第25話
最後の晩餐




暗く、光の届かないよどんだ部屋。
そこに『彼』は居た。
「・・・またメシ食ってないみたいだな」
「・・・・・。」
どうやら、牢屋のようになっている部屋の外から一人の男が話し掛けた。
「全く、お前一体何日何も食べてないんだ?まるで人間とは思えないぜ」
外の男がそう言うと、『彼』は鉄格子に向かって一直線に走る。
隠し持っていたナイフを、鉄格子を通り越して突き出す。
男は、後ろに一歩下がり、それを避わす。
「ふん、残念だったな。」
「・・・・・。」
男と『彼』は、まっすぐと対峙していた。



「もう、準備も整ったし、良いんじゃないのか?」
「怪我もある程度治ったしね」
11月の中旬、隊員達はビルのなかで、中央塔への進撃の計画を立てていた。
華秦は、「中央塔へ来い」、そう言った。
その言葉に従うために、とりあえず怪我の治療に時間を費やし、時を待った。
銃や色々な武器等もすでに準備しており、中央塔へ行く準備が整った所であった。
「中央塔に入ったら、色々とやる事があります。」
エリックが隊員達に向けてそう言う。
「データバンクへ行き、情報を検索する・・。もう一つは、電子ロックの解除です。」
「電子ロック・・?」
「中央塔の内部には、電子ロックで閉ざされた扉があるそうです。」
「じゃあ、まずデータバンクへ行って、ロック解除して・・・その後華秦の所まで?」
琴奈がそう言うとエリックは首を振った。
「電子ロックは、解除したら数分で再びロックされてしまうらしい・・。つまり、片方がロックを解除している間に華秦の所へ向かわねば・・」
「ちょっと、人が足りないな・・」
椎名がそう言う。
「集められる人材は、なるべく集めておこう。」
太一がそう言った。
「俺も行くよ。人手は多い方が良いだろ?」
リビングのソファーに座った夏幻がそう言った。
「・・・まぁ、仕方ないか。いいだろう。」
椎名が渋々と了承した。



「・・・な、訳で、兄ちゃん明日、参加してくるから。」
夏幻が、夏純に向かってそう言った。
「はぁ・・・。」
「大丈夫だって。死なないさ。」
無表情でそう言う夏幻に、夏純が何かを差し出した。
「何、これ。」
夏幻が、手渡されたそれを見て、夏純に問う。
「お守り・・・。ちゃんと無事に帰って来れるように・・・。」
「それは・・・解るんだけどさ・・・。安産祈願って・・?」
「・・・・・私、字読めないもん。」
「英の奴に頼めば良かったじゃないか・・。」
夏幻は、思わず苦笑を浮かべた。



「情報検索には私が行くとしても、電子ロックの解除にもそれなりに知識を持つ者が必要なんです。」
エリクスン・ブルフォードは、とある大学の校庭へとやって来ていた。
「・・つまり君は、僕に一緒に中央塔に行こう、と、そう言っているのかな?
 君も知っている通り僕は学者だ。教授だ。
 よって、そのような危険な場所へ行くと、自分の身を守ってもらわねばならなくなる。
 そうなると、最低でも1人の戦力は私の護衛に付いてもらう事になるのだが・・・。
 いや待てよ、小さな拳銃でも持っていれば多少のマホロバの侵攻くらいは防げるかもしれないな。
 しかし君が行く場所は中央塔だ。多少程度のマホロバなんて果たして居るのだろうか?
 どうだろうか、エリック。」
「ご安心下さい。恐らく、中央塔の中には、華秦と数人の付き人しか居ないと思われます。」
「そうか。電子ロックの解除・・・というのはまるっきり専門外でもないが・・・。
 中央塔のそれが技術的に高度すぎる可能性もある。そうであった場合はお手上げだ。
 それでも構わないかな?」
「えぇ。それに、高度であろうとなかろうと、私の知人で、知識を最も多く持っているのは貴方だ、大林先生!」
「・・・まぁ、大事な生徒の頼みだ。断りはしないさ。
 少々、無茶の混じった頼みではあるのだがね。
 私の知識が、この世界の役に立つというのも、悪い事では無いな。
」 「それでは、出発は明日の正午です。迎えに来ますから。」
「迎えに?残念ながら明日は休校さ。私は学校には居ないよ。
 それに、君は私の自宅の場所を知らない。
 と、なると君が私を迎えに来る為にはまず私の家を教えなければならない。
 しかし、私は君たちが居る場所、つまり部隊のビルの位置を知っている。
 ならば君が迎えに行くより私が直接部隊にお邪魔した方が、効率的では無いかな?」
エリックは、それを『今日泊めてくれ』と言う風に受け止め、了承する。



「奈津。豪勢に頼むぜ!」
太一が、台所に立っている奈津に向かってそう言う。
「任しといて。」
奈津は、太一の方を振り向かず、片手を上げてそう答えた。
「これが最後の食事になるかもしれないな。」
太一のその言葉に、奈津は振り向いた。
「最後だなんて、そんな大げさな・・・。」
「大げさじゃないさ。あいつは、華秦は、俺たちを処刑する・・・と、言った。」
「あんな奴の言う事、間に受けなくても・・」
「あいつは、俺たち全員を相手にするつもりだ。相当の自信があるんだろう。俺たちを殺せる自信がな。」
その言葉に、2人は黙り込む。
「なぁ、奈津。」
「何?」
一瞬、間を置いて。
「もし、生きて帰れたら、その時は・・」
太一の言葉は、中途半端に途切れた。
と、同時に扉が勢いよく開き、その音が太一の声を完全に掻き消す。
「良い匂いしとるやんけ!」
「声がうるさい。」
「でも、ホントに良い匂いだよ〜?」
橘、椎名、琴奈が入って来た。
それに続くように、残りのメンバー達も次々と戻ってくる。
奈津は、完成した料理を、テーブルの上に並べ始める。
そして、太一の後ろに立ち、さりげなく問い掛ける。
「その時は、何?」
太一は、振り向かずに答える
「・・・また、料理食わしてくれ、って事さ。」
そう言って皿へと箸を伸ばす。



カチカチと、食器の音だけがこだまする。
かつてない程に、その食事風景は静まりかえっていた。
皆は悟っていた。
明日の戦いが、自分達にとって最後の戦いになるであろう事に。
それ故に、この緊張感を言葉で断ち切る訳にもいかなかった。
しかし、最後の戦いになろうとも、最後の食事にする気は、全く無かった。
捕縛部隊員は、奈津の料理を囲む。
最後の夜、最後の食事。
隊員としての、最後の晩餐。




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