかするから、安心して!」
琴奈は、呼吸すら苦しいその体で、大声でそう叫んだ。
椎名はそれを聞くと、一直線に素体へと突き進む。
彼に襲い掛かる小さなマホロバは、全て琴奈によって打ち落とされる。
椎名は、素体の根元まで到達すると、その体に『爆風』を押し付けた。
その銃口は少し素体の体へ埋まった。
その状態で、椎名は引き鉄を引いた。
大きく散っていく弾が、素体の体のなかで暴れまわる。
また悲鳴のような声が聞こえたが、特別素体が弱っているようには見えない。
「椎名先輩!こいつ・・・どこかに核を持っていると思うんですが・・・。」
横にいた青環が、椎名に向かって突然話し掛ける。
「核・・・?でも、こいつの体、透き通ってるじゃないか。」
透き通っている素体の体の中に、そのような物体は見えない。
「どうやら、あそこから差し込む太陽の光で、視覚的に見えないように調整されているようですね。」
青環は、顔だけを、森の木々が開けたところを見る。
「少しでも光のバランスを変えてやる事が出来れば・・・。」
それを聞いて、椎名はパチンと指を鳴らした。
「暗くしなくても、とことん明るくしてやればいいんだよな?」
「えぇ、おそらくは・・・。」
「よし、俺に任せとけ。」
そういうと椎名は、布包みをひとつ開けた。
中からは、彼特性の閃光銃が、その短身を現した。
「うぉぉぉーー!!」
椎名は、叫び声を上げると、気合と共に、その銃口を素体の中へと食い込ませ、ゴーグルをかけた。
そして、その引き鉄を引いた。
射出された閃光弾は、素体の中ではじけ、まばゆい光となって一同を包んだ。
青環は、どうやら自分の視覚感覚を調整できるらしく、閃光に眼をくらますことはない。
琴奈も、遠くに居たためか、その効果は現れなかった。
もちろん、ゴーグルとかけている椎名も、同じだ。
その代わり、素体の中に、一瞬ではあるが、核と思われるものを、青環は見た。
その直後。青環は、自分が見たそれに向かって、まっすぐと跳躍すると、手刀を突き出した。
手刀が、核へと突き刺さる。
が、それと同時に、素体から伸びた鞭が、青環の胸を貫いていた。
「う・・ぁ・・・。」
青環が、その痛みに耐え切れずにうめき声をあげる。
「青環!」
椎名が、駆け寄ろうとするが、青環は。
「何を・・している!!とどめを刺さないか!」
その言葉を聞くと、椎名は、青環の手刀が伸びている先に、『爆風』の銃口を突きつけた。
引き金を引くと、発射された全ての弾丸が、次々と核を打ち砕く。
核を粉々に破壊された素体は、まるで淡雪のように地面へと崩れ、溶け込んでいった。
「ふぅ・・・。」
椎名は一息つくと、急いで青環のもとへと駆け寄る。



「はは・・・。昔のまま残ってたマホロバは・・ボクだけだったのになぁ・・・。」
「昔のまま?どういうことだ?」
椎名は、思わず聞き返した。
「マホロバだって・・・昔は・・・。人間と・・・。・・・ゴホ!ゴホ!!」
途中まで言って、青環は咳き込んで血を吐き出す。
「華秦・・。華秦だよ・・。あいつが、ボクらと人間との・・調律を・・乱した・・・・んだ。」
息荒く、青環は淡々と話しつづける。
「華秦・・・?誰だ、そいつは!どこにいる!」
椎名は、華秦という者の招待を知るために、再度青環に問いただす。
その返答を聞くことは、無かった。




「今回の事は・・・・とんだ災難でした・・・。」
水守が、森から出てきた、負傷した琴奈と椎名に向けて、そう言った。
「生徒16人の死亡・・・。こんな事になるとは・・。」
椎名が、喋るのが辛そうな琴奈に代わって言う。
「貴方達、こんな事に巻き込んでしまって、すみませんでしたね。」
「いや・・・。ここに来たからこそ解った事もあった・・・。」
華秦。マホロバと人間の調律を乱す者。青環はそう言った。
いつか、華秦という奴と会う日があるのだろうか?
あるとしたら、一体いつなのだろう。
「今日は、早く休むことをお勧めいたします。浅原さんも、早く治療を・・・。」
「は・・・はぁい。そうします・・ねぇ。」
「無理して喋るな!」
椎名が、口を開いている琴奈にそう言った。
「それでは・・・。浅原さんをよろしくお願いしますよ。」
水守は、椎名にそう言うと、椎名達に手を振った。




琴奈の休暇は、残念な事に、全て病院の中で過ごす事となった。
椎名は、一足先に部隊のビルへと戻って行く。
充分に静養し、琴奈もまたビルへと戻る。
来月、琴奈達は今起こっている異常なまでの出来事は。
彼女達の前に、はっきりとその影を残す。



※ブラウザの戻るでお戻りください。
 人気キャラアンケートにも、是非参加してくださいっvV
票が集まったキャラは、少しだけ登場増やしたり・・・。
 終了時の上位3名のイラストを描いたり・・します〜っvV