第29話
最終捕縛




視界がクラクラする。
胸を貫かれた。
これから、死ぬって言うのはこういう感覚なのかな・・。
・・・・?
私、胸を貫かれたのに・・・。
なんで『死んで』ないの?



「・・・・貴女、マホロバ憑きですか。」
華秦が、立ち上がってこちらを見据えている琴奈に向かってそう言い放つ。
その琴奈の両手は赤い光を発し、華秦にその手を向けていた。
「凛・・・。」
椎名と橘がそう呟く。
そうしてる間にも、凛は自分の体を蝕む触手を焼き尽くしてしまう。
そして、双薙刀を床に置くと、ゆっくりと両手を構えた。
「はぁ・・はぁ・・・。」
「いかにマホロバ憑きと言えども、胸を一突きにされて無傷でいられる筈はないでしょうに。」
華秦はそう言うと下から上へと触手を払う。
凛はかろうじてそれを受け止め、華秦に向かって突進した。
「あぁぁぁぁ!!」
一声と共に、高温と達したその拳を華秦に向けて振りぬく。
しかし、華秦は片手でそれを受け止め、言い放つ。
「マホロバ憑きと言っても、所詮は低知能の人形・・・。兇人の足元にも及ばんわぁーー!!」
その瞬間、華秦の体から無数の触手が伸び、凛の体に刺さり、そのまま突き放す。
「きゃ!!」
「大丈夫か!」
椎名が、自分の近くに飛んで来た凛に駆け寄る。
「熱・・っ」
凛に触れようとした椎名が思わず手を引っ込める。
「近寄らない方が良いよ。それに、これくらい大丈夫。」
「に、してもアイツと戦うにはどないしたら良いんやろか・・。」
橘がそう言い、さらに続ける。。
「接近戦を挑んでも、触手で受け流されるか止められるか。銃弾も効いてる様子は無いみたいや。」
「いや・・・。俺がマシンガンを撃った時、一瞬だが奴の体には穴が開いた。」
橘の言葉を否定するために椎名が口を開く。
「なるほどな・・・。強度が高い訳や無くて、恐いのは、あの異常な再生能力ってワケかいな。」
「つまり、休む間もなく攻撃を続ければきっと・・・。」
「何をゆっくりと話している・・」
椎名と橘に向けて、華秦が再び触手を伸ばす。
「しまった!」
橘と椎名が振り向いた時には、既にすぐそこまで触手は迫ってきていた。
その時。横に倒れていた凛が起き上がり、2人の前に立ちふさがる。
無数の触手は、再び凛に突き刺さった。
「うぅ・・・」
凛は力を無くして、再びその場に倒れ込む。
「凛!!」
椎名が駆け寄る。その体からは既に高熱は発せられていなかった。
「それがマホロバ憑きの悪い所だ・・。人の姿をしていても、所詮、知能はマホロバ。
 戦況を判断すれば、かばったりせずに、隙を突いて私を攻撃するべき場面であった。
 もっとも、貴女程度のマホロバの攻撃ではすぐに再生してしまいますがね・・。」
華秦が、ゆっくりとこちらを見据えながらそう言う。
そして、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
「まず、どちらから?」
そう言いながら両手からのびている触手をちらつかせる。
「くそぉぉぉ!!」
椎名が、すぐさまマシンガンを乱射する。
弾丸は華秦の体を貫通し、後ろの壁に当たる。そして、その穴はみるみるふさがっていく。
「無駄だ。弾が貫通している以上、その銃の攻撃は無意味だ・・。」
「く・・・強度が・・・低すぎる・・・。これも奴の武器か・・!!」
こうしている間にも、華秦が少しずつ近付いてくる。
「ちぃ!!」
橘が、刀を構えて華秦に突進する。
「無謀な・・・。」
華秦はちらつかせていたその無数の触手を、橘へと向ける。
触手は、橘が持つ刀を砕き、そのまま両肩を貫通した。
「た・・・橘!!!」
「椎名・・・すまん!!」
そう言うとゆっくりと床へと倒れこんだ。
「さて、あとは貴方1人ですよ・・・。その『使えない銃』だけでどう戦いますか?」
華秦がかすかに笑みを浮かべ、再び椎名に向かって歩みを進める。
「くそ・・・やってやる・・・」
椎名がマシンガンを両手に構えて、1歩ずつ退がる。
「はずれ〜。そこの青年1人でもなけりゃ、使えない銃『だけ』でも無いんだよね〜。」
「!!!」
入り口から聞こえたその声に、華秦は驚き振り向こうとするが、間に合わなかった。
一瞬にして、弾丸が華秦の側頭部に命中し、そのまま食い込んだ。
そしてその弾丸は破裂すると、華秦の体を内側から侵食する。
「・・バーン。」



「ホローポイント弾・・・。お前・・双真か!」
椎名が、入り口に立つ赤髪の少年に向けて言い放つ。
「データバンク横の監獄に捕らえられていたようです。」
その後ろから、エリックと夏幻も姿を現す。
「・・・太一!」「おっさん!」
双真と夏幻が、太一と橘に駆け寄る。
「エリック!!みんなを連れて速く逃げろ!」
「分かりました!」
椎名が、怪我人を抱え、椎名を呼ぶ。
「お・・・おい、待てよ!双真1人残してどうするんだ!」
「データバンクに記されていた事なのですが・・。兇人に対抗するには兇人で・・という事です。」
その言葉に椎名はハッとする。
「双真が・・・兇人?」
「・・・『出来そこない』だけどな。」
双真がそう返答する。
「そもそも、兇人っていうのは何なんだ?」
「・・・マホロバの力だけを自分の内に封じ込め、意識はそのまま保つ・・・。体と心の完全体・・・それが兇人です。」
「そう・・・。俺はあの時・・・。君らと戦ったとき、兇人となった。」
双真はそう言うと、ホローポインターガンを再び華秦に向ける。
そこにいる華秦は、ゆっくりと壁に向かって歩き出していた。
「く・・・軋む・・・。体が軋む・・。これは・・・人の形を捨てねばならんか・・。」
そう言うと華秦は壁に入り込む。その瞬間。
壁の四方それぞれから、華秦の顔のようなものが浮かび上がってきた。
「これが・・・『完全』な兇人だ・・。コイツは、マホロバを『喰う』事でこれを実現した・・。」
「今すぐにでも殺してやる・・・。」
四方に浮かんでいた顔は、やがて正面に戻り、その両端から腕のような物が伸びる。
「さあ、逃げろみんな!僕がやる!!」
「く・・・すまない!」
椎名が、走り出す。その途中で倒れている凛の手を引っ張るが、動かない。
「どうした、凛!動けるだろう!」
そう声をかけると、凛はゆっくりと起き上がった。
「・・・私は琴奈だよ・・。どしたの、みーくん・・。」
「も・・・戻ったのか・・・。」
が、何か様子がおかしい。うっすらとだが、琴奈の両手は赤い光を帯びていた。
「とにかく、逃げ・・・」
琴奈の手を引いて外に出ようとした椎名であったが、思わず手を下げる。やはりその両手には熱がこもっていた。
「琴奈・・・?」
「逃げられない!」
琴奈はそう言うと、すぐに華秦の元へと走り出す。
そして、全力で顔と思われるそれに、殴りつけた。
「ぐぁぁぁぁ!!!」
「キサマぁ!!」
華秦はすぐに腕をふるい、琴奈に攻撃を向ける。
「ガラ開き・・。」
双真が華秦の額に向かってホローポイント弾を撃ち出す。
(く・・・ならば出来そこないを攻撃すれば・・・)
華秦は、琴奈に『かばわせる』為に、攻撃の対象を双真に向けた。
「たぁー!」
琴奈は。隙が出来た華秦に対して、強烈な蹴りを繰り出した。
双真は、腰に差していた長身のナイフで攻撃を避わす。
「馬鹿・・な・・。マホロバ憑きが何故!!」
「気付いてないのかい、華秦。」
「何!?」
「彼女は・・兇人となった。憑き物の力を自分の内に封じ込めたのさ。」
双真が、琴奈を指差しながらそう言った。
「ぐ・・」
その巨大な華秦の顔は一瞬歪んだようにも見えた。
「浅原、琴奈。アイツを倒すには、額の奥にある中枢・・・核を破壊する方法しかない。手伝ってくれる?」
双真は、華秦にナイフと銃を構えた。琴奈は、肯くと両拳を華秦に構えた。
「椎名さん!!!!」
「すまない、エリクスン!俺もここに残る。夏幻と一緒に、怪我人を逃がしておいてくれ!」
そういうと、椎名は散弾銃の装填を開始した。
「行くよ、浅原!!これが最後の捕縛・・・いや、捕殺だ・・・!!!」
「・・了解!!」





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