第3話
朝食のち出撃




やっぱ・・。これじゃあちょっと寒すぎるよね・・・・。
今日は4月10日。
異種生命体捕縛部隊への初出勤の日。琴奈は服装を迷っていた。
少しずつ暖かくなって来るが、同時に寒さも残る季節。
色々な服を次々と着ているのだが、何度も「寒い」「暑い」と、唸っている。
琴奈が配属されたのは、異種生命体捕縛部隊第13小隊。
最近、ひとりの隊員が殉職し、欠員が出来たとの事。
今年から、制服での出勤ではなく、私服での出勤を義務付けされていた。
街での行動を、しやすくする為だとか。
密かに異種生命体捕縛部隊の制服に憧れていた琴奈は、言葉には出さなかったが少々ガッカリしていた。
そういうわけで、琴奈は大鏡の前で、かれこれ20数分は唸り続けていたのだった。
以前に、第13小隊のメンバーの名前が書かれた名簿が送られてきた。
偶然か必然か、その名簿の中に、「みー君」の名前はあった。
総数は、琴奈を含めて6名と、少なめ。
行動しやすいように、少ない人員で編成されているらしい。
琴奈は、名前だけ見ても混乱するだけという事で、名前を覚えるのは実際会った後に、と、後回しにしていた。
色々と迷った挙句、どうやら琴奈は初出勤の、「戦闘服」を選び終えたようだった。
時計の針は、午前8時45分を指していた。
出勤時間は、午前9時00分。
琴奈は、駅に向かって走り出した。


午前8時55分。
琴奈は電車の中で足首を押さえている。
(あんな所に・・・段差作ったの誰?)
琴奈は、駅の手前の段差を軽々と飛び越えたのだが、それが2段あった事には気付かなかった。
着地するはずの右足のつま先に、衝撃が走り、そのまま前のめりにスライディングした。
受身を取ったは良いが、足首を捻挫し、鼻の頭を少し擦りむいていた。
迷いに迷って着てきた、汚れたジャケットは、脱いで鞄の中に入れてある。
なんでもない日常でこの負傷だと、いざ任務に入った後のことを想像したらゾっとする。
そこから琴奈は意識が少し、飛んでいた。
次に気がついたのは午前9時10分。
目的の駅から1駅過ぎた後だった。


午前9時35分。
とても異種生命体捕縛部隊が居るとは思えない古びたビルを、足早に駆け上がる少女が居る。
4階に一つだけ、鉄の扉がある。それを勢いよく少女は開けた。
「すみません!浅原琴奈、寝坊で遅刻してしまいました!」
洋服を選んでいて遅れた・・とは言えないが、寝坊も半分嘘では無い。
「あぁ〜、大丈夫だよ、みんなまだ寝てるから。」
左奥の部屋から声が聞こえて来る。扉は無い。
(まだ寝てる・・って、そういえば私も今日からココで生活するんだっけ・・。)
「君の部屋は空けてるよ。そこの部屋。ネームプレート貼ってあるでしょ?」
部屋から手だけ出して、すぐ左の扉を指差す。
「あ・・・どうも・・・。」
琴奈は呆然としながらも、とりあえず荷物を置きに部屋に入る。
部屋の中には、机とベッドが一つずつ。小さな本棚もある。
それなりに、生活はできそうな感じではある。が・・・。
「が、少し殺風景だ。」
後ろから、意表をついた声が聞こえる。
琴奈が振り向くと、そこには黒々とした長髪を持った、スラっとした体型の女性が立っていた。
すでに起きていた彼女も、まだパジャマ姿だった。
「あ、おはようございますっ。私は、浅原琴奈です!」
「それは、さっき聞いたよ〜。」
軽い。遅刻したのは琴奈なのだが、この女性隊員は恐ろしく軽い。
「すみません。40分近くも遅刻してしまいました・・。」
それでも琴奈は申し訳無さを顔に作って、謝っておく。
「良いって良いって。新人さんを迎える役目がある私達が、まだ寝てる
  っていうのも、遅刻とおんなじなんだから。」
琴奈は、とりあえず自分は悪くない・・と、言う事で余計に追求しない事にしておいた。
「はい、これ。」
女性隊員から、小型の拳銃と、真新しいホルスターを受け取った。
「これって・・・・・。」
「捕縛部隊全隊員に支給される軍用の拳銃よ。隊員はみんな持ってるわ。」
それにしても、見覚えのある銃だ。ふと、琴奈は鞄から拳銃を取り出した。
やっぱり、同じ型だ。
「あれ?それって・・・・。なんで持ってるの?」
思った通り、追求された。が、隠すつもりも別に無い。
琴奈は、2週間前に、椎名を助け(助けられもしたが)て、その時に使った拳銃を返さないままだった
と、言う事を女性隊員に伝えた。
「ふ〜ん・・。椎名君と、もう知り合っちゃってたんだねぇ。」
少し笑みを浮かべながら女性隊員はそう言う。
「同じ小隊とは、思いっきり偶然なんですけどね。」
琴奈が、キッパリと言う。
「必然かもよ。この第13小隊はね、専門学校で成績の優秀だった生徒だけが配属される小隊なの。」
間違った事を言ってないが、自分で優秀だと言えるのもなかなかだと、思う。
くぅ〜・・・。
気の抜けた音が、琴奈の部屋に鳴り響く。
「あ・・・ぅ。」
「ご飯、食べてないの?私もこれから朝食だから、一緒に作ってあげるよ。」
女性隊員は、素早くそう言った。
が、朝食を作ってくれるのは助かる。琴奈は料理を作るのは、好きだが得意では、ない。
「ありがとうございます・・・えっと・・・。」
名前を呼ぼうと思ったが、琴奈が詰まる。
「名簿、配られてたでしょ?女も私だけだし・・・。わからない?」
「顔・・・。載ってなかったから・・。覚えるの後回しに・・・。」
琴奈は、とりあえず正直に言っておいた。
「そっか。それもそだね。顔がわからなきゃ覚え様がないもんね。」
女性隊員は妙に納得した様子で言う。物分りがよく、温厚な性格をしてるらしい。
「私は、天城奈津。アマギ ナツよ。」
丁寧に、自己紹介をしてくれた。
「私は、浅原・・・。」
そこまで言ったのだが、3回目だと言う事に気付き、止める。
「それじゃ、琴奈ちゃん。椎名君起こしてきて。」
台所のフライパンに手を掛けながら、天城は言う。
「なんで、みー君だけなんですか・・?」
「あーら、先輩の心遣いだって。・・それより、みー君って?」
当然の事ながら、天城はその妙な呼び名をツッコんだ。
「なんとなく、男の子なのに可愛い名前だったから・・・。」
「椎名君を、一度でも、その名前で呼んだ?」
「??・・ええ。呼びましたよ?」
天城は沈黙し、同時に感心した表情を見せる。
「あなた、よく怒鳴られずにすんだね・・。」
(別の呼び名で怒鳴られて、この呼び名にしたら、向こうも諦めちゃった・・ってだけなんだけど。)
「とりあえず、椎名君の部屋は、そこの奥だから。早いとこ行ってきてね。」
(やっぱり、行くの?)
琴奈は渋々と奥の扉へと歩いていく。扉には、「椎名三鈴」と、ネームプレートが貼ってある。


「こんなもんかな。」
天城が、目玉焼きと、トースト、インスタントコーヒーと、やや手抜きが入った食事を3人分、並べる。
調理には6〜7分くらいしかかかっていないが、人1人起こすのには長すぎる。
まだ、琴奈と椎名は出てこない。
「まさか、2人共・・・。」
それだけ言って、椎名の部屋へと近づき、ドアノブに手を掛ける。
すると、天城が力を加える事無く、ドアノブは天城の右手ごとひねられた。
ドアが開き、琴奈が出てくる。
「良かった、琴奈ちゃん。無事だったんだね。」
「何の話ですか。」
琴奈が真顔で聞きかえす。
「って、あれ?椎名君は?」
琴奈の横にも、部屋の奥にも、勿論ベッドにも、椎名三鈴の姿は無かった。
「居ないんですよ、どこにも。机の引出しとかベッドの下とかゴミ箱の中も捜したんですけど・・。」
琴奈が、特におどける様子もなく、また真顔で言う。
「・・・・。あなた、天然だよね・・。」
7分間も、他愛も無い場所を探している琴奈の姿を想像すると、天城は思わず笑みをこぼす。
「どうして、居ないんでしょうか?」
「まぁ、心配は要らないよ。駅の近くの百貨店で何か物色でもしてるんじゃないかな?」
すぐにそういう結論に辿り着くと言うことは、良くそういう事をしているのだろう。
琴奈はその姿を想像し、こちらもやはり笑みを浮かべている。
(あの素っ気無いみー君が、何を物色してるか、気になるな。)
「とりあえず、朝食をぱっぱと食べちゃいましょ。」
良く見たら、トーストは1人3枚、コーヒーも大きなマグカップに注がれている。
目玉焼きは1人分に卵3個を贅沢に使っている。
1人分がこの量となると、余ってしまった椎名の分の朝食は、どうすればいいのだろうか。
「これ・・どうします?」
琴奈が余っている朝食1組を指差しながら尋ねる。
「だいじょぶだいじょぶ。誰か代わりに1人起こしちゃいましょう。」
すると天城はおもむろに叫んだ。
「大丸くーん!あっさごっはーーん!」
(名前呼んでも、そんな大声じゃ、関係なく起きてきちゃうんじゃ・・・。)
が、そんな琴奈の心配とは関係なく、「大丸太一」のネームプレートの貼られた扉が開く。
「メシ?」
扉から出てきた大男は、それだけ言ってテーブルに近づいてくる。
(おっき〜い・・・。椎名君も大きいけど、この人、もっと大きい・・・。)
「ん?おぉ、君が浅原琴奈君かい?」
豪快な口調で、琴奈の方に向き直る。
「あ・・、よろしくお願いします!私、浅原琴奈と申します!」
「まあ、かしこまんなよ!俺は大丸太一。仲良くやってこうぜ!」
やっぱり、温厚。椎名君が冷たすぎるのかな?
大丸は、椅子に座ると、すぐに食事を進めた。
少し早めに食べ始めていた女性陣は、立ち上がった。
そのすぐ直後に、大丸も続く。
「はい、食べたね。大丸君、おやすみ。もう帰っていいよ。」
「天城よぉ、一体、俺って何。」
「残飯処理係かな。」
大丸太一は、肩を落として自分の部屋にもどっていく。琴奈の目には、その姿はみじめに映っていた。
「さ、琴奈ちゃん。行こう。」
突然、琴奈は話を振られる。
「えっ?えっ?・・・。どこにですか?」
混乱しながらも、天城に聞き返す。
「椎名君探しに、でしょ。」
琴奈は数秒固まっていた。
「い・・・今から?今からですか?」
琴奈が聞き返すと、天城は、微妙な笑みを浮かべる。
「朝食のち、出撃よ。」


捕縛部隊の最初の任務が、同僚の探索・・だ、なんて、地味でしょうがなかった。
だけど、先輩命令なだけあって逆らえない。
天城と一緒に、駅の近くの百貨店に行く事にした。


琴奈と天城は青原という駅の近くの、青原百貨店へとやってきた。
「あれ、椎名君の車。変なペイント入ってるから、分かりやすいわ。」
天城が、駐車場を指差して言った。
その車体には、銃のペイントがところどころにされている。
どうやら、椎名は時々見るような、銃マニアなのかもしれない。
そんな事は置いておいて、二人は百貨店の中に入る。
「広いなぁ・・どこを探せばいいのか・・。」
「丸解りよ。6階。銃売り場。」
天城が自信満々に言う。琴奈もそれに同意、納得する。
エレベーターに乗り、6階まで一気に上る。
エレベーターの扉が開くと、そこには、いとも簡単に椎名はいた。
91F型の弾薬の箱をグルグル回して見ている。
彼の持っていた拳銃は別の弾薬を使用しているはず。と、言う事はあの長身のライフルの弾ということになる。
「見つけた、みー君。」
椎名が驚いて振り返った。
「お前は・・・。この間の・・・・・。」
椎名は琴奈を見て、驚いているようだ。
「こーら、椎名君、勝手に抜け出て、何やってるの!」
天城がズイっと出てくる。
「何って・・・・。弾薬が切れたので。」
「そんなの・・・支給を待てばいいじゃない・・。」
「そうもいかない。いつ大型のマホロバが現れるか解らないので。」
椎名は敬語とも言えないような、中途半端な口調で話している。。
敬語を話そうと努力はしているみたいだが、素が出てしまうのだろう。
(それにしてもやはり、端から聞いてても、椎名はちょっと固すぎると思う。)
でも、そんな事言ったら、彼のプライドを傷つけかねないので、やめる。
「さぁ、早く帰ろう。いつマホロバが現れるか分からないのなら、あのビルで情報を待ちなさい!」
天城が、多少強引に椎名をひっぱっていく。
天城の身長も160そこそこなのだが・・・。180はある椎名をいとも簡単にひきずっている。
その勢いで、椎名は持っていた弾薬の箱を落としてしまう。
止まる気配の無い天城と椎名を見て、琴奈はそれを拾い、棚に戻す。

そろそろ、午前10時半をまわろうとしていた。
大丸太一が残りの隊員達を適当に起こして回っている。
一方そのころ、天城と椎名は・・・
段差につまずき、頭から滑り込んだ琴奈を、上からゆったりと眺めていた。
天城は満面の笑顔、椎名は満面の呆れ顔をしていた。
受身を取れなかった琴奈は、顔を上げるのが恐ろしくて、そのまま数分間固まったままだった・・・。



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